ウマ娘~come back to Derby~   作:タンドリー

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初投稿です!温かい目で読んでやってください。


第1R 選抜レース会場にて

 初めてレースを見たのは、いつだっただろう。背の高い大人たちに囲まれ前が見えず、泣き出してしまうくらい幼い頃だった気がする。

 

 私がべそをかいていると、慌てた父親が「ごめんなぁ」と言いながらその肩に乗せてくれたのも覚えている。

 

 群衆の密林を抜けて視界が開けた時、目に飛び込んできたのはターフを“翔ける”一人のウマ娘の姿だった。

 

『外から一気に飛んできた!!もう一人ユメノカケハシも頑張っているが、完全に一人が抜け出した!!!』

 

 広大な府中の芝コース。G1としては異例の出走者十一人。ともすれば寂しく映る光景の中で、その鹿毛のウマ娘だけが圧倒的な輝きと存在感を放っていた。後方から外に持ち出した彼女は、他を吞み込まんとする強烈な追込を見せてスタンドを駆け抜けていく。

 

『勇気の翼をいっぱいに広げて、今一着でゴールイン!!!』

 

 掲示板に彼女の背負う六番の数字が灯った瞬間、観客が一斉に湧きあがった。スタンドも、客席も、テレビの前も、レースを見ていた全ての人たちが歓喜と驚愕に包まれる。何万人もの頃を震わせるそのウマ娘に、当時の私は釘付けになった。

 

「お父さん……」

 

「ん?」

 

「私も、あのコみたいになりたい!」

 

 私の大言壮語な発言を、父は真剣に受けて止めてくれた。そして人込みから離れた場所で私を降ろした後、頭を撫でながら力強くこう言ってくれた。

 

「なれるさ、必ず。それでどころか、追い越すことだってできる。だって、ツナグは頑張り屋さんだからな!!」

 

「うん!!!」

 

 改めて、ターフで満面の笑みを浮かべるウマ娘の姿を目に焼き付ける。その日から“英雄”を超えることが、私の夢となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かつて、英雄と呼ばれたウマ娘がいた。全てを置き去りにする強烈な末脚。無敗のクラシック三冠を含む七つものG1勝利。「飛んでいるかのよう」と称されたその走る姿と無類の強さに人々は酔いしれ、歓喜した。そして、その栄光を支えたトレーナーもまた「天才」と称され、輝きしき道を歩んでいた。

 

 だが、この世に永遠はない。暮れの有馬記念での勝利を最後に“英雄”はターフを去った。彼女と共に歩んだトレーナーはまだ現役であったが、とある担当ウマ娘が故障したことをきっかけに成績が悪化。毎年のように獲得していたG1タイトルからは次第に遠のき、平場での勝ち星も満足に得られない有り様。そのような状態が続くうち、いつしか世間は彼を「終わった」存在であると認識し始め、彼の元へ教えを請いにくるウマ娘もいなくなっていた。

 

 

 時を同じくして、とあるウマ娘が中央トレセン学園へ入学する。幼い頃よりその才を高く評価された俊英は、入学した後も実力を伸ばしていき、ついに選抜レースへ出走することとなる。その瞳の先に、遥かなる栄光への景色を宿しながら。

 

 

 

 

 これは、一人のトレーナーが再び光を取り戻す物語。そして、一人のウマ娘が輝かしき未来へと人々を“つなぐ”物語。

 

 

 

                 ***

 

 

 トレセン学園に所属するトレーナー文流(ふみながれ)は、学園内の練習コースに来ていた。ターフの上には体操服を着た多数のウマ娘たちが、逸る闘志を抑えるようにアップを行っている。それもそのはず、今日は選抜レースの開催日。トゥインクルシリーズへの切符を掴むため、そこにいるウマ娘の誰もが厳しいトレーニングを重ねてきた。対するトレーナー陣もまた、共に頂を目指すパートナーを見つけ出すため、真剣な面持ちでターフに視線を送っている。会場は熱気に包まれ、数多の情熱が学園内を飲み込むように渦巻いていた。

 

 そんな中にあってただ一人、流だけは死んだ魚のような目で彼らを傍観していた。

 

(懐かしいな。こんな風に熱意を持っていた時期が、俺にもあったっけ)

 

 過去の自分から目を背けるように、流は手元のレーシングプログラムを開いた。芝・ダートを問わずいくつものレースと出バ表が載っている中、お目当てのレースとウマ娘に印をつける。

 

「芝一八〇〇メートル右回り、か」

 

 正直に言えば、今回の観戦は流自身の意思で来たわけではなかった。かつては流も担当ウマ娘と共に数多くのレースに参戦し、G1を含むいくつものタイトルを積み重ねてきた。

 

 しかし、とある時期を境に、急激に担当ウマ娘の成績が悪化。次第に勝ち星からは見放されていき、ファンからは「引退」の声もささやかれ始める始末。人と同様にウマ娘たちも彼の元から去っていき、今では漫然とした日々を送っていた。

 

 そんなある日、昔から世話になっている先輩トレーナーから『見てほしいウマ娘がいる』との連絡を受けたのである。惨めにトレーナー業を続けている手前誘いを断ることもできず、鬱屈とした思いでここに足を運んでいた。

 

「あの鋼蔵(こうぞう)先輩が選抜レースに誘ってくるほどだ。よっぽど凄いウマ娘なんだろうな」

 

 入学しただけでも一生の自慢になるトレセン学園であるが、その中でも頭一つ抜けた素質をもつ者たちも多くいる。選抜レースに出るようなデビュー前のウマ娘でも、そうした者には早くもファンがついていることは珍しくない。その証拠に、会場にはファンと思わしき集団が観客席に点在していた。きっと鋼蔵さんが言っているウマ娘もまた、そうした内の一人だろう。流はそのように考えていた。

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