ウマ娘~come back to Derby~ 作:タンドリー
日本刀は、鍛える度に強くなる。何度も熱を加えて叩き、不純物を取り除いていくことで、より強くよりしなやかな刀へと変化するのだ。
ウマ娘であるツナグも同じく、鍛える度に強くなった。限界ギリギリまで負荷をかけたハードトレーニング。毎日杯から京都新聞杯という過酷なレースローテーション。そして、偉大なダービーウマ娘であるアドマイヤベガとの併走。全てのことがツナグの血となり肉となり、彼女を高みへと至らせる道を形作っていく。今のツナグは限りなく“完璧”なコンディションといっていいだろう。
だが、それは他のウマ娘たちも同じ。皆一生に一度の大舞台に向け、文字通り命を鍛えぬいてきている。では、最終的に差がつくのはどこか。答えはひとそれぞれだが、あるウマ娘はそれを“思い”の強さであると答えた。
「ツナグちゃん、ダービー頑張ってね。私も応援してるから」
「おねーちゃんだーびーかってね!!」
「ツナグさん!!いつもレースを見て元気をもらってます。自分も今年受験なんで、一緒に頑張りましょう!!!」
行きつけのスーパーのおばちゃん。ランニング中に通りがかかる幼稚園の子供たち。行きつけのカフェにいる受験生。近頃街に出る度、色んな人たちからツナグはエールをもらっていた。声をかけてもらう度、ツナグの中でその思いに答えたいという気持ちがどんどん湧き上がってくる。それは彼女自身の思いをより強いものに変化させ、ダービーに向けた活力となっていった。
「ファンの方たちから応援してもらえるのって、こんなにも嬉しいことなんですね」
「そうだな。でも、声をかけてもらうだけじゃない。俺たちの方から、ファンの人たちに思いを届けることだってできる」
「私たちの方から?」
ツナグの疑問に、流はスマホのスケジュール画面を開いて答えた。
「そうか!そう言えば明日でしたね」
「そう、共同記者会見だ」
G1のような大レース前には、必ずメディア向けに共同記者会見が行われる。そこではレースに出走するウマ娘やトレーナー全員が一組ずつ会見に臨み、レースに向けた各種質問に答えるのだ。これまで縁がなかったツナグにも、ダービーへの出走が確定したことで出演オファーが届いていた。
「記者会見はもちろんメディア対応の一環でもあるけど、同時に自分たちの思いをより多くのファンへ伝えられる機会でもあるんだ」
「確かに。会見はインターネットで配信もされますもんね。ちょっと緊張してきたな……」
大勢のカメラや記者の目がこちらに向くのを想像し、ツナグは尻尾をこわばらせた。
「大丈夫だ、最悪俺がフォローする。だから緊張してもせめて言いたいことは伝えられるよう、もう一度打ち合わせをしよう」
「はい!わかりました」
人生で初めての記者会見、しかも栄光のダービー前の会見である。ファンに思いを伝えつくせるよう、二人は時間ギリギリまでトレーナー室で打ち合わせを続けた。
***
「次の方、準備お願いしまーす」
「「はい」」
スタッフに呼ばれ、ツナグと流が待機室を出る。
「流トレーナー、私の格好おかしくないですか?」
「大丈夫だ。逆に俺の方が心配なんだが」
「問題ないですよ。あ、でもちょっとホコリが……」
最後にお互い服装を確認し、会場に入った。
(うわぁお)
用意された座席の前に立った瞬間、これまで見たこともない数のカメラと視線に晒された。想像以上の圧迫感に息がつまりそうになるツナグ。すると後ろで見守っているたずなさんが、こちらの緊張をほぐしてくれるような笑みを向けてくれた。
(頑張ってください、ツナグさん)
(ありがとうございます。やってみます)
ツナグは小さく深呼吸し、改めてカメラに視線を向けた。準備ができたことを察したスタッフに促され、ツナグと流は席につく。
「これより共同記者会見、ツナグさんと担当の流トレーナーにお話しを伺っていきます。よろしくお願いいたします」
「「よろしくお願いします」」
「レース前調整についてお伺いします。本番であるダービーまで一週間を切りましたが――」
今回インタビュアーに選ばれた人物が優秀なのか、淀みなく会見は進む。レース前の調整過程や前走の振り返り、東京コースへの適性や初の二四〇〇メートルに対する見解など、メディアやその先にいるファンが知りたい情報を自然に尋ねてくれる。対するツナグや流もこうした質問は予想していたので、迷うことなく答えることができていた。
「それでは最後に、ファンの方々へ向けて一言お願いします。まずはツナグさんから」
「はい!」
いよいよツナグが最も待ち望んでいた質問がきた。今日の記者会見は動画サイトに配信され、全国の人が視聴することができる。日々声をかけてくれたり、画面の向こうで応援してくれるファンの人たちのことを思い浮かべながら、ツナグは口を開いた。
「これまでにいろいろな事がありましたが、多くの人々の支えによって私はここまでくることができました。皆さんから受け取った思いを“繋いで”、必ず一着でゴールしてみせます。よろしくお願いします!」
熱意のこもった真っ直ぐな言葉に、取材陣も満足気に頷いていた。
「ありがとうございます。では続いて流トレーナー、よろしくお願いします」
「はい。まずはファンの皆さん、いつもツナグへの応援ありがとうございます。彼女が本番で百パーセントの力を出せれば、ダービーの舞台も制することができると信じています。本番まで自分も全てをかけて彼女を支えてまいりますので、応援のほどよろしくお願いします!」
こちらも担当ウマ娘に負けず劣らず、熱いメッセージである。しかも「ダービーの舞台も制することができる」という強気な発言も飛び出したため、取材陣の筆はノリにのっていた。
「以上でお二人の会見は終了とさせていただきます。ありがとうございました!」
「「ありがとうございました!!」」
今日はオークス、そして来週はいよいよ日本ダービーです。楽しみですね!
次回は5月28日投稿予定です。