ウマ娘~come back to Derby~ 作:タンドリー
「はぁ~~~~~~~~~~~~~~~~」
お昼休みのトレーナー室に、大きな溜息が響く。ラジオNIKKEI杯を終え、大晦日を過ごし、正月を迎えて数日経った今でも、ツナグはレースでの敗戦を引きずっていた。落ち込むあまり机に顔が沈みそうになっていたので、見かねた流が声をかける。
「何度も言ってるがなぁツナグ。初重賞で三着。しかも不利な状況でその成績を残せたことは、本当に立派なことなんだぞ。だからそんなに落ち込むなよ」
「いやぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいんですけどね。でもこれ見ちゃったらなぁ」
そう言って見せられたスポーツ紙の一面には、でかでかとツナグの同期、シンボルパレットの写真が乗せられていた。横にはこれまた大きな文字で
『伏兵がG1奪取!来年のクラシック候補は君だ!』
と書いてある。
「テオファニーは私に勝って重賞制覇。パレットちゃんとロベルタは朝日杯でワンツーフィニッシュですよ!同期にこんなに差をつけられちゃ、流石に気分も上がりませんよ」
また一つ大きな溜息をつくと、再び机に突っ伏してしまうツナグ。いつも優等生タイプだと思っていただけに、これほど崩れたツナグの様子を見るのは、流にとっては意外だった。
(よく考えたら、この娘のことなんもわかってないんだよな、俺)
鋼蔵トレーナーからツナグを託されてはや数ヶ月。トレーニングとレースへの出走ばかりを繰り返してきたため、こうして彼女と腰を据えて話すのは初めてだった。
(もっと理解し合わないとな、お互い)
思えば最近、トレーニング中もどこかツナグは集中力に欠けていた。そして時々どこかを見ては、今日のように溜息をつくのである。今のような状態が続けば、これから始まるクラシックに悪い影響を及ぼしかねない。そう考えた流は、ある提案をしてみた。
「よしツナグ。明日はトレーニングを休みにして、よければどこか出かけないか?これからクラシックを共に走るトレーナーとして、もっと君のことも知りたいしさ」
流の口からそのような言葉が出るとは、思っていなかったのだろう。しばらくポカンと口を開けていたが、やがてブンブンと頭を立てに振った。
「そしたら私、いきたい所があるんです!なので明日、そこへ一緒に行ってくれませんか?」
「おぉ、そうかそうか。わかった、明日はツナグに付いていくよ」
丁度話がついたタイミングで、お昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。ツナグは手早く荷物を片づけて、トレーナー室を後にした。扉を閉める時に尻尾が揺れているのに気付いて、流は思わず笑みがこぼれた。
***
その日の夜。消灯前の自由時間に、ツナグはあるウマ娘を栗東寮内のラウンジに呼び出した。
「
お風呂を上がったばかりだというのに、キッチリ髪を整えて現れたのはエイシンフラッシュ。ドイツからの留学生で、ツナグの先輩にあたるウマ娘である。レースでは日本ダービーや天皇賞秋を制しており、その生真面目な性格も含め、ツナグが最も尊敬し頼りにしているウマ娘の一人でもあった。
「こんばんは、フラッシュ先輩。わざわざすみません、こんな時間にお呼びしてしまって」
「気にしないでください。先輩にとって、後輩に頼ってもらえるのはとっても嬉しいことなんですよ。それに、ツナグさんは事前にキチンとアポを取ってくださるので、こちらも予定を立てやすくて助かっているんです」
「そんなそんな!その、立ち話もなんですし、とりあえず座りましょうか」
二人は近くの椅子に腰かけた。
「それで、確かご自分のトレーナーさんに関するご相談でしたよね」
「はい。担当契約して数ヶ月経っているんですが、私は最近まで自分ばっかりだったので、流トレーナーとあまりお話ができていなかったんです。それで、もっと仲良くなりたいなぁと思っていた矢先、流トレーナーの方からお出かけに誘われまして」
フラッシュは相づちを打ちながら、持参した手帳にメモを取る。
「私としても渡りに船で、すぐに承諾したんです。しかも、私の行きたい場所に付いてきてくれることになって。どうせならこの機会に、お互いの事を理解し合えたらなぁと思ったんです」
「なるほど。つまり、トレーナーさんとの関係を深められるような行き先はどこか。その相談に乗ってほしいということですね」
さすがフラッシュである。自分の言いたいことをすぐに理解してくれる先輩ウマ娘に、ツナグは満面の笑みで頷いた。
「はい!ここはぜひ、担当トレーナーさんと“ふかぁ~い”関係にあるというフラッシュ先輩に、アドバイスをいただきたくて!」
予想だにしてなかった後輩からの言葉に、フラッシュは危うく噴き出しかけた。
「ええっと、ちなみにその話は誰から……?」
「ファル子先輩からです!」
可愛らしい顔でウィンクをするルームメイトの顔が目に浮かび、フラッシュは軽くめまいを覚えた。
「まぁそのことはともかく、お話はわかりました。そういうことでしたら、ご自分の実家などはいかがでしょうか。現に私も、ドイツの実家に一緒に行ったことで、トレーナーさんとの仲を深めることができましたし」
「じじじ、実家!?フラッシュ先輩、結構大胆なんですねぇ」
“大胆”という言葉に、フラッシュは首をかしげた。
「よくわかりませんが、自分のことを相手に伝える上で、やはり自分の生まれ育った場所を紹介するというのは良い方法であると思いますよ。ちなみに、ツナグさんのご実家はどちらに?」
「学園から電車で十分程度の隣町にあります。一応、実家の一階では両親がカフェを営んでいまして」
「カフェ!素晴らしいですね。共にお茶を楽しむのも、良いコミュニケーション手段の一つだと思います」
さきほどから「言われてみればその通り!」となるアドバイスばかりである。やはりこの先輩に相談してよかったと、ツナグは心の底から思った。
「私、この間のレースに負けてから、ずっと落ち込んでばかりだったんです。そんな時でも、流トレーナーは一言も責めずに、私のことを励まし続けてくれたんです。ううん、この間だけじゃない。担当契約を結んでから、流トレーナーはずっと私のために沢山のことをしてくれました。だから、少しでも恩返しがしたいんです」
「でしたら、尚更カフェを経営されているご実家は、ベストな場所ですね」
「はい!フラッシュ先輩、本当にありがとうございました!」
席を立って、深々と頭を下げるツナグ。そのトレーナーへの真っすぐな思いに、フラッシュは心が温かくなった。
(ツナグさん、
次回は4月27日に投稿予定です!