それが人生の転換点だった   作:ファンファン

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最近、自分の限界突破のためにこの作品のアイちゃんがどれだけ重いのかを別で書いているため、本編が更に遅くなってます。


1―14 運動会 中

「頑張って下さい奏仁ー!」

 

「……早水さん、あんな大声出せたんだな」

 

 

 とんでもなく失礼なことを言った気がするが、割と真面目に驚きだ。風貌も雰囲気も紳士的で所謂イケおじだが、大声出しても様になっている。……ほら、奥様方の中に何人か見蕩れてる人もいる。

 その声援が届いたのか、ぼんやりと見える田端の表情が和らいだように見えた。

 

 順番は進み、田端の番。小刻みに震えてるように見えるが、気のせいだろうか。

 

 

「いちについて、よーい……どん!」

 

 

 こんな声掛け、今のうちだろうなとぼんやり思いながら、走り始めた田端を見る。スタートダッシュは普通。全員同じくらいだった。

 となればあとは走る速さで直接決まる。正しい走り方のようなものは教えてあるし、無理のない程度に練習してきた。実るかはともかく、悪いようにはならないだろう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 結果として、田端は2位という順位に落ち着いた。これだけ見れば普通の結果だが、俺の計測上、タイムが凄かった。おそらく11秒を切っている。特訓前のタイムを考えると、2秒ぐらい縮んだのではないだろうか。

 

 

「田端、お疲れ」

 

「ありがとう、ございます……菫堂君」

 

 

 田端が顔色を悪くしながらこちらへ向かってきた。かなり息が上がってるが、大丈夫だろうか。

 

 

「軽く歩いたし、落ち着くまでゆっくり休め。退場までには多少良くなるだろ」

 

「はい……」

 

「それと、走り良かったぞ。本番はリレーだが、その前哨戦としては充分だ」

 

 

 その言葉を聞いてとても嬉しそうな顔をしながら田端は倒れ込んだ。相当疲れているんだろう。一応、50mを1回走っただけなんだけど……。

 

 この後、金山さんが走ったのだが、ブッチギリで1位をかっさらっていった。この年齢で出していい速さじゃなかった。オリンピックでも目指してる?

 それを見て田端が放心状態になっていたが、あれは例外中の例外だから気にしなくていいぞ。あんなん数年経たないと体が追いつかないと思うんだけどなぁ。どこにでもとんでもない才能の持ち主っているな。

 

 ……走り終わってから退場後まで、ほんとにずっと見つめてきたアイはなんなのだろうか。時々表情をころころ変えていたから無心という訳じゃないんだろうけど、正直戦々恐々とした。何もされてないんだからまだいい方だ。こんな所でバレる可能性を増やす訳には……。ただ、疑問を浮かべたような顔が多かったのは気になるところだ。

 特に何も言ってこなかったし、悪い気自体はしていない。見つめ返す勇気はほぼ無かったけど、アイの方を向いた時に笑いかけてくるのはヤバかった。破壊力が凄い。頼むからそれを振り撒かないで欲しい。

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 玉入れは特に何事も無く終わった。田端はひとつも入れられなかったと落ち込んでいたし、金山さんは百発百中で入れていたし、アイはこちらを追いながらやってたし、各々楽しんでいたと思う。俺は適当に流した。勝ったことには勝ったので許してほしい。だって腰に来るだろ、あんなの。

 

 さて、雑談が大半な運動会も途中休憩の時間。要は昼食だ。もうアイと2人きりで食べるのもいいと思うんだけどダメ? ダメですかそうですか……残念ながら早水さんからは逃げられなかった。

 

 

「お久しぶりです、早水さん」

 

「ええ、久しぶりです。良い活躍をしてましたね」

 

「ありがとうございます。早水さんは……しっかり撮ってましたね」

 

 

 早水さんの手には、動画撮影用と思われるカメラがあった。あの三脚を使ってガッツリ撮ってたものとは別の、手持ちで撮ってたものだ。なんで2台も持ってきてるんだ、この人。

 

 

「ええ。カメラ自体には疎いのですが、うちに(会社に)いる子に聞いてオススメを買ったんです。しっかり撮れました」

 

「それは、良かったですね」

 

 

 うん、あれ絶対高いちゃんとしたヤツだな。少なくともその辺の動画()撮れるカメラじゃなくて、映像()撮るカメラって感じだし。うちの子って、そっちのプロとかなんじゃ。もしくはただのマニアか。

 

 

「ああ、菫堂君たちも撮ってありますよ? 是非あげようと思いまして」

 

「……いや、いらないですよ。はい、いらないです」

 

 

 なんで撮ってるんだよこの人。ついでかもしれないけどついでで撮るものでもないだろうに。

 

 

「そうですか? それは残念です……」

 

「はは……ところで、田端達のご両親って?」

 

「ああ、その件なんですがね。どうやら急用が入ってしまったらしく、最後のリレーの時だけなら間に合うかもしれないとのことです」

 

 

 なるほど、それらしき人が全く見当たらないとは思ってたけど、やっぱりまだ来ていなかったか。

 

 

「そうですか……やっぱり、難しそうですね」

 

「忙しそうだったもんねー。でも今回はきっと来てくれるよ!」

 

 

 田端も金山さんも、少し寂しそうにしている。言い様からすると中々行事に参加してくれないという雰囲気があるが、実際どうなのだろうか。入学式は来ていたと言っていたし、全く来ないという訳ではなさそうだけど。あれが初だったとかだったら、まあ、うん。自分達? ノーカンで。

 

 

「……とりあえず、そろそろ食べようか。お腹空いただろうし」

 

「食べる!」

 

 

 金山さんは元気に返事してすぐに食べ始めた。今日もいつもの重箱スタイルだ。これ、みんなで食べるとかなら間違いじゃないんだけど、1人で食べてるんだよな……。

 

 

「たしかにお腹空きましたね。運動した後はいつもより食べてしまうんですよね」

 

「まあそりゃそうだろうけどさ。なんでそんな反応」

 

 

 田端、君はもう少し食べてもいいんじゃないか? 成長のためにも。金山さんぐらい食えとは言わないから、10%ぐらい多めにさ。

 

 

「はぁ……ん?」

 

 

 妙にアイがこちらに来ないなと思っていると、少し離れた所で早水さんと話していた。早水さんも知らない内に向こうに移動していた。

 何を話してるのかは、周りが騒がしいこともあって聞き取れない。どうやら読唇術は学んでいなかったようで、見えても何を話してるか分からない。自分で読唇術も学んでおくべきだった。

 

 しばらくすると、2人揃ってこちらに戻ってきた。何の話をしていたのだろうか。2人とも無表情過ぎて何も伝わってこない。特に早水さんはほんとに分からない。アイはなんとなくだが、何かを考え込んでるんじゃないだろうか。周りに魅せるというのは最低限こなしつつ、思考に集中力を割いてるような感じ。俺だからわかる事だな。合ってるかは知らないけど。

 

 

「おかえり」

 

「うん。戻ったよ、青哉くん」

 

 

 いつも通りの表情で言うアイ。さっきまでのどこか張り詰めたものはなくなっている。

 

 

「……なにか話してたのか?」

 

「うん、青哉くんのことでちょっとね」

 

 

 そう曖昧に笑うアイ。俺の事を話してた? なんでアイと早水さんが? え、怖いんだけど。嫌なところ挙げてく選手権とかやってないよね。アイに嫌いとか言われたらショックで寝込む自信ある。別に、そういう関係でも、ないんだけどな……。

 

 

「俺の事……それ、変なことじゃない、よな?」

 

「変なことじゃないよ。青哉くんのためだからね!」

 

 

 力の籠った否定だった。すごく安心できる否定だ。良かった……少なくともあいつのここが嫌、とかいう企画じゃなさそうだ。だが、俺のためってなんだ? ……考えても分からない。聞いてはみるが、これはそう簡単に答えてくれなさそうだと、わかってしまう。

 

 

「ちなみに……その内容は?」

 

「まだ内緒。でも、いつか絶対に話すから、それまで待ってて欲しいな……」

 

「そう、か」

 

 

 何故か、今までにないほど寂しそうな顔をするアイ。 一体どんな話をしていたのだろうか。問い詰めたい気持ちが湧いて出たが、アイの言葉からは本気が伺えた。その場凌ぎなんかじゃなく、本心からそう思って言っている。それが分かったから、俺は何も言えなかった。

 

 

「ごめんね、青哉くん……」

 

 

 アイが小さく謝るのを聞いて、なんとも言えない気分になる。どうして謝るのか。謝るようなことをされた覚えはない。こんな、まるで懺悔のような。

 

 ……アイがこんな表情をするような話。それも、俺が関わっていること。心当たりが無さすぎて本当に検討がつかない。ただ、予想できる範囲で考えればあれ(原作)とは関係の無い話だ。そもそも、俺はいなかったはずだし。

 早水さんにも聞こうとしたが、既に田端たちの方に移動していた。田端たちがかなり楽しそうなので、それを遮るのは申し訳ない。

 

 新しくモヤモヤする疑問が発生してしまったが、それを解消する手立ても無く、大人しく昼食をとることにした。食べ始める頃には、アイはいつものアイに戻っていて、何事も無かったかのように話すことが出来た。ただ、そうさせてしまうのは俺の力不足なのではないかと、そんな風に考えてしまう。

 

 

 

☆★★

 

 

 

 無情にも時間は過ぎていく。昼食兼団欒の時間であるお昼を終え、運動会は再開される。他学年の競技が進んでゆき、もうじき最後の種目であるリレーが始まる。

 

 

「さて、そろそろ最後のリレーだな」

 

「リレーの順番どこだったっけ……忘れちゃった」

 

「晴香ちゃんは僕の後だよ。でも交互だから僕の後ろには並ばないでね?」

 

 

 田端が金山さんのフォローをしているが、流石にそれもわからないということはないだろう。最近、金山さんのこれって実は全部演技なんじゃないか、という怖い想像がふとした時に浮かんでしまうんだが、どうしたらいいのだろうか。

 

 

「それぐらい分かってるよー」

 

「ほんとに大丈夫かな……」

 

 

 かなり不安そうな様子だが、最悪先生がなんとかしてくれるだろう。あの人、最近調子良いみたいだし。今回の運動会も気合い入ってたよ。打ち上げがどうとかって。

 

 

「私は、青哉くんの前だね」

 

「そうだな。並んでる時話せないのはかなり残念だけど、バトン貰えるしぎりぎりイーブン」

 

 

 俺とアイは前半に出番があり、田端と金山さんは後半に出番がある。俺はアイからバトンを受け取って走る。アイは走ってきて俺にバトンを渡す。大切な事だから念の為に確認しておく。

 田端は金山さんにバトンを渡す側、つまり金山さんの前だ。金山さんがこのリレーのアンカーなので、ここで勝敗が決まる……かもしれない。

 

 

「そういや、田端も緊張しなくなったな。慣れてきたか?」

 

「ええ、はい。もう2回も晒してますし、今更何を気にすることがありましょうか」

 

「ダメだな。逆方向に振り切ったかもしれん」

 

 

 なにか悟りを開いている田端。この調子で大丈夫なのだろうか。50mの時を思い出せば問題無さそうだし、バトンパスはかなり練習したからな。想定外のアクシデントでもなければ問題なく渡せるだろう。

 

 田端と言えば、相変わらず2人の両親らしき人影は見えない。もうリレーが始まる直前だというのに。

 早水さんがカメラを構えていた方を見ると、いつの間にか早水さんもいなくなっていた。しかもカメラを残したままで。これ、なにかヤバいことがあったとかじゃないだろうな……田端たちはまだ気づいてないようだ。とにかく、見てもらえるといいんだが……。




なんとか本編でも激重アイちゃん、出していきたいなって。
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