ウマ娘~come back to Derby~   作:タンドリー

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大変お待たせ致しました。今回もよろしくお願いします!


第19R 夢はどこまでも

 正直言うと、ツナグは最後の直線でのことをよく覚えていなかった。文字通り無我夢中で体を動かし続け、気づけばゴール板を駆け抜けていた。

 

「――ッ!!!」

 

 意識が覚醒し、歓喜と疲労が同時に襲ってきた。動機も激しく、息を整えることで精一杯。それでも、自分が一着でゴールしたことだけは確信していた。

 

(やった!やっと勝てた、G1で!!)

 

 荒い呼吸をしながら、左手で渾身のガッツポーズを作る。すると弾かれたように、客席から万雷の拍手が湧きあがった。

 

「ツナグぅううううう!!!!凄かったぞおおおおおお!!」

 

「おめでとう、おねえちゃん!!!」

 

 ファンの人たちが、思い思いに祝福の言葉をかけてくれる。それが堪らなく嬉しくて、ツナグは両手を大きく広げて応えた。

 

「チッ、完敗だ。おめでとうツナグ」

 

 二着でゴールしたテオファニーが、真っ先にこちらに駆け寄ってくれた。彼女だけではない。ロベルタやシンボルパレットを含め、共に最高の舞台で火花を散らしたウマ娘全員が、ツナグの元に集まっていた。

 

「素晴らしい走りだったよ、ツナグ」

 

 全てを出し切った後だからか、いつものイタリア語を抜きにして称えてくれるロベルタ。

 

「おめでとうツナグちゃん。でもやっぱり悔しいよ」

 

 涙で目を真っ赤にしながらも、友人の勝利を祝うパレット。メンバーで唯一二冠を狙うことのできた立場だっただけに、彼女は人一倍悔しさを露わにしていた。

 

 他のウマ娘たちも、各々複雑な感情を抱きながらダービーの勝者を称えた。ツナグは一人一人と握手をしながら、彼女たちと想いを通わせていく。そして最後に、彼女はスタンドの方へゆっくりと走り始めた。

 

(やっぱり、最後はコレで〆ないとね!!)

 

 スタンド前をジョギングのようなペースで走りながら、観客たちに手を振っていく。G1の勝者のみに許された至福の時間、ウイニングランだ。ダービーという舞台であっても、その時間・空間に変わりはない。テレビの前で見ていた先輩たちのようにウイニングランをしていると、信じられないことが起こった。

 

 

 

「「「ツ・ナ・グ!! ツ・ナ・グ!! ツ・ナ・グ!!」」」

 

 

 

 

 事前に示し合わせたわけではない。誰か一人が主導したわけでもない。府中にいた人々全員が、一斉に彼女の名前を呼び始めたのだ。

 

 十数万の人々が、同時に勝者の名前を響かせる。それはまさに、皆の想いが“繋がった”瞬間であった。

 

(あぁ、これだ。これが私の見たかった『夢』なんだ)

 

 あれだけ強く望んでいたのに、いざ現実になると言葉が出てこない。こみ上げてくる何かで胸いっぱいになり、ツナグはこの時初めてターフで涙を流した。

 

(よくやったな、ツナグ)

 

 歓喜と祝福に包まれる相棒を前に、流の目にも光るものがあった。

 

「あれ……?嘘だろ、いい年してこんな」

 

「いいんですよ、トレーナーさん」

 

 側にいたツナグの両親が、そっとハンカチを差し出してくれた。

 

「大人とか子供とか、関係ありません。嬉しい時くらい、泣いたっていいんですよ」

 

「……ッ!」

 

 “英雄”がターフを去って七年。自身がスランプになって三年。今この時までに抱え込んでいた全てを洗い流すかのように、流は泣いた。自身を許したいと思えるまで、涙は流れ続けた。

 

 

 

   ***

 

 

 

「日本ダービーを制しましたツナグ選手、そして担当の文流トレーナーです!おめでとうございます!」

 

「「ありがとうございます!!」」

 

 アナウンサーのお祝いの言葉を受け、笑顔で応える二人。無事にウイニングライブ終え、ツナグは流と共にレースを勝った者に残された責務である、ヒーローインタビューの時間を迎えていた。

 

「まずはツナグ選手。節目、メモリアルイヤーのダービーを制しました。今のお気持ちはいかがですか?」

 

「最高の気分です!」

 

 ツナグの言葉に、会場から何度目かわからない拍手が送られる。

 

「大一番とあって、強豪が揃ったレースとなりました。自信やプレッシャーなどはあったのでしょうか?」

 

「もちろん、そういった気持ちはありました。ですが最後は流トレーナーと積み重ねてきたものを信じ、自分の力を出し切ることだけ考えて走りました」

 

「レースを振り返っていただきます。スタートしてからの位置取り、そして道中の走りは思い描いた通りだったのでしょうか?」

 

「そうですね。練習からやってきたことをそのまま実行するという思いで、焦らないよう自分に言い聞かせていました」

 

「最後の直線、素晴らしい脚でした!前を走るウマ娘たちとはかなり距離があったと思いますが、その時の心境はいかがでしたか?」

 

「はい。流トレーナーと二人三脚で鍛え上げたこの脚なら必ず届くと信じ、とにかく夢中で走っていました」

 

「ありがとうございます。続いて流トレーナー、お願いいたします」

 

 係の者からマイクを受け取り、今度は流の番となる。

 

「では文流トレーナー。数々の名ウマ娘を育ててこられた流トレーナーですが、ツナグ選手の魅力・強さは、どんなところだと思いますか?」

 

 質問を受け、流はちらりと横を見る。隣の青鹿毛のウマ娘は、キラキラとした目でこちらを見ていた。

 

(こりゃ、期待に応えないとな)

 

 数秒考えた後、改めて流はマイクに口を近づけた。

 

「もちろん沢山ありますが、一番は僕をまたダービートレーナーにしてくれたというところが、最高の魅力だと思います!」

 

 おおよそ考えうる中でも最高の答えに、観客からも拍手と歓声が沸いた。

 

「文流トレーナーにとって、二度目のダービー制覇となります。流トレーナーにとって、ダービーとはどういったものでしょう」

 

「やはり何度勝っても嬉しいですし、今年のダービーは特に、僕のトレーナー人生においても大きなダービーだったと思います。そんなダービーを勝たせてくれたツナグ。そして僕と彼女を繋げてくれた多くの方々との“繋がり”があったからこそ、このような結果を得られたのだと思います」

 

「ありがとうございます。では最後の質問に移らせていただきたいと思います。ツナグ選手」

 

 再びツナグの方にアナウンサーの視線が戻った。

 

「遂にダービーを制しました。一つの夢を叶えた上で、今後の展望についてお願いします」

 

(展望、か)

 

 インタビューを受けながら、ツナグは流にも言っていない新たな夢が芽生えていた。本来なら事前にトレーナーへ相談するべき内容な気もしたが、ツナグは思い切ってこの場で言うことにした。

 

「今日は沢山の方たちの支えがあって、日本一になることはできました。そして今度は、流トレーナーと共に『世界一』を目指したいと思います!!!」

 

 

 うおおおおおおおおおおおおお!!!!

 

 

 世界一。それはつまり、あの英雄も勝つことができなかったフランスの大レース『凱旋門賞』を目指すということである。

 

 予想だにしなかった内容。それでいて、どこかで「ツナグに勝ってほしい!」という期待感がまじりあい、会場は異様な盛り上がりを見せた。

 

「オイオイ本気かよ」

 

「もちろん本気です。一緒に目指しましょう、流トレーナー!」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべるツナグに流は呆れながらも、どこかで再び凱旋門賞(あの舞台)を夢見れることに幸福を感じていた。

 

「嬉しい決意表明をありがとうございました!続いて流トレーナー、ファンの方たちにメッセージをお願いします」

 

「はい」

 

 アナウンサーに促され、流はマイクのスイッチを入れる。

 

「本当に今日は僕たちを応援していただき、ありがとうございます。そして……」

 

 最後にファンの人たちへ向けて伝えたいこと。それは勝つ前から決まっていた。流は少し息を入れ、迷いなく言葉を発した。

 

「そして僕は、()()()()()()()!!!」

 

 “英雄”と三冠を制覇しその後も活躍を続けていたものの、近年は引退がささやかれるまでどん底に陥っていた『天才』トレーナー。その彼が再びダービーという称号を引っさげて行った『帰還』宣言に、府中は今日一番の盛り上がりをみせた。

 

「改めましてダービーを制しました、ウマ娘のツナグ選手。そして担当の文流トレーナーでした!ありがとうございました!!!」

 

 東京レース場の至る所から響き渡る、歓喜と祝福の嵐。

 

 “英雄”に導かれた一人のウマ娘とトレーナーのダービーは、こうして幕を閉じたのであった。

 

 

 

  ***

 

 

 

 ―フランス・ロンシャンレース場―

 

 

 ダービーから約四ヶ月が経った。レース後のヒーローインタビューで語った通り、ツナグは海外のレースに挑戦。まずは前哨戦であるG2ニエル賞に挑み、イギリスのダービーウマ娘を下して勝利した。

 

 そしてその勝利を以て、堂々と本番である凱旋門賞の舞台にやってきたのである。

 

「凄い。これが『世界一』の舞台なんですね」

 

 初めて目にする海外G1のパドックに、ツナグは目を右往左往させていた。フランスのレースは日本と異なり、どちらかと言えば上流階級の人々がメインの客層である。そのため観客やレース関係者たちは豪奢なドレスやスーツに身を包み、会場を華やかに彩っていた。

 

 豪華なのは人々だけではない。レースに出走するウマ娘たちも、欧州を中心に名を馳せるウマ娘たちばかりである。日本からもダービーウマ娘のツナグだけでなく、圧倒的な強さから“暴君”と呼ばれる現役屈指のウマ娘が参戦していた。

 

「大丈夫か、ツナグ」

 

「問題ありません!むしろワクワクしているくらいです!それより、流トレーナーこそドレスコードは大丈夫ですか~~~」

 

「うっせぇ」

 

 慣れないタキシードをいじられ、頭をかく流。だが、この分ならレースは心配ないだろう。日本にいるときと変わらない様子を見せる相棒を、流は頼もしく思った。

 

「よし。それなら全力でぶちかまして来い、ツナグ!!!」

 

「はいっ!!!」

 

 ありったけの自信と期待を込めて、流はツナグを送りだした。

 

 シリウスシンボリ、エルコンドルパサー、ナカヤマフェスタ、そして“英雄”。彼女らを含めこれまで日本が誇る名だたるウマ娘たちが挑み、敗北を喫してきた凱旋門賞。その距離は日本ダービーと同じニ四〇〇メートルである。だが、色々な意味でその距離はダービー以上に遠く、険しいものになるだろう。

 

 無敗の三冠ウマ娘でも先頭に立てなかった景色。流はツナグと共にその景色、そしてその“先”をみたいと思った。無謀かも知れないし、叶わぬ願いかも知れない。

 

 それでも、彼らは命尽きるその時まで追い続ける。ウマ娘とトレーナーが諦めない限り、夢は何処までも続くのだから―――

 

 




今回の話をもって、この物語は終幕となります。

拙い文章、そしてまばらな更新頻度でありながらここまで本作を読んでくださった方々。本当にありがとうございました!またご縁がありましたら、よろしくお願いいたします。
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