月夜に舞う恋桜。   作:猫飲料

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入学式【原作開始2年前】

 みなさんは【絆きらめく恋いろは】と言うゲームを知っているだろうか。

 

 【絆きらめく恋いろは】は美少女ゲームブランド【CRYSTALiA】(クリスタリア)の処女作であり、処女作ながら萌えゲーアワードで金賞を受賞し、後にコンシューマ版も発売された人気作だ。

 

 この作品は、とある理由で刀が打てない刀鍛冶、叢雲学園技巧科2年生の主人公、三城刀輝が三城家の守護神、綾瀬と出会いを切っ掛けに、学園の友人達と共に、真剣を用いて戦うスポーツ【刃道】、その刃道の学生大会、【叢雲演武祭】に関わり、絆を深める物語である。

 

 そんな【絆きらめく恋いろは】の世界に私、片倉朔夜は転生した。

 

 転生に気付いたのは本作、【きらめく恋いろは】、通称【めくいろ】のシリーズ作品、主人公の刀輝の物語が始まる、十数年前の叢雲学園が舞台の物語、【紅月ゆれる恋あかり】。そしてその作品のヒロイン、朱雀院紅葉と風嶺雪月花が演武祭決勝戦で戦っている最中、紅葉選手が雪月花選手に必殺技を放ち、優勝を掴む瞬間だった。

 

 記憶を思い出し、ここがめくいろの世界だと気付いた時、私は驚きと嬉しさの余り、絶叫した。一緒に観戦しに来ていたお姉ちゃんが驚いた表情で私を見ていたのを鮮明に覚えている。

 

 前世の私は病弱で、生まれてからずっと入退院を繰り返し、病弱なので外で遊ぶのは以ての外、家の中や病院で本を読んだり、動画を見て過ごす毎日だった。

 

 そんな中、18歳になったお祝いに前世の兄がお祝いにめいくろをプレゼントしてくれた。

 

 パッケージを見て一目でエロゲだと分かった。なんでこんな物をと思いながら、折角兄がプレゼントしてくれたんだからとプレイした。

 

 めくいろでは武芸科の後輩、藍原しおんと関わり、刀輝が刀を打てなくなった理由が分かるシオンルート。

 

 技巧科の後輩、留学生のフリージア・ゴッドスピードと関わり、刃道の叢雲演武祭について、そしてその演武祭で優勝した選手が賜る【刀仕禰宜】(とうじねぎ)とそのパートナー、刀鍛冶兼介在人、選手の刀を作った人物が賜る【齋正】(さいしょう)と言う称号について分かる通称シアルート。

 

 武芸科の先輩、学園最強の朱雀院椿と関わり、叢雲演武祭の介在人や演武祭3連覇を狙う椿と朱雀院家のしがらみや苦悩が分かる椿ルート。

 

 そしてその全てルートを回収する事で現れる、全ての内容を踏襲し、椿の姉、三女の朱雀院都子がラスボスの上和泉桜夜ルートの4つが有る。

 

 その中で私が最初にプレイしたのが椿ルートだった。その椿ルートで私は、このめくいろの世界……椿に恋をした。

 

 椿は戦国時代から続く武家、朱雀院家の四姉妹の四女だ。朱雀院家は独立独行、刀鍛冶から剣士までの全てを1人で行う事を宿命とされた家系で同時に戦いに負ける事は許されない家系でもある。そんな中、椿は学園最強と言われつつも、他3人の姉達に比べると才能が劣っており、才能が足りない事をコンプレックスに思っている。

 

 そんな中、椿ルートでの椿は、全ルート共通だが姉達が全員が叢雲演武祭で3連覇している。椿も3連覇以外許されない状況の中、準決勝でオリガミ、めくいろの世界の刃道で使われている特別性の刀を折られつつも勝利を掴む。しかし、本家、椿の父親はその戦いを哀れだ、朱雀院の剣ではないと突きは無し椿は絶望してしまう。しかし主人公の刀輝が椿の支えになり、彼女のオリガミを修復して、サポートを行い、オリガミを折った相手にリベンジして勝利、その後に決勝に挑み、優勝して3連覇を達成するのだ。

 

 その中で私は、刀輝が椿に告白して椿が、私もあなたが好き。と泣きながら思いに答えるスチル、刀輝が復活させた新たなオリガミ、ヒノトリを両手に持ち双刃を掲げるスチルにとても感動した。多分、当時の病弱な私には、普通の恋愛や好きな人に抱く、少しエッチな悶々とした感情がとても縁遠いものだったから余計にそう感じたのかもしれない。そして全ルートを1周した私は椿ルートをひたすら周回、椿がメインヒロインのアペンド作品【絆きらめく恋いろは 椿恋歌】、椿と刀輝が卒業した後に同棲している日常作品【絆きらめく恋いろはSS 朱雀院椿とワンルーム】もプレイして全てに感動、共感した。その事を兄に話したらシリーズ作品、そして世界観を同じにする体をサイボーグ化した主人公がとある島国で活躍するレッドチェリッシュ、そのシリーズ作品を購入して遊ばせてくれた。

 

 私の病気が悪化して死ぬまでの3年間、ひたすら、沼に引きずり込んだ兄がドン引くくらい沼にハマった。兄には感謝しかない。

 

 話は戻るがそんな私の大好きなめくいろの世界に転生したのだ。しかも私が2番目、3番目に大好きな朱雀院紅葉と風嶺雪月花が【紅月ゆれる恋あかり】、通称【ゆれあか】の本編の演武祭決勝戦の最中に記憶が戻り転生した事に気付いたのだ。これが騒がない訳が無い。流石に、やった転生した! と叫んだりはしなかったけど。

 

 そして今日現在、めくいろの本編が始まる前の2年前の4月7日。私は叢雲学園の入学式に参加している。

 

 叢雲学園は日本で唯一刃道を学べる専門の学園で、私は学園の中で武芸科に所属することになる。武芸科は日本の中でもトップクラスに剣術の出来る学生が揃っている。そもそも武芸科は精神感応係数と呼ばれる触媒を用いて精神の力を物理現象に変換する数値が一定ライン無いと入学の資格すらない。そしてその数値の大きさは才能に直結する。つまり私は、その狭き門を通り抜け、入学を果たしたエリートという事なる。

 

 転生して、転生に気付いてから十数年、ついに叢雲学園に入学して本編の姿に近いナマ椿しゃんを拝める。そして今世こそ普通の女の子がするような普通の恋を!!!

 

「おい、入学式に集中しろ……」

 

「うるさいわね……してるわよ」

 

 これからやりたい事を思い浮かべながら頬を緩めていると隣に座る黒髪の少年に注意された。この少年は伊達政雪、私の許婚だ。

 

 記憶が戻り、今世でこそ自由な恋を! と思た矢先、私に許婚が出来た。つまりは今世も普通の恋愛は出来ないのである。それに私の片倉や彼の伊達でピンと来るかも知れないが私達は宮城の武将、伊達政宗と片倉小十郎の子孫だ。彼も私も分家だけど……。先程、精神感応係数が一定ライン無ければダメだと言った思うが、実は先祖が武将だったり、巫女だったりする人の方が数値が高い傾向にある。そんな中、力の衰退が進んでいた私達の実家両家が精神感応係数が先祖返りの影響か、とても高かった私達を見込んで家の繁栄のために私達を許嫁にしたのだ。普通の恋愛が出来ないと分かった当初は涙で枕を濡らし、数日寝込んだ。けど、そのうち話すと思うが、こいつ(政雪)はこいつで良い所が沢山有るので今は気にしていない。それに今は別の夢が有るし。

 

「本編がーとか椿がーとかボヤキが出てだぞ。それに顔がニヤけてるぞ」

 

「嘘!?」

 

 私は慌てて頬を触って、変になっていないか確かめる。

 

「はぁ……」

 

 政雪は呆れてそっぽを向いてしまった。

 

 今のやり取りで分かると思うけど、政雪だけには私が転生者でこの世界を知っている事も前世の事も全てゲロっている。昔色々ありバレた。そして今の夢も話している。

 

「技巧科1年、伊達政雪!」

 

 丁度、政雪の名前が呼ばれた。

 

 政雪は武芸科ではなく、技巧科、オリガミやそれに付随するパーツを作り、武芸科をサポートする学科に入学した。武芸科でも十二分に活躍できるはずの実力を持っているのにだ。理由を聞いても話をはぐらかすばかりで一向に教えてくれない。

 

 そんなこんな、昔の事やめくいろの世界観について思いふけっていると指揮も終わり各教室に移動になった。私達は担当の先生の後に続き、各学級の教室に入室して行く。そして自分の名前が表示された席に着席した。教室を見回すと2つ空けた席を開けた同じ列に政雪が……最前列には椿しゃんが居た。やった。同じクラスだ!

 

 少し時間が経ち教室内が落ち着くとホームルームが始まった。担任の挨拶から、各科の授業内容の説明、特待生制度などについてだ。特待生制度とは成績が一定以上で取得することが出来て授業を免除される。成績が落ちると一発でアウトだけど……。授業を免除されると自由に稽古出来たり、作業に打ち込む事が出来る。なので比較的多くの生徒が特待生を目指しているようだ。勿論私も夢の実現の為、特待生を目指すよ。

 

 そして、説明が終わると今度は各生徒の自己紹介が始まった。一番最初は椿しゃんだ!

 

「私は、朱雀院椿です。……」

 

 はぁ……椿しゃんのナマ声すごくいい。立ち姿も凛々しいし本当に素敵だなあ。

 

 椿さんの挨拶が終わって教室に拍手が起きる。そして次々に各自の挨拶が続いた。自己紹介の中には演武祭で優勝すると言った言葉や憧れの選手について語る人も居る。その中でも1番多かったのが朱雀院撫子、朱雀院家の4姉妹の次女で椿の姉を憧れとする生徒が多かった。撫子は現在プロの世界に居て、現在は2年連続の覇中。今年の3連覇は確実だろうと言われている。

 

 椿しゃんの方を見ると何処か複雑そうな表情をしていた。多分既に確執的なものがあるんだと思う。

 

「次、片倉さんお願いします」

 

「分かりました」

 

 担任の先生が私の番だと挨拶を促した来た。私は先生に返事をして自己紹介を始めた。

 

「皆さん、私の名前は片倉朔夜です。憧れの人は風嶺雪月花さんと朱雀院紅葉さんです。よろしくお願いします!」

 

 私の挨拶にも拍手が起きる。でも同時に学園の内情に詳しいクラスメイト達数名はぎょっとした表情を浮かべた。朱雀院の事を風嶺は敵対視している事を知っているからだ。そして私が上げた2人はプロになっていない為、武芸科の生徒達は私が憧れに上げた事にピンと来て居ないみたいだ。クソぅ……何故なんだろ。

 

「では次、伊達君」

 

 私の後に10人くらい挨拶が終わった後で漸く政雪の番になった。政雪はゆっくりと席から立ち上がる。

 

「初めまして。伊達政雪だ。よろしく頼む。俺は特に目標や憧れなどは無いんだが……」

 

 挨拶の途中で言葉を止め、私の方を政雪が一瞬見た気がする。

 

「いや、何でもない。よろしく頼む」

 

 結局何も言わずに普通に挨拶を終えてしまった。何を言おうとしたんだろう? 後で聞いてみよう。

 

 ホームルームも終わる。その後は訓練施設や平時は予約すれば訓練場として使える演武祭会場、技巧科が使う鍛冶場などの案内をされて今日の授業は無いため、そのまま解散になった。

 

「ねえ? さっきの自己紹介の時に何を言いかけたの?」

 

「別に。そのうち話すわ」

 

「はぁい」

 

 政雪に話をはぐらかされたので問い詰めるのは止めつつ寮へと続く道を2人で帰っていた。叢雲学園は全寮制の為、私達は寮暮らしをしている。他の生徒はそのまま施設に残り練習を始めたり、オリガミを打ちに行ったりと人それぞれだった。で、私達はと言うと……。

 

 その前にまず私達がこの後何をするか説明する前にこの叢雲学園が有る場所について説明しようと思う。

 

 この叢雲学園は海の上に作られた人工島、第五海上特区【住吉学府(すみよしがくふ)】に存在する。いわゆる学園都市というやつで学園の他に刃道に関する精神感応触媒、オリガミなどの研究を行う機関が集まっている。

 

 それで私達はと言うと、私が剣を教わった先輩。師匠の様な人達が入学のお祝いしに会いに来てくれるで、この後本島に渡り、みんなで食事を取るのだ。だから今日は練習はお休みで早々に寮に帰り、身支度を整えて本島に向かう予定だ。

 

「それで? これから何をするんだ? ああ、今から本島に向かう事じゃないぞ」

 

「うむ、何って言うと、原作に干渉する事? なら特に今の所しないよ。原作が始まるのは2年と3か月後だし。あ! でも椿さんとはお友達になっておきたいかな……10年以上前に会っただけだし」

 

「分かった」

 

「いつもありがとう。政雪」

 

 口数は少ないながらも、私のやりたい事を普段から気にかけてくれる彼に感謝の言葉を聞こえないくらい小さな声で私は呟きながら寮へと帰り、師匠、先輩方の待つ本島へ向かい、入学初日を終えたのだった。

 




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