ウマ娘~come back to Derby~ 作:タンドリー
トレセン学園最寄りの駅から電車で十分。駅を降りて徒歩で五分。駅前の喧騒から離れた所に、ツナグの実家はあった。
「えーと、『喫茶ねこひめ』?」
「はい。うちは両親がネコカフェを経営してるんです。本当ならお茶をごちそうしたかったのですが……」
お店のドアにはネコの形を模した「closed」の看板が掲げられていた。
「すみませええええええええええええええん!!!営業日が変わったの忘れてましたああああああああああああ」
半分キャラが崩壊する勢いで泣き崩れるツナグ。予想だにしなかったなかったリアクションに、流は思わず笑ってしまった。
「ちょっと!何笑ってるんですかトレーナーさん!」
「いやぁ、すまんすまん。あまりのオーバーリアクションに、つい驚いちまった。とりあえずインターフォンを押してみようか」
「そうですね。実家に帰ることは伝えてあるので、家にはいると思います」
気を取り直してインターフォンを鳴らすと、すぐに足音が聞こえた。ドアが開くと、中から美しい鹿毛のウマ娘が出てきた。
「はいは~い。すみません、本日お店は休業日でして」
「初めまして。私、ツナグさんの担当トレーナーをしております。文流と申しま――」
「きゃああああああああああホンモノおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
***
「大変お恥ずかしいところをお見せしました。改めまして、ツナグの母です。娘がお世話になっております」
色々あったが、ツナグの母親のはからいで二人は店のカウンター席に座らせてもらった。店の中は一言でいうと、和モダンといった印象である。木目調の内装やインテリア、店内を照らすオレンジ色の照明、そして足元で丸まっている二匹の猫たちのおかげで、非常に心地よい空間を作り出していた。
「うちは両親ともにレースを見るのが大好きなんです。特に母は、昔から“英雄”と流トレーナーの大ファンで」
「それはそれは、大変恐縮ですね」
流の言葉で再び先ほどのことを思い出したのか、ツナグの母親は顔を隠すように両手と尻尾をパタパタと振った。
「いえいえ!娘もあなたがトレーナーになってよかったと、嬉しそうに電話で話していましたよ」
「そうだったんですか。担当のウマ娘がそう言ってくれるなら、トレーナー冥利に尽きますよ」
母の言葉に、今度は娘が顔を赤くした。
「あらいけない!ごめんなさい、すっかり忘れてました。すぐにお茶を淹れますね。紅茶でよろしいですか」
「はい、よろしくお願いします」
ペコリとお辞儀をすると、ツナグの母親はカウンターの奥に引っ込んだ。お茶ができるまでの間、流は前から気になっていたことをツナグに尋ねてみた。
「ずっと聞いてみたかったんだが、ツナグは普段オフの日は何をしてるんだ?」
「オフの日ですか?ちょっと恥ずかしいんですけど、オフの日はずっと機械イジリをしてます。父親がエンジニアの仕事もしてて、その影響で私も機械好きになったんです」
「ほぉ、機械か。意外だったな」
明るい性格のウマ娘のため、てっきり趣味もアウトドア系だと思い込んでいた流。些細なことではあるが、今のような意外な一面を知れただけでも今日は収穫があったと感じていた。
「逆に流トレーナーは普段何をされているんですか?」
「俺か?俺は落語が好きでさ。もちろんテレビとかラジオでも見聞きするけど、やっぱり現地の寄席で聞くのが一番だよ。まぁこの職業をしてると、そんな時間も中々取れないけどな」
「へえ~、落語ですか!渋くて良いですね」
そんな他愛のない話をしていると、目の前に紅茶が置かれた。「冷めないうちにどうぞ」と言われたので、二人はありがたくいただいた。
(おいしい)
流はシンプルにそう思った。ツナグの母親が入れてくれたのはニルギリという種類の紅茶である。少し口に含むと、中で柑橘類の甘い香りが鼻孔を吹き抜けるように広がっていく。ミルクも何も入れていないストレートティーだったが、紅茶特有のクセがなく飲みやすい。ターフに吹く風のように爽やかな紅茶だった。
美味しい紅茶を口にすれば、話も自然と盛り上がる。ツナグの母親も交えて、両親らやツナグの幼い頃の話。彼女が昔から負けず嫌いであることや、意外に繊細な面があること。他にも流の昔の話や、“英雄”との日々の裏話など、様々な話題で盛り上がった。
そうこうしている内に、あっという間に帰りの時間が来てしまう。足元でずっとゴロゴロしていた猫たちにも寂しそうな目を向けられたが、そこはグッとこらえて席を立った。
「じゃあね、お母さん。今日は用事で会えなかったけど、お父さんにもよろしく言っておいて」
「わかったわ。ツナグも頑張ってね。レースはお父さんと一緒に、必ず見に行くから」
ツナグはその言葉に「うん」と頷いて、店の外に出た。続いて流も別れの挨拶をしようとすると、母親に少し待ってくれと言われた。
「娘の担当が貴方になったと聞いた時、実は私、少し不安だったんです」
「まぁ、そうですよね。少し前の自分は、そりゃあ酷いもんでしたから」
以前までの抜け殻のような自分を思い出し、流は僅かに目を伏せた。
「でもあの子がレースで活躍する姿や、今日の二人の姿を見て思いました。あぁ、この人が娘の担当になってよかったと。そんな信頼できるトレーナーだからこそ、この事だけはお願いしておきたかったんです」
母親から告げられた、とある願い。それは一人の母親としてだけではなく、一人の
「わかりました。お母さまの願い、必ず守ります」
流は最後に深いお辞儀をして、ゆっくりと店を出た。外に出ると、睦月の澄んだ空に星々が瞬いている。
その輝きにも負けぬほどの光を放つ、ウマ娘たちの晴れ舞台「クラシック」。その足音は、徐々に近づき始めていた。
いよいよGWが始まります!自分もウマ娘たちの育成を進めながら執筆活動もしていくので、よければ読んでやってください(笑)
次回は4月30日に投稿予定です!