イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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02-81話:初頭手配

「やっぱりか……」

 何がって?新聞が値上がりしたんです。

 

 ルフィが写真を撮られたのが3日前。

 ついさっき、コノミ諸島を出航したばかりのその日に新聞、値上がるかぁ…

 

 まぁ、だからってニュース・クーに文句を言ってもどうにもならない。この子達は配達員であって、経営者じゃないんだから。

 値上げ自体は仕方が無いこととして諦めている。

 じゃあ何故にうだうだ言っているかというと、原作通りならこの値上がりした新聞に挟まってるのよね。ルフィの初の手配書が。そして多分、私のも…。

 

 正直、気分は複雑だ。

 これで、私がいくら海賊じゃないと主張したところで、意味がなくなるわけだから。

 まぁ別に、海賊だと認識されたところで、ぶっちゃけどうでもいいんだけどさ。

 顔はどんな風になってるんだろう?

 そこまで気にしている訳じゃないけど、ネズミに絵心あったら怖いわね。

 

「どうしたのイオリ?読まないなら、先に見せてよ」

 

 一味のメンバーで、ちゃんと新聞に目を通しているのは、私とナミだけだったりする。

 ついでに言うなら買うのは私だから、先に読むのも私。

 けど今日の私は新聞を持ったままちょっと逡巡してたからか、持ってた新聞をナミに横から引っ手繰られた。

 まぁ、別にいいんだけど。

 

 そうそう、ナミの服装がちょっと変わった。前は袖が長めの服を着てたけど、その袖が短くなった。入れ墨を変えた事で、それを見せたくなったんだとか。

 そのうち、ノースリーブになるんじゃないかな?

 新しい刺青はやっぱり、みかんと風車だった。

 そしてそんな私たちのそばでは、ウソップがタバスコ星の開発に勤しんでいる。

 武器として、香辛料を使うなんてやるじゃない。うまくいくなら、費用対効果は高いと思う。

 

 しかし、デッキでやるかね?そんなこと…。

 しかも素手で、眼鏡もかけず…。

 そんな装備じゃ、危ないわよ?

 

「触るなァ!!」

 サンジの怒号と共に吹っ飛んできたルフィがウソップに直撃し、タバスコがウソップの目に……

 あーあ。言わんこっちゃない。

 

 ルフィは、ナミが船に移植したみかんの木から実を採ろうとして、サンジに成敗されたらしい。

 でも、なんでだろう?

 あれは確かに原作通りの『ベルメールさんのみかんの木』。

 だけど、ベルメールは生きているので、形見という訳ではないはずだ。

 言っちゃなんだけど、あれは単なる『みかんの木』のはず。

 とはいえ、あの木を粗末に扱ったならベルメールがキレるだろうけど、そこまで頑なに実を守る必要はないのでは?

 しかも、不可解な事に、みかんの木の警備係をサンジが行っている。

 もうすでに、ナミの恋の奴隷って事かしら?

 

 その割に、時々私に色目つかってくるけど?

 

 サンジ君…それ、やめたほうが良くない?

 そうすれば、ロビンが入るまでにはナミを落とせるかもよ? って無理か…

 

「みかんを食べ損なった割に、随分とご機嫌ね?」

 目から火を噴きながら騒ぐウソップは放っといて(スルーして)、ルフィはしししと笑っている。

 

「おう! もうじきグランドラインに入れるからな! ……あ!!」

「どうしたの? 急に大声出して…」

 

 ルフィは、がーんという擬音が付きそうな顔をしている。

 

「まだ…船医見付けてねェ!」

 そういえば私、シェルズタウンで言ったわね。 『最低でも航海士と船医とコックを見付けろ』って。 覚えてたんだ、アレ。

 

「ま、いいんじゃない? 実は、心当たりがあるのよね。」

 私が肩を竦めながら言うと、ルフィは目を丸くした。

 

「心当たり?」

「うん」

 頷き、続ける。

 

「どうせなら、腕のいい医者が船医になった方がいいでしょ? 実は私が医術を学んだ医療大国が、グランドラインに入って少し航海した所にあるのよ。どうせなら、そこで勧誘しましょう。」

「あ、そーいや、どっかで勉強したって言ってたな!」

 

「……まぁね。それでどう?」

 私の問いに、ルフィは特に考えることもなく頷いた。

 

「ん。おれは別に心当たりも無ェしな」

 よし、これで船医は決まったようなもんだ。

 

「何、イオリは医術もどこかで学んでたって事?」

 ビーチチェアに寝そべって新聞を開きながら、ナミが言った。

 

「一人で海には出るつもりだったからね。必要な技術と知識は身に着けておかないとダメだと思ってたのよ。さすがに海賊団でそのすべてを兼任するのは勘弁だけどね。」

 私の説明に、ナミは納得したらしい。なるほど、といわんばかりの表情だ。

 

「イオリはやっぱりすごいわね。…にしても世の中物騒ね。ヴィラでまたクーデターだって」

 クーデター、か。

 

「革命軍の事とか載ってたりする?」

「そこまでは書いてないけど……有り得ないことじゃないわね」

 私とナミの会話では、こういう時事の話題も多い……ってか、こういう話に付き合ってくれる人が他にいない。

 みんな、もう少し世情に興味持ったほうがいいわよ?

 私が内心でそんなことを考えていた時、ピラッと1枚の紙が新聞の間から落ちた。

 

「「「あ」」」

「お」

「あーあ」

 昼寝しているゾロ以外の全員が、それを見て一瞬固まり。

 

「「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」

 そのゾロと、私以外のメンバーの絶叫が海に響いた。

 

「なっはっは!! おれたち、お尋ね者になったぞ!」

 ルフィが掲げ持つ、自分の手配書。

 

 ルフィはとっても嬉しそう。そりゃそうか。賞金首として手配されるってことは、ある意味、一端の海賊と認められたっていう事だからね。

 

「見ろ、おれの後頭部が写ってるぞ!」

 確かに、満面の笑顔なルフィの後ろに写り込んでるけど、何でウソップまで喜んでるんだろう?

 

「自慢になるかよ、そんなもん」

 サンジはそう言いながらも、その顔は、何故かうらやましがってるように見える。

 うらやましいかな? 顔は映っていないのにね?

 

 唯一、このことに危機感を持ってるのはナミだった。

 

「あんたたち、事の重大さが解ってるの? これは命を狙われるってことよ? 海軍にしろ、賞金稼ぎにしろ……この額じゃあ、きっと強い相手が来るわ」

 

 原作で、ルフィの賞金額は3000万ベリーだった。それでも東の海の初頭手配額としてはかなり高額な部類だったと思う。でも、ルフィは強化されているので賞金額は、原作を超えてくるだろうとは思ってた。ここまでとは思わなかったけどね。

 

「確かに高額ね。ちょっとビックリ……」

 そう、本当に驚いた。

 

「額だけか? 手配には驚かなかったってのか?」

 ウソップに聞かれたけど……だって、ねぇ…

 

「ネズミが言ってたらしいじゃない。『凄いことになる』って。それって明らかに、仕返ししてやるってことでしょ? だったら指名手配するのが1番手っ取り早いもの。」

「そういや、言ってたなそんなこと……待てよ? あの海兵、ルフィだけじゃなくてお前のことも言ってたんじゃなかったか?」

 そうなんだよね。でも、落ちてきたのはルフィの手配書だけ。

 

「ナミ、中にまだ挟まってたりしない?」

 聞くとナミはハッとしてバサバサと新聞を下に向けて振った。

 すると、さっきと同じように1枚の手配書が落ちてきたから、私はそれを手に取った。

 

「やっぱりあった……わ……」

 ピシリ、と自分の身体も表情も固まったのが解った。

 

「ん? ……ブッハ!! ハハハハハハハ、何だこの手配書!? 写真入手失敗したからって、これかよ!?」

 横から覗き込んだウソップが堪えきれずに爆笑するのも無理は無い。

 本来なら写真が貼られるべき場所にあったそれは、私とは似ても似つかない似顔絵だった。

 実物と同じ特徴は、やっぱり髪の色ぐらいなもんで、あとはもう……言うなれば、あれよ。デュバル並みの変顔が描かれている。

 いや、別にデュバル顔ってわけじゃないけど、それぐらい変って意味で!

 

 でも、それはいい。いいのよ別に!写真が載るよりよっぽどマシなんだし。

 じゃあ何で固まってたのかって?

 

「イオリもまた、随分と高額ね」

 ナミの言う通り、私の賞金額も東の海の基準ではかなり高い。でも、それもこの際どうでもいい。

 私が固まった理由、それは……。

 

「何だ、お前の二つ名、『紅髪』だってよ! スゲェな!!」

 そうルフィ、そこよそこ!!

 何これ、『紅髪』って!! 読み方によっては『紅髪(あかがみ)』って事になるじゃない!

 ルフィ、あんた…そんなスゲェ、スゲェって連呼しながらキラッキラした眼差しを向けんじゃねェよ!!

 

 そう、私たちの手配書はそれぞれ……

 

 『麦わら』 モンキー・D・ルフィ  懸賞金4800万ベリー

 『紅髪』 イオリ  懸賞金4000万ベリー

 

 となっていた。

 

 ルフィのは、金額以外は原作とほぼ同じ。

 金額にしても、原作より強化された今のルフィなら、この額は妥当と言える。

 

 けど、私の二つ名は…

 

 何で私が『紅髪』なのさ!? いや、確かにこの髪色は特徴といえば特徴だろうけど!

 なんてこった!! 何か特徴的なモノでも身に付けとくべきだったのか?

 仕方がない!もう手配書が発行されてしかも配られてしまっている以上、今更変える事など不可能だ。

 けどせめて、『紅髪』と書いて『あかがみ』と読むことだけは、阻止せねば。

 この手配書と私を見て、勘違いするやつが増える事にもなりかねない。

 

 でも、何て読ませる?読めばいい?

 『べにがみ』? 『こうはつ』? …語呂悪っ!!

 

 二文字だけならあれだけど、

 べにがみのイオリ… こうはつのイオリ… どっちもピンと来ないわね。

 他に読みようは無いのかな?

 

 紅………!

 そうだ!!髪を読まずに『くれない』ならばどうだろう?

 

 ― 『紅髪(くれない)』のイオリ ー

 いいんじゃない?

 

 よし、そうしよう。この先自分で言ってればそれできっと定着するはずだ。

 

 

 私が何とか考えを纏めてる間に、みんなは話を進めていたらしい。

 

「これは、東の海でのんびりやってる場合じゃないわね……」

 ナミの呟きに、ルフィが反応した。

 

「よしっ!! 張り切ってグランドラインに行くぞ、ヤロウどもーー!!」

「「オーーー!!」」

 サンジとウソップがノリノリで賛同する中、いつの間にか起き出していたらしいゾロの声がした。

 

「おい、前方に島が見えるぞ?」

 ゾロの示す先にある島。そこには……あの町がある。

 

 『始まりと終わりの町』、ローグタウンが。

 

 

 

 

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