それが人生の転換点だった 作:ファンファン
誰かが言っていた。遠足とは、一度家から出れば帰るまで終わらない、デスゲームである。1歩。たった1歩で全てが始まるのだ、と。
「おはよう、青哉くん!」
「おはよう、アイ」
既に戦いは始まっている。今は公園という名の戦場へ向かう、準備期間なのである。
「私、今日のことずっと楽しみにしてたんだー! やっと青哉くんと出掛けられるんだよ?」
「俺も楽しみだったよ。ただの遠足だけど、何しようか今でも迷ってるぐらいだ」
「自由行動みたいな時間あったもんね」
「……でも、特にやりたいことも無いんだよな」
ふざけた思考はさておき、アイとどこかに行くというのは初めてのことだったりする。寄り道程度ならあったけど、それだけだ。年齢的に行ける場所も大して無い。
こう言ってはなんだが、わざわざ公園に行って遊ぶのも面倒だし、やりたいことも無い。アイと一緒に居ることが出来れば何をしてもいいのだが、あんまり走り回るとか……合わなくないか? 何やっても様にはなってるけども。
まあ、体力作りとか走るなりなんなりに慣れるとか、そういうのと思えばやりやすいか。
☆☆☆
目的地である公園にはバスで移動することになっており、それなりに距離がある。学校で一度集合し、そこからバスへ移動、乗ったらバスで公園へというルートだ。
この辺りでは一番大きな公園らしく、歴史もあるらしい。予定表には書かれていなかったが、それについての話もあると予想している。ただ、この年齢の子供がそれを面白いと思うのかどうか……多少気になる。
運命を感じちゃってるぐらい何するにしても同じグループや班、ペアになるという謎のおかげでアイと行動出来るし、バスの席も隣だが……おかしいよな。
こちらが干渉できるもので自由に組めるものならともかく、くじ引きでさえ百発百中だし、先生側で決まるはずのものも全てそうなる。出席番号とか背の順とかって知ってます? そのうち男女で分けられるはずのものも一定数なりそうで嬉しいやら怖いやら。
とにかく、今回もアイと行動出来ることに否はない。他の面子もよく関わるというか、話題にあがる人だし自由に出来るだろう。
☆★☆
「楽しみだね、星野ちゃん!」
「そうだね、金沢さん」
今回のグループはアイ、金山さん、田端、俺の4人で、この面々は席の関係もあってよくつるむグループだ。
ついでに、この2人がアイによく名前を間違われる筆頭。アイがよく接することのある数少ない人物になるので、俺も多めに関わるようにしている。
「……その子の名前は金山だぞ」
「あれ?」
「私は大丈夫だよ!」
金山さんは元気っ娘といった印象の子で、男子も女子も分け隔てなく遊ぶタイプだ。あと、ほんの少し天然が入っているのか、細かいことは気にしない。大雑把なだけかもしれない。
それこそ、アイにこれだけ名前を間違えられているのに気にしていなさそうなあたりが。
「……今、青哉くん変なこと考えてなかった?」
「……考えてないな。アイのことは考えてたぞ」
嘘は言っていない。割と真面目に変なことは考えていないし、アイのことはしっかり考えていた。……なぜ急にこんなことを? 嫉妬か? 愛いやつめ……とはならない。むしろ嫉妬で済んで良かったまである。
「ふーん、なら許す」
「少しあれな彼女か? 俺に対してだから許す」
この態度を他のやつにとっていたら……コミュニケーションをとる必要がありそうだ。特に相手側。別に付き合ってるとかそういう訳じゃないが、なあ?
「相変わらず面白いっすね、星野さんは。ね、菫堂さん!」
「そうだな、ところで田端。なんでそんな喋り方なんだ?」
「この前見たテレビの真似っす! 良くないっすか、これ!」
このちょっと言葉だけ聞いていると頭が弱そうなのが田端だ。田端は素直なやつで、何かと影響を受けやすい。特にテレビ。しかし雰囲気と言動に反して意外と頭が良く、しっかりしている。
「どちらかと言えば似合ってるかもしれないが、年齢も性格も合ってない。やめとけ、引かれるぞ」
「うわ、田端くん似合ってなーい。ね、星野ちゃん」
「そうだね。田んぼくん、青哉くんもこう言ってるし、やめた方がいいよ?」
なんでそこで俺なんだ。金山さんが可哀想だろ。いや、一斉に口撃されてる田端の方が可哀想か。
「そいつ田端な? さてはなんだかんだ間違え方のバリエーション増やしてるな?」
この前俵とか言っていたが、他にも何種類かある。今回のは新しい間違え方だ。なんだよ田んぼって。何作るんだよ。
「そんなことないよ?」
「え……じゃあ、やめる」
「そろそろ着くので、準備して下さいね」
田端がめちゃくちゃ萎れたところで、ようやく目的地についた。こういうところが人を寄せ付けるのか、クラスのマスコットキャラクターの地位も近い。賑やかな移動だった。
★★★
この公園に着いてから少し経った頃。軽く石碑や建物を巡ったあと、広々とした場所に誘導された。今の太陽の位置としおりの行程的に昼食場所だろう。
「それでは、事前に話していた場所に移動して、レジャーシートを引いてお昼御飯を食べてくださいねー」
「俺たちは向こうだな。あの端っこの辺り」
「じゃあ早くいきましょう! 僕、お腹空きましたよ」
「私もお腹空いたー。今日のお弁当はいつもより多いよ……ほらこれ!」
「……何を持ってるんだろうとは思ってたけど、それ弁当だったのか」
金山さんが見せてきたものはかなり大きく、布で包まれた箱のようなもの。バスの中からずっと手で持っていて、背負っているバッグより大きかったから気になっていた。ただ、周りが何も言わないからツッコミづらかった。
「うわ、私の腕ぐらいある」
「……ほんとに重箱食ってたのか? 授業中に?」
アイがかなり大きめな重箱を見て自分の腕と比べだした。本当にそれぐらいあるのが驚きだ。
この前アイが言っていたことに現実味が出てきた。正直多少盛っていると思ったが、重箱……おかしいだろ。
金山さんの弁当に驚きつつ、レジャーシートを広げて昼食の準備を終わらせる。
「「「「いただきます」」」」
しっかり挨拶をした後、流れで弁当紹介タイムに入った。遠出あるあるだ。
「僕の弁当はこれだよ」
「これは……ナポリタンか」
田端の弁当箱の中に入っていたのは、ナポリタンだった。まさかの麺類だ。同時に取り出していた水筒のようなものの中にはコンポタが入っているらしい。お弁当……?
「珍しいな、弁当で麺って」
「そうなの?」
「実際はわからん。イメージ的なものだ」
「じゃあ次は私が見せるね。はいこれ」
そう言ってアイが見せてきたのはおにぎりと、その他のおかずが入った弁当だった。おかずにはウィンナーやたまご焼き、ミニトマトなどが入っている。普通のお弁当と言えばこんな感じでは無かろうか。
「このおにぎり、何が入ってるの?」
「知らない。必要だって言ったら渡されただけだから……」
いつも通りのアイだが、聞いてなかった説がある。何が入ってるかぐらい言いそうなものだからな。あくまでも施設だよ、あそこ。お偉いさんが関わってくることもあるんだし。
「王道なら鮭か塩、梅辺りだな。昆布とかタラコとかもあるか」
「じゃあ次は私! ほら、凄いでしょ!」
そう言って金山さんが見せてきたのは重箱の中身。一段丸々ご飯や唐揚げが入っていたり、とんかつに生姜焼き、サラダやムニエルなんかも入っている。食べる量がとんでもない。というか、これ作った人がとんでもないな。何時間かけたんだ? なんでもありじゃない?
量自体もとても身体に入りきらないと思っているが、稀にいる胃にブラックホールを持っているタイプの人だと思うことにした。
「豪華な上に量もすごいな」
「私はこんなに食べられないなー」
「金山さんって誰よりも食べるよね。僕もそんなには食べられないよ」
「そう?」
「ほら、次は青哉くんだよ?」
「ああ……俺はこれだな」
アイに急かされたので持ってきた弁当を見せる。ごく普通の弁当だ。アイの弁当とおかずはほぼ同じで、おにぎりが日の丸弁当になっているような形。
「へー、星野ちゃんのお弁当に似てるね!」
「そりゃそうだよ。だってこのお弁当、青哉くんが作ってくれたんだもん」
「……偶然似通ってるだけだ。さすがに他人の弁当を作れるほどじゃない」
「まあそうだよね。私も料理とかはまだ危ないからってやらせてくれないし」
「料理、興味あるよね」
そりゃ作れるなら作ってあげたいところだが、向こうが作らないという事もあるまい。せめてもう少し成長してからだ。……実はこの弁当、自分で作ったり作って無かったりする。
「ほら、早く食べないと時間が来るぞ」
「「はーい」」
ようやく昼食をとることが出来る。時間かかったような気もするが、周りもまだこれからのようだ。遅れることは許されないと思い、さっさと食べ始める。遠足はまだ中継地点だった。
ちょっと長くなった(予定)ので分割します