ようこそ不良品だらけの教室へ   作:きよぽん

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第1話:初めての退学

【はじめに】

 

お読み頂き、有り難うございます。本作品の綾小路君は、松雄氏の元で潜伏中、日本のサブカルチャー全般にハマってしまったようです。(全7話予定)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

 

予鈴を聞きながら教室に滑り込んだオレは、小さくため息をついた。久し振りの全力疾走だったが、思った以上に身体は動いてくれた。入学2日目で遅刻という最悪の事態は、どうにか避けられたらしい・・・

 

 

周囲を見渡せば、クラスメートたちは雑談に忙しいようで、こちらを気にする者も無し・・・認めたくはないものだな、若さゆえの過ち(友達作りの失敗)というものを。いや、まだ諦めるには早すぎる。先は長いのだ。最後にオレが勝っていれば、それでいい・・・って、そもそもこの戦い、勝ち目はあるのだろうか。

 

 

「哀れね。そんなに友達が欲しいのかしら?」

 

 

表面上は平静を保って着席すると、横から聞き覚えのある声がした。見れば、文庫本を手にした黒髪ロングの美少女、堀北鈴音である。入学式に向かうバスの中で出会って以来、なにかと縁のある相手だ。というか、入学してからまともに言葉を交わしたのは、彼女を含めて3人だけのような気がする・・・(戦慄)

 

 

「そう言うお前はどうなんだ?完全にぼっちだろ」

 

 

「あなたと一緒にしないで。私は友達が居ないのではなくて、友達が必要ないだけよ。だから、ぼっちなんかじゃないわ」

 

 

渾身の反撃は、あっさり切り返された。強い・・・

 

 

「じゃあまさか、卒業までずっとひとりで過ごすつもりなのか?」

 

 

「ええ、その方が何かと動きやすいし、無能な他人はむしろ足手まといだわ。あと、お前呼ばわりは止めて。名字で呼ぶのもお断りよ」

 

 

活字を追いながら、口だけ動かして答える堀北。取り付く島もない。どうもこいつは、孤独と孤高を履き違えているようだな。

 

 

「では何と呼べばいいんだ?さすがに、いきなり下の名前で呼ぶのはハードルが高・・・」

 

 

返事の代わりに彼女は、大きなコンパスを取り出した。ん?数学の授業はまだだぞ?それと、せめてそこはシャープペンシルにしておいてくれ。(BPO対策)

 

 

堀北とのコミュニケーションを諦めたオレは、窓の外を眺めつつ、暫し思考の海に身を沈めた・・・念のため言っておくが、決して間が持てないわけではないからな。(強がり)

 

 

今日から本格的な授業が始まる。すでに大学院レベルの学力を持つ身としては、履修内容にさしたる興味は無い。しかし、それに付随する高校生活には惹かれるものを感じている。高校生活と言えば薔薇色、薔薇色と言えば高校生活・・・うん?どこかで聞いた言い回しだな、これ。

 

 

自由を求めて入学したこの学校だったが、初日からおかしなことだらけだ。多額の電子マネーに充実した娯楽施設。そして異常な数の監視カメラ。しかも担任教師によれば、学校側はオレたち新入生の実力を高く評価しているらしい。外部との接触が禁じられている点を除けば、概ね夢のような環境と言えるだろう。しかし、こんな場所で3年間を過ごしたら、自堕落な人間が出来上がるだけなのでは・・・?

 

 

それに加えて、国立エリート進学校という触れ込みの割には、生徒たちの質にかなりのばらつきが見られるのも解せない。各クラスをざっと覗いて見たところ、真面目そうなA、仲の良いB、柄の悪いCと綺麗に色分けされているようだった。が、となるとこのDは、そこから漏れた残り滓・・・それとも、オレの分析が誤っているのだろうか。

 

 

だが、現に昨日もコンビニの店内で上級生を殴り飛ばしたクラスメートが居たしな。あの時、本気を出せば仲裁に入るのは容易かったが、堀北の目や監視カメラを気にするあまり、躊躇してしまった。これが後々、どんなバタフライエフェクトを引き起こすのか・・・

 

 

いずれにしても、いまはまだ判断材料が少なすぎる。欠けたピースが揃うには、もうしばらく時間がかかりそうだ・・・

 

 

「いまさらだけど、早速遅刻ぎりぎりで登校なんていい度胸ね」

 

 

その言葉で我に返る。どうやら、彼女の朝読書が終わったらしい。

 

 

さて、ここで何と答えるべきか。今朝、寝過ごす羽目になった理由を律儀に話す必要などない。てか、とても他人に言えるような理由じゃないし。むしろ今後、平穏無事な高校生活を送るためには、絶対秘密にすべき内容だ。なぜなら・・・

 

 

「ああ、新生活に思いを馳せていたら、なかなか寝付けなくてな」

 

 

「・・・」

 

 

一瞬迷ったあと、隣人からの刺々しいセリフに無難な答えをしたら、無言で返された。なぜだ?

 

 

「はぁ・・・やっぱりよく分からないひとね。ところで、昨日のコンビニでの一件についてなのだけれど・・・」

 

 

やはり彼女も気になっているようだ。果たしてどんなペナルティが課されるのか・・・それによって、この学校の謎を紐解くヒントが見えるかも知れない・・・

 

 

だがその時、堀北の台詞を遮るように明るい声が聞こえた。釣られてそちらに視線を向けると・・・は?なんで彼女がここに居る?

 

 

「失礼します!えっと・・・あ!綾小路君!昨夜とさっきは有り難う。それでね、連絡先を交換するの忘れてたから・・・」

 

 

声の主は、さっき昇降口で別れたばかりの女子生徒、一之瀬帆波だった。昨日、ふとしたきっかけで一夜を共にした相手である・・・って、待て待て待て!表現が微妙におかしくないか?単に彼女を一晩、オレの部屋に泊めただけだぞ。うん?やっぱり何かおかしいな。(混乱)

 

 

が、先ずは差し迫った問題をどうにかしなければならない。世間知らずのオレでも分かる。まだ入学2日目にして、他クラスの女子(しかも美人)が訪ねて来たこのシチュエーションは、かなりまずい。

 

 

「え?!誰だよ、あの美少女・・・」

 

 

「誰だ?!裏切り者のリア充野郎は?!」

 

 

「きゃー!大胆!」

 

 

「昨夜・・・寝不足・・・あなた、やはり見かけ通りの変態だったのね」

 

 

ざわめくクラスメートたちと、まるでゴミを見るような目を向けてくる堀北。

 

 

「何を勘違いしているのか知らないが、お前が想像しているような出来事は、なにひとつなかったからな」

 

 

「私が何を想像したと言うのかしら。ぜひ聞かせて」

 

 

またもやあっさりと返り討ちに遇う。言葉の応酬では、もはや彼女に勝てる姿が想像出来ない。オレは本当に、ホワイトルームの最高傑作なんだろうか?(ゲシュタルト崩壊)

 

 

「にゃ?えっと・・・なんかタイミング悪かった、かな?」

 

 

そして、やっと事態の深刻さに気付いたらしい天然一之瀬。オレの平穏無事な高校生活は、いま終わりを告げた・・・

 

 

♪キーンコーンカーンコーン♪

 

 

が、そんな絶体絶命の危機を救ったのは、鳴り響く本鈴だった。というか、こんな始業前ギリギリのタイミングでやって来るなんて、一之瀬はそんなにオレと連絡先を交換したかったのだろうか?まさかな・・・

 

 

「あ、ごめん!またあとでね!」

 

 

慌てて飛び出して行く彼女と入れ違いに、我がクラスの担任、茶柱佐枝教諭が入って来た。て言うか、昨日の初SHRでも感じたのだが、あの大きく開いたブラウスの胸元は、いったい誰に対するアピールなんだろう。

 

 

「おはよう諸君。さて、本日から授業が始・・・おっと、その前にやることがあったな」

 

 

わざとらしく途中で言葉を区切り、いまだに騒がしい教室を見回す茶柱。ゆっくりと動く視線が、オレのところで止まった。

 

 

「綾小路。済まないがそこの机と椅子を、廊下に運び出してくれないか」

 

 

「・・・はい?」

 

 

突然の指名に、思わず戸惑いの声が漏れる。なんでオレ?それにあの席は・・・

 

 

「綾小路って・・・だれ?」

 

 

ぼそりと呟く誰かの声・・・いまのは幻聴に違いない。きっとそうだ。自己紹介を失敗したことなんて、一切関係ないはず。たぶん、メイビー・・・

 

 

ともあれ、教師の指示には従わざるを得ない。皆の注目を集めつつ、手早く作業を行う。

 

 

「終わりました」

 

 

「うむ、ご苦労だったな」

 

 

その遣り取りを見て、人当たりの良さそうなイケメン、平田洋介が当然の疑問を口にした。

 

 

「先生、そこは確か須藤君の座席だったと思いますが・・・」

 

 

「ああ、言ってなかったか。須藤は暴力行為により、昨日付けで退学処分となった」

 

 

「「「「えぇぇ?!」」」」

 

 

見事なまでの大合唱。マジか・・・うそだろ・・・?在籍1日で退学だと?

 

 

あっさりとした口調で答える担任に、一転して静まり返る教室。隣で微かに息を飲む気配がした。ちらりと見れば、堀北が驚いたような表情を浮かべている。彼女も昨日、現場に居合わせていたのだから、他人事とは思えないのだろう。

 

 

「いきなり退学処分、ですか・・・?」

 

 

僅かに震える声で問う平田に、茶柱は平然と続けた。

 

 

「どうした?まさか処分が厳しすぎるとでも言いたいのか?オリエンテーションでも説明した通り、この学校は実力で生徒を評価する。従って、校則に違反した者が処罰を受けるのは当然のことだ。法治国家としても、何らおかしな点はないぞ?」

 

 

理路整然としたその言葉が、却って言い訳がましく聞こえてしまうのはどうしてだろうか。それに、微妙な表情や喋り方から、明らかに彼女は一刻も早く、この話題を終わらせようとしていることも察せられた。

 

 

「まあ、そう深刻に考えるな。本来、学校側が違法と判断しない行為ならば、退学処分などあり得ん。ポイントの支給額でも分かっただろう?君たちは期待されているんだ。もっと自信を持ちたまえ」

 

 

つまりは、学校側の恣意的な判断で、いつでも退学処分を下せると言うことか・・・これはまた、とんでもない学校に入ってしまったのかも知れない。松雄の事前情報が間違っていたのだろうか?

 

 

「ふはははは!これは傑作だ!なるほど・・・そう言うことか、茶柱ティーチャー。といっても、理解できているのは私を含め、ふたりだけのようだがね」

 

 

初日から我が道を行く自由人、高円寺六助の高笑い。机に足を乗せ、爪の手入れをするというふざけた態度だが、物事の本質を見抜く力は確からしい。一瞬、目が合ったような気がしたが・・・まさか、な・・・

 

 

だが、そんな高円寺の言葉にも反応を見せず、茶柱先生はおもむろに告げた。

 

 

「では諸君、授業を始めようか」

 

 

その言葉を聞き流しつつ、オレは考えていた。一之瀬は朝のSHRに間に合ったのだろうか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実力至上主義の教室、か・・・」

 

 

衝撃の退学処分を知った日の夕方。学生寮1Fの自販機で缶コーヒーを購入したオレは、思わず呟いた。生徒を実力で測ることを標榜し、恵まれた学習環境が用意されたこの学校。生活費は無料かつ、卒業後の希望進路も100%保証されている。だが一方で、かなり非情な側面も持ち合わせているようだ。今日の一件は、如実にそれを示しているように思われた。

 

 

厳重注意や停学等の常識的な罰則を飛び越えて、問答無用の退学処分。やはり、うまい話には裏がある。世の中そんなに甘くない、ということなのだろう。これから3年間、事なかれ主義を貫いて平穏な時間を過ごせればいいのだが・・・なるべくなら、目立ちたくはないものだ・・・

 

 

そんなことを考えつつ、ロビーのソファーに座って缶コーヒーを開ける。疲れた身体に、程よい苦味が染み渡ってゆく。これも、あの部屋を脱出したからこそ知り得た味だ。やはり世間は広い。

 

 

まだオレの高校生活は始まったばかりだが、ルーティンに縛られていたあの頃に比べれば、実に刺激的な時間を過ごせていると思う。路線バスでの一幕に始まり、どこか釈然としない学校のカリキュラムや黒歴史の自己紹介、さらにはクラスメートの退学処分、そして一之瀬との忘れ得ぬ一夜・・・(だから意味深な書き方はやめてくれ)

 

 

どうやら、退屈することは無さそうだな。

 

 

そしてオレは、今朝寝過ごす原因となった出来事を思い出していた・・・




次回第2話:一夜の過ち・・・(だから違う)
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