紅翼の絆~メゼポルタの異変と謎多き現象~   作:ソフィア・ラグナロク

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第1話「女性ハンターの治療を」

第1話「女性ハンターの治療を」

 

 観測拠点「エルガド」で騒然としていた最強のモンスターと言われる冥淵龍ガイアデルムを討伐したことで、ヒノエとミノトのいる「カムラの里」もまた平穏な日々が訪れていた。

 そんな最中に突如としてリオレウスに運ばれて姿を現した謎の多い女性ハンター。

 里長フゲンと、エルガドの提督ガレアスでどちらかがしばらく保護するか話があったが、怪異化モンスターの討伐任務もあり、簡潔に決断する事ができずにいた。

 メゼポルタにいた事のあるハンターの意見では、大陸に面するカムラの里の方がいいのではと。

 一方で研究員のバハリはその女性にとても興味を持ち、そして今後の新種モンスターの事が聞けるのではと思い即決しなかった。

 

 里長フゲン、そして提督ガレアスは、どちらも迎え入れるつもりではいた。

 判断が難しいなかで王国騎士フィオレーネは中立的な意見を述べた。

 

「私としては、彼女はカムラの里でも観測拠点エルガドでも、どちらもさほど居心地が変わらないでしょう。

 ですが、おそらくしばらく海から離れ、治療を専念する事を優先順位につけるのであれば、カムラの里が最適なのではないでしょうか」

 

 観測拠点エルガドのテントの手前で、提督ガレアス、里長フゲン、そして研究員バハリと、ヒノエとミノトの5人の前で言う。

 バハリだけは納得していない様子だが、他は納得して頷いていた。

 

「反対意見になるかもしれませんが……。

 研究ができるかもしれないと思ってはいるのですが、新種を調査する事を配慮し、マスターランクのハンターの行き来が多いこの拠点の方がいいのではと思いますが」

「それはあくまでも個人的な都合だろう。彼女が命を落としてしまったら私達の責任でもある。

 故に、どちらも一丸となって協力するのが妥当。しかし、さきほどと同様に、今は海から離れるべきかと思われます」

「彼女の傷の主は相当なモンスターだろう」と里長フゲンが意見した。

「我々にとっても、彼女の救助は重要任務であるな」と提督ガレアスも続いた。

 

 研究員バハリはこれ以上は言えなくなった。

 しかし、研究員として身の引けないバハリはどうしても研究がしたくてたまらない。

 

「では、提督。私がカムラの里に滞在しながら調査をしてもよろしいですか?」

「なぜ救助を優先せずに、調査をしなければならない?」

「お言葉ですが提督。ハンターにとってもこの事件は一大事でございます。

 ひとりの救助を優先して、もしも新種モンスターの備えができず、ここエルガドだけでなく、カムラの里にも被害が出ましたらどうなさるおつもりですか?」

「……うむ。そうとも言えるな」

 

 賛同していたフゲンだったが、その意見にフィオレーネも強く言えなくなった。

 

「さらにです。ガイアデルムよりも危険モンスターがいるとした場合、早急な対応が必要となります。

 ですから、ひとりの人命と、多くの人命を優先するべきか、お分かりになりますよね?」

「……………」

 

 沈黙が少し流れた。

 そうこう話ている間にも、彼女の容態が急変したら元も子もない。

 さきに沈黙を破ったのはヒノエだった。

 

「里長。提督ガレアス。私とミノトで、ハンター様をお助けしてはダメでしょうか?」

「私も同じことを考えていました。それに、カムラの里には百竜夜行に備えた防衛設備もございます。

 ですので、提督ガレアス様。フィオレーネさん、そしてバハリさんも。ご理解をお願い申し上げます」

「……なるほど。バハリ、良いか?」

 

 バハリにとっては研究の事で頭がいっぱいなのだろう。けれど多くのハンターの手助けになるかもしれないという考えは、確かに間違っていない考えだ。

 ヒノエとミノトのふたりが彼女にとって支えになることも確かなこと。

 どっちが最適か、迷った。

 そうこうして考えて迷っているところを、フィオレーネが助言してきた。

 

「バハリ。一刻の猶予もないのかもしれないんだぞ。研究はここでも出来るだろう?

 伝達もできるはずだ。だから、ここはヒノエさんとミノトさんにお願いをしよう」

「フィオレーネ殿もそう仰るのであれば、私は……。いいえ、なんでもございません。

 いち個人の考えで皆さまと怪我人の介護を優先できない考えを持てず、至らない発言をしてしまい申し訳ございません」

「バハリの意見も間違ってはいないぞ。

 ヒノエさん、ミノトさん、何か異変や彼女に関わる事や、ハンター達にとって必要不可欠となる情報を聞けましたら、私達にもご連絡をお願いします」

「かしこまりました、フィオレーネ様。里長。そして、バハリ様。私達、ヒノエ姉様と共に、これからの責務を全うしていきます。

 ご理解を頂き誠にありがとうございます」

「構わない。では、これからは忙しくなるな、バハリ、そして提督!」

「あぁ。ハンターにもそう伝えよう。

 ガイアデルム討伐後、しばしの休息を取れたが、油断禁物であろう。多くの薬草と秘薬に必要になる物を集め、未知のモンスターとの遭遇に備えよう」

「かしこまりました!」

 

 この間にちらちらと様子を見ていた小柄の受付嬢チッチェが、話が解決できた事を把握できて入ってきた。

 

「提督! フィオレーネさんとバハリさん。

 さきほどのハンターさんにお聞きしたのですが、カムラの里の方がいいと仰っていました。とても弱っておりますので、早い出港の準備をしましょう!」

「……さぁ、急ぐぞ!」

 

 そうこうして、カムラの里に急ぎ帰還する事となった。

 受付周辺にいたハンター達もまた、どっちに分かれるかで少し考えいたようだったが、メゼポルタに戻る考えを辞めて、海辺で一緒にいた4人もまたカムラの里に行く事を決めたのである。

 少女と少年とはしばしばの別れとなるが、また再会できるだろうと思った。

 

 早く帰還するよう総勢で取り掛かり、カムラの里と観測拠点エルガドのそれぞれの元へと、元にいた場所へと戻っていくことになった。

 

 

 

 

 

 

 とても弱っている女性ハンターはそうとは知らず、カムラの里の拠点のベッドで横になってうなされていた。

 脳裏によぎる恐怖のモンスターが離れない。

 姿は思い出せないが、大型拠点メゼポルタで培ってきた技量であってもかなわない相手であった。

 そんなモンスターの口が鋭い牙をこちらへと向けて、顔をかみ砕こうと剥き出し――。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ヒノエが優しく声をかけてくれて、女性ハンターはほっとして現実に戻って目を覚ました。

 

「……とても、怖くて。もう、皆とは……っ。っ!!!」

 

 そっと抱きしめると、女性ハンターが声をあげて泣き始めた。

 今までたまっていた不安や恐怖が蘇り、心をコントロールする事ができなくなった様子。

 ミノトがそっとそばに寄ってきて、軽食を差し出してくる。

 

「大変辛かったのですね。でもまずは、これを食べて落ち着きましょう。

 向こうでは、皆さんとは惜別されたのかもしれませんが、またお会いできる事を待っているのかもしれません。

 心が落ち着いたら、食べてください。ヒノエ姉様。私はハンター様のクエストのお手伝いに戻ります」

「わかりました。私に任せてください」

 

 ぺこりと頭を下げるミノト。

 足元では不安がるアイルーとガルクがいて、入り口では4人のハンターが顔を覗かせていた。

 今はダメですね。と、首をふるヒノエ。

 その様子を察して4人のハンターは去っていった。

 

 それから何分か経ち、女性ハンターはようやく落ち着いて、まずは空かせているお腹を満たすようにおにぎりをゆっくりと食べて、途中で水を飲んで、ゆっくり呼吸をする。

 ヒノエはというと、アイルーとガルクに外でゆっくりするようにと伝えて、ハンターの隣にそっと寄り添う。

 

 

 食事が終わるタイミングで、ヒノエは食器を片付けながら話をし始めた。

 

「そういえば、お名前を聞いていませんでした。お名前は……?」

「私はキャロル。さきほどは、取り乱してしまいました。こんな私を助けて頂き、ありがとうございます」

「いえいえ。お身体の方はどうですか?」

「やっぱり背中が痛いですね。けど、何日眠っていたのかわからないけど、海に落ちた時よりは、だいぶ楽になれました」

「そうですか。それはなによりでございます」

 

 食器を片付けて、女性ハンター・キャロルの横に座り改めて挨拶をすることにした。

 

「私はヒノエでございます」

「ヒノエさん。素敵な名前ですね。えっと、失礼でしたらすみません。竜人族……ですか?」

「さようでございます」

「竜人族のことは聞いていたのですが、初めてお話します。メゼポルタではあまり話す機会とかなかったし、それに……、女性の方は初めて見ますね」

「メゼポルタとは、どのような場所なのでしょうか?」

「えぇ、っと……」

 

 メゼポルタは、ここから遠く離れていると思われる。

 リオレウスが運んでくれたことから、かなりの距離ではないのかもしれないが。

 大型拠点メゼポルタは、100人ほどのハンターが行き来する拠点でもあり集会所でもある。

 円形で中央に受付嬢が複数人いて、カムラの里や観測拠点エルガドよりもはるかに広い。

 そんなメゼポルタ広場の入り口から右に、パローネ・キャラバンへ行く事ができる。いつものクエストとは違い、超大型モンスターであるラヴィエンテを最大32人で狩猟する事もできる。

 また、海に面するパローネ・キャラバンはエルガドと似通った所はあるが、武具攻防などはない。

 メゼポルタ広場から左に進むとマイハウスに進み、マイトレにいって複数のアイルーと商談をする事もある。

 いわばメゼポルタ広場は大勢が利用できるように作られた大型の拠点で、規模も全然違うのである。

 

 マイハウスやマイトレは、ここ、カムラの里のマイルームと同じように、ハンターが共用して利用できるようになっている。

 アイテムなどは個々で管理するようになっていて、ハンター専用の装備ボックスなどは実際には、拠点近くにある村や、メゼポルタなら隣接する街などに、ハンターの暮らす家などがあるようになっているのである。

 村・町はカムラの里とも共通しているけど、規模はやはり違うので、ヒノエとキャロルにとっては未知な話でもある。

 

 その事を聞いたヒノエは大変驚いた。

 カムラの里とはスケールが違う事。パローネ・キャラバンも気になるが、とくにラヴィエンテを32人で狩猟することに特に驚いていた。

 

「ラヴィエンテはかなり大きいのでしょうね」

「はい。それにラヴィエンテの猛狂期はかなり苦戦を強いられるので、装備を完全に整えてからでないと討伐できないほどです」

「そのようなラヴィエンテをも倒すハンター様でも、勝てないモンスターを相手で……、ここまで来られたのですか?」

 

 唐突なヒノエの質問に、答えられなくなるキャロル。

 その事を感じ取って、いまの質問を撤回するようにした。

 

「大変申し訳ありません。あっ、そういえば、薬を新しく塗らないといけませんわ。

 包帯を取ってもよろしいでしょうか?」

「……お願いします」

 

 妙な空気の流れになってしまったが、そろそろ薬の効果が薄れる頃になっていた。

 昼頃くらいになると、ハンターと共にアイルー達が狩猟や採集してきた魚や肉を捌き始める。

 午前中に狩猟にいったハンターが戻ってくる頃に昼食を用意する。そしてまた午後も狩猟にいけるように、多くのハンターは力をつけて再び出かけるのだ。

 

 薬と包帯を変えて、ヒノエはキャロルを村に案内しようとした。

 帰ってきたハンター達が挨拶してきては、小話もしてくる。

 今日は十数人ほどおり、いつもと変わらない。

 新参者のキャロルにとっては知らない拠点、景色で驚く事が多い。

 

 共用のマイルームから出てすぐの所で、山々に囲まれた拠点の様子に気が付いた。

 

「海沿いでは、ないんですね」

「はい。ここ、カムラの里は、山間部の川沿いに面した場所に拠点を構えています」

「メゼポルタとは全く違いますね」

 

「メゼポルタ、だって?」

 

 キャロルの発言に反応したハンターがいた。

 

「君が例の、噂の?」

「キャロル様です。メゼポルタにかつていたそうです」

「じゃあ、もしかしてラヴィエンテも討伐したのか!?」

「何体か……」

「すげぇ。あのエスピナスだけでも俺達は苦戦するのに」

「エスピナス? こっちにもいるんですね」

「亜種も凄く強いよな」と別のハンターが割って入ってきた。

 

 メゼポルタとエスピナスの話で盛り上がり始めると、怪訝な顔をした女性ハンターが奥から姿を見せた。

 

「あんた達、暢気な話をしてる場合じゃないでしょ。里長のフゲン様に報告をしたの?」

「なんの?」

「いつもと違うエスピナスがいたじゃない」

「どうせ怪異化したやつだろ」

「アレは絶対に違う! 傀異化したら赤くなるのが基本でしょ」

 

 いつも変わらない様子……だったはずだが、妙な話を耳にしたヒノエは不安になり始めた。

 

「エスピナスは通常種が緑色、亜種が茶色と言われていますね。そのエスピナスは何色なのですか?」

「白。アレは絶対に別格な空気を感じたよ。狩猟後で帰還する時に、ちらっと見かけた程度。空を飛んでたわ」

「……希少種。四肢や胴体は白色だけど、棘には毒々しい毒色が特徴的です」

 

 キャロルが希少種の説明をすると、そのハンターは確信を得たのか、やっぱりかと声をもらした。

 

「希少種なんているのか」

「だから、ヤバいやつだって言ったじゃない」

「エスピナス希少種が現れた、と?」

「フゲン様!」

 

 数人のハンターが集まってきた事で、異変を感じたフゲンがいつもいる壇上から下りて話を聞きにきてくれていた。

 ヒノエはすかさずに状況の報告をした。

 

「キャロル様は大型拠点メゼポルタの出身でございます。さきほど討伐から帰還してきたハンターの中から、いつもと違う形相のエスピナスがいると仰り、キャロル様からの話ですと希少種の可能性があるそうです」

「ふむ。キャロル殿には聞きたい事がやまほどあるが、今は治療に専念を――」

「いいえ。私は一刻も早く、アイツを倒さないといけないのかもしれません」

 

 けど、怯えている。

 言葉ではそう言っているが、表情は崩れて、涙も自覚がないほどこぼれるくらいで。

 ヒノエはキャロルの手をとって優しく包んであげた。

 

「キャロル様。いまは落ち着いて、背中の傷を治しましょう」

「そうだよ。私達に出来る事があったら手伝います。キャロルさんの問題だけではないはずです」

「……なぁ、あいつらは?」

 

 急に妙な事に気が付いた男性ハンターが、周りを確認しながら言った。

 

「まさか!!!」

 

 ヒノエが慌てて集会所にいるミノトに駆け付けに行く。

 キャロルは胸騒ぎを覚えながら行き、フゲンは神妙な面持ちをしながらついてきてくれた。

 

「ミノト!!! あの方達はどこへ行ったのですか?!」

「どうしたのですか? ヒノエ姉様」

「セバスチャンとハミルトンはいつも一緒にクエストに行ってると聞くし、他に女性ハンターがふたりくらい同行してなかった!?」と女性ハンターが言う。

「セバスチャン様とハミルトン様、それと、美由紀様と香織様の4名で塔の秘境・エスピナス亜種の討伐は向かいました」

「希少種がもしかしたら――」

「私が行く!」

「ですがキャロル様! そのお怪我ではとても……」

「この傷のやつに比べたら、白ナスくらいどうってことない! 誰か装備を貸して!」

「悪いけど、俺達はマスターランクになったけどそんなにいい装備じゃない」

「当たらなければいいだけでしょ! そのハンマーと、そこのナルガクルガの防具をお借りしてもいいですか?」

 

 ただならぬ気配に、ハンマーのハイパーノヴァを男性ハンターが貸し出してくれた。

 ナルガクルガの防具を着るハンターはいぶかしげな表情をしたが、他のハンターが早くしろ! と表情をするものだから、女性ハンターが急いで脱いだ。

 

「言っとくけど、あんたのやってる事はギルド違反だからね?」と捨て台詞を吐く。

「回避性能のスキルを積んであるの?」

「あんた……。って、聞く耳ももたないか。そりゃそのくらい積んでるから!」

「ありがとう。誰か、塔の秘境に案内してくれる!?」

(ヒノエ)が行きます!」

「ありがとう!」

 

 ナルガクルガの装備と、白い鉱石系で特徴のあるハンマーのハイパーノヴァを背負った。その時、キャロルは痛い表情を見せた。

 一瞬うずくまったが、一刻の猶予もない今の状況では、痛いからと言ってはいられない。

 ヒノエはそんなキャロルに無理強いできないと思い、道中まではヒノエが武器を2つ手にする事にした。

 

「絶対に、助けるから。約束する」

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