宇佐見蓮子は動かない   作:陰猫(改)

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鬼ごっこ

 周りとは異なる人間は周りと異なる考える思考の人間と遭遇する。

 さながら、それはある種の引力とも言うべきものであろう。

 

 宇佐見蓮子は頭の回転が早いのもあったが、運動する事も得意であった。

 特にかけっこの類いにはかなりの自信があった。

 ある日、宇佐見蓮子はクラスの生徒達と放課後に鬼ごっこをする事になった。

 その時は宇佐見蓮子が鬼役であり、最初にタッチしたのはクラスで一番足の速い男子生徒である。

 

 その男子生徒は宇佐見蓮子にタッチされて悔しそうにしていた。

 ただの子どもの遊戯であるが、子どもからして見れば、本気でやるからこそ、意義があるゲームである。

 

 ──次の日から、その男子生徒は不登校となった。

 理由は定かではなく、突然の不登校にクラスはその話題で持ちきりとなった。

 

 しかし、この話はこれで終わりではない。

 

 それから一ヶ月ほどして、その男子生徒はクラスに戻って来た。

 その変わり果てた姿に宇佐見蓮子を含めたクラス全員が驚いた。

 子どもとは思えぬ完璧に仕上げられた筋肉──走る事に特化したプロのマラソンランナーのように仕上がった姿であった。

 何をどうすれば、そこまで作れるのか・・・ただ一度、女子生徒に破れたからと言って、ここまで変わるであろうか?

 

 しかし、それ以上に宇佐見蓮子は此方を見詰める男子の目が気になった。

 何かに取り憑かれているかのような冷たい瞳──それはある種の殺意に近いものに宇佐見蓮子には感じた。

 その日の放課後、宇佐見蓮子達は帰って来た男子生徒の提案でまた鬼ごっこをしようと言う話になった。

 クラスの子ども達が快く承諾する中で宇佐見蓮子だけは異質なものを感じていた。

 だから、ある条件を提案した。

 その条件の元、宇佐見蓮子達は改めて、鬼ごっこを開始する事となる。

 

 今回の鬼役はあの帰って来た男子生徒であった。

 その男子生徒は鬼ごっこが開始されると同時に宇佐見蓮子だけを狙って来た。

 その男子は逃げる宇佐見蓮子に付かず離れずの状態で語り出した。

 

「何事においても公平さは大事だと思わないか、宇佐見さん?」

 

 鬼役から逃げる宇佐見蓮子をねぶるかのように男子生徒は言葉を続ける。

 

「宇佐見さんは俺が逃げるより早く俺を狙って来た。

 多分、頭の良い宇佐見さんの事だから何かしらの計算があったんだろうけれども、あれは公平じゃない。

 だから、俺は宇佐見さんが限界速度を越えたらタッチする。そうすれば、公平だ。後腐れがない」

 

 他の生徒には意味不明な事を口走りながら男子生徒は宇佐見蓮子が限界まで加速するのを彼女と同じ速度で待つ。

 そんな宇佐見蓮子は触れてはいけない何かに触れた事を肌で感じつつ、男子生徒から少しでも離れようと加速する。

 しかし、いくら走っても走っても男子生徒は宇佐見蓮子にぴったりとくっついて来る。

 次第に息が上がり、鼓動が早くなる。

 

 そして、ついに限界を迎えた宇佐見蓮子の背中に男子生徒の手が触れた。

 

「勝った!勝ったあああぁぁぁっ!」

「・・・はあ・・・はあ・・・ええ・・・あなたの勝ちよ。でも、ね・・・あなたは一つだけ勘違いをしている」

 

 息も絶え絶えになりながら宇佐見蓮子がそう告げると他の女子生徒が宇佐見蓮子に触れる。

 

「今回の遊びはね、こおりおによ。鬼がタッチしたら動けなくなるけれども他の子が私にタッチしてくれれば、鬼の勝ちにはならないわ」

「・・・なに?なんだと?」

「それとあなたはもう一つ大きな過ちを犯しているわ。確かに私はあの日の鬼ごっこでは計算して、あなたを最初から狙った。

 けれどもね、あの時の鬼ごっこはあくまでも公平なものよ」

「公平だと!?そんな馬鹿な!?

 誰よりも速い俺がたかだか、鬼ごっこで──しかも女子相手に負けるなんて!?」

「確かにあなたの足はクラスでも一番速いわ。けれども、それは100メートル走での脚力での話よ。初速の脚力に特化している訳ではないから駆け出す瞬間の短い距離での話なら私にも勝機というものがあるのよ。

 これでも、まだ納得出来ないかしら?」

 

 宇佐見蓮子のその言葉に男子生徒は顔を青くして、その場から逃げ出す。

 まるでその事実を受け入れられなかったかのように・・・そんな男子生徒に対して宇佐見蓮子は運動の汗とは別の冷たい汗を流しながら思う。

 

(・・・危なかった。今回は上手く言いくるめられたけれど、これが成長して男女の力の差が顕著になったり、こおりおにだと言う事を理解した上で他の子を狙って最後に私との勝負を挑まれていたら話が違っていたでしょう。今度から鬼ごっこをやる時は相手に気を付けなきゃね)

 

 こうして、この話は幕を閉じた。

 この男子生徒がその後、どうなったのかを宇佐見蓮子は覚えていない。

 公平さを謳いながら女子に負け、更には口でも負けて逃げ出したのだ。

 何かあれば、印象に残っていたであろう。

 しかし、その記憶がないと言う事は単に相手が距離を取っただけなのか、それとも別の理由があるのかはわからないが、その男子生徒と宇佐見蓮子が遊ぶ事は宇佐見蓮子の記憶上、二度となかったと思われる。

 

【鬼ごっこ・完】

岸辺露伴は動かないのオマージュ作品ですが、元になったタイトル作品を知りたい方いますか?

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  • 自分で調べるから大丈夫
  • 知らなくても面白いけれど、興味はある。
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