イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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 今回より、『アラバスタ編』です。





03-アラバスタ編
03-85話:クジラがいるよ


「”偉大なる航路(グランドライン)”の入り口は…山よ」

 海図を広げながら解説するナミの言葉に、私以外の全員が驚きと呆れの混じった顔をした。既にナミの奴隷と化しているサンジまでもがだ。

 確かに、こんな話をあっさり信じる者はいないだろう。ルフィにしても、『不思議山か』の一言で済ませようとしている時点で理解できていないのは明らかだ。

 全員で入口についての話をうだうだしてるけど…そうこうしてる間に、外の音が変わってきている。

 

「ナミ。もうすぐ凪の帯(カームベルト)に入るけど?」

「えぇっ!?」

 ナミは随分と驚いているみたい。進路が南に逸れてしまっていたことに、気付いてなかったんだろう。

 それにしても、もう目前ね。

 

「どうしてもっと早く言ってくれないのよ!」

 ナミが話している間中、私は窓から外を見ていた。だからこその発言だろう。

 私は肩を竦めた。

 

「口で言うより、実際に見てもらった方が早いんじゃないかと思ってね?」

 こいつら、口で言っても聞かないじゃん?説明しても今みたいにうだうだ言って脱線するばかりで話が進まないしさ。

 大型海王類の群れの中にでも入れば、さすがに理解するでしょ?

 カームベルトの恐ろしさを知るにはそれが1番手っ取り早い。

 ……って、考えてる間に本当にカームベルトに入ったわ。

 

「何を暢気なこと言ってんのよ!全員、外へ出て!帆をたたんで船を漕ぐの!嵐の軌道に戻すのよ!!」

 

「はい、ナミさん♥」

 サンジはすぐさま出て行った。けれど、サンジ以外はナミの剣幕に驚いているらしい。

 

「おい、何をお前らだけで話を理解してんだ?カームベルトって何だよ?」

 外に出ながら、ウソップが聞いてきた。

 

「おーっ、いい天気だ!」

 ルフィがはしゃいでいるけど、そんな余裕かましてて大丈夫?

 

「カームベルトっていうのは、グランドラインを挟むように流れている無風の海域のことよ」

 

「じゃあ、このまま行きゃあグランドラインに入れるんじゃねェか?」

「そんな簡単な話じゃないわよ!」

 ゾロの軽い発言に、ナミが目を剥いて怒っている。

 

 確かに、カームベルトを渡り切れればグランドラインに入れるよ? ただそこを、この船で渡るには無理がある。

 カームベルトは50Km以上の幅がある。赤い土の大陸(レッドライン)よりは狭いとはいえ、そこを抜ける為には外輪船(パドルシップ)でなければ無理でしょう。風が無いので帆船で行くにはオールで漕ぐしかないからね?

 けど、ナミが何でこんなに慌てているかと言えば、カームベルトが恐ろしい所だと知っているからだ。

 ってかさ。あんたらカームベルトを越えて来た、大型帆船見てるでしょ?

 クリークのボロボロだった大型ガレオン船は、この海域を超えたからこそあんなんなったんだ。もっとも、あれだけで済んでる事すら、奇跡に近い事なんだけどね?

 考えてみれば、よく渡り切ったなカームベルト…。

 あれ?

 もしかして無風だけど海流はあるのかしら?波は無くとも船は流される?

 今考える事じゃないか…

 

「どうやら、お出ましみたいよ?」

 苦笑と共に言うと、ナミが絶望的な顔で崩れ落ちた。ナミは私の見聞色を信じてるからね。

 

「? だから、おれたちにも解るように話せって……!!」

 ウソップの発言は、突如発生した地震(?)によって遮られた。

 そして次の瞬間には、私たちは海王類の鼻先に乗って中空にいた。

 

 それじゃあ、説明しましょうか?

 

「簡単に言うと、カームベルトは、大型海王類の巣って事。あれ、ウソップ?」

 ウソップは何故か寝ていた。

 

「何で寝てんの? 説明しろって言ったくせに…」

「バカかオメェは! ありゃ気絶してんだ!!」

 唇を尖らせて不満を漏らすと、ゾロに頭をひっぱたかれた。

 ちょっとなにさ! 暴力反対!!

 

「マリモ!!テメェ、イオリちゃんの頭に何をしたァ!!」

 よく見るとウソップは、泡を吹いていた。

 

「ここがどういう所か解ってたんなら、もっと早く言え!」

 だから、さっきも言ったけど。

 

「実際に見た方が、すぐに解かってくれるだろうと思ってね? これでもう、グランドラインに入り口以外から入ろうなんて思わないでしょ?」

 言うと、なぜか全員が脱力していた。

 

「はい!解ったら、オールを持つ! 着水したらさっさと漕いで嵐に戻るわよ!!」

 オールを1本ずつ男性陣に配り、最後にウソップを小さくした。

 

「振り落とされたりしたら大変だから、ウソップは私が持っとくわ」

 何しろ、くしゃみですっ飛ばされるからね。

 

 まさにその通りになった。私たちはその後、乗っかった海王類のくしゃみによってすっ飛ばされ、空に放り出された。

 次の瞬間、デカいカエルみたいなのが飛び掛ってきたけど、ルフィがゴムゴムの(ピストル)によって撃退した。

 着水と同時にウソップとナミ以外の全員で、一心不乱にオールを漕ぎ、無事に嵐の中へと帰還できたのだった。

 

 

 嵐に戻ると、私以外の全員が少しダウンしていた。オールを漕がなかったナミまでも…

 体力に差があるとはいえ、私が全く疲れていないことを考えると、これは肉体的疲労のせいでなく、精神的疲労のせいだと思う。

 ナミも倒れているので、たぶんそうなのだろう。

 そもそも私は大型海王類を何とも思っちゃいないので、精神的な疲労は皆無である。

 

「みんな、大丈夫?」

「「「……お前、後で覚えてろ」」」

 え~!!心配して声を掛けたのにぃ!?

 

 ゾロ・サンジ・ナミに恨みの篭った目で見られてしまった。

 確かに、カームベルトに入る直前まで黙ってたのは悪かったかもだけど、みんなの理解も得られたし、結果オーライじゃんね?

 ちなみに、ウソップは絶賛気絶中。ルフィは今になって少しワクワクしてきたらしい。

 

「すごかったなー、アイツら!!」

 何ともキラッキラとした眼差しだ。既にあの出来事はルフィの中では『冒険』として処理されたらしい。

 そんな様子に周囲も毒気を抜かれたらしく、気を取り直してくれていた。

 

「……カームベルトについてちゃんとした知識があったってことは、山を登るってことも知ってたんじゃない?」

 ナミに聞かれたけど、何言ってんの?

 

「あのねナミ?私がグランドラインから来た事は、ナミも知ってるはずじゃない?」

「あ…」

 ほら出たよ。こうやってみんな、私の経歴忘れてんのよね。ルフィもサボもエースもそう。……この際、はっきり言っておこうかな。

 

「私の生まれは”偉大なる航路”なのよ。だから何度かここを通った事があるのよね。この先に運河があって、山の頂上に向かって下から上へと流れてる。」

 正確に言うと見た事があるだけで、船で通った事は無いけどね

 

「「!!?」」

 

「4つの海にはそれぞれ大きな海流があって、それがあの山、リバースマウンテンに向かって流れてる。」

「つまり…海流が運河をかけ登って頂上まで行くって事?」

「そう。海流があの山にぶつかって、細い運河に流れ込む…。だから下から上へと流れているの。運河の流れはかなり急だから、入口での舵取りが重要よ!!」

 

「要するに、”不思議山”って事だろ?」

「…」

 結局ルフィは理解してくれなかった。まぁ別に、理解しなくても問題はない。

 

「おれはジジイに、グランドラインは入る前に半分死ぬと聞いた。」

 サンジの発言は、どう取ったらいいんだろう?

 まさかラブーンに食われるとか?って、あそこはグランドラインだったっけ…。

 やっぱり入口で大破するって事かしら?

 まぁ、運河の入り口で船が大破したなら、乗組員は無事では済むまい。良くて溺死。海流によって体を引き裂かれる事だって有り得る。

 リスク高けェな。

 

 リヴァース・マウンテン、そしてレッドラインが見えてきた頃になって、ようやくウソップが目を覚ました。

 よかったね?運河に入る手前で目が覚めて。

 海が運河の入り口から山に向かって登っていく光景は、一見の価値があると思う。こういうのを見るのも、旅の醍醐味だと思うからね。

 

「舵しっかり取れェ!!」

 ルフィの号令で、サンジとウソップが舵を握った。嵐と海流のせいで、舵が随分と重くなっているらしい。

 右に、右に、と舵をきっていたけど…原作通り折れました。根元から。ボッキリと。

 それによって船は制御不能となり、運河の入り口の門にぶつかりかける……が。

 

「ゴムゴムの……風船!」

 ルフィが飛び出してクッションになり、船は運河へと無事入った。

 ちなみに、私も同時に飛び出して、月歩にて役目を終えたルフィを回収した。

 メリー号は無事に運河を駆け上り、やがて頂上に到達。後は降るだけとなった。

 

「見えたぞ、”偉大なる航路(グランドライン)!!!”」

 そう、後は降るだけ……なんだけどね。

 

「はい! みんなに言っておきたい事がありま~す!!」

 お祝いムードに近い雰囲気でいる面々に、私は手をあげ声をあげ、注意を促す事にする。

 

「どうした?」

 はっきり言って私の態度は、喜びに水を差すようなものだと思う。

 なのにみんなは嫌な顔1つしないで、聞く体制を取ってくれた。

 よしよし。これはさっそくカームベルトの効果かな?

 

「ここを何度か通った事があるって言ったでしょ?だから注意というか覚悟しておいて欲しい事があるのよね…。この先に…クジラがいるのよ」

 

「クジラァ?」

 それがどうした、と言わんばかりな視線に晒された。ただ単にクジラと聞いただけならそうでしょうとも。でも、『覚悟』ってワードを出してるのになぁ…

 

「そう、ものすっごく大きなクジラが1匹、このグランドラインの入り口の双子岬にいるのよ。だから、まぁ……覚悟しといてね?」

 

 船首が折れる事は阻止したい。なるべく船を傷付けたくないのです。

 

 クロッカスさんに会うためには、ラブーンに飲まれるのが手っ取り早い。それはわかってる。

 私がここに来る前からだろうけど、既にラブーンの中で過ごす事が多かったらしい。ラブーンの発作(?)はだいたい昼から夕方にかけての時間帯。昼食を食べた後はラブーンの中で過ごし、発作を沈めた後に灯台下の住居へ戻る。そんな感じで過ごしていた。

 

 そういえば、クロッカスさんの事も言っておいたほうがいいのかな?

 私の医術の師匠(一人目)って…

 まぁ、会ってからでもいっか。

 

 しかしまぁ…みんなして、クジラ発言には微妙な顔をしてくれてるね。

 

「クジラって言っても、たった1匹でしょ? 大丈夫よ」

 ナミはあっけらかんとしてるけど、いつまで持つかな、その余裕。

 

 こうして話している間にも船は運河を降っている。そんな中、ラブーンの鳴き声が聞こえて来た。

 

 ”ブォォォォォォォォ…”

 

 と、空気が震えるような音がする。

 

「イオリ! これクジラの声か!?」

 

 ルフィは、私が『ものすっごく大きなクジラ』と言った直後から目を輝かせていた。たぶん、好奇心が刺激されたんだろう。

 

「そうよ。これがそのクジラの鳴き声よ…」

 初めて近くで聞いた時は鼓膜がヤバかったのを覚えてる。耳栓してたのに…だ。

 人が近くに居る時は、音量下げるように指導したけど、覚えてるかしら?

 

 ウソップが、ローグタウンで手に入れていたスコープを弄りながら正面を見ている。

 

「おい、壁があるぞ!」

 お解りでしょうが、それは勿論壁じゃない。そうかからずに、その正体が見えてきた。

 アイランドクジラのラブーンだ。

 

 それにしてもデカい。何度見ても本当にデカい。400mとかって言われてるけど、絶対もっとでかいと思うわよ!!

 

「すげェー!! でけェー!!」

 好奇心で一杯のルフィは見てて微笑ましい。こっちはダメね。

 私の視線の先では、ルフィと私以外の4人が固まっていた。

 

「だから言ったでしょ?『覚悟しといてね』って」

 

「「「「これはデカすぎだーーーーー!!!」」」」

 絶叫したい気持ちは、解らなくもない。私も最初に見た時は叫びだしたくなったもの…。

 

「何でお前はそんなに落ち着いていられるんだよ!」

 ウソップ?私は見た事あるんだよ!だからって、別に冷静ってわけじゃない。

 毎日見てればなれるけど、しばらくぶりに見たら私もビックリしてるのよ。

 あれ?こんなにデカかったっけ?ってね?

 ……大きくなって…ないよね?

 

 そういえば、舵が壊れてたんだっけ…ぼーっとしてる場合じゃなかった!!

 

「舵は壊れちゃったから、オールを漕いで!クジラの左を抜けるわよ!」

 このまま進んだら、クジラに激突コースなのは誰の目にも明らかだ。

 あの隙間から抜けるように、頑張るしかない!

 すごく大きなクジラとはいえたった1匹、と特に気にしていなかった面々が慌しく動き出したことで、船上は俄かに騒がしくなる。

 私? 私はというと……。

 

「離せよ、何で止めるんだ!」

「バカ!お前、大砲撃つ気だったでしょ!?そんなことしたって船は止まんないわよ!!ムダ弾撃とうとすんな! それよりここにいて、ぶつかりそうになった時にさっきみたいにクッションになってよ!!」

 ルフィを文字通りに押さえ付けてた。だって、その方がメリー号破損が防げそうだから。

 

「このままぶつかったら、ダメージを受けるのは船首になるわよ!あんたの特等席が壊れてもいいわけ!?」

「良くねェ!!」

 

「じゃあここで、じっとしてなさい!無駄に動かないように!!」

 

 この子、船首にどんだけ思い入れがあるのかしら?何がこの子をそうさせる?

 引き合いに出したら、あっさり受け入れたわよ。

 

 ルフィが暴れなくなったので、拘束は解く。

 

 私たちがそんなやりとりをしてる間にも、みんなが必死にオールを漕いでくれてたおかげか、船は多少左寄りになっていた。

 それでも抜けられるほどじゃない。これはぶつかる!!

 

「ルフィ!」

「ゴムゴムの……風船!」

 本日2度目のゴムゴムの風船で、ルフィはラブーンとメリー号の間に入った。

 ルフィがクッションになったことで船首は折れずに済み、また、船の向きも更に左寄りになった。良かった。無事に乗り切れた。

 

 でもこれで、ラブーンに飲まれる事はなくなった。

 さて…クロッカスさんには、どういう会い方しようかな?

 待ってりゃいいかな?何時になるかは知らんけど…

 

 

 

 

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