それが人生の転換点だった 作:ファンファン
最初は微かな疑問だった。この世界に対する違和感と、どうしようもなくこびり付いた記憶。何人かの人生のような経験と、知り得るはずのない知識。
周りの子と何かが違う。頭の良さなどではない、もっと根本的な何か。何故見た事も聞いた事もない事を知っているのか。何故調べたことも触ったこともないものが理解出来るのか。その一部が分かったのは、彼女と出会った時だった。
瞳に星を宿した子。彼女を見つけた事は、きっと人生の転換点だった。
◆◆◆
目を疑った。こんな子が存在するのかと。常人には無い何か。言わばカリスマを持つ目の前の子。彼女を見た瞬間、思い出した。
ここではない誰か達の記憶。経験。知識。そして漠然と、しかし重く残る誰かの感情。それらが彼女の名前を教えてくれた。
「星野……アイ……」
「あれ、私名前言ったっけ?」
思わず小さく出てしまったその声は、幸か不幸か当の本人に聞こえてしまっていた。
「え。あーっと、ほら名札! 名札に名前、書いてあるじゃん?」
「わ、本当だ。さっき書いたのに忘れてたよー」
そう言って何かが可笑しいように笑う星野アイ。誰かの記憶にある彼女とは少し違うものの、間違いなく彼女本人だった。
俺としてはちょろいというか、納得出来たらそのまんまという感じがする。今回は本当に忘れていたようにも思うが。
「ははは……えっと、改めて。俺は
「もう知ってると思うけど、私の名前は星野アイ。よろしくね、青哉くん! 私もアイでいいよ!」
満面の笑みでそう言った彼女の後ろに、未来の彼女が浮かんでいるような気がした。
☆☆☆
「なるほど。この世界は『推しの子』の世界だと。それで、記憶想起のきっかけになったのが……」
今隣の席でクラスメイトと話している奴。星野アイだ。
彼女はどこかの世界の作品『推しの子』において、悲惨な運命を持ってしまった人物だった。その運命は今だって、彼女を蝕んでいるらしい。
「前世と言える程確かな記憶は無くて、なんならごちゃ混ぜになってると。……多重人格者だってここまで酷くないだろ」
複数人の記憶か、はたまたそれに類する何か。それらが俺の中にある。しかし、どうもはっきりしない。
前世の俺が誰だったのか、どんな奴だったのか。何も分からない。何故かは分からないが、今日アイと出会うまでの記憶、俺自身の記憶すら曖昧になっている。訳が分からない。
「なんだってんだ? 一体……」
そのくせ、この体と頭は無駄に冷静でいる。こんな量の情報が急に入ってくればキャパオーバーなり、極度の混乱なりすると思うんだがなあ。
彼女を見て思い出す前から前兆はあったし、刷り込みがあったのか? 間違いなく子供っぽくないし。でも何か、無理矢理精神を成長させられたような……
「──ねえ、青哉くん?」
「うおっ、なんだどうした?」
思考に耽っていると横から肩を叩かれた。そちらを見れば頬を膨らませているアイがいた。
「さっきからずっと独り言言ってるし、百面相してるし、何回か呼びかけたけど反応してくれなかったんだよ」
「おお、それはごめん……」
全く気付かなかった。完全に集中し過ぎていた。ただ、独り言の内容は聞かれてなかったみたいだからセーフ、か?
「あははっ。青哉くんって面白いね」
「え、なんで?」
彼女は何が面白かったのか、さっきまでとは違う眼でこちらを見てきた。
「んー、今まで見た事ない人だったから?」
「今まで、見た事ない人?」
彼女から放たれた言葉は、俺という存在の本質を突いているようだった。自分でもわかっていない何かを見透かされているような気がした。
思わず固まってしまった俺を心配しているのかしていないのか、よく分からない顔をしてこう言った。
「そう。なんて言うんだろう……まるでこの世界の人じゃない、みたいな? 君って実は宇宙人?」
「……んな訳ないでしょ。そんな事言ったら、アイだって凄い目を引くじゃん?」
今の時点でもかなり目を引く。容姿の事もあるが、オーラがあると言えばいいのだろうか。将来的にカリスマと言われるであろうものがある。俺でも感じられるのだから、その道の人ならもっと感じるのではないだろうか。
「えーそう? まあ確かによく話しかけられるし、視線も感じるけど」
「それ、自覚してるよね? 遠回しに自慢してるよね?!」
「もちろん! だって私だから! まあ、理由は他にもあるけどね」
一体なんだろうか。彼女の興味を引くような事はしてない……怪しいことはしたけど。少し考えたがわかるわけも無いので、素直に聞くことにする。答えてくれそうな気はしてる。
「それは?」
「んー、秘密! ほら、どうせなら一緒に帰ろうよ」
「え」
アイが一緒に帰ろうと言ってきた。興味を引いた理由が分からなかったことなど意識から吹っ飛ぶ出来事だった。
あの星野アイが言うことなのか? 初対面な上に彼女が住んでいる場所は、施設のはずだ。確か作品ではそう言って……いやまて。
確かに子供の頃に諸事情あって施設で育ったとはあったはずだが、いつ頃とは明言されていないのか……!? もし、それがもう少しだけ。それこそ数ヶ月や数日後だとしても、今はまだ母親がいるということになる。つまり、致命的な時期はまだ来ていない可能性がある!
もしかしたら止められるのか? あれを。……いや、止めた所でどうしようもない、か。明らかに出来ることではないが、仮に止めたとして、ろくな事にはならない可能性の方が高い。なんなら悪化するかもしれない。
それに、普通に考えてこんな穴だらけの予想が正解しているとも思えない。アイが施設だったことをそこまで気にしていないともとれなくはない描写はあったようだし、家がどことも言っていない。偏見や勝手な予想で身を滅ぼすのは自分だ。
……とりあえず、現状を確認する方が先か。自分の事もあるのは大変だが、彼女が興味を持ってくれているのは都合がいい。
「あれ、君学校出て左の方だったよね?」
「んえ? うん、そうだけど……」
「じゃあ一緒に帰ろ?」
とても良い笑顔でそう言った彼女には、どこか強制させるような迫力があった。何故だ。
「う、ん。いいよ。そうだ、なんなら毎日一緒に帰ろうそうしよう」
「急にどうしたの? なんかキャラ変わった? 私はいいけど」
流れでゴリ押ししたが、約束はした。彼女相手にこんな約束が通じるのかは分からないが、親しくなる口実にはなる。
……拒絶されていないのが奇跡じゃないか? ヤバい奴だろ。独り言多くて情緒不安定で挙動不審とか。つまり俺の事なんだけど。
「じゃあ帰ろっか」
「おう……」
そうして一緒に帰ることになったが、その時の俺は気付いていなかった。どうやらこの世界の彼女は
そして、彼女が俺の家の方向を知っていたということに。
これ出しておけば遠い未来で書けるかなーと。