宇佐見蓮子は動かない   作:陰猫(改)

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特異点・宇佐見蓮子

 まだ都庁だった頃の東京には様々な都市伝説が眠っている。

 その頃にはいまでこそ、使用されるAIどころか、インターネットの面影すらもがなかったとか。

 そんな過去に存在した東京の地には科学崇拝と云うものはまだ根付いてなかった。

 ならば、原始的な歴史かと言われるとその頃の記録は意図的に隠されているかのように歴史から忘れさられていた。

 だからなのかは定かではないが時折、予想外の事が起こるものである。

 例えば、それが人生を大きく狂わせるきっかけになったとしてもだ。

 

 宇佐見蓮子の家族はどこにでもある"母子家庭"である。

 しかし、そうなるとこの物語を最初から知る読者からすれば、疑問を持つであろう。

 

 ──話に度々、出てくる宇佐見蓮子に連れ添う"父親"の存在と云うものに。

 

 今回はその"宇佐見蓮子の父親"が消えた時の話をしよう。

 

 

 宇佐見蓮子の父親は何の能力も持たない平凡な社会人であった。

 どちらかと言えば、宇佐見の家系は母方のコネの方が強かった。

 そして、何故かしら宇佐見の家系には産まれる子供は必ず女性である共通性があった。

 当然、蓮子もその例に漏れず、長女として誕生した。

 そして、宇佐見の家系は必ず奇妙な体験談を持つのも、また必然であった。

 

 そんな宇佐見蓮子が高校での進学を悩んでいた頃、宇佐見の家系では慌ただしく、ある行事の準備をしていた。

 それはある種の儀式と言っても良かったであろう。

 

 宇佐見の家系に属する女性には16歳になった時、急激な脳の変化があるというものがあるのだ。

 それによって、宇佐見の家系の女性は現世と境界があやふやになると云うものである。

 それは概念的に言えば、死に等しいとされ、宇佐見の家系は代々、宇佐見の家系の女性の長寿を願って、この儀式をはじめたとされる。

 無論、根拠などはない訳ではないらしく、事実上ではこの行事を怠った宇佐見の家系の少女達は謎の失踪をしている。

 それでも宇佐見蓮子からすれば、眉唾物であった。

 科学世紀のこの時代に謎の失踪をしたとしても、すぐに見付かるだろうし、そもそもが単なる家出の類いであろうと蓮子本人は考えていた。

 確かにこれまで奇妙な体験談をして来なかった訳ではない。

 しかし、蓮子はその度にその頭脳をフル回転させる事で危機を回避して来た。

 それはある種の自信へと繋がっており、今回もいつものように機転を利かせ、困難な状況から回避出来るだろうと踏んでいた。

 経験は人を成長させるものである──しかし、それに慢心する事の恐ろしさを蓮子はこの時は知らなかった。

 自分が如何に運が良かっただけであり、如何に頭が良かろうと畏怖と敬意の念を損なう事柄が如何に危険なものであるか・・・蓮子はそれを身を持って知る事となる。

 そして、16歳の誕生日を迎えた蓮子はこの日、誕生日を祝われる以外の事が一切、出来なかった。

 許可されなかった訳ではない──出来なかったのだ。

 成長痛のような痛みと高熱でとても蓮子は1人で何か出来る状態ではなかった。

 その時の蓮子の世話をしていたのが、蓮子の父親であった。

 

 宇佐見の家系のしきたりとは娘の外出を含む全てを1人でさせないと云うものであった。

 それが何故なのかは宇佐見の家系の女性すらも知らなかった。

 ある種の神隠しのような何かによるものなのか、それとも単なる家出なのか。

 それをいま、蓮子は身を持って知る事となる。

 

 一言で言えば、宇佐見蓮子は特殊であった。

 そして、特殊であったが故にそれに目を付けられていた。

 その視線はかつて味わった神秘とは異なる怪異の類いの視線であった。

 この時になって宇佐見蓮子はいままで通用していた【対話】が成立しない相手であると肌で理解する。

 底知れぬ得体すら知れぬ何か。

 それは蓮子を取り込もうと侵食した。体外からではなく、内側からである。

 変異と云うべきか、それを感じて蓮子は自分が異なるそれに変わるのに恐怖した。

 

 その時、蓮子の父親がある言葉を口走った。

 

「神様、お願いです。蓮子をお助け下さい」

 

 無神論者である父とは思えぬ酷く弱々しい呟き──しかし、それは苦痛と発熱で苦しむ蓮子から確実に抜けた。

 その後の事を蓮子は覚えていない。

 気が付けば、蓮子は1人で布団に横になっていた。

 

「・・・お父さん?」

 

 意識を失ったのか、それとも父親が席を外したのかは解らない。

 ただ、気が付けば、蓮子は1人であった。

 

 不意に扉がノックされ、母親が入って来る。

 

「具合は良さそうね、蓮子」

「お母さん?・・・あれ?今日は仕事だったんじゃなかったっけ?」

「何を言っているの、蓮子。お母さんは"ずっと、付きっきり"だったでしょう?」

 

 その言葉に蓮子は違和感を覚えた。

 

「ちょっと待ってよ、お母さん。お父さんはどこへ行っちゃったの?」

 

 困惑する蓮子に対し、蓮子の母は何かを察したのか、ポツリと呟く。

 

「・・・そう。"あなたは蓮子であって、蓮子でないのね"?」

「それって、どう云う──」

「あなたは平行世界の宇佐見蓮子よ。

 母子家庭の蓮子と両親を持つ蓮子が何らかの拍子に入れ替わってしまったのね」

「・・・お母さん、そんなに頭良かったっけ?」

「これがこちら側の蓮子の母である私よ、蓮子。

 恐らく、こちらの蓮子は私が部屋から出て禁忌を破ってしまったから別の世界の蓮子を代用した。そう捉える事が出来るわ」

「・・・私は帰れるの?」

 

 その言葉にこちら側の蓮子の母は首を横に振る。

 

「しきたりを疎かにした宇佐見の家系の少女は還らないわ。

 あなたは私の蓮子として、これからを生きていかなければ、ならないわ。でも、可能性が全く0と云う訳でもないわ」

 

 そう告げると蓮子の母は一冊の本を手にする。

 その手にされた本に蓮子は見覚えがあった。

 そして、それを見て改めて、自分が踏み入った領域に気付く。

 

「私の蓮子であって、別の蓮子。

 あなたは統一力学──いえ、超統一力学を学びなさい。

 それがあなたがあなたである証拠であり、あなたが元の世界へ戻れるかも知れない可能性よ」

 

 

 ──全てには何らかの引力が作用する。

 特殊な特異点ともなれば、その引力の桁は計り知れないだろう。

 こうして、宇佐見蓮子は宇佐見蓮子を演じて現在の科学世紀でマエリベリー・ハーンと云う特異点と遭遇するのであった。

 

【特異点・宇佐見蓮子・完】

岸辺露伴は動かないのオマージュ作品ですが、元になったタイトル作品を知りたい方いますか?

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