ウマ娘~come back to Derby~   作:タンドリー

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今回は二話連続投稿です。まずは一話目、よろしくお願いします!


第17R 夢の舞台

 まだテレビどころか、映像そのものが珍しかった時代。日本に“夢”が生まれた。

 

 夢はしだいに大きくなり、幾人もの人々とウマ娘たちによって引き継がれてきた。

 

 夢を叶える者もいた。志半ばで夢破れた者もいた。夢に到達できなかった者も、夢を叶える舞台にすら立てない者もいた。

 

 夢が次への通過点に過ぎなかった者もいた。夢に全てを懸けた者も、夢で燃え尽きた者もいた。夢に阻まれた者の意思を継ぎ、自らの代でそれを叶えた者もいた。

 

 

 

 私たちは夢に憧れ、夢に想いを託す。夢があるから頑張れる。夢があるから、目指す場所まで走り続けることができる。

 

 

 私たちは、夢の名前を知っている――

 

 

 

      ***

 

 

 

 その日、東京レース場には十三万人もの観客が押し寄せた。待ちに待った最高の舞台「日本ダービー」を見にやってきたのである。

 

 人の数だけでも普段とは比べ物にならないほど異なるレース場だが、今年はさらに異様な光景が広がっていた。

 

「おい、あれ!」

 

 観客の一人が指さした先には、親友のメジロライアンと談笑するアイネスフウジンがいた。他にもシリウスシンボリやトウカイテイオー、アドマイヤベガやスペシャルウィーク、タニノギムレットにウオッカなど、名だたるダービーウマ娘たちが会場を訪れていた。

 

 今年は十年に一度のダービーメモリアルイヤー。日本で初めてダービーが開催されてからの節目に当たる、特別な年である。そのためURAによって歴代のダービーウマ娘たちが招待され、東京レース場に集まっていたのである。

 

「それにほら、上を見てみろ」

 

 観客の連れが頭上を指さす。スタンドのはるか上、府中を見下ろすように設けられた関係者用の観戦席。その一角には、ダービーウマ娘の中でも極めて偉大な“三冠ウマ娘”たちのためだけに用意されたスペースがあった。

 

「ついに、今年もこの日がやってきたな」

 

「だね。一年の中でもいっちばん熱くて、ワクワクする日だ」

 

 発走の時を待ちわびる観客たちを見守りながら、優しく微笑むトレセン学園生徒会長シンボリルドルフ。その隣には学園きっての風来坊ミスターシービーがいた。

 

「君も楽しみだとは思わないか、ブライアン」

 

「フッ、そうだな。この日が一番()()。例えレースを見る側であってもな」

 

 シービーの横で不敵な笑みを見せるナリタブライアン。三冠ウマ娘が三人も揃ったこの空間は、独特な重厚感を醸し出していた。そこへ、新たなウマ娘が扉を開けて入ってきた。

 

「やはり君も来たか、“英雄”」

 

「ハッ!相変わらずいちいち大仰な雰囲気を出すやつだな“皇帝”」

 

 ルドルフに“英雄”と呼ばれた鹿毛のウマ娘は、シービーとは反対隣りの席にドカリと腰を下ろした。

 

「俺はただ探しに来ただけだよ。自分より深い『衝撃』を与えてくれるヤツにな」

 

 鹿毛のウマ娘は手元のタッチパネルを操作し、近くのモニターにある画面を映し出す。そこには、今年のダービーに出走するウマ娘たちのパドックの模様が中継されていた。

 

 

  ***

 

 

『お送りしております本日のメインレース、東京優駿・日本ダービー。続いてはパドックの模様をお届けします』

 

 アナウンサーの声に合わせるように、パドックに設けられた天幕が開かれた。

 

『まずは一枠一番、現在一番人気のツナグです』

 

 今年のダービーの主役の一人、青鹿毛のウマ娘ツナグの登場に、パドックを囲む観客たちが盛り上がる。燃えるような赤と空のように澄んだ水色を基調とした、パンツスタイルの勝負服。G1に出走するのが初めてであるツナグにとって、ここか勝負服の初お披露目ともなった。

 

「あれがツナグの勝負服かぁ。あんな感じなんだー」

 

「カッコいい!!めっちゃ似合ってるじゃん!」

 

 ライトなレースファンたちは、美しい青鹿毛と完璧にマッチした勝負服と、それをスマートに着こなすツナグの容姿に惚れ惚れとしている。しかし、レースを長年みている玄人ファンたちは、ライトファンとは全く異なる点に着目していた。

 

(なんだ……あの落ち着き様は)

 

 そう、今日のツナグは驚くほどに静寂を纏っていた。言うまでもなく体の仕上がりも素晴らしい。デビュー時にはまだ見受けられた緩さは消え失せ、名刀の如く筋肉はハリと輝きを放っている。だがそれ以上に、彼らはツナグの様相に思考を奪われていた。

 

 多くの場合、ダービーに出走するウマ娘たちは大なり少なり浮足立っているものだ。まだまだレース経験の浅いクラシック級であるのに加え、全レース関係者が憧れる夢の舞台である。むしろ緊張をみせているのが自然なくらいであるが、パドックに立つツナグは恐ろしいほどに平静を保っていた。

 

(あれではまるで、歴戦のシニア級ウマ娘じゃないか。一体どれほどのメンタルトレーニングを行ってきたんだ?)

 

 驚愕する玄人ファンたちを他所に、いつも通りツナグは深いお辞儀をしてパドックを去った。

 

 その後も続々とウマ娘たちがパドックに姿を現していく。特に二番のロベルタ、八番のシンボルパレット、九番のテオファニーが見えた時は、一際大きな歓声が沸いた。

 

「よっ!ダービーはアタシがいただいたぁ!」

 

 最早パドックでは恒例となったテオファニーの見得ポーズに、ファンたちから拍手が送られる。今年のダービーは皐月賞で上位を独占したこの三人。そして毎日杯と京都新聞杯を連勝したツナグを加えた“四強”であるというのが目下の予想であった。

 

 無論主役は彼女らだけではない。四強の他にも共同通信杯の勝者フジペガサスに、ダービートライアルである青葉賞を制したタバインパクト。さらにはG1であるNHKマイルカップを勝利し駒を進めてきたフシチョウなど、同世代きっての実力者たちが顔を揃えた。

 

 まさに群雄割拠の夢舞台。そんな中にあってもツナグは一切の乱れも見せずに、用意された控室に入った。鏡の前で勝負服を整え、椅子に座ってもう一度シューズと蹄鉄を確認する。先に部屋で待機していた流は、いつも通りに準備を進める相棒に問うた。

 

「ツナグ、何か気になることはないか」

 

 ターフに入れば、もうトレーナーにできることは何もない。最終確認の意味も込めて、流は声をかけた。そのトレーナーの意図をきちんと理解したツナグは、今一度考えた上でこう答えた。

 

「大丈夫です。レースに向けて、何も問題ありません!」

 

 虚勢でもから元気でもない、心の底から自信に溢れた表情。その顔を見ただけで、流は納得することができた。

 

「よし!それなら後は言うことはない。自分の全てを出し尽くしてこい、ツナグ!!」

 

「はいっ!!!」

 

 互いに最高の笑顔を交わし、二人は控室を出た。

 

 

 日本最高峰の戦い。ウマ娘にとって一生に一度のレースが、今始まる―――

 




そのまま次回へと続きます。よろしければ、一気に読んでいただけると嬉しいです!
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