友は、魔王   作:圧倒的遅筆野郎

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約束

──僕はあの時、孤独になるのが怖かった。

 

寂しさが心を全部覆いつくして、別れが景色を曇らせて、約束以外覚えてなかった。

 

あの後は泣いて、泣いて、とにかく泣き続けて。

力の限り泣き続けて、眠りについた筈。

 

 

 

そして幾日か過ぎた夜、僕はハイラルに戻っていた。

 

「此度の働き、誠にご苦労」

お父さんに連れられ、国王のいる謁見の間に来た。

僕にとってハイラル城は馴染み深い場所、それこそ生まれてからずっと。

 

近衛兵を背後に控えた王様とお父さんが長々しい挨拶を終えて僕の方を見る。

 

「君にとって、次期ゲルドの王はどれ程の人間だったかな?」

きっと大事な質問なのだろう、王様の雰囲気はどことなく張りつめていた。

「えぇと、文武を極め、偽る事を嫌い、義を重んじる良き友──そう、だと思います、はい」

だんだんと尻すぼみになる口調が憎らしい。

王様と顔を合わせるのも怖いと感じるくらいに緊張して、それでも一番大切な言葉を口に出す。

「……僕の初めての親友です」

「そうか」

王様が微笑んだ様に僕には見えた。

 

そこからは人払いをされた謁見の間に三人だけが残された。

王様も目の前まで来ていた。

恰好を崩した大人たちは寛いでいた、僕はまだ王様の仕事の時が怖くて慣れないのにぃ…

穏やかな笑みを絶やす事無く、王様は続けて質問を重ねる。

「寂しいか?」

「はい」

 

「新しく学べたか?」

「はい」

 

「良い事だ。これからも研鑽し続けなさい」

背中に手をまわして、王様は優しい声で言ってくれた。

 

王様は水を一気に飲み干すとお父さんに向き直って

「…やっぱりお前の子は良く出来てるよ」

そう言っていた。

僕にはそれが一番の褒美だった。

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

 

 

夜光石が淡く光る頃の帰り道

 

「ねぇねぇおとーさん」

──僕もガノンみたいに武術と勉強、どっちもできるようになりたい。

僕にとって追いつくべき目標にガノンはなった。

 

「良いとも。帰ったらお母さんに報告だな」

「詳しいことは食べながら考えよーね」

約束を果たす為に。

僕は何でも出来る様にならなくちゃ。

「あとねー、家族三人で寝ていい?」

「いっつも誰かさんに顔殴られるからなぁ」

「それは寝相だもん」

抗議の意味を込めて頬を膨らますけど、指で潰されて間抜けな音が上がった。

 

──

 

「ただいまー」

僕は靴を脱ぎ散らかしてお母さんのお腹に突っ込んでみた。

突っ込んできた僕をお母さんはガッシリと捕まえ、持ち上げてから一言。

「お帰りなさーい」

ハイラルに帰ってくる度に僕はこうしている、こうすると帰ってこれた実感が湧くから。

 

食事*1中、さっきお父さんに伝えた内容をお母さんに話してみた。

難しい顔をして、お母さんは聞いていた。

「──それで、ガノンドロフ様に憧れた、と。

後悔しない?武術は今までからっきしだったじゃない」

咀嚼するように相槌を打ってから、お母さんは僕に尋ねた。

答えはもう決まっているのだ。

「やるもん」

「諦めない?」

「やる」

「必ず何かの武術には秀でてもらうわよ?」

「出来るもん」

瞬き一つ挟まずにお母さんの目を覗き込む。

「教えてあげる。何を習得したいか決まったら教えて頂戴」

──ビシバシ鍛えてあげるから。

 

何でか知らないけどお父さんが竦み上がっていた。

 

「おとーさんも勉強教えてね?」

「お母さんよりは優しいに教えて欲しいかい?」

「うん」

 

 

 

 

 

──────────

 

 

 

母が将軍、父は官吏のその子供はハイラル王国の規範となる為に熱心に物事に取り組んだ。

武術への苦手意識は変わることはなく近接戦闘はからっきしだが、乗馬した上での射撃はハイラル一と評判の腕前となった。

学問は慎重さと打たれ強さを齎し、常に人に耳を傾けさせる姿勢を創り上げた。

 

その実力と評判はハイラル国王の知る所になり、齢17にして文官として登用された。

 

『──貴殿の実力と評判は、ハイラルの至る所から聞こえてくる程の物であり、その力を我が王国で存分に振って欲しい』

就任式の国王の問いにも、嘗ての様に動じる事も無くなって、ただ一言『はい』とだけ返す。

以前とは違って両親に甘える事も無くなり、父は泣いた。

それはもう、三日三晩ほど泣いた。

そして母に強制的に(気絶)眠りの世界に赴任させられる程には。

 

官吏としての仕事は自分の想像していた仕事と思いもよらない仕事の半々だった。

どちらかというとあらゆる面での雑用に近く、母に扱き回される鍛錬とはまた違った疲れがあった。

それでも充実していたと言える。

 

大臣の気紛れに付き合わされたり、

定期的に治安を乱す魔物の調査に参加させられたり、

父と国王陛下の雑談に混ぜて貰ったり、

とにかく色々な事を経験した。

 

 

 

──当時のハイラル王国は地理的に分断されていた為か、後に厄災によって壊滅させられる最盛期に比べ規模は小さかったとされる。

ハテール地域などは殆ど全く手つかずであり、アッカラ地方の港だけが唯一、他大陸国家との玄関口であった。

治水技術は未だ未熟な当時、度々洪水が発生し、その度にハイラル王国は余剰労働力を地方開発に傾ける事としてきた。

 

 

 

「具体的な治水計画が未だに出てこないのが大変な所ですよね」

ピリピリハーブ茶を淹れて大臣を出迎える。

「いっそゾーラ族を頼れば宜しいのでは?」

ゾーラ族とはかつてハイラル王国が建国されるより昔の戦争以来、関係は微妙だった。

ゾーラ族は長寿なこともあり、ハイラル人との戦争の記憶と不信は簡単に風化など期待できる筈が無かった。

 

「しかしな、君だってツテがある訳じゃないだろう?

どういう理屈をつけるんだい」

「やはり貿易でしょうかね?」

大臣は更に問いを投げかける。

「ハイラル嫌いが高じていたらどうする?」

「ゲルドの品物を売りましょう」

ほう、大臣が椅子から乗り出して食いつく。

 

「ハイラル王国は周辺の勢力の中央に位置しているのです、ならばこそ国力を整え、中継拠点として振る舞うべきなのです。

まずは川を治める彼らと友好を深めましょう。シーカー族に仲立ちを依頼すれば良いかと」

「堤防や溜め池を設けることも可能、か。」

「何より水に詳しいゾーラ族のことです、更なる効率化が望めるのではないかなーと」

よく言ってくれた、そう呵々と笑う大臣。

 

都仕えも40年、いろいろな課題にこたえてきた大臣であったが、何時まで経っても解決しない問題の糸口がようやく見えてきた。

初めは眼前の奴を信じて良いのか不安だった。

父は官吏、母は将軍、何より国王陛下と家族ぐるみで仲が良い──つまりコネだけは優秀だと、そう疑っていた。

実際はどうか?こやつは確り働いてくれる。茶の淹れ方も凄く良い。

何より目が輝いている。自分の孫のようにも感じてしまう。

 

「お前が孫だったらなぁ」

「とんでもない、大臣の顔に泥を塗ってしまいますよ」

大臣は日頃の鋭さのある目ではなく、柔らかい目で談笑に興じていました。

 

ハイラル王国への忠誠を誓う部下への全幅の信頼がそうさせたのです。

 

 

 

──────

 

 

 

中央ハイラルは他地方と比べ肥沃な大地であり、それが災いし長きにわたる戦乱を経験し続けてきた。

そしてその歴史の中で失われてきた信仰や技術が存在したとされている。

しかし唯一歪む事無く人から人へ伝えられた伝承がある。

女神と対になる魔王の長き因縁の歴史──王朝交代が何度も発生している中、必ずハイラルを初めに統一した王朝の血が流れ込む程には。

そして女神と魔王の因縁今なお続いていると言われている。

 

──その伝説を軽んじる者は実際の所多かった、何故なら伝承が記録と記憶になった事が無いのだから、経験していないのだから。

そして何より、その伝説は遥か遠い過去の物語、受け継がれているのが奇跡といえるものだった。

ハイラル王国ではその伝説の劇や物語も存在し、祭りや儀式も存在する。

 

 

 

「陛下、顔色が優れない様ですがどうかされたのですか?」

 

決断力と胆力に優れる国王は躊躇いがちにこう告げた。

「ふむ、いやな。この宮殿に賢者の末裔がいるだろう?」

 

「はい」

余りに限られた内容故に不思議そうにオウム返しをするだけに留めた。

 

「そやつがな。魔王の復活を予言してきたのだ。

伝説ならば魔王は退魔の剣と姫巫女の力で撃退しなければならん。

だがな、あまりに知らぬ事が多すぎる」

頼む──ハイラルの民を誰よりも思っての言葉。

 

ハイラルの為にも、国王陛下の為にも。

「謹んでお受けいたします。大勢の助力を得て、必ずや魔王を打ち負かす一助になりましょう。陛下」

 

ガノンと交わした約束を果たす為にもやらねばなるまい。

例えその伝説がどれほど非現実的であっても──

魔王を撃破して、豊かなハイラルを作るのだから。

 

そう決意を新たにして、私は退室した。

予言が事実ならば、やるべき事はたくさんある。

 

 

 

「もう王様、と呼んでくれぬのか、寂しいなぁ」

私が退室したあと、国王陛下の声が木霊した。

 

──────────

 

──ガノンドロフへ

君の話はこの遠いハイラルにも聞こえてくるよ。

モルドラジークを単独で狩るとか、各地の神殿への保護とか、凄いよ。

やっぱりまだまだ追いつけそうにないや。

 

そうだ服も送ったよ、きっと気に入ると思う。

何故なら僕が選んだからね!

カラカラバザールで食べたビリビリフルーツ、あれをまた一緒に食べたいね。

 

 

──

────

──────

 

──────────

 

静謐な空間である廊下で父を見つけた。

事情を説明し、腕に抱く資料を一部手渡してお願いすると快く答えてくれた。

 

「魔王と女神ねぇ…神話の時代なんて読み聞かせ程度の認識だぞ」

父はいつも通り、頭を搔きまわして思考を組み立て始める。

 

「インパ殿を通してシーカー族の手も借りよう。吟遊詩人達だって立派な情報源だ」

 

インパ…インパ…あ、あの乳母の方だ。

インパと言う方はシーカー族出身で、本来は執政補佐官になりえたかもしれない人。

今年、陛下のお子が生まれる筈で、その乳母に任ぜられた方だ。

いつかお会いしてみたいな、とは思っていた人。

 

「インパ殿にあった事ないんですよね。一緒に行っても良いですか?」

 

「良いとも。仕事上欠かせないだろう?」

*1
偶に微妙な料理が出てくるちょっとした恐怖の時間




題名は決まっていないので変わるかもしれません()
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