ウマ娘~come back to Derby~ 作:タンドリー
放課後。人間の学生が部活に励むように、ウマ娘たちも一斉にトレーニングを開始する。ツナグもジャージに着替え練習場に向かうと、既に流の姿がそこにあった。
「こんにちは、流トレーナー。本日からよろしくお願いします」
「おう、よろしくな」
「あの、コースに来てからずっと気になってたんですけど……」
ツナグが辺りを見回すと、コース上にいる者の多くがこちらに視線を向けていた。悪意があるわけではないが、どこか含むところがある。そんな奇妙な視線である。
「悪いな、たぶん視線が向けられているのは俺だ。最近は
「いえいえ!私なら大丈夫です。それで、今日の練習は何をするんですか?」
「そうか、悪いな。それで練習メニューについてだが」
流は脇に挟んでいたノートを開いた。
「本格的なトレーニングをする前に、一つ確認しておきたいことがある。アップを済ませたら、とりあえず一本走ってみてくれないか。距離は一八〇〇メートルの右回りで」
「わかりました。じゃあ、さっそくアップに行ってきます」
こうしていつも通りのアップをこなしたツナグは、練習コース名物ヒシアマゾン看板の前で構えた。
「行くぞツナグ。よーい、スタート!」
流の合図に合わせ、ツナグは勢いよく駆けだした。特に乱れた所もない標準的なフォームで、ターフを駆け抜けていく。
(うん、いい感じだ)
選抜レースを終えたばかりだが、体に不調はみられない。心地よい秋風を肌で感じながら、ツナグは快調にゴール前を駆け抜けた。
(とりあえず言われた通りに走ったけど、結局流トレーナーは何を見たかったんだろう?)
乱れた息を整えながら戻ると、当のトレーナーは再びノートとにらめっこをしていた。
「流トレーナー。走り終えましたよ」
「あぁ、ありがとう。こっちも大体把握できた」
流はノートを閉じると、ツナグに顔を向けた。
「ツナグ、君は今ピッチ走法をしていたな」
「はい。そうですが」
「なら、それは今すぐ変えるべきだ。もちろんストライド走法にな」
「え?」
ウマ娘の走り方は、主に二つに分けられる。一つはピッチ走法。これは短い歩幅で走る分、脚の回転数を早くさせスピードを得る方法である。有名なウマ娘だとアストンマーチャンなどがこの走り方である。もう一つはストライド走法。こちらは一歩の歩幅を大きく取り、バネのように全身の筋肉を躍動させてスピードを出す走法である。スペシャルウィークなどがこの走法を用いている。
「選抜レースの時から違和感があった。君の走りは確かに素晴らしい。でも、細かくブレーキを踏みながら進む自動車のように、何か自身に制限をかけているように見えたんだ」
「それは……」
流の言う通り、ツナグはピッチ走法。正確にはピッチ走法
「でも、まさかたった二回走りを見られただけでバレるとは思いませんでした。学園の教官や鋼蔵さんに指摘されない程度には、誤魔化せていたんですけどね」
「これでも一応、トレーナーだからね。それに、走法に関するこの手の話はよくあることさ。だから君が十分にストライド走法を
そう言って手渡されたメモには、具体的なトレーニングメニューやそれによって得られる効果がびっしりと事細かに書いてあった。しかも、その項目のどれもが今のツナグに合わせて、一つ一つ既存の内容から調整が加えられている。
(凄い。腐ってもやっぱり、流さんは立派な“トレーナー”だ!)
正直、これを見るまでは一抹の不安がツナグにはあった。でも今は違う。自分はこのメニューをクリアすれば、必ず強くなれる。その自信と期待が彼女にはあった。
「ひとまずは君の意見も聞きながら、メイクデビューに向けて改めてこのメニューを見直したい。協力してくれるかい?」
「はい、もちろんです!」
その後綿密にメニューを練り直した二人は、トゥインクル・シリーズの第一歩であるデビュー戦に向け、みっちりトレーニングを積み重ねた。
そして二か月後。京都レース場で行われたメイクデビューにて、見事にツナグは初勝利を飾ったのである。
次回は4月24日の0時15分に投稿予定です!