ようこそ不良品だらけの教室へ   作:きよぽん

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第2話:一夜の過ち

~約24時間前 入学式当日~

 

 

コンビニで赤髪のクラスメート、須藤の暴挙を目撃したオレは、足早に学生寮へと向かっていた。辺りにはすでに、夕闇が迫っている。思った以上に時間を食ってしまったらしい。

 

 

それにしても入学初日から、とんでもないヤツが居たものだ。あれでよく、この学校の入試を突破できたな・・・松雄からは、ひとを外見だけで判断してはならない、と繰り返し忠告を受けていたが、さすがにアレは・・・

 

 

「ん?」

 

 

前方の暗がりに蠢く怪しい人影。瞬時にオレは警戒レベルを引き上げた。まさか、早速あの男が刺客を・・・?

 

 

だが、相手は周囲を見回しては、しきりにベンチや街路樹の陰などを覗き込んでいる。シルエットからして、恐らく女子だろう。かなり焦っている様子にも見受けられる。少なくとも、戦闘訓練を受けた者の動きではない。

 

 

「どうした?」

 

 

「にゃん?!」

 

 

オレの言葉に、驚いて顔を上げる不審人物。学校指定の制服を着た、かなりの美少女だ。街灯に照らされて光る、豊かなストロベリーブロンドの髪。どうやら一般生徒らしい。

 

 

一瞬の驚愕から立ち直ると、彼女は見るからに人の良さそうな笑顔を浮かべた。きっと明るい性格なのだろう。やはり人間は平等ではない。同じ美少女でも、ずいぶん違うものだな・・・先ほどまでコンビニで一緒だった隣人(堀北)と比較しようとしたら、急に寒気を感じた。なぜだ?

 

 

しかしこの状況。いきなり夕闇の中で声を掛けたのは悪手だったか。むしろ不審者はこっちである。でも『にゃん』って何だろう・・・?

 

 

「驚かせて済まない。こんなところに女子がひとりで居たから、気になったんだ」

 

 

「にゃにゃ?!こ、こっちこそ、ごめんね?わざわざ心配してくれたのに・・・」

 

 

慌てたように両手をぱたぱたと振る女生徒。その動きに合わせて、臙脂色をした真新しいブレザーの胸元も大きく揺れる。健全な男子高校生なら目の遣り場に困るシーンなのだろうが、オレにとっては単なる身体的特徴のひとつに過ぎない。そんな感情は、とっくにあの地獄へ捨ててきた。

 

 

「で、何をしていたんだ?」

 

 

いまだに揺れる男子の夢を横目に、話を進める。周囲はすっかり闇に沈み、もはや女子が単独行動をするような時間帯ではない。ましてや、今日はまだ入学初日。よほどの理由があったのだろうか?

 

 

「えっと、うん、それがね・・・あ!ごめんなさい。私、1年Bクラスの一之瀬帆波って言います。宜しくね!」

 

 

事情の説明よりも自己紹介を優先する一之瀬。第一印象通りの善人らしい。見覚えがないと思っていたが、やはり他のクラスだったか・・・はっ?!待て!この流れは・・・不意に訪れた復讐戦の機会に、オレは本気を出すことにした。ここは譲れません・・・

 

 

「1年Dクラスの綾小路清隆だ。気軽に清隆と呼んでくれたら嬉しい。部活動に入る予定は無いが、小学校ではピアノと書道をやっていた。宜しく頼む」

 

 

今日の黒歴史を払拭すべく、オレは平田のテンプレートを猿真似・・・彼の言い回しを完璧に流用した。残念ながら、爽やかなイケメンスマイルだけは再現出来なかったが。

 

 

「あ、綾小路清隆君・・・」

 

 

少し顔を赤らめると、視線を泳がせ、またもや動揺して身体(の一部)を揺らす一之瀬。この反応は、自己紹介成功・・・でいいんだよな?(震え)

 

 

「えっと、それでね、実は・・・」

 

 

若干躊躇ったあと、彼女は話し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど・・・」

 

 

事情は理解した。夕食を買いに出た一之瀬は、途中で学校支給のスマートフォンを忘れたことに気付いて取りに戻ったという。ところが、今度は部屋のカードキーが見当たらず中に入れない。そこでやむなく、再び来た道を辿りながら、落としたはずのカードキーを探し回っていたらしい。

 

 

「それは災難だったな」

 

 

「にゃはは・・・ほんと、高校生活の初っ端から何やってるんだろうって感じだよ・・・」

 

 

自嘲気味に話す彼女だったが、その整った顔には疲労の色も見える。

 

 

「学生寮の管理人室には?」

 

 

「うん、行ってみたんだけど、もう時間外みたいで・・・」

 

 

オレが思い付く善後策など、とっくに試していたようだ。

 

 

「スマホが無いから学校にも連絡出来ないし、いまから誰かのお部屋に押し掛けるのも・・・ね」

 

 

困惑した声に頷く。一般常識の欠如を自覚しているオレでも、充分に理解出来る話だ。入学初日では、さすがにまだ親しい友人も居ないだろうし、そろそろ夕食時なことを考えると、安易に訪ねて行くのも憚られる。

 

 

「そうか・・・まあ、仮にスマートフォンが有ったところで、まだクラスメートの連絡先は入っていないだろうしな」

 

 

会話の流れで何気なく言うと、彼女は意外そうな表情で答えた。

 

 

「ううん、もうクラスの子たちとは全員連絡先交換したよ?」

 

 

マジか・・・うそだろ・・・?連絡先などひとつも入っていない自分のスマホを思い浮かべて、慄然とする。思った以上に状況は危機的なようだ。オレがこの学校に合格したことを知ったあの男は、自信満々に「いずれ清隆は自主退学するだろう」とか言ったらしいが、このままでは早晩、やつの言葉通りの結末に・・・

 

 

しかもその理由が『友達作りに失敗したから逃げて来ました』とか、恥ずかしすぎてホワイトルームにすら帰れないまである。第5期生たちの笑い者にされるだけだ。間違いなく、オレはいま窮地だな・・・

 

 

焦燥にかられるオレの横で、柔らかい微笑を浮かべる一之瀬。実は先ほどから、彼女を手駒にする方法を考えていたのだが、もはやそんなことをしている場合ではないようだ。先ずは友達にならなくては。だがどうやって・・・?

 

 

結局、なんの妙案も浮かばず、目の前の問題解決を優先することにした。別名、現実逃避とも言うが。

 

 

「実はオレも、端末を部屋に置き忘れてしまってな。帰ったら、学校の事務室にでも連絡を入れてみようか?」

 

 

「うん、有り難う。そうして貰えると助かるかな」

 

 

ほっとした表情を見せる一之瀬と並んで歩き出す。やれやれ、入寮日から面倒なことになったな・・・オレは内心で、深々とため息をついたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「お、お邪魔します・・・」

 

 

「ああ、何もないところだが」

 

 

おずおず、といった感じで入って来た一之瀬は、室内を見回して複雑な表情を浮かべた。

 

 

「にゃはは・・・本当に何にもないね・・・」

 

 

確かに、持ち物と言えば僅かな着替えだけだしな。しかも、1日中出歩いていたので、まだ荷物の整理すらしていない。それにしても、友人のひとりも居ないオレが、入学早々こんな美少女を部屋に招くことになるとは・・・

 

 

柄にもなく感慨に浸っていると、不意に一之瀬がもじもじし始めた。ん?いまどきの高校生は、こんな挨拶が流行りなのか?

 

 

「あ、あの・・・綾小路君、と、トイレ貸して!!」

 

 

・・・なるほど。初対面の相手とはこうやって距離を詰めるのか。覚えておこう。(大間違い)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一之瀬がトイレに入っているうちにと、夕食の準備に取り掛かる。メニューは・・・そうだな、定番のカレーにしておくか。彼女の嗜好は分からないが、これなら大きく外すことはあるまい。

 

 

手早く作業を進めている間、何やら慎ましやかな音が漏れ聞こえていたが、人間誰しも、ひと皮剥けばそんなものだ・・・(達観)

 

 

しかし長いな。まさか大き・・・

 

 

「えっと・・・何してるの?」

 

 

躊躇いがちな一之瀬の言葉に、ゆっくりと振り向く。なるべく自然な感じで。ここは気付かぬ振りをするのがマナーだろう・・・っと、先に用件を済ませておくべきか。彼女も早く、自分の部屋に帰りたいだろうし。

 

 

「ああ、夕食の準備をしておこうと思ってな」

 

 

そう答えてから、オレはスマートフォンを取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ side一之瀬 ~

 

 

「どうしよう・・・」

 

 

暗くなり始めた通学路で、私は呆然としていた。落としたはずのカードキーは見つからないし、お腹は空いたしトイレにも行きたいし・・・もう、泣きそうだよ・・・

 

 

「どうした?」

 

 

「にゃん?!」

 

 

不意に暗がりから声を掛けられ、びっくりして顔を上げると、そこには・・・

 

 

「驚かせて済まない。こんなところに女子がひとりで居たから、気になったんだ」

 

 

すらりとした男子が佇んでいた。整った顔立ちにサラサラの茶髪。そしてどことなく育ちの良さを感じさせる、不思議な雰囲気。落ち着いた話し方も好印象だ。思わず胸の高鳴りを覚える。

 

 

「にゃにゃ?!こ、こっちこそ、ごめんね?わざわざ心配してくれたのに・・・」

 

 

あれ?なんで私、こんなに慌ててるんだろう?

 

 

「で、何をしていたんだ?」

 

 

醜態を晒す私を敢えてスルーして、会話を進める彼。そんなさりげない気遣いも嬉しい。

 

 

「えっと、うん、それがね・・・あ!ごめんなさい。私、1年Bクラスの一之瀬帆波って言います。宜しくね!」

 

 

まだ動揺しながら自己紹介しつつ、私はこの出逢いに運命的なものを感じていた。

 

 

 

 

 

 

(中略)

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・」

 

 

トイレの中で、私は小さく息をついた。やれやれ、危ういところで間に合ったよ。これでひと安心・・・( ゚д゚)ハッ!

 

 

ほっとしたのも束の間。自分の置かれた状況に思い至り、私は愕然とした。えっと・・・思いっきり聞こえちゃったよね?いまの・・・(-_-;)

 

 

知り合ったばかりの格好いい男子、綾小路君のお部屋にお邪魔して、そのままトイレに突撃するという黒歴史。そして辺りを憚らず・・・てか、なんでここ、音姫無いの?あ、ひとり暮らしの学生寮に消音装置は要らないか・・・(;´д`)トホホ

 

 

しばらく座ったまま悶々としていたけれど、あんまり長いと勘違いされちゃうかも・・・わあぁぁぁっ!それだけはダメ!絶対!

 

 

意を決して(?)トイレを出ると、キッチンに立つ綾小路君の背中が見えた。ふぅ・・・どうやら大丈夫だったみたい。(*´-`)ホッ

 

 

「えっと・・・何してるの?」

 

 

躊躇いがちに声を掛ければ、なぜかぎこちない動作で振り向く綾小路君。すらりとしたエプロン姿に、またドキッとさせられる。やっぱり格好いいなぁ・・・

 

 

「ああ、夕食の準備をしておこうと思ってな」

 

 

そう言うと、彼はスマートフォンを取り出した。

 

 

~ side 一之瀬 out ~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スマホを開いたオレは、一之瀬にも聞こえるようにスピーカー設定にしてから、プレインストールされた『緊急連絡先』をタップする。頼むから繋がってくれ・・・

 

 

幸い、数コールで相手が出た。

 

 

「はい、こちら中央制御室。どうしましたか?」

 

 

聞こえてきたのは、若い女性の声だった。宿直の事務員だろうか?それよりも、制御室・・・?

 

 

「うそ?!星之宮、先生?」

 

 

驚く一之瀬。どうやら電話口の向こうに居るのは、Bクラスの担任らしい。これは好都合だ。オレは簡潔に事情を説明した。ふぅ・・・やれやれ、一時はどうなることかと思ったが、意外にあっさり片付いたな。

 

 

しかし。

 

 

「うん、わかったよ綾小路君。要するに今夜、若さゆえの過ちを犯したいから、それっぽい理由が欲しいんだね?よーし、お姉さん、協力しちゃうぞ!」

 

 

「「は?」」

 

 

・・・なんでそうなる?こいつ、話を聞いていたのか?

 

 

こちらが唖然としている間にも、勝手に話を進めてゆく星之宮。いまだかつて、遭遇したことがないタイプの敵だ。勝ち筋が全く見えない。堀北然り、まさかホワイトルームで培ったオレの実力が、全然通用しない相手が居るとは・・・

 

 

「はーい♪たったいま、一之瀬さんのお部屋を完全にロックしたよ。さあ、これで明日の朝まで若いふたりはひとつ屋根の下。燃やせ青春!起こせ間違い!じゃあ、頑張ってね!(≧▽≦)!」

 

 

「なっ?!」

 

 

「にゃにゃ?!」

 

 

気付けば通話は切れていた。慌ててリダイヤルするも、着信拒否。何をやっているんだ?この教師は。

 

 

いずれにせよ、これで一之瀬は行き場を失ったことになる。時間的にも、これから誰か他の女子生徒の部屋に移動してもらう選択肢など、無い。つまり、明日の朝まで若いふたりはひとつ屋根の下・・・いかん、早速星之宮に毒され始めたらしい。

 

 

「・・・なんか、凄い担任だったな」

 

 

「にゃはは・・・とってもフレンドリーな先生ではあるんだけどね」

 

 

互いに気まずい雰囲気を誤魔化すため、敢えて軽い口調で会話を繋ぐ。それにしても、こんな不可抗力でヒロインと一夜を共にすることになるなんて、散々どこかで見飽きた展開だ。なんとなく、このあとの流れも読めてきたぞ。(深夜アニメの見すぎ)

 

 

「えっと・・・不束者ですが、一晩宜しくお願いします?」

 

 

「あ、あぁ・・・こちらこそ?」

 

 

なぜか疑問形で頭を下げる一之瀬に、こちらも疑問形で応じながら思う。今夜は長い夜になりそうだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

てか、オレたちの部屋の鍵って、学校側で一元管理されているんだな。(悲報)生徒のプライバシーはどこに・・・?




次回第3話:そして、ふたりきりの夜は更けてゆく・・・

素朴な疑問なんだが、オレはいま窮地なのか?
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