魔法使いの間で指パッチンが流行っているのは私のせいではない   作:かりん2022

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何も我慢しないヒロイン

というわけで、リリア様がんばるの巻である。

必死に頑張ってるのはわかる。わかるよ? 

でも無理じゃない?

テントのロープが体に巻き付くって相当ですよ……。

 

「リ、リリア嬢。人には向き不向きがあるんじゃねーか?」

「そうだ、リリア殿。貴殿はもっと別の分野で役立てるはずだ」

「そろそろ横になりたいのですが……リリア様はお疲れにならないか? 私は疲れました」

 

 既に暗くなり始め、腹を空かせて待ち疲れた男どもが恐る恐る、涙目のリリア様にお伺いを立てる。

 

「リリア様。誰だって最初からできる人はいません。やり方を教えますから、一緒にしましょう」

「無謀だと笑っているのでしょう」

「えっ」

「どうせお姫様には何も出来ないと笑っているのでしょう!」

「リリア様、私も貴族令嬢でございます」

「あなたはできているじゃない!」

「練習しましたから。最初からできる人はいません」

「姫に騎士は無理って言うんでしょう!」

「姫様。私は冒険者志望の貴族令嬢でございます」

「嘘おっしゃい! あなたは戦えて?」

「バリバリ軍人やってけるつもりですしそもそも奴を鍛えたのは私ですが」

 

 そうしてエルリックを指し示すと、エルリックはビクッとした。

 こう見えても私は元軍人である。世界は違うけれども。

 

「本当に? 強い?」

 

 私は指パッチンで風の術を使って樹を切り倒し、義足で樹をざく切りにした。

 男どもがドン引きする。

 

「そこそこ強いだけでなく、薬草の種類も知っているし、調合もできるし、変装もできます。リリア様、できない、と言うのは、きちんと正しい努力を重ねた後で初めて言っていい言葉ですわ」

「あ……ああ……」

 

 リリア様は、ブルブルと震えて、そして私に抱きついた。

 

「ああ! お姉様! 私を鍛えてくださる!?」

「求められれば力はお貸ししますとも。さあ、一緒にテントを張りましょう」

 

 そうして、私達はテントを張った。

 

「しかし、なんでリリア様は自立心に溢れてらっしゃるのですか? ドラゴン退治に憧れていらっしゃる? それとも、まさか国王志望で?」

「いいえ、私は、一人で生きていけるようにならねばならないのです」

「一国の姫君である貴方様がどうして……」

「それは……私が婚約破棄されるからです!!! 私は悪役令嬢なのです!」

「あっ」

「なんですって!?」

「いくらお転婆だからって破棄はないだろ、破棄は!」

「はぁ!? カインはアホか!? 自分で手をあげておいて!?」

 

 一番お口わるわるなのはガスターク様である。

 なお、リリア様の婚約者であるカイン様は、ガスターク様の兄で、それこそがガスターク様が遠巻きにされる理由である。カイン様とガスターク様はご兄弟だけど政敵であらせられるからね。あまり親しくして、王女の婚約者様に睨まれたくはないのだ。というか、カイン様が留学に来ずに何故ガスターク様が来たのかは永遠の謎である。いやまあ、両方とも跡取りではないから、重要度は下がるんだけどね。それでも重要な政略結婚である。

 

「あのー。リリア様。お味方しますと言っておいてあれですが、悪役令嬢とか姫騎士って、その、物語の中にしかないんですよ? わかってます?」

「ど、どういうことですの?」

「そもそも悪役令嬢とか、姫騎士ってなんだ?」

「物語に出てくる登場人物ですわ」

 

 私は夕食のスープを温めながら、語って聞かせた。

 悪役令嬢のヒロインサイドの物語を。

 

「……とまあ、こんな物語ですわ」

「すごい! まさにそんな感じですわ!」

「いやいやいやいやないないないない」

 

 ガスタークは全力で手を振る。

 

「そもそもそれ、皇帝陛下と国王の意向をガン無視だから。びっくりしたぁ。物語か。カインがそんなバカをするわけがないと思った。自分で言い出して勝手に破棄したら、陛下に斬首されるわ」

「そんなに、あり得ない事でしょうか」

「ない! 王女にそんな恥かかせたら戦争だな。ありえない!」

「私は、追放されたり死刑になったり」

「いや、要は平民の女の子に惚れて王女を政略で追い落とすって事だろ? 周囲が認めるはずない。貴族の結婚には国民の安寧がかかってるんだからさ」

「そもそも、リリア様。一人で生きていくお覚悟は立派ですが、周りの力を借りて、政略で負けないように頑張るとか、せめて円満に別れられるよう努力をすべきだったのでは。いえ、今でも十分間に合うと思いますが」

「だって、私を裏切る人達ですわ。ヒロインを選ぶ人たちですわ」

「あー。リリア様。こう言う話知ってる? これも悪役令嬢のよくある物語なんだけど」

 

 私は、悪役令嬢サイドの話を語ってみせた。

 

「まあ、凄い! 私にも出来るかしら?」

「いやいやいやいや、カインが廃嫡されたら大変なんですが!?」

「それはそれでありえないから」

「極端すぎる……」

「まあこれも物語でしかないですね。一国の王子や王女がそう簡単に婚約破棄されたり追放されたり処刑されたりしません。そもそも、この場合、実は平民の少女が魅了の力を持っていて、ってのが定番ですよ。その後にあるのは戦争と荒廃です。普通の王子王女は色恋沙汰で結婚しません。愛を育むのは婚約の後です」

 

 ウンウンと頷く貴族達。

 

「じゃあ、じゃあ私は婚約破棄されないのですね!」

 

 グシュグシュと泣きながらリリア様は言う。

 

「そうですとも! いやあ、良かった! これでもう事故死する教育係はいなくなるんですね

「えっ」

「だろうね」

「ヒィィ」

 

 エルリックの言葉に固まる私達。

 

「よかった……! よかったぁ……! 不安だったのです、不安だったのです!!」

 

 それでもリリア様が泣きついてくるから、私は慰めた。仕方ないね。リリア様にそんな物語を吹き込むのも貴族の義務を教えないのもお仕事してないって事になるからね。王族の教育係は目立たないかも知れないが、国の命運を左右するのでどこも命懸けなのだ。

 

「うんうん。物語を間に受けて、可愛いですね。教育係はスルーなんです……? リリア様。で、誰をヒロインと認定なさっていたのですか? 王女に恐れを抱かせる美貌には興味があります」

「学校に行けばエルリック様はいらっしゃるし! ヒロインのマリーとレオン様は入学してくるし!! 婚約者はガスターク様ではなくてカイン様で、夢と違う部分もあるけれど、同じ部分もあって、私、こわくって……! あの夢のように、みんなに拒絶されたらって思うと、誰にも言えなかったんですわぁぁぁ」

「俺がいたら悪いのか!?」

「そりゃいますよ、同い年なんですから」

「私か!? それはちょっといや、カインに怒られるし正直、私は賢そうな……あ、いや」 

「うん、後から重要情報流すのはやめましょうか。ガチの未来視とか神託の可能性ってあり?」

「神託なら俺の分野だな。大丈夫だ。俺に全て話してみろ」

 

 それから、未来の最低でも神官長のレオンより、直々に奇跡認定された。

 なお、ヒロインのマリーはボッチーズと違ってクラスに溶け込んでいる。

 でも、我が国の殿下と仲がいいらしい。だめじゃん!

 

 そんなこんなでわきゃわきゃしていると、見回りに来た先生に順番に見張りをする重要性を説かれ、先生が見張りをするからとテントに追いやられた。

 もう夜明けだもんね。少しでも寝ろって事である。




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お題箱
https://odaibako.net/u/karin2022v
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