それが人生の転換点だった   作:ファンファン

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アイの手料理……


1―6 遠足 下

「ねえ青哉くん。たまご焼き交換しよ?」

 

「ああ、いいぞ」

 

 

 アイにたまご焼きの交換を持ちかけられた。あちらのたまご焼きは……だし巻きのようだった。こちらのは砂糖を使っているので味が大分違う。砂糖の方が好きだが、だし巻きも美味い。別にアイが作ったものではないが、アイから貰えたことが少し嬉しい。

 

 

「星野さんいいなー。私も1つ欲しい……これあげる!」

 

「……どっから出したんだそれ。一応交換するけど」

 

 

 金山さんが手に持っていたのは野菜スティックだった。重箱とは別の容器に入っている。美味しいのはわかるが、いつどこから取り出したのか。あまり深く考えないようにした。

 

 

「僕には……交換出来るものが無い……」

 

「別に無理に交換しようとしなくていいって。ほらよ」

 

「……! ありがとう! 僕、一生大事にするよ!」

 

「むー、私だって大事にするし」

 

「何言ってるの君たち」

 

 

 大事に思ってくれるのはいいが、腐らないうちに食べて欲しい。腐った方が俺は嫌だぞ。

 

 

 

☆★★

 

 

 

 よく分からない張り合いが入ったが、無事に食べ終わることが出来た。

 そこで、田端って実は結構いいとこの子なのかという疑問が浮かんだ。本当は偽名だったりして。昼食中、スプーンとフォークが妙に気になって聞いてみたところ、銀製だと言っていた。

 

 珍しいなと思って見せてもらうと、裏側に刻印がされていた。しかも純銀の方。お弁当に銀製のカトラリー持ってくる奴いるの? 百均で売ってるようなのじゃダメなの?

 それに驚愕していたのは俺だけで、アイと金山さんはそもそもなんの刻印か知らなかった。銀と知っても驚いていなかったのを見て、実は安いんじゃないかと錯覚しそうになった。でもあれ、国内トップの最高級品の刻印だったような……やめよう。使ってる本人が何も言っていないんだからいいじゃないか。

 

 そんなやっすい悟りを開きつつ、最後に設けられた自由時間をどうするか悩んでいた。特にしたい事ないなと思ったまま考えることを放置していたが、話し合いの結果、とりあえず公園を見て回ることになった。もちろん、指定の範囲内だが。

 

 

「しかし、この公園広いな」

 

「帰り道の何倍ぐらいあるんだろうね」

 

 

 何となく呟いた言葉になんかよく分からない返しが来た。そんなもの知らないが、アイに具体的に聞かれたからには、なにかしら答えを出さなければいけない気がする。

 この公園の全体的な広さなんてわからないが、ここから見えるところにある陸上用レーン。あれが一般に使われているものとして、入口からここまでと、今見えている出口。その辺りをレーンで埋め合わせて、帰り道とレーンを比較して……そんなことやってられない。

 

 

「さあ……120倍ぐらいじゃない?」

 

「へー、全然わかんない」

 

「そうだな……わかったらびっくりだ」

 

 

 言っておいてなんだが俺はよくわからない。何をしてるんだろうか、俺は。

 

 

「あ、あそこにアスレチックある! みんな行こうよ」

 

「アスレチック……少し怖いですね」

 

「随分とスリルがありそうというか、危険過ぎないかあれ。あとアスレチックは禁止だぞ。そうでなくてもあれをやらせはしないが……」

 

 

 金山さんが指さしたのは、落ちたら1メートルほど落下しそうなものや匍匐前進しないと通れない場所などがあるアスレチックだった。今回の遠足では禁止されていたが、実際に見ると禁止された理由がわかる。かなり危険だ。田端が怖がるのも無理は無い。

 下側の網の上を渡るのも中々だが、あの滑り台なんかどうなってんだ。5,60度ぐらいか、あれ。しかも結構長いし。ウォータースライダーと勘違いしてるんじゃ。

 

 

「この公園変なの多いね」

 

「多分、ここがおかしいだけだからあんま気にしなくていいぞ」

 

「そうなんだ」

 

 

 そう言って素直に頷くアイ。この公園が基準になったら今後公園というものに対してとんでもない偏見が起きそうだ。美術品としての名前が無い謎の立方体とか、卵を崇める石碑の文章とか、取ってつけた本物の木で遊べるターザンロープとか……本当に公園か? というか、最初知った時はこんなんじゃなかったはずなんだけど……記憶が曖昧になってるかもしれないな。

 

 

「私もあんまり見たことないなー。学校の近くの公園はこんなに大きくないし」

 

「僕も見た事ない。海外ならありそうだけど……」

 

「あー、そんなイメージはあるよな」

 

 

 確かに海外には日本にはない変な公園もありそうだ。ありそうだが、そう言い切ってしまってよかったのかはわからない。

 

 

「あ、そろそろ時間か」

 

「ほんとだー」

 

 

 ちらと時計を見ると、集合時間が迫っていた。なんだかんだそれなりに時間が経っていたらしい。他の子たちが原っぱのような場所で遊んでいる中、散歩しているグループというのは先生方的にどうなのだろうか。何も言われてないので問題はないだろうけど。

 

 

 

★★★

 

 

 

 集合時間に集まったあとはそのまま移動し、学校へ戻った。要は帰路に着いた。

 帰りのバスではみんな疲れたのか、大半の児童が寝ていた。それはアイも例外ではなかったらしく、窓際の席で幸せそうに寝ていた。アイの寝顔を見るのは始めてで、バスでの移動中の始めの方はずっとその顔を見ていた。

 

 ただ、少ししてからアイが頭を肩に乗せてきたので、移動中ずっと見ている事は出来なかった。念の為に持ってきていたブランケットをかけ、周りの人に見られることがないように動いてアイの睡眠のサポートをしていた。

 アイの暖かな体温もあって自分も寝そうになったが、何かあった時に何も出来ないのは許せないので気合いで起きた。……勝手に手が動いてお疲れ様とか言いながらアイの頭を撫でてしまった俺は有罪だろうか。幸か不幸かアイは目を覚まさなかったのでギリセーフということにして欲しい。

 

 そろそろ学校が近付いてきてアナウンスが来るだろうという頃合いに、アイを静かに起こす。いきなり大声で起こされるのは嫌だろうし……先に起きた誰かにアイの寝顔を見られたくなかった、んだと思う。

 

 

 そのまま無事に学校に着けば少しの話の後、それぞれが別れていつも通り帰ることになる。長かった遠足が終わるのだ。

 

 

「ねえ青哉くん。今日は楽しかったね」

 

「ああ。色々あった気もするけど、存分に楽しんだな」

 

 

 あの公園があんなにツッコミどころ満載だとは思っていなかった。ただ、おかげで退屈せずには済んだと思う。アイも本心で言ってくれているみたいだし。

 

 

「また今度、一緒にどこかに遊びに行こう?」

 

「もちろん。ただ、今はまだ遠くまで遊びに行けないから、そこは勘弁してくれ」

 

「私はどこだっていいよ? 青哉くんがいればそれだけで」

 

「……くっ」

 

 

 凄くいい顔でこちらを見てくるアイ。期待が謎のプレッシャーになっている気がする。一緒に出掛けたいのは山々だが、この年齢じゃ……まだ小さい自分が恨めしい。行ける場所が近所の公園しか思い浮かばない。

 

 

「顔赤いよ?」

 

「気のせいだ」

 

 

 ニヤニヤしてくるアイに適当言って誤魔化す。そう、気のせいだ。思わず見蕩れてしまった訳では無いし、ドキッとした訳でもない。謎の反抗心からそんな言い訳を心の中で並べていると、アイからとんでもないことを聞くことになった。

 

 

「ところで聞きたかったんだけど……今日ずっとご機嫌だったけど、何かいいことあった?」

 

「……え?」

 

「朝一緒に行く時からずっとニコニコしてて、それ以外の表情の時の方が少なかったんだ。他の人は気にしてなかったみたいだけど……私は青哉くんの笑顔がずっと見られて嬉しかったよ?」

 

「ずっと、笑顔だった? そんなわけが……まさか」

 

 

 全く自覚がなかった。ずっと笑顔? 確かにアイとそれなりの遠くに行くということが初めてだったから嬉しかったけど……なにそれちょっと怖いしキモイ……いやそれは今はいい。

 

 この現象、前にアイとアイが今住んでいる場所に行った時と同じ可能性が高い。俺の中のなにか、記憶が勝手に反応していたんじゃないだろうか。

 ただ、それだと今回はあまりに長すぎる気もする。あの時は数分もすれば治まったのに、今回は半日近いんだぞ?

 でもそれ以外に考えられる原因なんてないし……ただただ俺がキモイとかだったら立ち直れない。

 とにかく、まだ例が少なすぎる。アタリは付けておくけど、決め切るにはもう少し欲しい。もしこれが正解なら、俺の謎の記憶の解明に繋がるかもしれない。

 

 

「青哉くん?」

 

「──いや、大丈夫だ。けど、ずっと笑顔だったのか……なんか嫌だな」

 

 

 やっぱりいくらなんでも半日笑顔はヤバい。表情筋が筋肉痛になりそう。今触ったらまだ口角上がってるし。

 

 

「そう? 私は好きだけどな、その顔。もちろん、どんな顔でも好きだよ?」

 

「それはありがとう……」

 

 

 複雑な気分だが、アイが褒めてくれたので良しとしよう。そうしないと恥ずかしくて外に出られなくなってしまう。どんな顔して学校に行けばいいんだ。

 

 

「あ、もう着いちゃった」

 

「もうそんなに歩いたのか……じゃあ、また明日な、アイ」

 

「うん、また明日」

 

 

 そう言って施設内に入っていくアイ。普段はずっと見送ってくるので珍しい。流石に今日は疲れたのだろうか。

 そう言って少し歩いたところで呼びかけられた。後ろを振り向くと小悪魔のような笑みでこちらを見てくるアイがいた。

 

 

「そうだ、青哉くん」

 

「なんだ?」

 

()()()()()!」

 

「? ああ、おつか……れ……!? アイ、まさかあの時起きて?!」

 

 

 最後にとんでもない爆弾を落として逃げていったアイ。どうやら今日は恥ずか死にながら帰らなければならないようだった。しかし、遠足は無事に終わったので良かった。……やっぱよくないかもしれない。




こんな感じ? で暫くは行事的イベントメインの予定です。あくまでも予定ですが。

アイは料理が……

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