それが人生の転換点だった 作:ファンファン
誤字報告等、ありがとうございます。
23日23時に少々加筆修正しました。
運動会。そう、運動会だ。進学していけばいずれ体育祭の名に変わることもあるあれだ。年に一度の学校行事として有名なもの。学園祭やそれに類するものがほとんどないこれぐらいの歳の子供は、このイベントを心待ちにしていることが多い。
もちろん、運動したくない人もいるのでそこは注意が必要だろう。例えば、そう。学校に来てからずっと震えている田端のような人だ。
「なあ、そんなに震える必要あるのか? 田端が運動嫌いなのは知ってるけども……今日まで頑張ってきただろ?」
「だって、これからあんな衆目の前で色々と晒すことになるんですよ!? ただでさえ運動は得意でないのに、どうして……」
そう言ってまた膝を抱えて震えながら俯いてしまった。つい昨日は結構仕上がってて調子良さそうだったのだが……いや、体調自体はバッチリだな、これ。本人が嫌がってるだけだ。
「田端……その言い方やめない? なんかよくない誤解生みそうなんだけど」
「田端くんって外に興味津々だったのに、運動はダメってほんとに不思議ー」
「そういえばそうだったっけ」
「……あれからそこそこ経つから忘れてるかもだが、その時も言ってたぞ、アイ」
その話がなかったら特訓なんてことしないしな。なんとか田端をなだめていると、金山さんがあることに気づく。周りも気づいたのか、徐々に静かになっていく。
「あ、そろそろ始まるみたいだよ」
「ようやくか」
前方にある台の方を見ると、そこには教師……先生が立っていた。実行委員とかじゃないんだな。一応うちのクラスからも出てたし、その辺の人が最初から出ると思ってたんだが。
数秒の後、開会式が始まった。既に学年、クラスごとの整列は済んでいたので、あとは開始時刻を待つのみだった。
「それではこれより──」
☆☆☆
開会式が終わった後は退場の行進を行い、それぞれ事前に運び出しておいた椅子に座る。あらかじめ割り当てられた範囲がクラスごとにあり、その範囲に自由に席を置くという形式だ。
自由が故に大体は仲の良いグループで固まっているのだが、それは俺達も例外ではなく、4人で固まっていた。その際、何故かアイが席を交換したいと言ってきたので、交換したこと以外は何も無かった。
……意味がわからないよなぁ? 席を交換してって言われても、学校の椅子なんて大体同じものだと思うんだけど。と言っても何か他意があるわけじゃないはずだ。うん。
「青哉くん、暑さ対策バッチリだね」
「ああ、熱中症は危険だからな。自分が倒れたらアウトだし、アイが倒れてもアウトだ。今日のために冷却とか、保冷剤を入れたタオル、スポドリも用意してある」
アイにそう返す。念には念をで気合い入れて用意して持ってきた。まさかのクーラーボックス……とまではいかないが、保冷バックのようなものに入れて持ってきた。
暦の上ではもう秋だが、まだまだ暑い。運動会なんて炎天下の中ずっといるんだから、対策するに越したことはない。
こんなもの持ち込めるのか疑問かもしれないが、まあ、先生がわかってくれる人で良かったな。少々脅しをかけたのが効いたのかもしれない。
勝手に使って悪いとは思っているが、こちらには田端たちがいるんだ。先生たちには少なからず情報がいってるはずだからそれはもうよく効いた。顔が段々と青白くなっていく教師陣は見ものだった。下手な事をして倒れさせたらどうなる事やら……こわっ。俺も気をつけよ。
「田端たちの分もあるから、遠慮なく使えよ」
「菫堂くんありがとー」
「あ、ありがとうございます! 大切に使わせて頂きます!」
金山さんはいつも通りとして……田端、最近おかしくない? そうでなくてもなんでそんな畏まってるというか、なんていうか……さっきから何に感銘受けてるんだよ、こいつ。なんか涙流してタオルを神々しい物のように扱ってるんだけど。俺がいなくても色々と用意されてると思うんだけど、そんな泣くほど? これ大丈夫なやつ?
「私、青哉くんが使ってるタオル貰ってもいい?」
「いや……別にいいけど、それ何の変哲もないタオルだからな? 買ったばっかだし……あ、1回洗ってあるからそこは安心していいぞ」
ああいう買った衣類とかって、直接肌に当たるものはちゃんと1回洗っておかないと悪影響があったりするらしいからな。その可能性を極限まで排除すべく、事前に準備しておいた。代わりに休日が3分の1ぐらい消えたけど。アイのためを思えば安いもんだ。
……いや無理だ。逃避しきれないわ。保冷バックの中にあるって言ったじゃん。なんで俺が今使ってたやつ取られたんだよ。
「当分出番はない……でも3番目か」
校庭の端の方に置いてあるプログラム表。短距離走は中学年と高学年の間に挟まる形で低学年がきている。
「お昼前に玉入れもあるよ」
「でもそれで僕たちは終わり……リレー、あるんでした」
玉入れはなんの変哲もないただの玉入れだし、リレーも何の変哲もないリレーだ。全員走るとかいう面倒がなければの話だが。田端は悲壮感漂う姿になっている。悪化してるな、これは。
「これ時間結構ギリギリだよな。なんで選抜じゃないんだ……」
なんで全員リレーとかいう時間がかかるものをメインに持ってくるのかがわからない。どうせなら選抜とかで早く終わらせてくれるといいんだけどな。おかげで普段の授業より帰るのが遅くなりそうだった。
「私は青哉くんがいるから、いつまででもいいけどね」
アイはそんなことを言っているが、一緒にいつまでも何かをやったり、どこかに居るとしたって運動会は嫌だろ。ゲームとか家とかそういう時に言うもんじゃない? ……いつまでも。いつまでもか。
「いつまででも、か。……ものによって勘弁して欲しいけど、アイがいるなら話は違うな」
そんな返しをしたらアイが急に変な方向を向いた。どうした。割といつも通りの会話だったけど何かあったか? 視線を追うと、その先には保護者が多くいた。なんかちょっと保護者の数が多すぎる気もする。
「そういえば、田端たちの両親ってもう来てるのか?」
「あ、ええと……どうでしょう。今はまだ見当たらないですね。仕事を終わらせ次第来るとは言っていたんですが……」
「私も見つけられないよー」
どうやら田端たちの両親はまだ来ていないらしい。仕事終わらせ次第って、来れない事もありそうだな。朝から来るのも難しいだろうが、少しでも来て貰えるといいな……。
「まあそのうち来るだろう。始まったばかりだし、昼頃目安だな。ところで、あれ早水さんか?」
俺が指差した方向に皆が注目する。そこには軽い変装? をした早水さんがカメラを用意していた。まさかの三脚だ。位置取りもよく、あの場所からなら走っている姿がよく撮れることだろう。
「早水さんですね、もう来てたんですか」
「早水さんがいつ来るかって聞いてないよね?」
「うん。とりあえず今日来るっていうことだけしか聞かされてないかな……」
田端と金山さんのやり取りを聞いていると、早水さんもこちらに気付いたのか、軽く手を振ってきた。周囲にいる人も子供がいると思われる場所に手を振っていて、賑やかだ。全力で返事をする子もいる。元気だな。
田端たちも軽くではあるが手を振り返している。俺は手を振るどころかお辞儀してしまうが、まあ条件反射というかなんというか。
ちなみにアイは田端たちと同じことをしていたが、何かの暗号を送っているようにも見えた。右手と左手でやってることが違う。いつからそんな器用な真似を……早水さんとアイって花火大会以外で関わり無かったよな。でもこれ、まさかあの話、アイが吹き込んだんじゃ……流石に無いか。顔合わせたのも初のはずだし。だよな?
「お、そろそろ向こう行かないと」
「う、忘れていたかった……」
「ほら、奏仁くん行くよー」
そう言って金山さんが再び気分を沈めた田端を引っ張って言った。あの田端が元気な金山さんにかなうわけもなく、見事に連れられていった。
「待ってよ春香ちゃん!?」
田端のそんな悲鳴に似た何かが聞こえたが、気のせいだろう。
「それじゃあ行くか」
「うん……行こう、青哉くん」
★★★
50m走とは、50mを走る競技だ。それ以外に説明のしようがない。どれだけ早く走れるのかというタイムアタック的要素と、同時に走っている人より早くゴールするという競走的要素がある、ぐらいだろうか。
「なんでクラウチングはダメなんだろうな」
「わかんない……身体に悪いとか?」
アイが絞り出したように言う。身体に悪いって……体重の負荷とか? それが骨格形成に影響してしまうからとか。なんかそれっぽくない? あくまでもぽいだけだけど。
「クラウチングが身体に悪い……詳しく知らないから何も言えないのが申し訳ないな。今度調べるべきか?」
「そんな事しなくていいと思うよ? でもなにかあったら教えてね。私も青哉くんの知ってることはなんでも知りたいから」
「ん、わかってる……あ、次だ。先走ってくるわ」
「うん、ちゃんと見てるよ」
アイと話していると、自分の番が回ってきた。4人の中で1番最初だ。アイは俺の次の順で、田端と金山さんはもっと後だ。
「いちについて……よーい」
合図があり、それに合わせるように姿勢を整える。特に早く走る気も無かったが、よくよく考えたらアイが見ている。それならとりあえず、この走者たちの中で1位は取っておくべきだろう。ようは真面目に走るということだ。
「どん!」
競技用のピストルが鳴り響く。同時にそれに合わせて意識を切り替え、走り出す。
その後は特に何事も無く走り切った。隣の人がいい感じに走ってくれたので、それに並走より少し前ぐらいの位置でゴールした。そこまで差はなく、かといって手抜きとは思われない絶妙なラインのはずだ。
「ふぅ……次はアイの番か。ちゃんと見ておかないとな」
ゴールしたので順位に倣って並ぶ。アイの走る姿を見逃す訳にはいかないので、しっかり見る。見たからどうということではなく、単純に気分の問題だ。アイのやる事は大体なんでもとりあえず見ておきたい。
「おお……普通、か?」
順位としては1位だが、タイムはそこまで良いというわけじゃないと思われる。多分平均タイムとそう変わらない。でも妙に目を引いた気がするが、周りを見る限りそんな事も無さそうだった。
「青哉くん青哉くん」
俺の名前を連呼して走り寄ってくる。羞恥心とか無いんだろうか。アイって隠す時は本気で隠すけど、そうでもないときは逆に見せびらかしにいってるとこあるよな。俺の最新の分析だ。
「おつかれ。1位おめでとう」
「うん、ありがとう! 青哉くんも1位おめでとう」
さっき走ったばかりとは思えないぐらいにとてもいい笑顔だ。息切れとか汗とかどこにやったんだろう。もうここまで来たら代謝が有り得ないぐらい悪いんじゃないかって気がしてくる。
「おう、ありがとな。ところで聞きたいんだが、さっき走ってる時、なんかした?」
「特に何もしてないよ? ただちょっと青哉くんに見てもらおうとしただけ」
ただちょっと見てもらおうとしただけって……なにしたの? ほんとに何もしてない? ほんとに何もしてなかったらあんなに目を引くことなんて無いと思うんだけど……まさかな。
「……ま、ちゃんと見てたから大丈夫だ。元々見逃すつもりもないし。ほら、そろそろ田端たちの番だぞ」
「青哉くん……私は青哉くんを見てるよ」
「……金山さんぐらい見てあげなよ」
自信満々にこちらを見るアイ。そんなじーっ……と見つめなくても。こっちに穴が開きそう。
何はともあれ、ようやく田端の番。ただ直線で走るだけだが、田端的には一大事らしい。とりあえず走りきってゴールすればそれで充分だと思うけどな。
悩んで変えて一から書いてたので遅くなりました。色々とどうしたものか……。
極秘情報……アイは最近、主人公をよく見つめているらしい。