宇佐見蓮子は動かない   作:陰猫(改)

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秘封倶楽部対くしゃがら

 宇佐見蓮子は取り憑かれたように辞書や本を片っ端に漁るマエリベリー・ハーンに普段とは違う不気味なものを感じていた。

 何が親友をここまで変えてしまったのか・・・宇佐見蓮子はあの時の事を考える。

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

 ──遡る事、数ヶ月前。

 

 宇佐見蓮子が論文を書き終わり、相対性精神学の論文をマエリベリー・ハーンに関する相談事を彼女に持ち掛けた。

 その相談事の一つにマエリベリー・ハーンはとある事について悩んでいる事を宇佐見蓮子に打ち明ける。

 

 それは即ち、大学の教授から渡された禁止用語についてである。

 宇佐見蓮子もレポートは書いたが、そのようなものは貰った事もないが、マエリベリー・ハーン曰く精神学を学ぶ為には禁止用語による言語的な禁句は避けるように教授に言われたらしい。

 宇佐見蓮子も禁止用語リストを見せて貰ったが、卑猥な言葉に関してもだが、地震や津波と言ったワードなども禁止用語リストに入っていた。

 流石にやり過ぎな気もするが、リストの説明文を読んである程度は納得する。

 ただ一つ、【くしゃがら】と言うワードを除いて。

 

 そのワードにのみ、説明文もなく、ただ【くしゃがら】とだけ記されていた事に宇佐見蓮子は気味の悪いものを感じた。

 長年の経験なのか、本能的にこのワードについて掘り下げてはならない気がしたが、マエリベリー・ハーンはこれがとても気になって様々な辞書などを調べたらしいが、ワードについての禁句の理由は解らなかった。

 マエリベリー・ハーンが珍しく、「この禁止用語についての秘封を暴きましょう」と宇佐見蓮子に持ち掛けるが、当の宇佐見蓮子は乗り気ではなかった。

 

 ──しばらくしてから、大学内でマエリベリー・ハーンについての様子を聞かなくなる。

 

 七夕坂でのやり取りもあり、再びマエリベリー・ハーンに何かあったと判断した宇佐見蓮子がマエリベリー・ハーンの元へと向かうと宇佐見蓮子はその光景に絶句する。

 普段のマエリベリー・ハーンの西洋の人形のような容姿はそのままだが、雰囲気が違った。

 何よりもマエリベリー・ハーンの部屋の荒れ具合である。

 紙媒体の辞書やメモが散乱し、その殴り書きしたメモには【くしゃがら】と言うワードがビッシリと刻まれていた。

 七夕坂の時の比ではない異常さに宇佐見蓮子の存在に気付く事なく、マエリベリー・ハーンは「くしゃがらくしゃがら」とブツブツと呟きながら、ひたすらにワードについて調べていた。

 

 ──そんな親友を目の当たりにして宇佐見蓮子は現在に至る。

 このままではマエリベリー・ハーンがマエリベリー・ハーンではなくなってしまう。

 そう判断した宇佐見蓮子は禁止用語の【くしゃがら】について様々なアプローチをかけて、親友を連れ戻す為にワードについて考える。

 禁止用語として【くしゃがら】を認識すれば、親友の二の舞になる。

 恐らく、それは宇佐見蓮子にも伝染して広まるだろう。

 故に宇佐見蓮子はワードの作りに関して考える。

 何故、【くしゃがら】だけしか書かれてなかったのか。意味ではなく、言葉の本質について宇佐見蓮子は考える。

 様々な考えの末に宇佐見蓮子は「これだ!」と思う解答を導き出して、未だに迷走するマエリベリー・ハーンの肩を掴んで叫ぶ。

 

「メリー!あなたは禁止用語と言う単語でしか、言葉を捉えてないわ!

 でも、それは間違いよ!そもそも、このワードは禁止用語ではなく、アナグラムの造語よ!本当の意味は──」

 

 ───

 

 ──

 

 ─

 

 次の日、マエリベリー・ハーンは宇佐見蓮子の呼んだ救急車で緊急入院する事になる。

 内容は栄養失調による貧血であるとされたが、宇佐見蓮子はそんな親友を追い詰めた大学の教授の本質を見抜こうとマエリベリー・ハーンの学ぶ相対性精神学の教授の元へと向かう。

 

「・・・教授。少し宜しいですか?」

「彼女が無事で君が来たと言う事はあの禁止用語についてだろう」

「あなたは恐らく、禁止用語の本当の意味を知らない。だからこそ、マエリベリー・ハーンに──秘封倶楽部に引き受けさせた。あなたの目論んだ通り、禁止用語の伝染力にマエリベリー・ハーンも引きずり込まれてしまった」

「その通りだ。あのままでは自我を完全に失って、私は生きてなかっただろう。そこで秘封倶楽部に目を付けた。

 秘封倶楽部でならば──境界を暴く君達ならば、あのワードについての秘密を暴けると思った。それが彼女に──ハーンさんに禁止用語リストを渡した理由だ。さあ、答えを聞かせてくれ。くしゃがらとはなんなのかを──何故、禁止用語なのかを」

「残念ですが、それは出来ません。いえ、知ったとしても、教授は恐らく、手遅れでしょう」

 

 宇佐見蓮子は冷ややかに教授を見据えながら、失望の念を持って次のように告げる。

 

「言霊を理解出来ないあなたには永遠にこのワードは解けない。概念構築を取り除けない以上、あなたはこのワードに縛られるでしょう。

 それがマエリベリー・ハーンを──私の親友であるメリーにしたあなたへの罰ですよ、教授」

 

 ──後日、原因不明の怪事件が発生し、科学世紀から、また一人の人間が京都から去る。

 

【秘封倶楽部対くしゃがら・完】

岸辺露伴は動かないのオマージュ作品ですが、元になったタイトル作品を知りたい方いますか?

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