ウマ娘~come back to Derby~   作:タンドリー

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予定より一日早いですが、よろしくお願いします!


第14R 反撃の狼煙

「やああああああああああああああっ!!!」

 

 トレセン学園にほど近い神社。その境内にある長く勾配もキツイ階段は、ウマ娘たちの筋力強化の場としても度々使用されている。ツナグもトレーナーと共に脚を運び、次の毎日杯に向けてトレーニングを行っていた。

 

「らぁ、すぅ、とぉ!」

 

「いいぞツナグ!タイムもどんどん縮んでいるし、脚運びも良くなってるぞ」

 

 階段を登りきったツナグに駆け寄り、タオルと水を渡す流。ダービーが行われる東京レース場は、最終コーナーに高低差二メートル、長さ二二〇メートルにも及ぶ直線がゴール前に待ち構えている。その坂を最速で登りきるパワーを得るために行っているのが今のトレーニングだが、十本連続階段ダッシュと内容はかなりハードだ。

 

 始めはさすがのツナグも五本目あたりからバテていたが、今では何とか最後の十本目まで走れるようになってきている。相棒の確かな成長に、流も手応えを感じていた。

 

「流トレーナー、そ、そのぉ。いい、息は整いました。学園に戻りましょう」

 

「おいおい、まだ呼吸が荒いぞ。戻るのはもう少し休憩からな」

 

「でも、今、私、体、凄く、熱くて。今、なら、きっと、いい、走りが」

 

 すぐにでも歩き出そうとするので、流はその頭にタオルを被せ、青鹿毛の髪を全力でわしゃわしゃしてやった。

 

「き・み・は・す・こ・し・落・ち・つ・けっ!」

 

「うわわっ!ちょっ、トレーナー!?」

 

 完全にお風呂上りの娘状態で照れくさそうにするツナグ。それで少し頭も冷えたのか、後の時間は素直に休息をとってくれた。

 

 

 

 

 

 

 食堂から夕食の香りが漂ってくる頃。神社から歩いて学園に戻り、流と別れて栗東寮に向かうと、いつもの仲良し三人組がツナグの帰りを待っていた。共に夕食をとるために待っててくれていたのかとも思ったが、どうやらそうではないようだ。

 

「テオ、ロベルタ、パレットちゃんまで。一体どうしたの、そんな真剣な顔して」

 

「あのねツナグちゃん。その、さっき聞いたんだけど、皐月賞出ないってホント?」

 

 不機嫌な顔をする二人に代わって、シンボルパレットがおずおずと尋ねる。三人とも、デビュー前から一緒に走ってきた仲である。そんな友達から皐月賞についての疑問が飛ぶのは当然であったし、それに答える用意もツナグはしてきていた。

 

「本当だよ。私は皐月賞には出走しない。私は、みんなとは違うローテでダービーを目指す」

 

「アンタ、まさか勝負から逃げたんじゃ――」

 

「違うよ」

 

 諦観でも失意でもない真剣な目に、テオファニーも思わず押し黙る。

 

「既に重賞を勝ってるテオとロベルタ。パレットちゃんなんか、G1に加えてトライアルのスプリングステークスまで勝ってる。それに比べたら、私なんか全然足りない。このままじゃ絶対に勝てない」

 

 胸に手を当て、こぶしを握るツナグ。一度下を向いた後、改めて三人の方を見た。

 

「だから三人には、先に行っててほしい。私も必ずダービー(そこ)に辿り着いてみせるから」

 

 覚悟と決意を持って、ライバルたちを見据える。全てを理解した三人は、同じタイミングで背を向けた。

 

Ho capito.(了解したよ) なら、まずは次のレースでそれを示してもらおうかな」

 

「え?」

 

「出るんだろう?毎日杯」

 

 ロベルタからの挑戦に、ツナグは自信を露わにした笑みで応えた。

 

 

   ***

 

 

 その日の阪神は、素晴らしいレース日和となった。暖かな春の日差しと観客の声援に包まれながら、G3毎日杯に出走するウマ娘たちが続々とゲート入りしていく。

 

(ここからが本当のスタートだ。気張っていけよ、ツナグ)

 

 スタンドの一番前で相棒を見守るツナグ。その心境が伝わったのか否か、一度頷くしぐさを見せて、ツナグもゲートに入った。

 

『最後に十三番入って体勢完了……』

 

 腰を落として、いつでも出られる体勢に入る。

 

『スタートしました!!』

 

 全員が一斉に飛び出した。心地よい宝塚の風を切り裂いて、前の四人が激しくポジション争いを開始する。

 

(よし!前が競り合った)

 

 どんどんペースが上がっていくのを感じながら、ツナグは後方から二、三番手。内に三番のバトルマスターを入れながら、いつでもスパートをかけれる位置に陣取った。

 

(いいぞツナグ。ナイスポジションだ)

 

 毎日杯の距離は一八〇〇メートル。弥生賞より一ハロン短いが、その分阪神は直線が長く後方からでも届きやすい。ツナグは自身の末脚を信じて、脚を温存する作戦を採った。

 

『さぁ縦長の展開となって三、四コーナーの中間に入ります』

 

 九番フォームゲイルや四番グッドガールらが先頭を奪い合うことでバ群が広がり、ハイペースな展開となっていく。後方からのツナグに、次々と追い風が吹き始めた。

 

『前五人が一団となって第四コーナーを抜ける!!以前として後方なのは十番タンキュウシャと六番のツナグ!!』

 

「おぉ、強気な位置取りだなツナグ」

 

「でもあんなに後ろからで大丈夫か?また弥生賞の時みたくなるんじゃ」

 

 観客らの議論も白熱する中、レースも終盤に入る。

 

 ペース上げ続ける先頭集団と、じっとスパートの時を待つ後方集団。両者の作戦が如実に表れたまま、バ群は最後の直線に出た。

 

((ここっ!!!!!))

 

 ターフを駆けるツナグとスタンドの流が、同時に目を見開く。スタンド側のコース左手。他のウマ娘が距離ロスを嫌って内目に寄ったことで、外側に芝のきれいな道が見事にゴールまで続いていた。

 

(見つけた!ここが私だけの道!)

 

 直線に入ると同時。コーナリングを活かしてスムーズに外へ持ち出したツナグは、踏み込む足に力を込めた。

 

『さぁ四番グッドガールに外ダイチノオビが並びかけて、一番ティームサンダーもやってくる!!!』

 

 抜群の手応えで直線に入った前三人が並びあい、声援もさらに大きくなる。だが、それらを超えて観客を沸かせたのは、ツナグの末脚だった。

 

『前三人が争う中、離れた外からツナグだ!ツナグが追い込んできた!!!』

 

 ゴール前の急坂なぞなんのその。美しいグリーンベルトに解き放たれた青鹿毛の流星が、あっという間に全てをかっさらっていく。少しの疲れも、一秒の詰まりも、ストライドの乱れも見せず、鮮やかにスタンドの前を駆け抜けていた。

 

(やっと出せた。私の、本当の走り!)

 

 少女が過ぎ去った後には、抗う者は一人も残っていない。最後に内で五番のダイチノオビが抵抗するが、その射程圏内に捉えられた時にはもう遅かった。

 

『楽々ツナグだ!六番ツナグが先頭でゴールイン!!!!』

 

 凄まじいラストスパートを繰り出し、圧倒的な強さでツナグは一着をもぎ取った。

 

 優等生の復活に、スタンドからも祝福の声が響く。

 

「最高のスタートを切れたな、ツナグ」

 

 周囲の観客らと共に、ターフへ拍手を送る流。それに応えるかのように、ツナグは力強く拳を前に突き出した。

 

(ここからだ。ここから、私の本当のクラシックが始まる!!)

 

 自身初の重賞勝利を以て、少女はクラシック戦線に反撃の狼煙を上げた。




今週は多忙のため、次回の投稿は5月13日となりそうです。
遅くなってしまいごめんなさい。気長に待っててくれると嬉しいです!
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