月夜に舞う恋桜。   作:猫飲料

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化妖

 今、私、片倉朔夜は深夜の森の中を木々の間を縫いながら高速で飛翔する、人の顔程のサイズが有る蜂らしき生物を追って、木々の間を駆け抜けていた。

 

 何処からかドンっと言う鈍い銃声が聞こえた。銃声が聞こえた直後、私の目の前を飛翔する蜂らしき生物に木々の間を縫って飛んできた銃弾が着弾した。しかし、その生物の体はかなり固く弾丸が生物を貫く事は無かった。

 

「今だ!」

 

 森の中に銃を撃ったと思わしき男の声が響く。銃を撃ったのは政雪、私の許婚の伊達政雪だ。政雪の狙いは蜂らしき生物を倒すことではなく、足止め。銃弾を受けた生物は銃弾に弾き飛ばされ木に激突する。

 

「ありがとう、政雪! ……舞い散れ!」

 

 政雪の的確な援護に感謝しつつ、足を止めた蜂らしい生物に追いついた私は、生物の後方から三尺五寸ほどの長刀、大太刀を振り上げた。そして一息に刀を振り下ろし、蜂らしき生物を縦に真っ二つにして残心を取った。真っ二つに切り裂かれた生物は地面に落ち黒い煙となって消滅する。

 

「朔夜、もう一匹行ったぞ!」

 

 蜂のような生物を切り倒した私は、残心の姿勢から刀を下段に構え直す。刀を構え直した直後、政雪から警告の言葉が飛んできた。政雪の警告に従い、私は周囲の気配を探り、何かが私の右後ろ側から迫っているのを感じて、そちらを振り返った。私の元に向かって来たのは、高速に横回転しながら飛んで来る、車のタイヤ程のサイズが有りそうな亀のような生物だった。

 

「ああ……もうめんどくさい!」

 

 私は一言愚痴を吐くと、両手で持っていた刀を左手に一本に持ち直し右腕を引き絞った。この亀のような生物は、高速で回転している為、刀を振り下ろすと刃が弾かれるのだ。だから先に回転を止めなくてはいけない。

 

「三島流……庚型(かのえがた)……剛砲(ごうほう)!」

 

 右足で全力で大地を踏みしめ、私の頭をめがけて飛んでくる亀のような生物の下に潜む。そして掌を突き上げ、私の師匠直伝の掌底を叩き込み5メートル程、上空に打ち上げた。

 

「よし!」

 

打ち上げた衝撃で回転を止めた亀のような生物に追い縋るように私はは片足飛びで跳躍する。

 

咲け・緋桜(さけ・ひざくら)

 

 跳躍した私は亀のような生物の高さを飛び越える瞬間、下段に構えた刀を全力で振り抜いた。刀を振り抜いた後、遅れてスイング音が聞こえてくる。

 

「ふぅ……」

 

 空中で剣技を決めた私は、落下の衝撃を殺すようにつま先から地面に降り、足全体を使って衝撃を殺しつつ優しく地面に着地する。着地と同時に私が真っ二つ切った亀のような生物が、地面に落下して、先程の生物と同様に黒い煙となって消えた。

 

「おつかれ、今ので最後だ」

 

 亀のような生物を倒した後、政雪から声が掛かった。私は声が聞こえて来た方へ向き直る。すると木の陰から政雪が顔をのぞかせた。射撃した位置からそこそこの距離があったと思うけど、どうやら射撃後、直ぐに私の方へ向かって来ていたみたいだ。

 

「おつかれー! 政雪の援護助かったー!」

 

「ああ、朔夜ならあのように動くと予想できてたからな」

 

「そっかー。ありがと。じゃあ家に帰ろっか」

 

「ああ」

 

刀を腰にセットした鞘に納刀した私は政雪と2人で先程の戦いの反省会をしながら自宅に帰った。

 

 

 

「おかえり。朔夜、政雪君もお疲れ様でした」

 

家に帰り装備を外して入浴をして茶の間で軽い夜食を食べていると私のお姉ちゃん、現片倉家(分家)当主の片倉舞彩が部屋にやって来て労いの言葉をくれた。

 

「お姉ちゃん、ただいま」

 

「ありがとうございます。舞彩義姉さん」

 

 私達は今、地元宮城に帰って来ている。

 

 私達が学園に入学してから2年が経過して私達は3年生になった。演武祭も近くなり、いよいよめくいろのストーリーも始まりそうな時期になった。ストーリーが始まりそうな大事な時期に何故地元に帰って来ているかと言うと、化妖と呼ばれる怪異が現れ、本家に化妖討伐を依頼されたからだ。

 

 化妖は妖怪や幽霊を含むこの世ならざる存在の総称の事だ。

 

 本来なら、そう言う存在を討滅する神所霊庁とか内閣府直属の公安局霊障特務課とか専門の機関があるんだけど私達の実家が所属する組織、佩刀護身会と非常に仲が悪く極力頼りたく無いらしい。仲が悪い関係で自身の管理する土地で何かあると自力解決が求められると言う訳。で普段なら実家の土地で何かがあると、現当主のお姉ちゃん、片倉舞彩が処理してくれるんだけど、お姉ちゃんが半年前に娘(私からすると姪っ子)を出産して体がまだ本調子じゃないから私達に白羽の矢が立ったという訳だ。まあ、退魔師の力を持っていないと対処するのは難しいから私達の一族でも対応出来る人は限られているけどね。

 

「2人共、ありがとう。本来なら私が出なきゃいけないんだけど」

 

「いいよ、お姉ちゃん。本当なら寝てて欲しかったくらい。朱音ちゃん為にも体調を崩す訳に行かないんだし」

 

「朔夜の言う通りですよ、舞彩義姉さん。この程度なら俺達だけでも十分だし、正兄(まさにい)もいる訳だから」

 

 正兄、正也お義兄さんは政雪の実兄だ。精神感応係数の数値がずば抜けている政雪が伊達家(分家)の当主になる都合でお兄さんが私の家に婿入りした経緯がある。政雪が当主という事で私は卒業と同時に籍を入れて伊達朔夜になる。まあ、彼の家が隣の屋敷(200m先)だから困らないけど。

 

「ありがと。でもね。去年、ぽかして朔夜が怪我してるのを思うと姉さんは心配なんだよ」

 

 去年私は、思った以上の強敵に不意を突かれて腕を骨折する大怪我を負った。アニメで偶に有る、入ると傷が治るカプセル的なのがこの世界にも有ったから、すぐに治ったけれど、時期が悪く、演武祭の予選に出る事が出来れなくて出場を逃した経緯がある。お姉ちゃんはその事を言っているんだと思う。

 

「あの時は油断したけど、次は気を付けるよ」

 

「そう? 気を付けるんだよ。じゃあ明日、早々に学園に帰るんだから早く休んでね」

 

「はーい お姉ちゃん、おやすみなさい」

「おやすみなさい、舞彩義姉さん」

 

 そう言ってお姉ちゃんは自分の部屋に帰っていったのだった。

 

 

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