それが人生の転換点だった   作:ファンファン

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説明多し。あとちょい長め。


1―3 謎だらけの記憶

 ある日。天気は曇り時々晴れで、気温も平年並みという過ごしやすい気候。個人的に晴れや快晴より、雲がある曇りの方が過ごしやすい。良い1日になる予感がしていた。

 

 あの日帰った後散々悩んだ俺は、アイのことは親しくなることを最優先として、しばらくの間は自身の周りのことについて情報収集することにした。なぜ自分の記憶があやふやにならなければいけないのか……コレガワカラナイ。

 

 

「……まあ、結局都合はいいか」

 

 

 その結果、まず軽くわかったのは両親の事だった。

 うちの両親はよく言えば放任主義、悪く言えば育児放棄手前といったところだった。

 子供が話しかければ最低限返事はする。しかしそれを膨らませようとはしない。食事の時も会話は少なく、大したことは話していなかった。ちょっとまずそうなことも試して見たが、気づいているのかいないのか、注意無し。

 あからさまに冷たい対応はしていないが、よく見る親よりは控えめだ。だからと言って悪いことをしている訳でもない。判断には困るが都合は良さそうだった。 致命的なことをしなければセーフだ。

 

 仕事の詳細はまだ分かっていないが、サラリーマンにOLといったところだろう。少なくともスーツ姿が正装の職ではあった。そのうち漏れ出る会話から推測出来れば御の字。今は置いておいていい。

 親同士の仲は普通、だろう。良くも悪くも無さそうだった。自分の親そんな見方しとうないぞ。

 

 そんなこんなで親はどうとでもなりそうというのが所感だ。問題は自分である。だが、それについてはまた後で、になるだろう。

 

 

「……行ってきます」

 

「おはよう青哉くん!」

 

「おはよう、アイ」

 

 

 玄関を開ければすぐそこにアイがいる。あの次の日から本当に家の前に来た。初日、塀に隠れていて飛び出てきた時は死ぬほど驚いた。ちょっと心臓止まったと思う。今は普通に居てくれるし、嬉しさだけが残った。

 あーだこーだ言ったところでアイが可愛いという事実は変わらないからな。役得? だし、誰か仲の良い人と登下校を共にするというのは、意外と心が安らぐ。俺が一方的に思ってるだけだったら爆発するしかない。

 

 それで毎日登下校を共にしているのだが、アイは毎回楽しそうにしている。何が楽しいのか詳しくはわからないが、おかげで更に仲を深められていると思いたい。羨ましかろうと自慢したくなるな。今の俺の数少ない楽しみだ。

 

 

「そういえば、今度の遠足ってどこだか覚えてる?」

 

「え? えーっと……どこだっけ」

 

 

 本気で忘れているようで、動揺が顔に出ている。妙な冷や汗すら見える。どんだけ忘れるの早いんだろうか。伝えられたの昨日だぞ。

 

 

「……ま、その辺のちょっと大きめな公園だな。遊びに行くのとなんら変わらないよ。時期もまだまだ先だし」

 

「へー、そうなんだ。……私そういうところで遊んだことあんまりないから、楽しみだな」

 

 

 どこか物珍しそうにしているアイ。少しワクワクしているようにも見える。……これは、気合いを入れる必要がありそうだ。気合い入れてもなにも出来ないけど。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 学校生活は順調である。この世界は変な子供に対して寛容なので、多少怪しい行動をしても問題ない。少なくとも文豪の作品を読んだり、英語で書かれた論文を読んだりしても問題無かった。

 学校内での人間関係も程々だろう。最低限の繋がりはあるけど、よく遊ぶということは無い。アイもそんな感じなのでそれに合わせている。妙に視線を感じることは多いが、大方いつもなにかしら読んでる変な奴とかそんな所だろう。

 もし仮にアイが他人と多く関わったとしても、俺自身はなるべくフリーにしておきたいが。

 

 

 授業が始まる前の休み時間。アイと席が隣という、よく考えたらなんで隣なのかわからない状況を利用してよく喋っていた。

 先生に直接聞いたところ、この学校ではどの学年、どのクラスであっても席はランダムという、少々合理性に欠けるシステムらしい。

 校長曰く、どんな人とでも仲良くなれるように、ということだそうだ。それ理由になってなくない? たかだか一回分なんだけど……。

 先生は名前と顔を覚えるのが大変そうだが、頑張って欲しい。俺としては大助かりだ。

 

 

「そういえば、アイって勉強出来るっていうか、色々知ってるよな。文字の書き取りに四則演算、その他軽い常識や雑学……」

 

「え? あー……それはほら、私って天才だから!」

 

 

 とても自信満々に言っている。アイにとっては冗談だと思われるが、あながち間違ってない。……しかし今の発言、なにかひっかかるような。

 

 

「? そうだな、アイは天才だったな」

 

「あれ、受け止めちゃった? ……こんなだったかなぁ?」

 

「なわけ……なあ、今の──」

 

「はい、授業始めますよ」

 

 

 今のアイの言葉、また違和感があった。パッと見は分からない。表情も変わらなかった。しかしそれを聞く前に先生が来てしまった。

 曖昧に浮かんだ疑問は答えが出ることもなく、授業のことで上書きされてしまった。

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 自分で自分の記憶を探るという行為は、案外大変な事だった。多種多様な記憶たちは関連性があまりなく、そもそも俺のものじゃない。自分の知らないことを関連付けるのは難しいから、苦労する。

 そんな記憶のサルベージは、半分成功、半分失敗といったところだった。

 

 

「……おーい」

 

 

 成功したのはまず、ある程度の常識や知識が残っていたこと。元から分かっていたことだが、それが思っていたよりも深そうだった。

 図書室や図書館を利用して軽く調べた結果、ものによってはその道レベル、でも少しズレたら何も分からないという、変に情熱を注いだオタクみたいなことが判明した。

 普通に生きていくならあんまり役に立たない線が濃厚だ。しかし、普通の人生になるつもりはない。ま、学校の勉強に割く時間が減りそうなのはありがたいんだけど。

 

 

「あれー?」

 

 

 しかし、『推しの子』という作品についての記憶は一体なんなのか、それについてはわからなかった。なぜこの世界が創作物として描かれていたものを知っているのか。

 その記憶も穴あきのような状態だし、なんなら穴あきどころかほとんど無い。残った数少ない部分でさえ穴あきということだ。例えるなら、羅生門で老婆が淘汰されたことだけ覚えてるようなもの。あってるか? この例え。

 この記憶の元の持ち主は、この世界の人間じゃなかったのだろうか……。

 

 

「……青哉くん?」

 

 

 そして、所謂エピソード記憶については成果が乏しかった。朧気な感情の動きは存在するものの、それだけだ。経験も確かにあるが、妙に実感が湧かない。そりゃ自分がやったわけじゃないんだから実感なんてあるわけないんだけど。

 記憶喪失ってこんな感じなのか、という感じだ。やった気はするけどやってない、みたいな? ちょっとズレてる気はする。とにかく、分からないことがわかった。 

 

 それと、時々出て来る俺の意思とは違うナニカについてはまだ不明だ。大半が自然過ぎて気づきにくいし、なんの滞りもなくスラッと出てくるから──

 

 

「もう授業終わったぞー?」

 

「うわっ!? み、耳元で囁くなって!」

 

 

 考え込んでいると、アイに耳元で囁かれた。思いっきり飛び跳ねてしまった。顔が赤くなるのがわかる。これが実写版ASMRですか。実写版ASMRってなんだよ。いや、本当になんだ?

 

 

「えーいいじゃん。そもそも何回呼びかけても反応してくれない青哉くんが悪いんだよーだ」

 

「ご、ごめん」

 

 

 そう言って拗ねたような雰囲気を出すアイ。物凄く申し訳ない。この流れ、前にもあったな。つまり俺は成長していない……? なんて不甲斐ないんだ。

 

 

「ほら、もう授業も帰りのあれも終わったよ? みんなぼちぼち帰り始めてる」

 

「それHRな……わかった、そろそろ帰ろうか。ありがとな、アイ」

 

 

 どうも集中すると周りが見えなくなることが多い。無意識に最低限の仕事はしているっぽいが、毎回これじゃいざと言う時ヤバイよな。なんとか、治すか。

 

 

 

★★★

 

 

 

 帰り道。いつもの様にアイと話しながら、さっきのことをどうすればいいのか考えていた。気をつけるしかないかと思っていた時、名案が浮かんだ。

 

 そうだ、意識を変えよう。……今のままだと、アイを見失ってしまうんだ。手の届かない所まで行ってしまう。だから、目を光らせて、耳を効かせて、常に意識を向けて……何が起こっても即座に助けに入れるように。()()()()()()()()()()

 

 

「つまり……アイから目を離してはいけない?」

 

「……わー、いきなり告白? 青哉くんって大胆だね」

 

 

 誰かに動かされたような言葉が俺の喉を動かした。結論のようなそれは、確かに俺のもので、違う誰かのものだった。

 

 ……とんでもない発言をアイに聞かれてしまった。ほんとに告白だよ、これ。なんなら犯罪予告だよ。やっちまってるよ。いやまあ? もし受け入れてくれるなら? その方が嬉しいし? 色々とやりやすいけど? でも、そういうのはもっと成長して親密になってからだな……。

 

 なんとか自分を律して言葉を返す。

 

 

「え、いや!? そういう意味……そうだとしたら早すぎるって!」

 

 

 そういう意味じゃないと嘘をつけない俺を笑ってくれ。

 

 

「そうだねー早すぎるよねー。で、そうじゃないなら、どういう意味?」

 

 

 アイがずいっとこちらに近づいて問いただしてくる。血行の良い、健康的な肌がよく見える。瞳の星は白と黒に輝き、頬は夕暮れに隠れて赤く染まる。

 残念ながら、俺にそれを認識する余裕は無かった。

 

 

「えー……っとー……あ、危なっかしいから? ほら、色々忘れてること多いし、なんかほっとけない、みたいな?」

 

「ふーん……今はそういうことにしといてあげる。でもね──」

 

 

 挙動不審に揺れ動く俺に対し、アイはこちらの顔に手を添えて、真正面から向き合ってこう言った。

 

 

私は青哉くんを逃がさないよ

 

 

 吸い込まれるようなその瞳は、こちらを見て逃がさなかった。




アイはこういうの似合うと思います。異論は認める。
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