イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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クラスター・ジャドウさん、誤字報告ありがとうございます。


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03-86話:怪しい二人

「綺麗な空の色ね…」

 塗りなおしたのかな?

 

「何でそんな悠長なこと言ってられるの!? 可笑しいでしょ、私たちクジラに飲まれちゃったのよ!? 何で頭上に青空が広がってるわけ?これは夢なの!?」

 ナミが凄まじくパニクってる。だからだろう。周りをちゃんと見れていないのは…

 でもそれは、何もナミだけでは無いようだ。ウソップはともかく、冷静なように見えるゾロも、たばこをふかして落ち着こうとしてる?サンジも含めてパニクってるには違いない。

 

 本当は、こういう時こそ、落ち着かなくてはいけない。あわあわしてたら、正常は判断は出来ない。正常な判断が出来なければ、状況の打開が出来ない。

 ピンチの時程、冷静にならなければ、どこの世界であっても生き残れないのである。

 まぁ今は、そんな状況ではないけどね。だからこそ、落ち着いて、そういう考えを持ってほしいと思うのだけれど…

 

 言ってしまうと、ここはクジラの胃の中。

 食事かどうかは知らんけど、ラブーンが大口あけた際に周囲の海水と一緒に飲み込まれたってわけ。

 原作通りと言えばそうなんだけど、どうしようかと悩んでた、私がなんだかバカみたいだった。

 ちなみに、ルフィは飲み込まれる時に外に振り落とされていたので、この場にいない。だけど、ラブーンの体内には居るみたい。気配でわかる。他にも2つ…。

 

「落ち着いて。これは夢じゃないわ。確かにここはクジラの胃の中よ。よく見れば解ると思うけど、青空や雲、カモメなんかは全部絵よ!」

 

「いや、尚更ダメだろ!?」

 私が言うと、なぜかウソップにツッコまれた。

 

「それならやっぱり、おれたちはクジラに飲まれちまったってことだろ!? 消化されちまうぞ?!」

 

「大丈夫、あそこに出口があるから!」

「「「あんのかよ!!」」」

 デカデカと解りやすく設置された出入り口を指差して断言すると、ゾロ以外にツッコまれた。

 さっきから、何で私がツッコまれなきゃならないのだろう?別にボケてなんかいないのに…。

 

「それで、あの家は何だ?」 

 唯一ツッコまなかったゾロの視線は、胃酸の海にプカプカ浮いてる1軒の家、というか小島のようなもの向けられていた。

 

「まぁ、普通に考えれば、こんな絵を描いてクジラの胃袋をプライベートリゾートに改造した、奇特な人でも居るんじゃない?」

 その中で私も過ごした事がある。けっこう快適な空間よ?島じゃなくて船だし。あれでラブーンに出入りしてるのよ。

 

 あ~…なんか来た。このタイミングだとイカかな?

 

「下から何か…近づく気配があるから気をつけて!!」

 私の発言に、ウソップが下を見ようと船から身を乗り出した。

 

「何かって、な……」

 何だ、って言おうとしたんだろう。けれど、その言葉は途中で止まった。

 何故なら、大王イカが姿を現したから……。

 

「ウソップが捕まったー!?」

 そう、ナミの叫び通り、身を乗り出していたウソップがそのうねうねとした足に捕まっていた。

 

「ぎゃーーーーー!!!」

 当のウソップが蒼白な顔で悲鳴を上げている一方、ゾロとサンジがそれぞれ構えたが、私は動かなかった。

 何故なら、目の前の島船から人が出てくるのが見えたからだ。

 そして原作通り、大王イカは勢いよく放たれたモリによって、あっさり倒された。同時にウソップも胃酸の中に落ちたけど…。

 

「ブハァッ! お、終わったかと思った……!!」

 ウソップは能力者じゃないし、カナヅチじゃない。溺れることなく顔を出した。

 けどね。

 

「早く上がらないと、結局終わるよ? そこは普通の海じゃなくて、胃酸の海なんだから。」

 大王イカに捕まった衝撃で、ここがクジラの胃の中だって忘れてたんだろう。

 私に言われて思い出したらしく、ウソップが慌てだした。

 

「ふ、ふざけんなァ!早く引き上げろ!」

「はいはい」

 

 縄梯子を降ろしてウソップを救出している間に、漁?は終わったらしく、そちらに向き直るとクロッカスさんは新聞を読んでいた。

 

「どうなってるの?」

 前面に出て警戒態勢を取っているゾロとサンジの後ろで、まだ大王イカの衝撃が抜け切っていないのか、へたり込んでいるナミに聞いてみた。

 

「……あのおじいさん、大王イカを回収した後は知らん振りなのよ」

 なるほどね。それで膠着状態になってるって事か。

 

「ウソップは、お礼言っといた方がいいんじゃない? 一応、助けてもらったことになるんだし」

 タオルで身体を拭いているウソップに聞くと、訝しげな顔をされた。

 

「けどよ……あのじいさん、得体が知れねェ」

「得体が知れないって、失礼ね!」

 私の師匠なんだぞ!なんて事言うのよ!!

 

「こんなところで生活している時点で充分得体が知れねェよ!」

 そんな事ないわよ!ちゃんと理由があるんだし。

 それにここで暮らしてる訳じゃないわよ? 今は発作を待ってるの!!

 って、知るわけないか。そんな事…

 

「やめておけ……死人が出るぞ」

 私たちが後ろで何やかやとやってる間に、いつの間にか話が進んでいたらしい。見た感じ、サンジが何か挑発したのかな?

 

「へェ……誰が死ぬって?」

 クロッカスさんの発言に緊張が高まる……が。

 

「私だ」

「お前かよ!!」

 

 ……………………。

 

「ちょっと、何で悶えてるのよ?」

 いや、だって……。

 

「プ…クク……だ、ダメだ……!」

 ダメだ、笑いが止まんない!!

 私はしゃがみ込んで、膝を手のひらで叩きながら笑い声を堪えるのに必死になっていた。

 ダメだ面白っ! 脇腹が痛いよォ…! クロッカスさん、面白過ぎる。

 私、クロッカスさんの後ろに居た事あるけど、対峙してたら、こんなに面白かったんだ?

 今のサンジみたいに、相手はキレまくってたけどね!!

 

 サンジを押さえてゾロがいくつか質問したけど、人に質問する時はまず自分から答えろという至極尤もな言葉を返され、ゾロが答えようとした……が。

 

「私の名はクロッカス。双子岬の燈台守をやっている」

 ゾロの言葉を遮ってクロッカスさんが答えた。しかもご丁寧に、年齢や血液型、星座まで…

 

「あいつ斬っていいか!?」

 ゾロが刀に手を掛けながら、何故か私に聞いてきた。何でしゃがんで悶えている私に?

 ……って、船長不在時の副船長だからか?

 しかし、答えは決まっている。

 

「ダメに決まってるじゃない!失礼の無いように対応して頂戴!」

 笑ってる場合じゃない。しっかりしろ、私。

 

「あいつの方がよっぽど失礼だろうが!」

 ゾロの怒りは収まらないらしい。

 

 失礼かしら?おちょくられてるだけだと思うけど?

 よかった。ようやく笑いも収まってきた。あー脇腹痛てェ…。

 

「そもそも相手は大先輩なんだからね。」

 しかも、私の師匠でもある。

 

「大先輩だと?」

「そうよ!」

 海賊王のクルーは、私たちにとっては先輩だ。なんたってルフィは、海賊王になるんだから。

 

「あの人はクロッカスさん。元ロジャー海賊団の船医で、私の医術の師匠なの。」

 私の発言に、鳩が豆鉄砲を食らったみたいな顔をする一同。

 

「ロジャー海賊団?……って、つまり……?」

 突然の事で、情報が頭の中で繋がらないのだろう。

 当然か。こんな所で伝説に出会うだなんて誰も思わないよね?

 

「早い話、海賊王の船医クルーで主治医ってこと!」

 分かりやすく、ズバリと言うと、一同はやがて理解したらしい。

 

「「「「海賊王の船医ーーー!!?」」」」

 凄まじい絶叫が、だだっ広い胃袋の中に響き渡ったのだった。

 

 視線を感じたので、みんなを押しのけ前に出ると、クロッカスさんが驚いた顔をしていた。

 

「お久しぶりです!」

 ドクトリーヌの修行が終わった後に一度立ち寄ったから、会うのは6年振りかしら?

 

「やはり、イオリだったか。元気そうでなによりだ!」

 ほんとはもっと、いい感じの再会をしたかったんだけどね?

 いやぁ…コントが繰り広げられてしまったもんで、見入ってしまい、タイミングを逸してしまった。とりあえず、気を悪くしてないようでよかったわ。

 

「「……」」

 あら…? みんなには別な驚き、というか疑問を与えちゃった感じ?

 でもちゃんと、紹介するときに『私の師匠』ってフレーズ入れたわよ?

 

 すると…

 

「オイ、何だ何だァ!?」

 突然の大揺れにみんなはそれぞれ船にしがみ付いている。

 この揺れじゃ、下手したら船から投げ出される。

 

「何、地震!?」

「んなわけあるかバカ! ここはクジラの胃の中だぞ!?」

「クォラこのマリモ!てめェ、ナミさんにバカとは何だ!?」

 

 とりあえず、クロッカスさんについての驚きは、置いとく事にしたらしい。

 そんな事より、この揺れへの対応の方が大事だからね。なぜ揺れてるかについては答えておこうかな…

 

「この揺れは……クジラが、レッドラインに頭をぶつけてるのよ」

 言うと、全員が私を見てきた。

 

「何でそんなことが解るのよ?」

「解るんじゃなくて、知ってるの!」

 昔、クロッカスさんに、教えてもらったからね。

 

「そういえばさっき、医術の師匠とかって言ってたわよね?」

 さすがナミ。ちゃんと私の言った事を聞いててくれた。

 

「クロッカスさんは、私に医術の基本を叩き込んでくれた師匠なの。ドラムには、その技術をさらに高めてくれた二人目の師匠が居るけどね。とにかく、このクジラの事は医術を学んでいた頃にクロッカスさんに聞いて知ったのよ。」

 

「いったい何だってんだ?」

「飲み込まれる前に、このクジラの頭が傷だらけなのは見なかった? アレはこうして付いた傷なんだって。 …!!」

 

「? どうした?」

 ウソップに聞かれたけど、ルフィと他2つの気配が一緒になって…

 

「ルフィがもうすぐココに来る!気配がその扉の近くまで…。ほらそこ!!他にも2人…誰か居る!!」

 

 大きな扉の途中に付けられた小さな扉から3つの影が飛び出して来た。

 

「「「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」」

 

 王冠を被った男と、青い髪の女の子。その後ろにはルフィが見える。

 原作通り、ルフィが2人を吹っ飛ばしたんだろう。かわいそうに…

 

「ハッ! 麗しのレディが降ってくる!?」

 だからね、サンジ…それもうやめよう?

 って、無理か…

 

「おー! みんな大丈夫かー!?」

 落下しながら満面の笑顔で手を振るルフィ。でもお前…カナヅチじゃんね?

 

「今、1番大丈夫じゃなさそうなのは、お前だけどね?」

 下は(胃酸の)海だしね。

 言われてその状況に気付いたらしく、ルフィは一瞬だけ考えた後に言い放った。

 

「イオリ!頼んだ!!」

 そこは、普通に『助けて』とか『助けろ』って言いなさいよ!

 何が『頼んだ』だ! お前は熟年夫婦の旦那か?

 

 私が名指しされたのは、月歩が使えるからだろうけど…まったく。

 

「はいはい」

 私は月歩で飛び出して、ルフィをキャッチした後、残る二人のうち、一人を回収した。もちろん、青い髪の女の子を。

 

「ごめん!3人は無理!!」

 とりあえず、王冠男に謝っといた。

 

 いつの間にかクロッカスさんは扉のはしごを上っており、処置室へと向かったようだ。だとすると、もうじきこの揺れはおさまるだろう。

 

 縄梯子を使って、王冠男もデッキに乗った。

 

 さて…この二人はどうしましょう?

 

 

 

 

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