イムの娘(いむのこ)   作:槙 秀人

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03-90話:約2週間の記録

「これはなかなか、読みごたえがあるわね。」

『大変だったんだからね!』

 FAXで届いた原稿に目を通し、ユナが電伝虫をかけた相手は、ウイスキーピークに停泊中の船のデッキで飲んでいた。

 つまみはコノミ諸島での宴の際に取り分けておいたものである。

 

 ちなみにユナは自宅に居る。彼女の目の前にも今しがた、カザマが届けてくれた同じつまみが置かれていた。

 肉や油を使った料理が多い為、二人共、手にはビールを持っている。

 

「これを読めばわかるわよ。2週間に、よくもこれだけのイベント詰め込んだものだと感心するわ。」

 まあ、原作通りに進めばこうなるわけか…。多少休憩?を挟んでるけど、とても濃密な2週間だったと思う。

 正確にはさらに短い12日間だけど…

 

「でもちょっと、この日程には無理が無い?コノミ諸島からローグタウンまでが早すぎるように思うけど?」

『風が良かったのよ。まぁ、少し押してたけどね?」

「やっぱりね…」

 普通なら、出発したその日にこの距離を走破するなど考えられない。

 海軍の高速艇であれば可能かも知れないが、単なる帆船でこの距離を走破したとなると、よほどの強風が吹くか、あるいは他の要因がなければ無理だと思える距離だった。

 

 でも、ナミが不思議に思っていないのもおかしいわね。

 イオリも押したのは”少し”と言っている。という事はもしかして……

 コノミ諸島からリバースマウンテンまでには、海流があるのかもしれない?

 その上で、いい風が吹いていたなら、時間的には問題ないわけか。

 

『だって、普通に進んだら日程通りにいかないと思ったんだもの。それより私の言葉を勘違いしてるみたいね。冒険よりも書くのが大変だったのよ!!』

「あらそう?でも、あなたの苦労なんて大した事ないでしょう?私に振られる依頼事に比べたら、よっぽど楽だと思うけど?それに、こっちはちょくちょく『天竜人』とも会ってるんだから、気苦労だってあなたの何倍もあるわよ!」

 

 こんなやり取りが出来るのは、妨害電波用の白電伝虫を持っているからだ。

 リリスにいくつかもらったそれは、海軍の持つそれより格段に性能が優れており、カノンはもちろん、イオリ、イチユリ、ユンアに配布済。

 彼女たちの会話が他に漏れる事はない。

 

「しかもあなた。これ自動運転(オートパイロット)で書いたでしょ?」

『!!?』

 ユナの言葉に、イオリは言葉に詰まる。しばしの沈黙が流れた。

 

「バレた?とか思ってんじゃないの!!あなたが書いた短編小説と文章の流れがまったく違うんだもの。誰かに書いてもらったとしか言いようがないわ。でも驚いたわね。エイタは文才あるんじゃない?」

『し、…知らないわよ』

 

「まぁいいわ。これなら少し手直しすれば、出版に回せると思うし。一応、モルガンズにも見せてみるわね。このまま出すなら、向こうのほうが向いてるだろうし。」

 

 ユナは世界経済新聞社の社長、モルガンズと懇意にしている。

 だからこその発言である。

 

『そのまま出すっていうのはどうかしら?』

 イオリが疑問の声をあげた。

 

『いや、別にいいんだけど…政府に悪い印象与えない?』

「大丈夫じゃない?」

 ユナはさらっと即答で返す。

 

『また…。あんたは軽く言うけどさ。狙われるのは私なんだけど?』

「別に問題無いでしょう?この内容なら寄ってくる奴らから雑魚が排除される分、むしろウエルカムなんじゃない?」

『それは…確かに…』

「じゃあいいじゃない!!」

「…」

 

『とりあえず、そろそろこっちに来るみたいだから、切るわね!』

「ええ、出版が決まったら連絡するわ!!じゃ、がんばって!!」

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

「ハァ…」

 私は一人、ため息を吐いた。ルフィと出航したその日、ユナから連絡があった。

 それは、航海録を楽しみにしているという連絡というか依頼だった。私が実際に見聞きしたものを、ドキュメンタリーっぽく書いてほしいという、なんともイジメのような依頼である。

 

 私の名前で出版された本は、ほとんど(というか全部)が、元の世界のモノであり、パクリというより盗作そのもの。

 通貨が同じで送金が可能であれば、本当の作者に送金したいと思うほどの罪悪感がある。

 それなのに…

 何を勘違いしたのか、私はオリジナルの短編小説を書き、ユナに送ってしまったのだった。その後の事は思い出したくもない。

 ため息と、さんざんなコメントをそれはそれはたくさん頂いたのである。

 

《なのに、こんな依頼をするか?》

 

 カノンも楽しみにしてるとの事だったので、イヤイヤながらも書く事にして、それでもやはり、自分で書くのは躊躇したあげくに、エイタに頼んで書いてもらった。

 ただ少し、ショックを受けている自分も居る。

 

《マジかぁ…エイタの方が文才あるとか言われちゃった。なんで文才強請らなかった私!!》

 

 実はこれ、とても不思議な事だと思う。私たち(・・)の文書作成能力は格段に高いはずなのだ。それは企業経営をしていた事に起因するものだと理解するとして、文章作成がダメというのはどうしてなんだろう?

 でも…。

 エイタに書いてもらって、それで済むならそれもいいかも?

 そう思う自分も居たりする。

 とりあえず、エイタに書いてもらって、それを読んで…。勉強しながら自分でも書いてみたりしようかな?

 文章をまねる事が、上達につながるかも知れないし…

 

 そんな事を考えながら、私は準備運動を始めるのだった。

 

 ~ ~ ~ ~ ~

 

「がふっ!」

 今のは、船に乗り込んできた挙句、『死ねェ!!』とか言いながら襲い掛かってきた賞金稼ぎを殴り倒した際の声である。

 ちなみに今のが最後の一人。最初は生きたまま、だ捕しようとか考えてたみたいだけど、自分以外の全員がやられちゃったので、あのセリフが出たみたい。

 私の元に賞金稼ぎが押しかけて来たのは、ちょうど準備運動が終わった頃だった。

 3バカが飲み食い潰れ、残る2人が潰れたフリをしたあたりで行動を開始したみたい。

 私が一人で船番している事はヤツらも知ってるから、各個撃破とばかりに2、30人がやって来た。

 恐らく手配書を見たのだろう。ナミと私の髪の色を見れば、手配書の人物が私であることは一目瞭然。そして、手配されているのはルフィと私だけ。宴に参加しているのが5名とはいえ、賞金額から見て、割合を決めたのかな?

 でも、確か…3000万でも大物扱いだったと思うんだけど?

 

 指示を出したのはおそらくイガラムだと思う。私が彼なら、まずは一人の方に最大数を投入するけどね?

 まぁ実際には、それをされたところで、私は殲滅出来るけど…。でも、それはそれで仕方ない事だと思う。戦術が正しくとも、戦力差を覆すことは難しい事だから。

 だからこそ、相手を知る事が重要になる。

 私の場合、見聞色で相手の戦力を知れるので、それだけでも大きなアドバンテージになる。また、原作知識も使えるので、前もってある程度の準備が出来るという事も大きい。

 この島(町?)であれば、相手が武器を持っていたとしても、ゾロやサンジどちらか一人でも対処可能と思う。もっともサンジはここでは使い物にならんけど…

 

 倒した奴らを拘束している最中に、ゾロが暴れている気配を感じた。 という事は…

 気配を探ってみると、私たちがこの島に到着した時には、無かった気配が2つあった。

 私がいる場所はメリー号の上。当然ここは港である。

 

《港とは違う場所に船を止めたか…。》

 そういえば、ビビ達だけじゃなく、全員消す気で来たんだっけ?

 しかし…

 Mr5がココに来たのは、オフィサー・エージェントの中で一番近くに居たからだ(確か…)。という事は…

 更新される前の、私らの手配書を見ていた可能性は高い。その上で、こいつらだけを寄越したのだとすれば…

 

 クロコダイルってバカじゃんね?

 いいんだけどね?こちらとしては別に楽になるからいいんだけどね?

 油断したりバカやってくれた方が、戦う上では楽でいいんだけど、それだと一味の成長が…(実践)訓練になんねェじゃん!!

 

 まぁいいや。ここでグダグダ考えてても、どうにもならないわね。

 

 さて、ビビを助けに行きますか!

 

 

 

 

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