ようこそ不良品だらけの教室へ 作:きよぽん
「にゃにゃ?!お、美味しい・・・負けた」ボソッ
オレのカレーを口にした一之瀬が、なぜか絶句した。ん?まさか辛口は苦手だったか。
いまは入学式当日の夜。ひげを剃る。そして女子高生を拾い手料理を振る舞う。なお、このあとお風呂とお泊まりもある模様・・・
「お肉の煮込み具合、野菜の大きさ、スパイスの調合バランス・・・完璧だ。凄い、凄いすぎるよ」
「あぁ、それはな・・・」
なにやら勘違いしている彼女に、真実を告げようとしたのだが・・・
「優しくてハンサムでお料理も得意・・・もう反則技のオンパレードだ」
「いや、だから・・・」
「むむむ・・・パクッ・・・綾小路君と仲良くなるには・・・モグモグ・・・この味を越えなくちゃいけないのかぁ・・・ムグッ・・・これは生徒会よりも、お料理研究会が先だなぁ・・・」
美味しそうにカレーを頬張る一之瀬・・・もはや言えない。まさかそれが『7プレミアムゴールド 金のビーフカレー』を、お鍋で温めただけのものだなんて。あと、どうでもいいが、食べながらぶつぶつ言うのはマナー上どうかと思うぞ。
その後は、ふたりで互いにクラスの情報を交換したり、好きなアニメの話で盛り上がったりした。これが、オレの追い求めていた青春・・・やはり、ホワイトルームでは学べないことが、ここにはある。いずれあちらにも、サブカルチャー講座を設けるべきだろう。
ちなみに彼女のお気に入りキャラクターは、艦これの金剛型4姉妹や俺ガイルの由比ヶ浜結衣らしい。ほぅ・・・確かに似ているな。主に声とか声とか。大事なことだから2回言ってみたが、使い方、合ってるよな?
さて、共通の趣味で親睦を深めたあとは、風呂の順番で少し揉めたが、結局一之瀬が先に入った。むろん、残り湯なんかに一切興味はない。(キリッ
そして現在、寝る場所をめぐって彼女を絶賛説得中である。
「やっぱり、私がベッドに寝るわけにはいかないよ。綾小路君のお部屋なんだから」
あくまで固辞する一之瀬。もちろん着替えなど無いので、仕方なくオレの学校ジャージを身に付けている。当然、彼女にはサイズが大きすぎて
「気にせずベッドで寝てほしい。まだオレも使っていないから、実質新品だ」
他人のベッドに抵抗感があるのは理解できるが、まさかこの状況で、彼女を床に寝かせるわけにはいかないからな。
「・・・わかった。ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらうね。本当は、ふたりで一緒に寝れば良いと思うんだけど・・・」ボソッ
嫌悪感からなのか、若干顔を赤らめた一之瀬が、しぶしぶといった感じでベッドに潜り込む。何かぶつぶつ言っていたが、聞こえなかったことにしておこう。(お約束)
「おやすみなさい」
就寝の挨拶をすると、すぐに寝息を立て始めた一之瀬。ずっと快活に振る舞ってはいたが、入学したばかりの慣れない環境下、しかも知り合ったったばかりの[[rb:異性 > オレ]]の部屋で一夜を過ごすのは、やはり相当緊張を強いられる事態だったのだろう・・・
彼女の眠りを妨げぬよう、オレも床に毛布を敷いて横になり、照明を落とす。眠るつもりはないが、休める時に休んでおくのはサバイバルの常識だ。こうして疾風怒濤の高校生活初日は、ようやく終わった。
念のため言っておくが、もちろん間違いは起きなかったからな。(あたりまえ)
「ん・・・」
ゆっくりと意識が覚醒する。朝か・・・少しまどろんでしまったようだ。あの頃は徹夜の耐久訓練など日常茶飯事だったのに、この程度で寝落ちしてしまうとは、やはり思った以上に
自分の不甲斐なさを感じつつ起き上がると、何か見慣れないものが視界を掠めた。違和感の正体は、壁に掛けられた制服のブレザーとスカート・・・いや、先に言っておくが、オレにそんな趣味はないぞ?
実のところ、昨夜はあまり眠れなかった。別に、すぐ横で寝息を立てる美少女に興奮したからではない。そんな感情は、とっくにあの地獄へ・・・あれ?確かさっきも言ったよな、これ。
寝不足の理由はわかっている。他人と同じ部屋で眠ることに、オレの身体が拒絶反応を示したのだ。睡眠中は、誰しも無防備な状態を晒している。どれほど鍛えていようとも、そこを狙われたらひとたまりもない。実際オレは、そんな事例を嫌と言うほど見てきた。だから、たとえ一之瀬がか弱い少女であったとしても、一切油断はできないのである。
と言って、まさか彼女がホワイトルームからの刺客とも思えないが・・・
ふと見れば、まだ薄暗い部屋の中、スマホがメールの着信を知らせていた。連絡先を交換した相手など、ひとりも居ないはずなのに、いったい誰から・・・?
首を傾げながら開いた画面には・・・
FROM:チエ️
TO:きよぽん
SUBJECT:丸見えだぞ️
本文:おはよう️️♪昨夜は凄かったみたいだね?!大人の階段を上った気分はどう?今度、私のところにも報告しに来ること!★あと一之瀬さんのお部屋、ロック解除しておいたから、もう入れるよ(^^)/
PS:いまから2回戦なんてしちゃダメだぞ?遅刻厳禁(o・ω・o)@
これは絶対に受信履歴から消さないとダメなやつだ。だいたい、なんでオレが星之宮とメル友になっているんだ?それとあんた
そこまで考えて、ふと窓に視線を移す。カーテン越しに漏れる朝日が、やけに眩しい。もしかして・・・いまさらながらにスマホの時計表示を確認したオレは、我が目を疑った。マジか・・・うそだろ?!(大病院占拠)
4/8 火曜日
08:00
「一之瀬!済まないが起きてくれないか」
マナー違反は承知でベッドに声を掛けるも、熟睡しているのか全く反応なし。掛け布団から少しはみ出したストロベリーブロンドが、白いシーツに広がってやけに艶かしい。
本来なら彼女が目覚めるまで待つべきだ。しかし、そんな悠長なことをしていたら、ふたり仲良く遅刻して、星之宮に弄り潰される未来しか見えない。逡巡している間にも、刻々と朝の貴重な時間は過ぎて行く。こんな時、萌えアニメなら妹が兄の布団に飛び乗って起こすのが定石だが・・・(ダメ!絶対)
ええい!ままよ!
「起きてくれ!朝だ!」
やむなく、膨らんだ掛け布団を剥がす。あっ・・・(察し)
「んんっ・・・ふわぁ・・・おはようお母さん、入学式、間に合うかなぁ・・・」
いまだ寝ぼけ眼の一之瀬。これが演技だとしたら、彼女は一流のエージェントになれるだろう。
「残念だが入学式は昨日終わったぞ。始業まで、あと30分もない」
「ふぇ?」
その言葉にようやく目覚めたのか、一之瀬は飛び起きた。慌てるあまり、色々と捲れ上がったり、ずり落ちたりしていることにも気付いていないようだ。
「た、大変?!どうしよう綾小路君!」
「とにかく落ち着いてくれ。まずは取り敢えず、その格好をどうにかしてくれると助かる」
「??・・・にゃにゃん?!」
自分のあられもない姿を見下ろし、まるで尻尾を踏まれた猫のように飛び上がる一之瀬。ほぅ・・・これがいわゆるラッキースケベというものか。(大正解)しかし、こんな場面でも悲鳴が
「・・・み、見たの?」
冷静に状況を分析するオレの目の前で、再び布団にくるまった一之瀬が呟く。
「偶然って恐いな」
「見たの?」
・・・やはり、ラッキーなスケベなどというものは存在しないようだ。しかし、過ちを気に病むことはない。ただ認めて次の糧にすればよい。それが学生の特権だ。(一部拡大解釈)
「済まない。お詫びに何でもしよう」
「・・・いま、何でもって言ったよね?」
なるほど・・・これが敗北というものか。
結局、朝食を摂る暇もなく、オレのジャージを着たまま自分の部屋へ帰ることになった一之瀬。少なくとも、教科書や筆記用具は取りに戻らなくてはならない。不幸中の幸いは、すでにほとんどの生徒たちが登校済みで、朝帰り(?)の姿を見られる可能性が低いことか・・・
「本当にありがとう。このお礼は、必ずするからね」
制服を手に慌ただしく立ち去る彼女を見送ると、こちらも速攻で準備を済ませ部屋を飛び出す。このまま終わるわけにはいかんのだ。(ロボス元帥)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「にゃ?!あ、綾小路君?」
寮のロビーで待機していたオレは、タイミング良くエレベーターで降りてきた一之瀬とのランデブーに成功した。女子は色々と準備に手間取るものと聞いていたが、なかなかどうして、この素早さは大したものだ・・・ザクとは違うのだろう、ザクとは。(意味不明)て言うか、この短時間であの頭を綺麗に纏める技術は、ぜひご教授願いたい。
「単刀直入に聞く。何か食べたか?」
これだけは、事前に確認しておく必要がある。もし彼女がたっぷり朝食を摂っていたならば、この作戦計画は根本から破綻することになるだろう。
「え?いや、野菜ジュースをひとくち飲んだくらいだけど・・・」
よし!なら、いけるな。
「わかった。じゃあ、かばんを抱えてくれないか」
「ふにゃ?!」
言うが早いか、一之瀬をお姫様抱っこしてダッシュを開始する。礼儀を欠いた振る舞いなのは百も承知だが、いまは1秒たりともムダに出来ないのだ。普通に歩いて登校していたら、恐らくふたりとも遅刻は免れまい。結果的にオレのせいで、優等生の彼女にまで迷惑をかけることになってしまうだろう。そう考えて出した結論が、これである。
極力、一之瀬に負担がかからないような走り方をするつもりだが、やはり満腹の身では辛いはず。先ほど、食事の有無を確かめたのはそのためだ。
入学2日目にして遅刻という、新入生として最悪の結末を回避すべく、持てる走力を駆使して人影のない通学路を疾走する。こんなに本気で走るのは、ホワイトルーム以来だな。
「にゃにゃ@?¥*!!(>_<)☆彡△♪」
腕の中で、Bクラスの天使が何か叫んでいる。済まん。いまは耐えてもらうしかない・・・
そして無事、作戦は成功した。フルスピードで校舎に駆け込んだが、まだ予鈴は鳴っていないようだ。走力は衰えてはいないらしい。これなら、体育祭あたりで全力を出してみるのも面白いかもな・・・尤も、オレと勝負できるヤツがそうそう居るとも思えないが。
昇降口で一之瀬を降ろし、改めて非礼を詫びる。一瞬、残念そうな表情を浮かべたように思えたのは、何かの見間違いだろう。
「乱暴なやり方で済まなかった。後日、必ず埋め合わせはするから、いまは目を瞑ってくれないか」
彼女の返答次第で、オレの平穏な高校生活が終わる。
「にゃ?!と、とんでもないよ!綾小路君のおかげで遅刻しないで済んだし・・・お姫さま抱っこも経験できちゃったしね」ボソッ
またもや慌てたように、あわあわと両手を振る美少女。もちろん、身体(の一部)も揺れる。昨日から、もはやお約束だな・・・周囲の目を避けるために彼女と別れ、何食わぬ顔で教室へと向かう。オレの平穏無事な高校生活は、いま始まったばかりだ。
そして場面は、第1話の冒頭へ・・・って、さっきからオレは、誰に何を説明しているんだろう?
次回第4話:櫛田桔梗・・・オレの実力が通用しない不良品が、またひとり・・・