それが人生の転換点だった   作:ファンファン

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わざわざ3話に分けたのに過去最長になってしまいました。つまりめちゃ長いです。


1―11 花火大会 下

「──すっごかったね!」

 

「うん! あんなに凄いものがあるなんて知らなかったよ!」

 

「はっはっは。それは良かったですな」

 

 

 最後の特大花火が打ち上がり、これで花火の打ち上げが終了した。終了の余韻も程々に、それまで溜まった感情が爆発したようだった。

 

 

「俺も感動したな。また見に来たいよな……」

 

「その時は私も一緒に行くよ?」

 

「一緒に行くか」

 

 

 アイが横からひょっこりと飛び出して来た。良い案だな、とても良い。来年のこの花火大会でもいいし、それ以外でもいい。花火……コンビニで小さいのなら買えるよなぁ。

 

 

「私もー!」

 

「ぼ、僕も……!」

 

 

 田端と金山さんも参加希望のようだった。本当にまた来年来ることになりそうだな。毎年夏の恒例行事になる可能性が……ある?

 

 

「では、私も参加しましょうか」

 

「いいんですけど……いや、なんでもないです。その時は是非お願いします」

 

 

 早水さんも賛同してきた。確かにまた来れるなら来て欲しい人ではあるけど……そんな暇あるのだろうか。

 

 

「それじゃあ、そろそろ帰るとしようか」

 

「もうおしまいですか……少し寂しいですね」

 

 

 かなり寂しそうな田端。祭りの後の喪失感って凄いよな。俺も今感じてる所だ。

 

 

「うん……」

 

「眠そうだね、近藤さん」

 

「金山さんな。まあ結構遅くなってきたし、1番はしゃいでたから、疲れたんだろう」

 

 

 金山さんはかなり眠そうにしている。ついさっきまで花火ではしゃいでいたのに、すぐ眠くなるとは。子供だな。正真正銘子供だけど。

 

 

「では車で移動しましょうか。菫堂君たちも送りますよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 元々その予定だったとはいえ、かなり有り難い話だ。こんな夜にこんな子供が2人歩いてたら……誘拐とか、ありえる。その辺のこと俺の両親は考えているのだろうか。まあ、考えてなさそうだな。

 

 

 

★★☆

 

 

 

 近所にある駐車場に止めているらしく、そこまで移動した。花火が終わったこともあり、帰る人の波が凄かったが、なんとか辿り着いた。その間、俺は月極はその辺の駐車場扱いでいいのかという疑問に苛まれた。

 辿り着いた先。早水さんの車を見て、なんとなく見覚えのある車だなと思った。実は隣の軽自動車じゃないのという逃げも入っていた。

 

 

「これ……かなりの高級車じゃ……」

 

「そうですね、8桁はかかりましたが、良い車ですよ」

 

 

 どこか誇らしく話す早水さん。良い車という点を推したいんだろうが、8桁が強すぎる。8桁って、安い一軒家なら手が届くよな、数字によるとはいえ。座席とか燃費とかデザインとか、良い所があるのはわかるけど……ところで金山さんずっと背負ってるけど大丈夫なんです?

 

 

「広々としてるな……こっちの後ろの座席に金山さん寝かせられるんじゃないですか?」

 

「そうしましょうか。では……」

 

 

 そう言って背負っていた金山さんを軽々と移動させる早水さん。がっつり寝ているのか、金山さんが起きる気配は無い。

 

 

「奏仁は晴香の隣に。奏仁も眠そうですからな」

 

「じゃあ先に乗るね……」

 

 

 右に左に揺れながら車に乗る田端。さっきまで普通に歩いていたように見えたが、限界だったらしい。乗ってシートベルトをしめたらすぐに寝てしまった。

 

 

「おう……めっちゃ眠そうだったな。気力でここまで来たのか?」

 

「倒れそうなぐらいよろよろしてたね」

 

「アイは大丈夫か? 眠いなら寝てもいいぞ。俺が起こすからな」

 

 

 本当なら寝顔も隠したいが、そうもいかない。眠いなら寝た方がいいし、寝顔自体もいつか少なからず見られるだろうしな。今独占出来ればそれで充分だ。

 

 

「大丈夫だよ? むしろ目が覚めてるもん」

 

 

 そう言って目が覚めてるアピールをしてくるアイ。急に顔を近づけてくるから少し驚いた。アイの良い顔が目の前にある。

 

 

「……まあ、それならいいけど。ただ、ちょっとは休めよ?」

 

「わかってるって。青哉くんに寄りかかるから安心して?」

 

「お、う」

 

 

 危ない。今のはとんでもない破壊力だった。早水さんに聞こえてないよな? なんだあの完全に信頼してるような顔。勘違いするじゃないか……なんて。

 

 

「では、菫堂君と星野さんも乗って下さい。送りますから」

 

「よろしくお願いします……えーと、ここから学校の方に行って……」

 

 

 

☆★☆

 

 

 

「……寝た、か?」

 

 

 移動し始めて少ししたら、アイがこちらに寄りかかってきた。どうしたのか見ると、それは安らかに寝ていた。本当に寝てるか微妙だが、まあいいんだ。ちょっと繋いでる手の位置がキツイだけだ。

 

 

「ははは、今日は楽しめましたかな?」

 

「え、ええ。貴重な体験でしたよ。屋台もそうですけど、花火も初めてでしたからね」

 

 

 突然バックミラー越しに話しかけてくるからビビった。でも体は揺らさなかったからセーフ。

 

 

「そうですか……少し、奏仁……奏仁様と晴香のお話を、お聞き願えないでしょうか」

 

 

 少し表情を曇らせたあと、そう切り出す早水さん。まさかここで話があるとは思ってなかった。そこまで深く入り込むつもりもあまりなかった。

 ただ、アイが少なからず気を許してる2人。たとえ表面上だとしても、それだけで入り込むには十分な理由だ。

 

 

「それは……2人がいいのであれば」

 

「事前に許可は取っています。自分で言いたかったそうですが、ご覧の通り寝てしまいました。一応、駄目だった時はある程度は話してくれと言われてます」

 

 

 そう言ってちらと後ろの座席を確認する早水さん。振り向くと、今もすやすや寝ている2人がいる。座った姿勢は寝にくいのか、時々身をよじっている。

 

 

「よく寝てますね」

 

「これも、あなた方のお陰なのです。お二人、奏仁様はさる家の分家の長男。晴香はそれに付き従う家の娘」

 

「……」

 

「産まれてから、外界との関わりをほとんど絶たれたのです。この歳からようやくまともに人と関わることになった……それ故に、世間知らずなのです」

 

「なるほど、それなら納得が行きますね。一般家庭というには、所々に違和感が紛れてましたから」

 

 

 知っているものと知らないものの妙なアンバランスさに、影響の受けやすさ、使っている物の高価さもあった。他にもあったが、極めつけは早水さんだな。

 早水さんもかなりの裁量を任されてる凄い人ではある。しかも、田端と金山さんの信頼を得ていて、閉鎖的だった頃から面識がある。相当の地位とかが無ければそうはならないだろう。

 

 

「さすがの観察眼ですな。そんなお二人が今、こうして普通の子供としていられる。それが普通では無いこと、菫堂君ならば理解出来るのでは?」

 

「……そうですね」

 

 

 実際、それだけ閉鎖的に育ってきた子供が学校という場所に放り出されて、他の子と普通に過ごせるかと言われれば……難しいんだろう。どの程度なのかまではわからないが、少なくとも同世代の子と関わることもほぼなかったんじゃないだろうか。

 変な奴に目をつけられれば、いじめられることもあったかもしれない。もしかしたら、アイもその対象に……そんなの許せる訳がっ!? ぐ、急に、頭痛? 邪魔だ、くそ。

 

 

「だからこそ私は感謝しているのです。貴方たちに」

 

「っ……なるほど……だとしたら、受け取っておきます。その代わりと言ってはなんですが、これからもよろしくお願いしますね」

 

 

 まだ頭痛がするが、何故か思考は冷静だ。この縁のこともしっかり考えられている。このことを恩に着せるつもりはないが、縁が切れることは無いようにしたい。

 俺の言葉に少しの間、何も話さなかった早水さん。真意を受け取ったのだろう。早水さんなら正しく正確に受け取れるはすだ。

 

 

「……強かですな。ですが、有難い申し出です。いざという時は、助けになると誓いましょう。さて、そろそろ着きますよ」

 

「……そうですか。ほら……アイ、起きろー」

 

 

 そろそろ着くということなので、軽く肩を叩いてアイを起こす。すると、たった今目が覚めて周りの状況がよく分かっていないと言わんばかりに抱き着いてきた。つまりどういう事だよ。

 

 

「……ウーン、セイヤクンー」

 

「ちょ、抱き着くなって……! 人前でこんな、せめてこういうのは人目につかないとこで……!」

 

「へー、人目につかないとこなら何してもいいんだ?」

 

 

 言質を取ったと言わんばかりに詰めてくるアイ。そんなこと言ったけど言ってないし! やっぱり起きてただろ、これ。まあ、人目のつかないところなら……いや、今はそうじゃない。

 

 

「そういう事じゃ……とりあえず起きたんだろ、戻れって……?!」

 

「あんまり煩くすると、起きちゃうよ?」

 

 

 そう耳元で囁くアイ。その雰囲気に身体がゾクリと震える。普段ならこんな風にならないのに、何故だ。

 

 

「だから声潜めてるんだろ……」

 

 

 というかさっきからめちゃくちゃ迫ってくるのはなんなんだ?! 酒とか飲んでないよな……飲んでたらアウトどころじゃないけど。今日はいつもより大人しいなと思ってたけどさぁ……ん? でも一日中手繋いでたような……。

 とにかく、早水さん見てるのに……人前はほんとに恥ずかしいって!

 

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 アイとの戦いの末、なんとか落ち着いた頃には指定した場所に着いていた。正直屋台巡りより体力使った気がする。不思議だ。

 

 

「はぁ……はぁ……ここまで、送ってくれて、ありがとう、ございました……」

 

「いやいや、全然大丈夫ですよ。面白いものも見れましたしね」

 

「全然、面白くはないですから……これ、絶対秘密にしてくださいよ?」

 

 

 とてもじゃないが人に見せたくないし、なるべく知られたくない。こういうのって、普通2人きりで誰にも邪魔されない場所とか、そういう絶対的な秘密の……なんでアイは急に積極的になったんだ? 嬉しくないと言えば嘘になるけど……うん。

 

 

「わかっています。ですが、応援ぐらいはさせて下さいね?」

 

「ぐっ……とにかく、今日はありがとうございました!」

 

「ありがとうございましたー」

 

「いえいえ、それでは」

 

 

 こちらをからかいながらも、どこか本心を感じさせてここを離れていった早水さん。最後の最後まで田端たちは寝ていたので、2人には静かに別れを告げた。決して今生の別れとかではない。

 

 

「さて……一応中途半端な所にしてもらったから、すぐそこだな」

 

 

 自分の家を少し通り過ぎた場所、施設が見えてくるぐらいのところだ。アイを無事に送り届ける事が最優先だからな。それでいてなるべく勘づかれないように。あの人ならこの程度のこと、気付きそうだけど。

 

 

「おお、ほんとだ。青哉くん凄いね」

 

 

 そんなことを言っているアイ。ついさっきまで争ってたから気づいてなかったんだろう。夢中になって一切外を見てなかったとか、最初の話を聞いてなかったとかそういうことでは無いはずだ。別にどっちであっても問題はない。俺がなんとかするとも。

 

 

「ありがとう……今日、楽しかったか?」

 

「うん。青哉くんと屋台回れたし、花火も見れたし、すっごく楽しかったよ!」

 

「そうか……それなら良かった」

 

 

 アイが笑顔でそう言う。ちゃんと楽しんでくれたか不安だったが、良かった。本心から言ってくれてるとわかる。最近はそういうのがより判断出来るようになったような気がする。アイ限定かもしれないけど。

 

 

「ふふ……あ、そろそろ帰らないと怒られちゃう。また明日ね、青哉くん」

 

「? ああ、また明日」

 

 

 今、何か嘘を感じた気がした。でも手は離れてしまい、そのままアイと別れた。大人しく入っていった辺り、本当に時間ギリギリなんだろう。いつもなら見送ってくるし、間に合っていたならいいんだけど。

 しかし、こんなに融通が効く場所なのか? あの記憶を思い出すと、割とろくでもなかったんじゃないかと勘繰りたくなるんだけどな。まあ、逆にそれを利用して自由に行動している可能性はある。子供に不干渉気味とかで。

 ま、アイが無事ならそれで良いんだけどな。俺も警察に見つかる前に帰ろう。補導とかされたら面倒だし、親の連絡先なんて欠片も知らないし、家の電話がわかってても意味はない。実際電話することって、今の所ないからな。まさか、警察から逃げ回るはめになるとは……印象悪いな。

 

 

★★★

 

 

 こうして、今後恒例となる夏の一大イベント、花火大会が幕を閉じた。

 家に着いた後の俺はなんとか自室まで行ったものの、疲れ果てて何もせず寝てしまった。翌日が少し面倒になったが、間違いなく楽しめた。

 後から思い出したことだが、あの時の頭痛はなんだったのだろうか。その疑問について考えることになるのは、まだ先の話。




ここまでお疲れ様でした。ところで、なんでアイちゃんはずっと手を繋いでいたんでしょうね。
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