それが人生の転換点だった 作:ファンファン
帰宅途中。時間が無い可能性も高いので、思い切って聞いてしまうことにした。あれだけ葛藤していたのはどこへ行ってしまったのか……。情緒不安定が良い方向へ進んでくれたみたいだ。本当か?
「ところで、アイの家ってどこなんだ? 同じ方向って言ってたけど」
「あっ、それ聞いちゃう? 聞いちゃうかー」
ものすっごくニヤニヤしながらこちらを見てくるアイ。…………非常に悔しいが、とても可愛い。まだ小さい彼女にそんなことを言うと、なんとなく犯罪の匂いがしてしまう。間違いなく同い年なんだけどな?
だが、この反応だと少なくともアイは気にしていなさそうだ。むしろ嬉しそうなんだが。
「……なんか凄い勿体ぶるな。言いたくなければ全然大丈夫だぞ? 家が近ければ行く時も一緒に行けるかと思ったん……だ……?!」
「え?」
……今、完全に口走ったな? これやっちゃったやつだな!? さすがに今日1日でそこまでやるつもりは無かったのに……ドン引き案件何回目だよ。
ナンパだってここまで早くない……こともないかもしれない。危なかった。ナンパよりヤバい奴になるところだった。
「あー……聞こえてた?」
「もちろん! 私、耳良い方だし」
そう言って耳をみせてくるアイ。とても整った横顔がそこにある。まじまじと見るのは負けたような気がするが、視線が吸われる。
耳が良い……昼の独り言、やっぱり聞かれてたんじゃないのか? アイが追及してきていないだけという可能性がある。ヤバい、かなあ? なんかもう今更な気がする。まだ1日も経ってないけど。
「うっ……忘れてくれていいぞ?」
「ぜーったい忘れない。君の家に毎日行くからね」
「なんでさっきからそんな……? まあ、嬉しいけど」
時々見られる強引さは何なのだろうか。言葉になにか、気迫みたいなの詰まってるし。
それでもアイが了承してくれたなら進展だ。親しくなるに越したことはない。そうすればゆくゆくは……ゆくゆくは、なんだ? またなにか、変な事を考えたのか。救う以外に無いはずなのに。
「もー、また難しい顔してるよ? うりうり」
突然頬を指で押された。ぐりぐりっと。星野アイはこんな事をする子だったのか? 本当に? まだ会って半日のやつにする事じゃないだろ。なんでこうも
「ちょ、やめろって。ほんとまじでどうした?!」
「んー、まだ秘密! だって――」
アイはどこか寂しそうな雰囲気で、でもどこか嬉しそうに言った。
「この秘密は本当に大切なものだって……教えてもらったんだ」
その言葉に、俺は何かを返す事が出来なかった。
☆☆☆
あの後何も言えなかった俺を茶化し、今日見てきた星野アイに戻ったアイは、なぜか俺の手を引っ張って歩いていた。既に俺の家は通り過ぎている。丁度進路上にあったみたいだ。では何故まだ手を引かれてるんでしょうか。
「……これ、どこに向かってるんだ?」
「私の家。君の家はもう通ったでしょ? だから知っておいてもらおうと思って」
「そうなんだけども、教えてもらえるのか」
「ほら、もうすぐだから」
そう言ってアイは歩く。周りの景色は相変わらず住宅街で、特筆するものも無かった。
……嫌な予感がするんだが、誰か助けてくれない? 助ける前に助けてもらわないとヤバい気がする。
「ここだよ」
「いや……ここだよ、って……」
アイが満面の笑みで紹介して来たのは、普通の家とは違う……まるで
「……なあアイ。今から聞きづらいことを聞く。答えなくてもいい……その、両親は?」
「いないよ、もう」
「……そうか」
妙に微笑んでいるアイ。どうやら、アイは既に事件後のようだった。予想は外れるものだと思っていたが、想像以上に早かった。だが、冷静に推測すればそれぐらいだったのかもしれない。
アイがアイドルになった時期と、人格形成の時期。一般的であれば多かれ少なかれ知っているモノを知らない理由。それらを考えれば、一桁中盤辺りの年齢で変化があってもおかしくはない。
今のアイが気にしていなさそうにしてるのが不思議だが、隠しているだけかもしれな、い……?
……非常に苛つく。何故忘れていたのか自分を本気で叱責したくなる。安易に死ねないが、死にたくなる。
気にしていない訳がなかったんだ。今更思い出した。あの時、あの場面の時……星野アイの瞳には映っていたじゃないか。あの
まだ間に合うかもしれない。あんな顔をしないように、なにか出来るかもしれない。……アイの母親が釈放される時。そこが鍵だろう。
「――ねえ青哉くん。私はもう気にしてないんだよ? 気にする必要もないし……だから、そんな顔しないで?」
「……え?」
アイがなぜかこちらを心配してくる。そんな顔をしないでほしい、と。
そんな顔とは、どんな顔のことだろうか。俺は心配されるような顔はしてないと思うんだが……あれ? 泣いてる? 俺が?
いやいや……え? 俺が泣くようなことあった? 少なくとも俺自身は泣いてないんだけど。ということは……俺の中のナニカが泣いてる、のか? なんだこれ。不思議過ぎる。
その後、自分の意思とは関係なく流れる涙が止まるまで、その場で立ち尽くしていた。
☆☆★
暫くして。なんとか涙が治まった俺はアイに何を言えばいいのかわからず、混乱していた。
施設や両親、主に母親の事はそこまで気にしていないようだったから、それについて話すのはやめておくべきか? だがそれだと聞いたのになんの反応も無いみたいになるし……いや、まず俺が急に泣いたことを詫びるべきか?
ヤバい。こんがらがるとかいうレベルじゃない。まともに考えられてないな。
「ごめんな、アイ。でも安心してくれ。もう治ったし……俺は変わらないぞ。まだ会って初日だけど」
「あははっ、青哉くんは面白いなー。でも、ありがとね」
いきなり訳の分からないことを言い出した俺に、アイは
☆★★
なんとも恥ずかしい所を見られたが、まあ今更だろう。大体の恥は見られた。今日1日で何やってんだ俺?
そして、時間も時間なのでさすがに家に帰ることにした。色々と複雑な心境だが、アイが無事だったのだからそれで最低限はとれているだろう。
「それじゃあ、そろそろ帰るわ」
「分かった。毎朝君の家にピンポンしにいくから、よろしくね」
「あの話本気だったの!? いや別にいいんだけどさ」
アイがとてもいい顔で言ってきた。とてもいい顔なのでとてもいい。……考えを放棄してしまったが、冗談だと思ってたからありがたい。より親しくなれるのだから否は無いな。
「それじゃあまた明日」
「うん、
そう言って俺はアイに手を振ってこの場を離れた。その時アイも手を振り返してくれた。これアイドルとファンの関係と似てない? 気のせい? ちょっとゾワッとしたわ。
★★★
……視線を感じる。あの場所から既に百メートル以上離れたというのに、背中に視線を感じる。ここの道はほぼ一直線で、曲がる所はもう少し先。誰かに見られる可能性はあるが、完全に住宅街で人通りがそこまで多い訳では無い。しかも、今後ろに人がいない……1人以外。
後ろを振り返ると、遠くの方に人が1人いた。背の低さから子供のようで、見覚えのある場所の前に立っていた。その子は紫がかった黒髪で、伸ばしている最中なのか肩先程までの長さ。顔はよく見えないが、目の辺りが妙に
少し悩んだが、あの場所に行っても何も出来ないし、何も起こりはしないと思い、大人しく帰った。道を曲がりきるその瞬間まで、視線は続いていた。
イッタイダレナンダロウナー