それが人生の転換点だった   作:ファンファン

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 シリアスが無いと死んでしまうのかもしれません。もっと純粋な一日(半日?)にする予定でした。


1―? 閑話 日常の中にある本心

 今日もアイが家に来る。もう長期休みかどうかなんて関係なく休みの日は家に来る。普通なら事前に予定を決めて許可を得てから、というものだろうが、幸いにも親はいないため、勝手に色々やっている。

 なんと俺の記憶では昼から夕方までの間に親を見たことがない。ちょっとヤバいとは思うが、都合はいい。思う存分利用している。

 とはいえ、何があるか分からないのが現実。なるべくリスクを減らすために、様々な対策をしている。

 

 例えば、置き手紙やちょっとした石の並べ方で暗号を示してアイに情報を伝達したり、アイの履いている靴を部屋まで持っていって突然帰ってきても俺以外の人(アイ)の痕跡をなるべく消したり。

 秘密基地の延長線上みたいに考えて、他にも思いついては試すなりシミュレーションして実用的なら加えている。バレたら何言われるかわかったものじゃないからな。アイを家に招かないという意見は却下。何も言わなくても来るし。

 結果が出た実績はまだ1度しかないが、既に一度起こっている。備えあれば憂いなしだ。憂いあるけど。

 

 ちなみに、監視カメラや盗聴器の類が無いことは確認してある。自分で探した分もあるが、早水さんに頼んで遠回しに業者にも依頼した。気にし過ぎかもしれないが、こっちも色々かかっている。ここまで疎まれているのだ、何かの拍子に……が無いとは言い切れない。特に最近は妙に部屋を荒らされるし。空き巣か? 訳が分からない。まあとにかく、やって損は無い。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「……?」

 

 

 玄関のドアを開けると、アイが何も言わず静かに家に入ってくる。ドアが閉まると同時に、無言でこちらに指示を仰いでくる。

 

 

「……」

 

「……」

 

 

 互いに無言ながら、俺はいつも通りだという合図を出し、アイはそれに静かに頷いて俺の部屋へ向かう。

 いつも通りとは、特に変化なしなので靴を持って俺の部屋に物音を立てず、気配を消してなるべく早く向かってくれということだ。

 やってる事は変かもしれないが、その練度はごっこ遊びどころでは無い。その辺の人なら本当に気づかれない。遊び心でやってみたが、まさか教室内でさえ探されるとは思わなかった。目の前にいるじゃん。

 

 台所で飲み物やらなんやらを用意して持っていく。これは普段から、特に親がいる時もやっているのでバレても違和感は無い。ただ、無駄にコップをふたつ持っていくことにそろそろツッコまれるんじゃとは思っているのだが、未だに何も言われない。まあ見られない様にはしてるから当たり前かもしれないけど。

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 

「あっ! おはよう、青哉くん」

 

 

 自分の部屋のドアを開けると、そこにはアイがいる。既に適当な場所に座ってこちらを待っていた。

 

 

「おはよう、アイ。毎回ごめんな、こんな事させて」

 

 

 正直理由がわかってもなお、こんな事する必要あるのかと言われると答えに窮する。

 

 

「ううん、大丈夫だよ。青哉くんと居るためだし、いつ誰に見られてるか気にしないといけないのはよく分かってるから」

 

「ならいいんだけど……なんか実感籠ってるな」

 

 

 なんか妙に実感が籠ってるな? 本当にそれでろくでもないことをされたみたいな。なんとなくアイの表情も歪んでるし。

 

 

「変な人に見られて変に噂される事はよくあるからね。青哉くんが早いうちから気にしてくれて嬉しいよ!」

 

「ああ……」

 

 

 何、怖いんだけど。これあれなの? 将来的に普段から気をつけてねっていうアドバイス? ……肝に銘じておこう。何かあってアイに迷惑がかかったり、繋がりが切れるなんてこと、起こしたら絶対駄目だからな。

 

 

「ところで、今日は何する? とりあえず吸うね?」

 

 

 アイがそう言ってこちらにジリジリと近づいてくる。ここ最近、アイの中でブームなのかとにかく吸ってくる。

 

 

「……いい、けど、さ? 毎回何を吸ってるの? 最近、身体の隅から隅までってぐらい激しくなってきてない?」

 

 

 最初は猫吸いみたいなものかと無理やり納得させていたが、そうもいかなくなってきた。てか猫吸いで納得するのも恥ずかしくないか? だって猫吸いってあれだろ? 猫好きが高じてしまったが故に、猫を摂取しないと生きていけなくなってしまった人が自らの命を維持する為にやるあれ。

 

 

「ありがとう青哉くん!」

 

「おう……」

 

 

 アイは俺が了承するとほぼ同時に吸い始めた。大体は頭から首筋。稀に腹部なんかもあるが、それは置いておく。色々諦めてからは大人しくされるがままだ。まあ、アイが楽しいならそれでいいんだが。

 

 

「うーん、青哉くんの良い匂い!」

 

「なんか恥ずかしいんだけど。楽しいのか、これ」

 

 

 そんな疑問が思わず口から出てしまった。やっちゃったかなとアイの方を見ると、それはもう満足気な顔をしていた。

 

 

「楽しいって言うのもあるけど、私は嬉しいんだー」

 

「嬉しい?」

 

「うん、青哉くんをこうやって五感全部で感じられるでしょ? それが嬉しいんだよ」

 

 

 アイがそう言って後ろから抱き着いてくる。いつもの事だったが、まさか嬉しいとは……気持ちはとてもわかる。抱き着いても抱き着かれてもその人の存在を感じられるっていいよな。

 ただ、五感全部って比喩なのは分かってるけど、そのうち食べられるか舐められるかしそうだな。なんて言ったってアイだし。

 

 

「なるほどな」

 

「だから青哉くんも遠慮しないでいいんだよ? ここは、誰かに見られることも聞かれることもない、二人きりの場所なんだから」

 

 

 そうは言うものの、全く離れないアイ。ほぼ身動きが取れない。無理やり解くことはやれば出来そうだが、流石にやりたくない。

 

 アイの言うことはその通りで、その辺りを確認して対策したのは俺だ。窓も遮光カーテンを使ってるし、見られることも聞かれることもほぼ無いだろう。

 

 

「……じゃあ交代してくれ」

 

「うん、いいよ」

 

 

 そう言ってゆっくりと名残惜しそうに腕を外していくアイ。しばらく腕でホールドされてたからか、かなり身体が固まっている。

 その場で立って、身体を軽く動かしてからアイの後ろに移動する。骨がバキボキ鳴るとちょっと不安になるんだよな。その拍子に折れるんじゃないかみたいな。

 そして後ろから抱き締める。アイがやった事をやり返している形だ。

 

 

「あー……やっぱ丁度いいんだよな。なんかよく分からないけど」

 

 

 なんかこう、抱き締めた時のフィット感? みたいなものが丁度いい。

 

 

「私もピッタリ収まってるみたいで凄く良いよ!」

 

 

 どうやらアイも丁度いいらしい。抱き締められて丁度いいってなんとなく違和感ないか? まあ気持ちは分かるんだけど。俺もアイにされてる訳だし。

 

 

「それは良かった。これでちょっと嫌とか言われてたら二度と立ち上がれなかったわ」

 

 

 興味のある人とかにあなたのこと嫌いなので話しかけないで下さい、とか言われたらショックだよな。でも、遠巻きにされるよりはハッキリ言われた方がマシかもしれない。

 

 

「もー……私が青哉くんにそんな事言うわけないでしょ? 何があっても、青哉くんのことを嫌がるとか有り得ないんだよ?」

 

 

 アイが一転して真剣に詰めて来る。姿勢が姿勢だからよく見えないが、腕を思いっきり握られた。少し痛い気もするが、それぐらいの事を言ってしまったという事だろうか。とても申し訳ない気持ちになっていく。

 

 

「そうか……ごめんな、変なこと言って」

 

「ううん、私こそごめんね。痛くなかった?」

 

 

 そう言って俺の腕をさすってきた。その部分は確かに思いっきり握られた場所だが、既に痛みは無い。

 

 

「全然大丈夫だ。なんならアイのことがまた少しわかって嬉しいぐらいだな……いや、痛いのは勘弁して欲しいけど」

 

「そうなんだ。ちゃんと伝わったなら、いいかなー」

 

 

 そう言って俺の腕を抱きこむアイ。そう言われると本当に受け取れているのか不安になってくるが、あまり不安になり過ぎるのも良くない。

 

 

「……それで、なにかやりたいことはあるのか? 俺はぱっと思い浮かばなかったけど」

 

「うーん、しばらくこのままがいいかな。何するかは、また後で考えよ?」

 

「そうだな。それでいいか」

 

 

 アイからのゆったりとした提案。この状態が良いと思ってくれてるなら、かなり嬉しい。否はなく了承する。

 まだ朝で、今は秋だというのに、この辺りだけ春の陽気に包まれたかのようにポカポカとしている。

 互いが互いの温もりを感じながら、物静かな時が過ぎた。

 

 

 

☆★★

 

 

 

「……ん? 寝てたか。アイも……寝てるな」

 

 

 気が付くともう昼だった。どうやら寝ていたらしい。あのままの状態で寝ていたからか、身体が固まっている。どうせ寝るならベッドで寝れば良かった。アイもこの姿勢は辛いだろうし。失敗だな。

 

 なんとかアイを抱えてベッドに運ぶ。結構キツかった。主に姿勢が。離れようとするとこちらを向いて抱き着いてくるので離せなかった。まさか、あの日押し切られるまで反対していたのに、自分から進んでやる事になるとは。

 

 

「……昼飯の時間だな」

 

 

 アイは朝から来てたし、お腹も空く頃合い。1日3食食べた方が身体には良いはずだ。特に子供の頃は。何を作るか……米炊いてないし……麺。素麺でいいか。確かちょっと残ってるはずだ。なんかお中元の残りみたいだな。

 

 

「とりあえず、もう少しこのままでいいか」

 

 

 12時過ぎぐらいまで起きなかったら起こすことにする。それまでは、このまま。

 

 

 

★☆★

 

 

 

「……あれ、寝ちゃってた?」

 

「起きたか、アイ」

 

 

 アイが自然と目を覚ます。もう少ししたら起こす所だったので、丁度よかった。まだ寝ぼけているのか、目元を軽く擦っている。

 

 

「……青哉くん? 目の前に青哉くんの顔がある……」

 

「寝てたから移動したんだ。それで無理やり離すのも悪いし、そのまま一緒に寝てたって訳だ」

 

「そうなんだ……ありがとね、青哉くん」

 

 

 そう言ってふにゃっとした表情になるアイ。寝起きのアイはいつもよりゆっくりで、なんとなく間延びしている。普段とはまた違うアイだ。

 

 

「そろそろ昼飯時だから、なんか軽く作りたいんだけど……いいか?」

 

「……ダメ。もうちょっとこのままがいいな」

 

「おう……わかった」

 

 

 そう言ってこちらに寄ってくるアイ。いつも以上に甘えてくる。これも寝起き特典……アイが気を許してくれてるという事だろうか。だとしたらかなり嬉しいんだけどな。

 ……いや、ここ数ヶ月からして間違いなく許してくれてるとは思うけど。これで許してくれてないなら俺は人間不信になる自信がある。

 

 しばらくした後、昼ご飯を食べたり軽く遊んだりして一日を終えた。何事もなく無事に終えられて良かった。本当に。

 

 

 

★★★

 

 

 

 アイのあの表情は、俺以外に知っている人がいるのだろうか。アイのあの仕草は、俺の知らない誰かが知っているのだろうか。それらを誰にも知られたくないと思うのは、傲慢だろうか。

 アイを今だけでも……と考えてしまう自分がいる。それが純粋なものなのか、混じり気のあるものなのか、判別が付かない。

 

 ただ、アイとこうしている時間がとても幸せに感じられて、これからも続けばいいと願う。そこに嘘は無く、本心からそう思っている。もしアイが同じように思ってくれているのなら、それはどんなに嬉しいことなんだろうか。

 思い浮かんだ疑問には、期待と不安が乗っている。本当に、俺はアイのことが……好きなんだろうか。




 これが閑話かどうかはさておき、次回から第二章が始まる予定です。

アイとのイチャイチャ

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