ウマ娘~come back to Derby~   作:タンドリー

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第3R 信頼

 レースを終えたツナグは早速トレーナーたちに囲まれるも、それらをやんわりと宥めて脱出。鋼蔵らの元へ一番にやってきた。

 

「鋼蔵トレーナー!レース、見てくれてましたか」

 

「バッチシ見てたぜ!実に良いレースだったぞ、ツナグ。横にいたコイツも驚いてたくらいだ。なぁ?」

 

「えっ!?えぇ、それはもちろん。特に最後の末脚なんかは」

 

 流がレースの感想を言おうとすると、突然ツナグに右手を掴まれた。

 

「初めまして!!!あなたが文流トレーナーですね。生で会えて嬉しいです!」

 

 大きな瞳を目一杯輝かせて、こちらを見つめるツナグ。その面影は、どこか在りし日の“彼女”に似ていて――

 

「おいツナグ。流が驚いて固まってるぞ」

 

「すみません!嬉しくてついはしゃいでしまいました」

 

 ツナグは慌てて手を離した。

 

「悪いな。コイツは英雄様とそのトレーナーの大ファンなんだとよ」

 

「なるほど。そういうことでしたか」

 

 かつて“英雄”が現役であったころ、彼女と一緒に沢山のメディアに出ていたため、二人の知名度は他のコンビよりも抜けて高かった。実際彼女がトゥインクル・シリーズを引退した後、英雄に憧れてトレセン学園に入学したウマ娘が急増したらしい。ターフを去ってもなお輝く元相棒を誇らしく思う反面、惨めな現状に置かれた自分が情けない。死に体のトレーナーはそんな感情を抱いていた。

 

「それで、結局どうして先輩は俺にレースを見させたんですか?まさか、彼女の自慢をして終わりって訳でもないでしょう」

 

「あぁ、そのことなんだがな」

 

 鋼蔵は使い古したキャップ帽を取ると、流に向かって深く頭を下げた。

 

「頼む!俺の代わりにコイツを。ツナグの、担当トレーナーになってやってくれないか!」

 

「ちょっ、先輩!?一体どういうことですか。俺はてっきり、ツナグの担当トレーナーは先輩がなるものだと」

 

「確かに、選抜レースに出るまでのトレーニングは俺が見てきた。でも、これから先の戦いには俺は付いていけない。体が、もう言うことを聞かねぇんだ」

 

 ゆっくりと頭を上げた鋼蔵は、改めて流と向き合った。

 

(あっ……)

 

 正面からその顔を見て、流は察した。目に移る恩師は、確かに若々しい黒髪を保っている。しかし、ハンサムなその顔には深い皺がいくつも刻まれ、背も昔より僅かに縮んでいた。

 

 意外に思えるかもしれないが、トレーナーも体力勝負の仕事である。もちろんウマ娘たちのように直接走ったりはしないが、トレーニングメニューの作成。各種レースの登録。メディアへの対応に、学園での各種事務作業。一年三六五日、休みを返上して膨大な業務に当たらねばならない。しかもそれがクラシックに挑むウマ娘となれば、より大変な職務となる。これからまさにデビューしクラシックに挑まんとするツナグを支えるには、鋼蔵の体はいささか年を重ね過ぎた。であるからこそ、鋼蔵は最後に自身が認める後輩へ、自らが最後に見出したウマ娘を託そうとしているのだ。

 

「君は、納得しているのかい」

 

 流は、横で神妙な面持ちをしているウマ娘に尋ねた。

 

「はい。選抜レースに向けてトレーニングを見てもらった際、鋼蔵トレーナーが引退することを教えてもらいました。そして引継ぎ役として、流トレーナー。あなた選んだということも」

 

 ツナグは真剣な目で、正面に立つトレーナーを見据えた。ふとすれば吸い込まれそうなほど黒い瞳に、流は思わず目をそらしてしまう。

 

「俺の現状は、君も知っての通りだろう?昔は天才だなんだと言われもしたが、今ではご覧の有り様だ。そんなトレーナーが担当になろうとしているのに、どうして君は……」

 

 我ながら情けない質問だと思った。だが、この答えを聞かなければ、自分はどこにも進めない。流はそう思った。

 

「確かに、今の流トレーナーに不安がないとは言えません。ごめんなさい。でも、信じることから始めないと、何も成し遂げられませんから!」

 

「っ!!!」

 

 その時、流の頭にまたしても“彼女”の言葉がよぎった。

 

《確かにアンタの言う通り、無敗のクラシック三冠なんて無謀かもしれない。でもさトレーナー、まずは信じることから始めてみようぜ。自分のことすら信じられないヤツが、夢を叶えることなんてできやしないんだから》

 

(そうだよな。お前の言う通りだ)

 

 一度手汗を拭きとり、流はゆっくりと右手を差し出した。

 

「先輩の頼み、確かに引き受けました。ツナグ。君と担当契約、させてくれないか」

 

「はいっ!よろしくお願いします、流トレーナー!」

 

 “英雄”に憧れたウマ娘と、“英雄”を育てたトレーナー。一人の偉大なウマ娘に導かれた二人が今、運命のコンビを結成した。

 

 




 3話目にしてようやく、ウマ娘とトレーナーの担当契約が終わりました。本当はアプリのウマ娘ストーリーに合わせて四話構成のプロローグにしたかったのですが、中々上手くはいきませんね(笑)

 次回は4月22日に投稿予定です!
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