それが人生の転換点だった   作:ファンファン

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おかしい所は目を瞑って下さい。そうじゃないと溶けて消えてなくなってしまいます……。


1―9 花火大会 上

 来る花火大会当日。予定では17時頃に集合、祭りを回る。19時から花火の打ち上げがあるから気をつける。で、花火が終わったら田端の家の人に送って貰うということらしい。

 特に問題は無いのでは、ということでそう決まった。時間も余裕があるし、場合によってはアイと2人で回ることも出来そうだった。まあ皆で行くんだから皆で回るんだけどな。

 

 

「しかし、花火大会か。俺は行ったことない……ないよな?」

 

 

 少なくとも今の記憶には無い。そういえば、俺は何歳と言うのが正解なんだろうか。実年齢はともかく、ある意味生まれて半年も経ってないのではないだろうか。

 

 

「……変な事考えてないで、そろそろ行くか。アイも来るだろうし」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 いつもと違う時間だが、玄関のドアを開ければアイがいる。それだけで安心感を覚えるようになってしまった俺は末期だろうか。

 

 

「青哉くん、こんにちは」

 

「こんにちは、アイ……なんか違和感凄いな」

 

「確かにそうだね」

 

 

 時間的には間違ってないと思う。こんばんはと言うには少し早い気がするし、おはようというには遅すぎる。でも凄まじい違和感がある。

 

 

「さっさと行くか」

 

「うん。私はいいけど、遅れたら可哀想だからね。ほら、手、繋ごう?」

 

「ああうん……そう、だな?」

 

 

 言われた通りアイと手を繋ぐ。この辺はともかく、向こうは人だらけだろうから、はぐれないようにしたい。それはそれとして、今度は別の違和感だ。むしろ違和感ある方が正しいのか? もうわからないな……ま、いいか。

 

 

 

☆☆★

 

 

 

 集合場所は花火大会の近辺でやっている屋台通りの入口。既にこの辺りは人が多く、かなり賑わっていた。それこそパッと見ではどこに誰がいるか分からないぐらい。

 

 

「この辺のはずだけど……」

 

「あ、星野さんに菫堂くん! こっちだよー」

 

 

 田端達が何処にいるのか探していると、大声でこちらを呼ぶ声が聞こえた。無駄に元気のいい溌剌とした声だ。

 

 

「あ、片山さんだ」

 

「金山さんな」

 

「2人とも! 会えて良かった……この場所にしたの僕だけど、本当に大丈夫か心配になっちゃって……」

 

「田端……そんな心配になるのか」

 

 

 距離は一駅分も無いぐらいだと思うんだがな。場所もわかりやすいし……人が多くて見つけにくかっただけで。待ち合わせとかした事ないんだろうか。

 

 

「2人とも浴衣なんだな」

 

「あっ、そうなんだよ! ほらー」

 

 

 そう言って金山さんがくるりとその場で一回転する。明るめの色合いで、イメージ通りな感じだった。確かに花火大会とか、夏の祭りって浴衣なこと多いか。

 

 

「似合ってるね、金原さん」

 

「金山さんな……確かに似合ってるよ」

 

「ありがとう! ほら、田端くんも」

 

 

 金山さんが田端を押す。田端の声にならない少しばかりの抵抗は、全くの無駄となった。

 

 

「おー、なんていうか……」

 

「似合ってる、んだけど……違和感凄いな」

 

「どうして、いつもこんな反応……」

 

 

 田端は落ち着いた色の普通の浴衣だった。間違いなく似合っているのに違和感が凄いという、矛盾した存在と化している。じゃあ何なら違和感無いのかと聞かれても分からない。すまんな、田端。

 

 俺とアイは普段の私服だ。浴衣なんてものは持っていないし、小洒落た服を買う余裕も無い。一切無いという訳では無いが、出費は最低限にしたい。今後、背が伸びた時の服もあれから出せとか言われたら困るし。

 

 

「ところで、そちらの方がこの前言ってた……」

 

「あっ、うん。この人が早水さん。よく面倒を見てもらってるんだ」

 

 

 そういって紹介されたのは、随分と雰囲気のある方だった。所謂イケおじというやつだ。ダンディとも言う。

 身なりもよく、詳細は覚えていないが、かなりのブランド物……の腕時計を身に付けている。これ、それなりの稼ぎある人だよな。ただの叔父さんとか思ってると痛い目見そうだ。

 

 

「どうも、初めまして……早水晃翠(はやみこうすい)と申します。いつも奏仁(かなと)晴香(はるか)と仲良くしていただいて、ありがとうございます」

 

 

 とんでもなく礼儀正しい。こっち子供だぞ。なのに対応が大人に対してのものと変わらない。大人というか、別会社の人というか……おかしくない? おかしくないのか……?

 しかし、田端だけじゃなく金山さんもか。家系的に近しいのか、単なる家族付き合いなのか、はたまた別の何かなのか……どれにせよ、予想通り田端はいいとこの生まれの可能性が高いな。だからどうってことも無いけど。

 ちなみに、 奏仁と晴香というのは、田端と金山さんの下の名前だ。

 

 

「いえ、こちらこそよくして頂いています……私は菫堂青哉と申します。今日の事も、田端君が話題を出してくれたおかげですから」

 

 

 こんなんでどうだ……? 挨拶ってこんな感じだと思うんだが、あまりにもちがったら正解なんて無いって突っ走っていくぞ?

 

 

「はっはっは。話に聞いていた以上に成熟していらっしゃる。これなら、色々と任せられますな」

 

 

 話に聞いていたって、何聞いてたんだよ。誰から何を聞いたんだ。田端か? 金山さんか? 変な事言ってないだろうな……。てかこの一瞬で早水さん、少しキャラ変わった? いや色々と任せるって何さ?

 

 そんな感じで内心混乱していると、そうだこちらを、と早水さんがニコニコしながら名刺を渡してきた。その名刺を失礼がないように受け取る。こんな事もあろうかと読んでてよかったマナーの本、うろ覚えだけど。というか、こっち渡す名刺なんて無いよ。大丈夫か?

 

 どうしようも無いと悟り、とりあえず名刺を確認すると、合っているか心配していたことも軽く混乱していたことも全て吹き飛ぶ衝撃が俺を襲った。

 

 

「お渡しする名刺がなく申し訳ないのですが……はは、まさか、社長だったとは」

 

「一応、代表取締役として幾つかやらせて頂いてましてね。会社の方はほとんど部下に任せっきりですが」

 

 

 そういう問題じゃないよ。なんで社長が来てるんだよ。やっぱ田端ってもっと大きな……それこそ、財閥クラスの家系の関係者なんじゃ。金山さんも少なからず関係してそうだし……幾つかって言った?

 

 

「そうなんですか」

 

「ええ。部下が優秀で……何かあれば、そちらにご連絡下さい。貴方にはそれだけの価値がある……個人的にも気に入りましたし」

 

「それは、光栄です……」

 

 

 取り敢えずで返す言葉は出て来たが、早水さんの目線が少し怖い。何かを見定められてないか心配になる。

 てかなんで? 気に入られる要素あった? 気に入ったら気に入ったって宣言するものなの? 気味悪がられてもいい所だったのに。懐が深い……のか? でも1度目をつけたら逃さないタイプな気もする。上に立つ人間ってそういう感じの強いからな。

 今更だけど、どう見ても子供と大人の会話じゃないよね、これ。こっちの年齢分かってるんですか?

 

 

「ところで……あちらにいるのが、貴方の婚約者の星野アイさんですか」

 

 

 早水さんの視線の先には、金山さんたちと談話しているアイがいた。この環境だからかいつもより仮面が強めに見える。ある意味、より完璧に近づいているとも言えるのだろうか。こっちのアイ……それは置いておこう。

 

 

「……婚約者では、ありませんが、そうです」

 

 

 それより恥ずか死にそう。ほんとに誰だよ、あることないこと吹き込んだ奴。怒ってはない。けどいっぺん殴らせてくれ、痛くはしないから。……婚約者、か。

 

 

「いやはや、彼女も素晴らしい原石です。今のままでも充分でしょうが、しっかり磨きあげれば、頂点のその先の景色すら見ることが出来そうだ」

 

「やっぱりそう思いますよね」

 

 

 眩しいものを見たように目を細めながら言う早水さん。それはそうだろう。あの知識では、アイは本物の才能を持った、唯一無二の天才アイドルだったのだ。その光は今の時点でも十分に感じられるんだろう。

 ……そうでなくても、この数ヶ月関わってきてアイが持つモノは感じ取れている。俺と二人きりの時、あんなに素を出している理由が分からないくらいに。

 

 

「ええ。私のような身でもわかります。ですが、私はそれと同じものを貴方に感じている」

 

「俺に、ですか?」

 

 

 アイと同じレベルの何か。そんなものが俺にあるとは思えないけどな。でも、もしそうなら……。

 

 

「1つ、アドバイスです。もし、貴方が何かに迷うことがあるのなら、自分の想いを優先すると良い。きっと、貴方はその方がいいですから」

 

「……心に留めておきます」

 

「是非、そうして下さい。さて、そろそろ屋台を回り始めた方がいいでしょう。あんまり遅くなると、花火が始まってしまいますから」

 

 

 さっきまでと雰囲気をがらりと変えて早水さんが言う。確かにここで話し始めてから結構な時間が経った気がする。これ以上待たせるのは悪い。

 

 

「そう、ですね。それじゃあ、行きましょうか」

 

「それと、これからはもっとラフに話していいですよ」

 

「……もっと早く言って欲しかったですね、それ」

 

 

 俺はそう言ってそのままアイたちの元へ向かった。早水さんの言葉を、胸にしまい込みながら。

 

 

「……感謝していますよ、菫堂君に星野さん。貴方達のおかげで、お二人はあんなに楽しそうにしているんですから」

 

 

 早水さんが後ろで何かを言った気がしたが、ここは人でごった返した場所。俺の耳でそれを聞き取ることは叶わなかった。




皆さん、アンケートへの協力、ありがとうございました。前話のようなイチャに使うかも……しれません。

アイは料理が……

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