ようこそ不良品だらけの教室へ 作:きよぽん
※本作品の櫛田さんは中学時代、サブカルチャーにハマってしまったようです。
どうしてこうなった?
昼休みの廊下を全力疾走しながら自問自答する。腕の中には、昨日図書館の前で知り合ったばかりの文学少女、椎名ひより。そして後ろから迫り来るのは、学年屈指のヒロイン候補、一之瀬帆波と櫛田桔梗。
絶体絶命の状況下、オレは僅か数分前の出来事を思い出していた・・・
「綾小路君!ちょっといいかな?」
初めての退学騒ぎがあった日の昼休み。弾むような明るい声に、オレは振り向いた。そこに居たのは櫛田桔梗。昨日の自己紹介で男子の心を鷲掴みにした(らしい)Dクラスの天使だ。もちろん、互いに接点はない。というより、現時点でオレが個人的に繋がりを持っているクラスメートなど存在しない。え?堀北?やめてくれ。(断言)
さて、そんな人気者の彼女だが・・・どうも額面通りの人物には思えない。オレの第六感が、しきりに警報を発しているのだ。一見非科学的な判断基準だが、いままでこの予感が外れたことはない。ゆえにオレは、僅かに警戒レベルを引き上げつつ応じた。
「別に構わないが・・・なんの用だ?」
無意識に身構えるオレに、他意を感じさせない笑みを浮かべて櫛田は言った。
「うん!連絡先交換したいな、と思って」
「・・・オレと?」
予想外の申し出に、若干返答が遅れてしまう。まさかそんなことが?もしもこれが現実だと言うのなら、たとえ今後、どこかの無人島でホワイトルームの刺客たちと死闘を繰り広げることになったとしても、オレは驚かないだろう。
「だめ、かな?」
少し困ったような上目遣いで迫る櫛田。腕を腰の後ろで組み、ことさらに胸元を強調するような姿勢をとっている。あざとい・・・恐ろしいまでに洗練された対人戦闘スキルだ。
いまのオレは知っている。銃火器や近接格闘術だけが敵を倒す手段ではない、ということを。松雄の隠れ家で潜伏中に、ラノベや深夜アニメが教えてくれた。女子のあざとさもまた、一瞬で相手を無力化できる有効な武器なのだ。ただし
つまりいま、櫛田桔梗は自らの強みを最大限に活かした戦術を駆使しているのである。これに逆らえる男子など、ひとりも居るまい・・・だが残念だったな、オレにそんな攻撃は通用しないぞ。
そしてオレは、彼女にスマホを手渡した。あ、あれ?なんかおかしいな・・・(完敗)
「えっと・・・良いの、かな?」
なぜか、さらに困惑の色を深める櫛田。ん?まさか彼女も、デジタルツールの操作が苦手だったのだろうか?
「ああ、構わない。まだ誰とも連絡先を交換したことがないから、操作方法がわからないんだ」
こんな時、ヒロインたちはドン引きしながらも、最終的にはどうにかしてくれるはず。ソースは比企谷。
「え?あは、あはは・・・そうなんだ・・・(汗)じゃあ、私は綾小路君にとって初めての相手になるんだね?」
小悪魔のような笑みを見せる天使。(支離滅裂)どうやらオレはいま、またもや敗北というものを味わっているらしい・・・
「それじゃ、失礼します・・・うわ、ホントにアドレス帳空っぽじゃん。マジかよコイツ」ボソッ
慣れた手付きで、オレのスマホを操作する櫛田。途中で何か呟いていたようだが、生憎声が小さくて良く聞こえなかった。(難聴系主人公)
「あ、ウマ娘やってるんだ~♪私も一応、トレーナーなんだよ。綾小路君の推しウマは誰?」
不意に彼女が固まった。どうしたんだ?特段、見られて困るアプリなど、なにも入れてないはずだが・・・
「うそ・・・艦これなんてやってるひと、まだ居たんだ。完全にオワコンじゃん。アニメも大コケだったし・・・ひゃっ?!」
はっ?!い、いかん・・・お気に入りの本格戦略艦隊シミュレーションゲーム(建前)を貶され、つい殺気を放ってしまったらしい。まあ、確かにあのゲーム、色々と言われているみたいだが、なぜかオレとはウマが合って・・・
ぎょっとした表情の櫛田を見て、即座に平静を装う。事なかれ主義、事なかれ主義・・・オレは実力を隠した、おとなしい陰キャ設定なのだ。
「な、なんかゴメン・・・で、でも、艦娘もかわいいよね。猫耳や尻尾の生えた赤城さん?とか、私好きだな」
・・・櫛田、それは艦これじゃなくてアズールレーンだぞ。
盛大に自爆した天使に無言のツッコミを入れながら、作業の終了を待つこと暫し。オレの殺気を浴びて狼狽えた彼女が、多少操作に手間取りはしたようだが・・・
「はい、出来たよ」
「おぉ・・・」
手渡されたスマホの画面を見て、思わず声が漏れた。そこに表示された、初めての連絡先。それも、クラス随一の人気を誇る美少女のものである。圧倒的大勝利だ。これまで当たり前のように手にしてきた勝利とは、重みが違うのだよ、重みが。(ランバ・ラル大尉)
その事実を前に、オレはすっかり警戒心を緩めてしまった。え?第六感の警告?なんの話だ?
「ふふ、そんなに喜んで貰えるなんて、ちょっと恥ずかしいな。でも、連絡先交換してくれてありがとう!これで私たちはお友達だね!それで、ひとつお願いがあるんだけど・・・」
・・・この世に天使は実在していたらしい。
「何でも言ってくれ。ちなみに聞くが、櫛田はいままでに何人ぐらいと連絡先を交換したんだ?」
つい気を良くしたオレは、余計な質問を口にしてしまった。
「うん、Dクラスだけなら、綾小路君と
マジか・・・うそだろ?新生活2日目にして、すでに学年の半数が櫛田の手に堕ちているのか・・・言葉を失うオレに、一層明るい笑顔を見せて彼女は続ける。
「それで早速なんだけど・・・」
だが、天使のお願いは途中で遮られた。廊下の角から現れた女子生徒が、俺の名前を呼んだのである。
「あ!綾小路君?!」
「・・・一之瀬か。今朝以来だな」
偶然にしては、少々出来すぎのタイミングにも思えるが・・・
「にゃはは・・・さっきはごめんね。それでなんだけど、連絡s・・・」
一之瀬が、予想通りの言葉を口にする。勝ったな。櫛田に続いて2件目の連絡先は、もはや手にしたも同然。高校生活と言えば薔薇色、薔薇色と言えば高校生活。灰色なんて言ったやつは誰だ・・・?
ところが。
「いや~綾小路君のアドレス帳が空っぽとは意外だったな~♪まさか私が友達第1号になれるなんて、超感激だよっ!あっ!ひょっとして一之瀬さんも同じ用件だったのかな?彼の
は?
突然会話に割り込んできたKY娘は、空気を読む達人であるはずの天使、櫛田桔梗そのひとであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
~ side 櫛田桔梗 ~
計画は完璧だった。入学式に向かうバスの中から猿芝居を始め、配属されたDクラスでも、徹底的に善人を演じて見せた。その甲斐もあってか、初日だけで新入生のほぼ半数と連絡先を交換することに成功。これで私は、スクールカーストのトップに立てる。そのはずだったのに・・・
堀北鈴音。私の過去を知っているかもしれない、想定外のイレギュラー。直ぐに接触を試みたけれど、全く応じる素振りすらない。何が「私には友達なんて必要ないの。だからもう関わらないで」だよ。ちっ!少しばかり美人だからって、お高くとまりやがって!でも、もし
表面上は天使の微笑みを浮かべながら、腹の中では堀北を罵倒しつつ善後策を練っていた私は、ふとスマホのアドレス帳を見て首を傾げた。1年Dクラスのフォルダーには、37件の連絡先が表示されている。おかしい・・・
クラス編成は男女各20名ずつの計40名。いまだに連絡先を交換できていないのは堀北だけだから、私自身を除くと残りは38名のはず・・・ひとり足りない?この時代に学校の怪談とか流行らないし。てかこの二次小説って、ホラーミステリーだったっけ?
少し混乱しながら視線を上げると、堀北が隣の男子と話しているのが見えた。へぇ・・・孤独と孤高の区別もつかないツンデレにも友達が・・・って誰?あのサラサラ茶髪で表情の変化に乏しい、陰キャなイケメン君は。
思い当たる名前が浮かばなかった私は、早くもクラスの中心人物となりつつある、平田君の元へ向かう。
「平田君!ちょっといいかな?」
「なんだい?櫛田さん」
天使モードで話しかけるも、彼を取り巻く軽井沢さんたちが敵意の籠ったオーラを滲ませる。あーうざい。誰もあんたらの平田君を略奪しようなんて思ってねえよ!このクソビッチどもが!何なら、あんたらの弱点調べあげてブログでぶちまけちゃおうか?(歴史は繰り返す)
はっ?!・・・いけない、いけない。思わず堕天使モードに入りかけちゃった。てへへ♪(汗)作り笑いの仮面を更に分厚くしてから、明るく問いかける。
「うん、いま堀北さんと話してるひとって誰だっけ?実はまだ、みんなの顔と名前が一致しないんだ」
ここは敢えて、ちょっと抜けたおバカキャラで行ってみよう。どんなキャラも、私が演じれば全部かわいくなるのだ。そして彼は、完璧な答えを返してくれた。しかも、嫌味にならないフォロー付きで。
「僕だってそうさ。まだ入学2日目だもんね。で、彼は綾小路清隆君だよ」
「「「あやのこうじ?」」」
はからずも、軽井沢さんたちとハモってしまった。てか、そんなやつ、居た・・・?そうだ!確か今朝、始業直前に乱入してきたBクラスの一之瀬さんが、そんな名前を言ってたような・・・
うん、これは使えるかも・・・
堀北攻略の糸口を見出だした私は、昼休みのチャイムとともに行動を開始したのだった。
「綾小路君!ちょっといいかな?」
廊下でぼっちの彼を捕まえる。こんな陰キャ、どうせイチコロだろう。私が話し掛ければ、男子の反応なんて鼻の下を伸ばすかキョドるかの二択。ほんとバカばっか・・・どこ見てるかなんて、バレバレだよ?
ところが、目の前の『彼』は違った。
「別に構わないが・・・なんの用だ?」
え?私を・・・警戒してる?初めての事態に動揺しながらも、いつもの仮面を被り直す。たぶん気のせいだ。
「うん!連絡先交換したいな、と思って」
「・・・オレと?」
ところが、相変わらず掴み所のない無表情で答える綾小路君。なんで・・・??だけどこうなったら、こっちも意地だ。ここで退いたら女の子の沽券に関わる。ゆえに私は、渾身の精神干渉系魔法を放った。コキュートス!!あ、これだと綾小路君が死んじゃう。(汗www)
「だめ、かな?」
長年の実戦経験から編み出した、手を後ろで組み胸を張る最強のポージングと、困ったような上目遣いのコンビネーション。よし!堕ちた・・・!
はい?( ゚д゚)ポカーン
彼はなんと、私にスマホを手渡してきた。こいつバカなの?捻デレなの?ヒキタニなの?いまどき他人にスマホを見せちゃうなんて、裸を見せちゃうのとほとんど同じことでしょ?!良い子のみんなはしちゃダメ!絶対!
「えっと・・・いいの、かな?」
一応尋ねたけど、絶対いいはずがないよね?私だったら恥ずか死んじゃう。
「ああ、構わない。まだ誰とも連絡先を交換したことがないから、操作方法がわからないんだ」
・・・もう、どんなリアクションをすれば良いのか分からない。分かっているのはただ、目の前の男子が未知の強敵であるということだけ。
改めて見れば、すらりとした体格に知的な雰囲気。その無表情も、捉えようによっては年齢不相応な落ち着きを彼に与えている。そして何より、不愉快な視線を全く向けてこない・・・
気付けば私は、差し出されたスマホを受け取っていた。
「それで早速なんだけど・・・」
連絡先の交換を終えた私は、
でも、私の言葉は途中で遮られた。あり得ないタイミングで、Bクラスの一之瀬さんが現れたのだ。
「あ!綾小路君?!」
「・・・一之瀬か。今朝以来だな」
「にゃはは・・・さっきはごめんね。それでなんだけど、連絡s・・・」
彼女に他意はない。たぶん、彼と連絡先を交換しに来ただけだろう。私は部外者だ。ふたりの遣り取りに絡む必要なんて、ない。ところが・・・
そう、一之瀬さんの姿を見た瞬間、綾小路君が僅かに表情を緩めたのだ。私に対してはずっと無表情だった彼が。それはほんの一瞬のことで、ひょっとしたら彼自身、意識していなかったのかも知れない。だけど、こんなに愛想を振り撒いて相手をしてやったのに、私より彼女を選んだ?しかも、よりによって私と違い、たぶん本物の天使である彼女を。その事実が許せなかった。
そして、私の中で承認欲求が爆発し・・・口走ってしまった。これまでの努力を自ら台無しにするようなセリフを。
「いや~綾小路君のアドレス帳が空っぽとは意外だったな~♪まさか私が友達第1号になれるなんて、超感激だよっ!あ!ひょっとして一之瀬さんも同じ用件だったのかな?彼の
私、ヲワタ。
~ side 櫛田桔梗 out~
いきなり、オレと一之瀬の会話にカットインしてきた櫛田。コミュニケーションおばけの彼女にしては、ずいぶんKYな振る舞いだな・・・不審に思うオレを尻目に、弾けんばかりの笑顔で続ける天使。
「ささっどうぞっ!これで一之瀬さんも、晴れて綾小路君のお友達
ことさらに、自身の優位性を強調して煽る櫛田。あまりにも彼女らしくない言動だ。一瞬表情を曇らせた一之瀬が、負けじとスマホを取り出しながら応じる。ちょっと待て。まさかこの流れ・・・
「えっ?!わ、私はとっくに綾小路君の友達だよ?だって・・・ゆ、昨夜一晩、彼のお部屋に泊めてもらったんだから!」
オレ、ヲワタ・・・
「?!?入学初日にお泊まり・・・どういうことなのかな、綾小路君。友達なら説明してもらえるよね?」
にわかに圧力を増す櫛田。どうやら、友達になると説明責任が発生するらしい。
「櫛田さん、いまは私が綾小路君と話してるんだけど・・・」
「うん!分かってるよ?だけど先に割り込んできたのは一之瀬さんだったよね?」
微笑みを浮かべて睨み合うふたり。ほぅ・・・この威圧感。手駒として申し分ない能力だ。
「「そうだよね?綾小路君?」」
「は?」
綺麗な声でハモる手駒候補。どうしてそこでオレに振る?凄まじい圧力をかけてくるふたりは、ともに目だけ笑っておらずハイライトが消えている。ラノベで読んだ通りだ。そしてこの騒ぎを聞き付けたのか、いつの間にかギャラリーも集まりつつある。そうか、これがあの・・・
修羅場というやつだな?(大正解)
正確に状況を分析したオレは、即座に最適解を導き出す。この程度の地獄など、あの部屋に比べれば大したことではない。(汗)
そしてオレは、全速力で
「あ!待って!」
「もう!逃がさないよっ?!」
一気にトップスピードで加速するが、なぜか振り切れない。バカな・・・ひたひたと追い縋る足音が廊下に響く。地味に恐い。
「うおっ?!なんだてめえは?!」
「きゃ?!な、なに?!」
Cクラスから出て来たロン毛男子と青髪女子を、危うく躱す。弾みで捲れたスカートの向こうに何か見えた気がしたが、バレなければどうということはない。おそらく一之瀬たちは、いまのふたりが邪魔でスピードを緩めるだろうから、これで振り切れるはず・・・
「うおっ?!今度はなん・・・」
「きゃ?!今度はなによ?!」
「邪魔だ!どけぇぇぇ!」
「邪魔だよ!どいてぇぇぇ!」
「がはっ?!」キューン
「りゅ、龍園さん?!?」
マジか・・・うそだろ?
背後で聞こえる阿鼻叫喚。足は止めずに振り向けば、ロン毛を軽々と跳ね飛ばして迫り来る櫛田と一之瀬が見えた。青髪女子の方はへたりこみ、何かが丸見えに・・・ひとり足りないが、見事なジェットストリームアタックだ。(錯乱)
「きゃ?!」
「?!」
可愛らしい悲鳴に再度前を向けば、胸元に本を抱き締めた銀髪の美少女が立ち竦んでいた。昨日知り合った椎名ひよりだ。まずいな。これは避けられない。たとえぶつかってもオレは大丈夫だが、彼女はただでは済まないだろう。かと言って、減速すれば追い付かれる。ならば・・・(ここまで約0.2秒)
「ひゃん?!」
衝突寸前で咄嗟に彼女を抱き上げ、そのままダッシュを続ける。本日2度目のお姫様抱っこだ。オレの平穏な高校生活はどこへ・・・
「えっと・・・綾小路君、これはどういう状況なのでしょう?」
オレに抱かれた椎名が、僅かに息を弾ませながら聞いてくる。(深い意味はない)
「済まないが、説明は後回しにさせてくれ」
廊下の突き当たりで急減速し、階段を駆け降りながら答える。
「分かりました。綾小路君がそう言うのでしたら」
あっさり引き下がる椎名。昨日も感じたが、彼女は相当な大物か、或いは一之瀬以上の天然なのかも知れない。
そして物語は、ページ最上部へと戻るのであった・・・
てか、またオレは主役と狂言回しの二刀流なんだな・・・
「綾小路君!堀北さんの連絡先、聞いてきて貰えないかな!彼女、ガードが固くて私が聞いても教えてくれないの!綾小路君なら、彼女と仲良しみたいだし・・・お願いっ!」
後ろで叫ぶ櫛田・・・狙いはそれだったのか。やはりこの世に天使など、存在しないらしい。あとそれ、堀北にも丸聞こえだと思うぞ。
次回第5話:一之瀬帆波の危機・・・まさか千尋ちゃんが・・・??