No Game No Life 中庸   作:chloro

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すげえ、続き書いてるよ私……。
生ぬるい目で見守ってやってください。


生まれ変わり《レインカルナーティオー》

あかりをつけましょばくだんにー どかんといっぱつはげあたまー

 

……桃の節句でもないのになんでこんなのが頭の中をぐるぐる回っているのかわけがわからない。

弟のせいだ。

片っ端から替え歌しまくる弟のせいだ。

弟の隣のクラスの男性教諭の頭の呼称を『バーコード』と名付けた弟の偉業は忘れるまい。

 

「風呂あがったよ」

 

弟に声をかけたが、うん、と気のない返事を返された。

居間で万年床になりつつある布団の上で蛙のように伸びているすらっと長い脚。

いわゆる美脚というやつだ。

その太ももの上に、私のびしょぬれの髪の毛から水滴を落とした。

 

「うんがー!」

 

いい傾向だ。

弟は飛び起きてふらふらと箪笥から下着をとり、脱衣所へと消えた。

両親はとっくに寝静まっている。

PCの前に座り込んで、ハンドタオルで髪の水気をとりながらメールを開く。

 

「……? ああ」

 

またよくわからないメールがまじっている。

メールが届いたのは、あのゲームが終わった直後の時刻。

挙句題名が『Re:』だけとはやる気のない。

ぱかっと開くと、たった一行。

 

『引き分けとは惜しかったね。だけど、それほどの腕前――――― さぞ世界が生きにくくないかい?』

 

どくん、と鼓動が跳ね上がる。

見透かしたような言動。

指が震える。

うっかり手元の切子硝子のコップを引っかけて割らなくてよかった。

世界が、生きにくいかどうか、なんて。

情景より先に憎悪とやるせない慟哭に近い感情が喉元を突き上げる。

 

『生きにくいということを確認しても、何も変わらないのでは』

 

かたかた、と文字を打ち込んでEnterキーでメールを送る。

十秒足らずで受信ボックスに新たなメールが入った。

 

『君はその世界をどう思ってる? 楽しいかい? 生きやすいかい?』

 

まだ鼓動は耳の奥で大きな音を立てている。

しかし、ゲームを受けたらこんな怪しい宗教に勧誘されるとか聞いたことがない。

 

『私が私である限り、少なくともこの世界で生きやすくなることはないと考えている。空想をするのは自由だが、私には生憎その時間があまりない』

 

送信。

驚くべき速さで、受信ボックスに返信が来る。

 

『それなら、例えよう。単純なゲームで全てが決まる世界があったら。目的もルールも明確な盤上の世界があったら』

 

物心がついたときには感じていた違和感。

何かがとびきりできても、できなくても、いや……ほんの少しはみ出していても全てが制裁対象。

魔法じみた技術革新と膨大な知識が氾濫すればするほど深まる情報格差。

弱肉強食、勝てば官軍負ければ賊軍、ただし、勝利条件は不明瞭。

権力を得たくても、得る方法は時代の波と運と人という不確定要素の積み重なったもの。

その勝利の波はいくら選んで選んで選んでも終わらず、自殺で強制終了(ゲームオーバー)

世界のせいにしたら生きる理由もなくなって、投げ出してしまいそうだったから。

自殺は法律で縛られていないのだから、いつだって……いつだって終わり(ジ・エンド)にしていいのに。

 

『そんな世界があったら、私は生まれる場所を間違えたと思うし……私はきっとその世界を選んだ』

 

送信。

 

ぷつん、と台所と居間の電気が消えた。

エアコンを使いすぎてブレーカーが落ちたのかと思い、立ち上がる。

ノートPCは幸いにして電力供給がなくなっても電池で数時間は動くので問題ないかと一瞬思ったが、そもそもルーターが落ちてしまっている。

ざあ、とおかしな音がして画面を見た瞬間、体が硬直した。

先ほどまでメールの受信ボックスを表示していたはずの画面が、ブラウン管時代テレビの夜中の番組がなかった時間帯を思い起こさせる。

たじろいだ瞬間、闇に食われるのではないかと錯覚に陥る。

 

「僕もそう思う!」

 

電子音とはかけ離れた生々しい人の声がパソコンから発せられるとは誰が想像しただろうか。

 

「君はまさしく、生まれる世界を間違えた!」

 

PC画面から、腕が二本生えた。

ホラーすぎる、と私の頭が冷静に呟く。

溌剌とした屈託のない声ではなく、どろどろ声でゾンビの手だったらバイオハザードでしかない。

その手は恐るべき握力で、私の右腕を掴む。

 

「っ!」

 

薬を掴もうとして、左手が空振りした。

 

「やめっ」

 

ごう、と耳元で風を切る音が響く。

ばらばらになった部屋の空間が賽を開いたように中身ごとひっくり返され、部屋の物ごと落ちていく。

夜中の電気とは比べ物にならないほどの明るさが、世界を照らし出す。

眼下には草千里を思い出させるような豊かな草原と……ひょろながい火山から滑空してくるドラゴン、遥か彼方の地平線。

そびえたつ透き通ったチェスの駒。

ドラゴン?チェスの駒?

 

「っ……!」

 

スカイダイビングなんて!

この落下しているという事実がなければこの極彩色で塗り込められた景色を堪能したいところだ、が。

重力加速度って物理で習イマシタ。

地表まで目測距離約4000m、落下速度45m/s程度、自由落下速度は空気抵抗を考えて約160km/h。

地面まで残り一分半。

チーターより速い速度で落ちてるんですよ奥さん!!!

瞬時に叩きだした計算結果が死亡までのカウントダウン。

せめて、せめて下が雪の渓谷だったらまだ希望はあったのに。

よりにもよってキャミソールにTシャツ、下パジャマズボンというありのままで外に放り出されなければならないのだ、そんなありのままは望んでいない。

 

「ねえ、聞いてる?」

 

先ほど画面の中から聞こえた声が、目の前から。

ただし、落下しているので声が上に置いていかれているように聞こえて内容はほぼ聞き取れない。

メガネが吹っ飛んでいたら見えなかったであろう、頑是無い子供の姿。

死にたいとは幾度となく思ったが、どうせ死ぬなら死に方くらい選ばせて欲しかった。

私ホラーはまだ見る分には見られるけどスプラッタ大嫌いなのに……。

一瞬で死ねるだろうが、その場に放置されて朽ちていくのかと思うと泣けてくる。

大体、こんな死に方をするくらいなら使える臓器はどなたかに差し上げられる状態の方が人類の役に立ったに違いない。

 

「いやだああああああああああああああああああっ」

 

なんで、人生の最後になってまで、こんなことばかり。

99パーセントが嫌な記憶で1パーセントの幸せのために生まれてきたのが生まれてきた意味だとかクソにもほどがある。

風圧で息ができない。

みるみる迫る緑色に、赤黒いものが散る様が脳裏をよぎって胃液がのぼってきた。

ぐっと目をつむる。

せめて、死ぬ瞬間が短く終わってくれますよ……。

ぱち、と目を開くと目の前にゆるゆると風に揺られる草が頬をくすぐった。

死んだか。

死ぬのが一瞬すぎてさては私死んだ自覚がない幽霊でもなったか。

 

「殺さないよ、生まれ直させてあげるって言ったのに」

 

私の心でも読めるのかお主。

うつ伏せのまま地面に下ろされた状態になり、草が鼻の中に入った。痒い。

それに、なんだか喉のあたりが熱い。

 

「全然聞き取れませんでした……」

「僕はテト。あのチェスの駒に住んでる、……この世界の神様ってところかな?」

 

無邪気な笑みをたたえて、不思議な色をした瞳をひらめかせた。

 

「ここは、理想郷―――盤上の世界・ディスボード! この世のすべてが単純なゲームで決まる世界! 人の命も、国境線さえも!」

 

メールの時も思ったが、選挙演説のような口ぶりで宗教じみた内容垂れ流すこの……子供の姿をした神様。

自称神様という言葉を使わない理由は、とんでもない高さから落ちて草原でバラバラ大事件にならなかったことが私の中の根拠だ。

 

「君が来てくれて、とても楽しくなりそうだよ。君も楽しんでいってね」

 

語尾に八分音符マークがついていそうな跳ねた喋り方をして。

 

「あの……空に何本もある薄い虹は……?」

 

薄い虹、というよりはダイヤモンドダストを一筋にまとめて淡く光彩を放っているように見える。

その筋が幾筋にも四方八方へ空に引かれている様は、幻想的な美しさと言えた。

最新鋭光ファイバーだったらどうしよう。

 

「君が、そのままの体で生きていけないのは知ってるよ。だからこれは僕を楽しませてくれたお礼のプレゼント」

「あ、薬……!」

 

周りに散らばった私の荷物に手を伸ばそうとすると、くすっと笑いが返ってきた。

 

「もうその薬はいらないよ。特別なことがない限り」

 

薬はいらない。プレゼント。

 

「私の体に、何か……」

「生まれ直したんだ。文字通りに、ね」

 

やっぱり語尾に八分音符マーク。

これは……治った、ということだろうか。

もしくは、症状が現れないよう抑える何かをプレゼントされたということか。

 

「そして、この世界のルールは10個だけ。 それはね――――――」

 

一つ:この世界におけるあらゆる殺傷、戦争、略奪を禁ずる

二つ:争いは全てゲームにおける勝敗で解決するものとする

三つ:ゲームには、相互が対等と判断したものを賭けて行われる

四つ:゛三゛に反しない限り、ゲーム内容、賭けるものは一切を問わない

五つ:ゲーム内容は、挑まれた方が決定権を有する

六つ:゛盟約に誓って゛行われた賭けは、絶対遵守される

七つ:集団における争いは、全権代理者をたてるものとする

八つ:ゲーム中の不正発覚は、敗北と見なす

九つ:以上をもって神の名のもと絶対不変のルールとする

十 :みんな仲良くプレイしましょう

 

「ゲームで、決まる……」

「そう。頑張ってね、十夏(とおか)。次に会える時を楽しみにしてるよ。きっとそう遠くないうちに、ね」

 

最後まで八分音符マークが飛び出そうな語尾を残して、その神様は掻き消えた。

……なんでこんな草っぱらにおいてけぼり。

部屋の中身が全てぶち撒かれたのかと思ったら、そうでもなかった。

国家試験対策の問題集、公務員試験のテキスト、漫画に手帳、ライトノベル二冊、ヘッドホン、スマートフォン、iPadに筆箱、メガネケース、大学の時間割、花粉避けスプレー、薬一式、鞄とその中身、ゲーミングPC、オーディオIF、PCとケータイの充電器、ソーラーバッテリーチャージャー、サングラスにご当地キャラクター缶バッチ、硝子切子のコップに2Lペットボトル水。

 

「……どうしよう」

 

衣類が、一枚もない。

ついでに、裸足だ。

現状は特に寒くもなく暑くもないが、気候次第では夜極寒になることも考えられる。

鞄の中に財布はあったが、あの神様の言うとおりなら例え私が諭吉さんを持っていても通用するまい。

そもそも、言葉が通じるかもわからない。

荷物を拾い集めてみたが、既に持てる範疇を超えている。

 

「これは、どうしたら……」

 

台車があればいいのだが、転がしていけるようなものもない。

更に、電子機器類が雨曝しになればお釈迦するに決まっている。

ひょいとテキストを持ち上げる。

 

「……ん?」

 

違和感。変に軽いような。

ぱっと手を本を手離してみると、本が浮いている。

 

「重力無視!?」

 

重力と逆向きの力が働かなければ物は浮かない。

もう一冊を手にとって、手を離してみる。

それも浮いた。

 

「どういうこと……」

 

次は触れずにくい、と手で持ち上げる動作をしてみる。

体の中を血液とは異なる何かが流れて、ふわりとゲーミングPCが浮いた。

そのまま指で右へ左へと少し振ると、その通りに動く。

 

「プレゼントって、ま、魔法ですか……」

 

これなら、全部運べる気がする。

つまみあげる動作や、持ち上げる動作で次々と物を空中へ引き上げる。

最後に2Lペットボトルを持ち上げた時に、ぐっと喉が詰まった。

 

「なんっ……!」

 

物を上げることを諦め全て地面に下ろすと、気道が締まる感覚は失せた。

 

「なるほど、そういうことか……」

 

どうやら、あの神様がくれたプレゼントは魔法だけれど、私の病状を抑える目的で組みこまれたようだ。

その抑え込む力を他の魔法の動力源として使っているだけで、魔法に量という換算ができるのかはわからないが私の症状を抑える最低量を下回るほど魔法を別用途で使うと症状が出てくるらしい。

薬を使わなくていい日がくるとはついぞ思わなかった。

嬉しい半面、問題はほぼ振り出しに戻った。

全部は一気に運べない。

つまり、ある程度の距離を細かく移動させる必要がある。

少しずつ物を浮かせて、一か所に集めていく。

しかし、どこをどう歩いたら。

袋が欲しい。

あと、靴。

私がやわらかな草を踏んだところから、にょろんとゼンマイのような植物が伸びてくる。

……なんてファンタジー。

そして、昼間なのに蛍のようなものがちらほらと飛び交っている。

空にかかっている最新鋭光ファイバーのひとかけらと同じもの。

 

「これなら、大丈夫かなあ」

 

草を撫でたら、にょきにょきっとゼンマイのような植物がぞろぞろ伸びてきた。

何だ一体この世界は。

しかし、人が頻繁に通るのか草が切れて地面が剥きだしのところが小道のようになっている。

人の通りがあるのなら、どちらかに進めば町がある。

もしくはどっちに行っても。

ただ、落下しているときに右手には町は見えなかったような記憶がある。

見落としていなければ、だが。

それなら左に行く方が多分確率は高いだろう。

 

「よう嬢ちゃん。そんな荷物抱えてどこ行く」

 

気づかなかった。

ばっと飛び下がって声の主を見やる。

体格のいい男三人。

ただし、身なりはあまり良くないし、何より立ち居振る舞いが私のそれとは異なる。

 

「町まで」

「おー、そうかそうか。しかしな、俺らはここを通さない」

「何故ですか」

「盗賊だからさ。さっさとゲームしろや。持ち物全部置いてってもらうぜ」

 

ぶっとふきだした。

マジなのか。

これはマジなのか。

盗賊ですらゲームで勝たないと盗賊稼業ができないなんて!!!

 

「おい何笑ってやがる!」

「や、だってゲームって挑まれた方が受けるかどうか決められるんじゃなかったでしたっけ」

 

タメ語と丁寧語が混ざって言語崩壊した。

……そういえば、こいつら日本語だ。

ファンタジーは優しいことに日本語設定だったようだ。

 

「そうさ? ただ、受けない限り俺達はここを通さない」

 

なるほど、殺傷、戦争、略奪は禁じてるけど妨害を禁じているわけではない。

荷物がなければ盗賊がお腹すかせるのを待ってここで座り込みを決行してもいいのだが、電子機器類のことを考えると一刻も早く動いた方がいい。

 

「そしたら、そのゲーム受けるよ」

「賭けるのは、お前の荷物とお前自身の全てな」

 

……荷物も分捕って性欲処理と、そういうことですかね。

 

「ええと、それなら私が勝ったらあなた達のお持ちの全額と、町までのこの荷物運びと道案内……と、一生私の小間使いになってください。もちろん無償で」

「お? 言ったな小娘」

「対等と判断するには奴隷という呼び名の方が良いですか?」

「ふん、口だけは回るな……。ゲームは?」

 

んー、と考える。

 

「トランプって持ってます?」

「あるぜ。新品のがな」

「ならそれでやりましょう。ゲームは『スピード』で。ただこれは四人でもできますがベースは二人用ゲームなのであなた方三人とそれぞれ勝負しましょう。どちらかが二勝したら終了です。ルール説明もしたいのですがお時間は?」

「いいぜ」

「では」

 

一、五十二枚のトランプを、赤いマーク(ハートとダイヤ)の組と黒いマーク(スペードとクラブ)の組に分け、二人のプレイヤーが一組ずつ持つ。

二、プレイヤーは、自分が持ったカードを裏にしてよく切り、相手に渡す。これがお互いの手札となる。

三、自分の手札を裏向きに重ねて持ち、四枚のカードを自分の前に表向きに置く。これが場札となる。

四、「スピード」という掛け声とともに、お互いに手札の一番上のカードを、場の中央に表向きに置く。これが台札となる。

五、自分の場札を見て、二枚の台札のどちらかに隣り合った数字のカードがあれば素早く上に重ねる。KとAは一つ違いとみなし、これが新しい台札となる。 ただし、相手が先に出してしまったら出すことはできなくなる。

六、場札が一枚でも欠けたら、手札から補充すし、場札は常に四枚になるようにする。

七、二人とも台札のカードに重ねられる場札がなくなったら、もう一度「スピード」という掛け声とともに手札の一番上から新しい台札を出す。

八、新しい台札は、すでにおかれている台札の上に重ねておく。手札がなくなってしまい、場札しかない状態であらためて台札を出すときは、場札の中からどれか1枚を出す。

九、このようにしてゲームを続け、早く手札をなくした人が勝ちとなる。

十、ジョーカーを全ての数字の代用として使えるとする。

十一、同じプレーヤーの場札の中に、同じ数字のカードが複数枚ある場合、それらを重ねて1枚の場札として扱える。

 

トランプの箱を開け、相手が持っていた布の上に並べて示していく。

 

「ここまでで質問はありますか?」

「ねえな」

「わかりました」

 

トランプに幸い仕掛けはなさそうだが、さて。

模様も多分規則性はない。

どちらかといえば反射神経勝負である。

カードを赤と黒に分け、黒を相手に渡し互いにカードを切っていく。

シャッフルしたものを交換して、準備は終了。

 

「では、参りましょうかー」

 

場札を出し、相手と目を合わせる。

台札を出した瞬間から、勝負はスタート。

 

「「スピード!」」




さて、ようやくディスボードへ主人公を叩き込みました。
つ、続けられるかながんばります……←
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