それが人生の転換点だった 作:ファンファン
夏休みが明けた。それはつまり二学期、学校が再開することを指す。夏休みは花火大会以外ほぼ毎日アイと遊んで? いたぐらいで、これといったものはなかった。
そういえば、普段は帰りが遅い上にちょくちょく家に帰って来ない親とは一体。俺、間違いなく子供だよな……? とても独り立ちする年齢じゃないし、大昔ならようやく人となったとか言われるぐらいのはずなんだけど。
とはいえ、自由にアイと遊べたことは事実。なんとかなってる今のうちはいい。風邪ひいたらおしまいなだけだ。健康には十分気をつけるようにしなければ。
「おはよう、青哉くん」
「おはよう、アイ」
今日も外へ出ればアイがいる。ほぼ毎日会っていたからか、夏休み明けでも懐かしさは感じない。これがいつも通りになっているんだと毎回実感する。
この日常が、いつか無くなることのないようにする為には、きっと俺がアイの傍にいられるようにするしかない。なら、俺は踏ん切りをつけるべきなんだろう。いつまでもこのままではいられない。それがわかっているのだから。
「……青哉くん、雰囲気変わった?」
「そうか? 昨日の今日でそんなに変わる……こともあるか」
何かを感じ取ったのか、雰囲気について聞いてきたアイ。昨日の今日どころかさっきの今なんだけど、そんなに変わることある? 俺ってもしかしてわかりやすい?
「大丈夫だよ。雰囲気が変わっても、青哉くんは青哉くんだから」
「おう……ありがとう」
慈愛すら感じさせるほどの笑みを浮かべるアイ。それと同時になにか凄みを感じる。そういえば、黒と白の星が同時に浮かぶってどういう意味が? あの記憶だと、特に言われても書かれてもないからわからない。そもそも、これってありえるのか?
そんな疑問は、考えても答えが出なかった。星がどうこうよりも表情を見た方がまだわかるよなぁ、なんていう方向に進んでしまったから。
☆☆☆
学校と言えば、田端たちと会うのも花火大会ぶりだ。連絡を取る機会がなかったから一度も会ってない。田端がまた変な影響を受けてないといいんだが……金山さんはきっと通常運転だと思われる。にしても妙に懐かしいな、この校舎。
「おはよー!」
「おはよう菫堂くん、星野さん」
教室に着くと、聞きなれた声が聞こえてきた。あの2人だ。
「おはよう笹山さん、田淵くん」
「金山さんに田端な。おはよう」
2人とも特に変わったところはないように見える。服装も雰囲気も持ち物も違和感はない。もしかしてすぐに真似したがるあれ、克服したのか……これ失礼かもしれない。すまん、田端。
「あの、2人は宿題って終わらせた?」
田端がどことなくおどおどしながら聞いてきた。その顔は不安げだ。あの田端が終わらせてないとは思えないが、なんだろうか。
「ん? ああ、ちゃんと終わらせたぞ。少しばかり手間取ったこともあるけどな」
夏休みの宿題自体は別にいいんだが、自由研究だけはなんとかならないのだろうか。何するか考えるのも大変だし、それを実際にやって纏めて……やってられない。
どうしたものか悩んだが、この年齢だしアイス作っておけばいいかと考える事をぶん投げた。よくある布でぶん回して冷やして作るアイスだ。完成品はアイと食べたが、そこそこ美味しかった。
「青哉くんと終わらせたよ」
そう余計な一言を付け加えてピースするアイ。あまりヘイトを集めないでくれ。公にしたいもんじゃないからね? 一緒に宿題やっただけだからそんな気にすることでもないとは思うけども。
「そうだよね……実は、晴香ちゃんがやってなくて……」
何故か申し訳なさそうな顔だ。田端、気にする必要はない。やらなかった金山さんが悪いだけだ。だから金山さんはもう少しヤバそうな雰囲気を出した方がいいと思う。開き直ってるどころか気にしてすらいない。
今の話で気付いたが、田端と金山さんがお互いに名前呼びになっていた。俺達があれについて知ったからなのか、二人の間に何かがあったのか、はたまた別の理由なのかはわからないが、俺達の前ではお互いに名前呼びだ。気を許せるようになったのなら、良かったんだが。
「忘れちゃったよー」
「もう少し気にした方がいいんじゃ……?」
「やっぱりやらなくても良かったのかな?」
金山さんの様子を見てとんでもない事を言い出すアイ。そんな事ないから。
「そんなことないからな、アイ。あと金山さんは先生に何かしら言われると思うよ」
「えー?」
「当たり前だよ……」
不満そうな声を出す金山さん。田端がそれに対して咎めにいった。きっと苦労したんだろうな、この夏。
「まあ、青哉くんとならなんでも出来るけどね」
「……ほんと、人前で言うのやめない? あまり聞かれたくないんだけど……あ、全然嫌じゃないぞ。むしろ嬉しいぐらいだし……でもさ?」
「……やめなーい」
そう言って穏やかに、でも小悪魔的に笑いかけてくるアイ。思わず見惚れてしまいそうな程。しかし、その一言には何かが込められている気がした。
でもアイの日に日に増していくアピールをどうしたものかと頭を捻ってしまったが故に、それを追求することは無かった。
☆★☆
あれから少しの時が経った頃。時期は秋が近くなり、過ごしやすくなってきた。それと同時に、あるイベントについて告知がなされた。そう、運動会だ。
「運動会か」
「運動会だね」
「運動会?」
「運動会……」
俺を含めれば、三者三様ならぬ四者四様の反応だ。中でも1人、凄まじい落ち込み方をしてる奴がいる。
「そういえば田端って運動嫌いだったか」
体育の度に嫌だなぁと言っていたのを覚えている。授業は授業なので、真面目な田端は逃げずに受けていたのだが、結果は推して知るべし。体力テストは……うん。
「はい……運動神経が致命的に無いんです。ただ走るだけでも転ぶくらいに」
「奏仁くんって昔から運動苦手だったよねー。なんでだろ」
自虐気味な雰囲気を出す田端に、金山さんが返す。昔から運動苦手だったのか。でもそう言う割には動けてる時もある。運動神経が直接的な原因じゃない、のか?
「じゃ、特訓するか」
「え、特訓ですか?」
ポカンとしている田端。なんとなく言っただけだったが、なにかの参考にはなるかもしれない。そうでなくても、純粋な善意はある。
「そうだ。特訓というよりは練習みたいなもんだけどな。外で軽く走るだけでも、それに慣れるのには丁度いい」
「慣れる……つまり、僕は自分の思考と身体が連動していないということですか!?」
持ち前の頭の回転を発揮して答えを出した田端。原因がわかったからか目がキラキラしている。ほんとにそれが原因かはわからないからな? まだ単純に運動神経が悪い可能性あるからな?
「まあ、そういう事だ。そうでなくてもちょっとは運動した方がいいしな。本番で怪我したら良くないし」
「むむ……わかりました。特訓しましょう!」
急に立ち上がって力強くそう言った田端。後ろに炎が見えそうなぐらい燃えている。もしかして、そういう人でも見た? 何か影響受けてたりしないか、これ。
「じゃあ私もやるー」
金山さんがのんびりとそう言った。そういえば、金山さんが田畑と離れてるところってそんなに見てない気がするんだが……近侍に近い従者なのか? 2人を見てればそんなものじゃなくて、ただただ仲良い2人組って感じだけど。
「私は青哉くんがいる所なら何処でも行くし、なんでも付き合うよ?」
「だから……嬉しいけどさ? ありがとうでいいのか分からないんだけど……とりあえず、ありがとう」
全く治らないな……この際開き直って受けに行った方がいいのか? でも他の人の記憶に残したくないんだよな。将来どんな影響があるかわからないし……結構、恥ずかしいし。まだ抵抗しておこう。
「それじゃあ早速、今日からやりましょう!」
「なら、どっかで集合しないとな……」
そのまま話を詰めていき、どこかへ出掛けるという程のものではないが、近所の公園などで運動をすることになった。実に平和だ。
ただ、運動と言っても出来ることはそこまで多くない。特に俺はボールとかを持ってるわけじゃないから、走るぐらいしか思い浮かばない。短距離走か鬼ごっこぐらいの感覚だ。あとは遊具で遊ぶぐらいか? 何してるんだろうな、公園で遊ぶ子供って。
そんな先行き不安な特訓の成果を見られるのは、運動会当日。思ったより成果は出たと思う。このタイプは今後大変だろうなということが分かってしまったが。
★★★
運動会が近付いてきたある日。田端たちが、運動会当日に両親が来れるかもしれないと話していた。俺とアイはもちろん来ない。弁当頑張って作ろうと決意したぐらいだ。
確率は低いから期待していないと田端は言っていたが、ほんとにそうだろうか。来なくてもおかしくはないが……何かアクションがありそうだ。入学式には来ていたらしいからな、2人の両親。
……今更だが、2人といるとたまに感じる視線は護衛とかなんだろうか。気のせいだと思っていたけど、色々と判明してきている今、気のせいと断じるのは尚早に感じる。アイに危害が無いなら別にいいんだけど。
ちなみに、早水さんは来るらしい。あの人、やっぱり自由だな。
こんな終わり方ですが、運動会は次の次(予定)です。