よくあるテンプレの話 作:るるぶ
「あ、起きたんだ」
全く状況が把握できない。
「漫画の様にはいかないのね、残念」
口ではこう言っているが、彼女の表情にそれを感じさせる要素は全くと言って良いほどない。むしろ、俺が起きるのを望んでいた節すら感じられる。
「何をしてるんだアイ」
この状況を彼女に問いただす。すると、完全に予想外の言葉が彼女の口から飛び出した。
「グレンと子供を作ろうと思って」
何を言ってるんだ、全く理解が追いつかない。
彼女の言葉を俺の脳が受け止めるのに時間を要した。
"子供を作ろうと思って"だと?
本当に突然、何を言ってるんだ。
「グレンと子供を作るの」
”どうして”その問いだけが俺の思考を埋め尽くすが、言葉にできない。
この状況がいつもと違うという確信めいた感覚が俺を支配する。
「だって、今日、女の子と二人でいたでしょ」
彼女の目に浮かぶ星が黒く染まるのを感じる。
この一言で、何故このような行為に彼女が及んだのか納得がいく。
あの時感じた視線はアイのものだったのかと納得がいき、同時に内心で愚痴る。
なんてタイミングの悪い。
喉からなんとか言葉を絞り出して彼女に弁明する。
「いや、あれはたまたまで、四人で遊んでたんだよ」
弁明といっても、これは明らかな事実だ。ラインでのやり取りの履歴もある。
だから、彼女の誤解を解くのは容易いと、どこか縋るような思いで考えていたが、彼女の次の返答で全てが打ち砕かれた。
「嘘だ」
彼女はハッキリと断言した様に、俺の瞳を見つめて返す。
「嘘じゃない。あいつらはただのクラスメイトで、たまたま二人っきりになった瞬間があっただけなんだ」
ここで、黙っては不味いと考え、負けじと俺もハッキリと彼女の目を見つめて返す。
「本当は付き合ってるんじゃないの」
まるで、浮気した夫を問い詰めるようにして彼女は俺に訪ねる。
「そんなわけないだろう」
必死に彼女に弁明するが、
「嘘だ!!!!」
彼女の声が部屋中に反響する程響き渡る。明らかにいつもと違う。一体何が彼女をここまで追い詰めたのか。ここまで彼女が暴走している原因が他にあるはずだと必死に思考を回していると、彼女から、さらに予想外の言葉が飛び出した。
「私はね、グレンが好き、愛してる」
その一言で、俺が先ほどまで考えていたことの全てが消え去った。
”おれをあいしてる?”本当に何を言って...。
「グレンはどうなの?」
彼女は俺に問いただす。
「それは....」
その問いに、言葉が詰まる。
ハッキリと伝えられたらどんなに楽だろう。苦悩が俺の心を覆う。
だが、理性がそれを許さない。かつての業が、自らの過去が、俺にその決断を許さない。
俺は彼女のその想いに答えるわけにはいかない。
「ほら、グレンはそうやって答えてくれない」
彼女は少し目線を下げ、悲しそうな、今にも消えそうな声で答える。
「本当はずっと気づいてたんでしょ。私がグレンのこと好きだってこと」
俺は彼女から無意識に目を背けてしまう。
「なのに、グレンは突き放すこともせず、寧ろ曖昧な態度を取り続けて、私を焦らしてくる」
─ああ、その通りだ。俺はお前の気持ちになどとうの昔に気づいていた。その気持ちの答える気が無いくせに、お前といる時間が心地よくて、捨てられなかった。
「なんで、なの?」
彼女の悲痛な声が俺の心に反響する。
「私を愛してよグレン」
彼女の言葉を俺は拒絶する。
「それだけは、それだけはダメなんだ」
俺の返答で、場に静寂が訪れる。月が雲に隠れたのか、部屋が暗くなる。どれだけの時間が経過したのだろうか、彼女はようやく口を開いた。
「グレンはいつもそう。私が察してるのを良いことに、一度だって理由も何も話してくれたことなんてない」
今にも泣きそうな声で、崩れ落ちそうな声で、彼女は言う。
その事が俺の心に深い傷を作る。俺だって、アイを傷つけたい訳ではない。彼女の幸福を、幸せを願っているからこそ...。
「グレンは本当は私の事嫌いなんだね....」
その一言が、必死に堪えていた俺の心を引き裂き、中身があふれ出した。
「違う!そうじゃないんだ!!」
さっきまで口を開くのがやっとだったはずなのに、今は俺の意思とは無関係に次々と想いを吐き出していく。
「俺には人を愛せない!!愛しちゃいけないんだ!」
俺の理性を無視して、心が暴れ出す。
「俺を愛してくれた人達は、俺が愛してた人達は全員死んだ!」
俺は発狂するように彼女に伝える。きっと彼女は今、混乱しているだろう。俺が何を言っているのか理解出来ないはずだ。
それでも、彼女は何も言わずに俺の言葉を受け止める。
「全部俺が悪いんだ、俺が愛してしまったから、みんなは不幸になった」
そうだ、俺がかつての家族を、彼女を、あいつらを殺したんだ。
俺が愛さなければ、みんな不幸な目に遭わずに済んだんだ。
「俺は呪われているんだ...。そんな俺が、お前のことを愛してしまったら、アイまで不幸になってしまう」
そう、彼女だけは不幸にしたくない。
「嫌なんだ、あんな思いは、もう嫌なんだよ...」
彼の心は崩れ落ちる。まるで迷子になった幼児のようにその場にうずくまる。
「──アイにだけは、幸せになって欲しいんだ」
これが彼の本心、今世で抱いた望み。
たったひとつの願い。
彼の言葉から、数刻経ってからようやく彼女が言葉を発した。
「そっか、グレンは自分の意思で誰かを愛することを恐れているんだ」
そうだ、俺は自らの意思で誰かを愛してしまう事が怖い。
俺が愛したいと思った人たちは、愛してしまった人たちはみんな死んでしまった。
俺は呪われている。
俺が愛すると言う事は、不幸になると言う事なんだ。
「ならさ、騙されてよ」
何を言って、
「グレンは私を愛さなくていい」
一体何を言って、
「グレンが愛することで私が呪われるというなら」
「私の嘘に騙されてよ」
「グレンは私の嘘に騙されているだけ」
「それなら大丈夫でしょ?」
そんなの詭弁だ、子供騙しにすらならない。単なる言い訳でしかない。
「あなたは嘘で私を愛す。それなら、何の問題もない」
良いのか
「良いんだよ。だって、あなたは私に騙されただけ。」
「これは嘘の関係。それなら大丈夫だよね」
騙されても良いのか
「だから、私を愛して」
「私もあなたを愛すから」
窓から月の光が二人を照らす。アイの輝く星を宿した瞳が、俺を捕らえて放さない。
先ほどとは違い、まるで舞台の上に立っている時の彼女のような雰囲気を身に纏っている。
嘘の愛で、ファンを騙す。
そうだ、俺は彼女のその嘘に惚れたんだ。
彼女の嘘は優しい。
彼女がアイドルになってから、その印象はさらに強くなった。
誰かを陥れるためではない、誰かを喜ばすための嘘。
世界で一番優しい嘘つき。
──そんな奴に騙されたならしょうがないよな。
免罪符を手に入れてしまったらもう止まらない。なんで俺は単純なんだろう。こんな子供騙しの様な言葉で、今まで塞き止めていたものが全て溢れ出て来た。
誰かと一緒にいたい。
誰かと繋がりたい。
誰かの温もりを感じていたい。
アイと一緒にいたい──。
「グレン、愛してる」
彼女の告白に俺は言葉で返さなかった。
その代わり、お互いの唇が重なる。
その後の事は、二人だけの秘密。
第二部完結
質問コーナー
Q.主人公の前世がよくわかりません。
A.いつか番外編で書こうとは思いますが、簡単に言うと、前世で主人公と親しい人物は全員死んでいます。神の意志に似たものが働いているとしか思えないほど理不尽の連続でした。結果、自分のせいでみんな死んだと考えていました。
Q.呪われているんですか?
A.いいえ、超絶に運が悪かっただけです。
Q.なんでアイを早期の段階で拒絶しなかったのですか?
A.前世の主人公の妹に似ていたからです。
Q.主人公が受け入れた理屈がわからないです。
A.まず、前提として、主人公はアイのことが好きです。そうならないように、その心が本物にならないように必死に押さえています。しかし、アイがアイドルとして嘘の愛をファンに向けたように、「私に騙されて、嘘の愛を向けてよ。本音でないなら大丈夫でしょ」という提案をしました。本編でも述べたように、これは単なる言い訳です。ですが、主人公にとって、言い訳こそが最も必要でした。
Q.この後どうなったんですか?
A.私の想像では、大人ムーブかまそうとしたアイがグレンのテクに敗北してますね。グレン君は前世でこなれてますから...。
Q.未来視要素いる?
A.いります。今後役に立ちます。