ようこそ不良品だらけの教室へ   作:きよぽん

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第6話:若さゆえの過ち

人生初の修羅場を経て、4月も半ばに差し掛かったある昼下がり。穏やかな春の日差しに照らされて、今日も高育と榛名は大丈夫です。

 

 

先日の騒動以来、周囲からの視線が痛い。特に、山内や池といったあたりの男子から強烈な負の波動を感じる。放たれる敵愾心の強さだけなら、ホワイトルームでも3軍程度には入れるだろう。まあ、どうせ3日と()たないだろうが。

 

 

今日もまた、昼休みの始まりと同時に、リア充どもは一斉に姿を消した。いま教室に残っているのは、孤独に愛された者たちだけである。

 

 

「妙な文学的表現で事実を誤魔化すのは止めなさい。余計に惨めになるだけよ」

 

 

お前もな・・・あと、地の文に反応するのは止めてくれ。

 

 

容赦ないツッコミに隣の席を見れば、堀北が背筋を伸ばし、凛とした表情で人影も疎らな教室を眺めていた。さて、ここで彼女を昼食に誘うのは社会貢献になるのだろうか・・・

 

 

「なぁ・・・」

 

 

「嫌よ」

 

 

即座に拒絶の言葉が返ってくる。ニュータイプ並みの先読み能力だ。つまり堀北は、黒髪ロングのツンデレエースパイロット・・・うん、ごく一部の層には刺さるかも知れんな。

 

 

「あなた、また何か失礼なことを考えていない?」

 

 

「なぜオレが、いつもお前のことばかり考えている前提なんだ?」

 

 

「くっ?!」

 

 

初めての勝利に酔いしれていると、不意に微かな甘い香りがした。ん?この匂いは確か・・・

 

 

「綾小路君!一緒にお昼どうかなっ?」

 

 

「変態」ボソッ

 

 

ぼっちの天国に、場違いすぎる闖入者。あと堀北、お前本当にニュータイプなのか?

 

 

「・・・櫛田?みんなと学食に行ったんじゃ・・・」

 

 

「うん!でも、やっぱり綾小路君と一緒に食べたいなって。ダメ・・・かな?」

 

 

上目遣いに例のポーズ。正直、失笑を禁じ得ない。まさか、同じ戦法が何度も通じると思っているのか?ホワイトルームの最高傑作である、このオレに。

 

 

「・・・別に構わないが」

 

 

通じた。(爆)

 

 

「有り難う!じゃあ、お邪魔するね♪」

 

 

そう言いながら、さりげなく手近な机をくっ付けてくる。あの修羅場以降、櫛田の距離感がおかしい・・・そして、おかしいと言えば、あとふたり・・・

 

 

「こんにちは、清隆君。お弁当を作って来ました」

 

 

「にゃ?!わ、私もなんだけど・・・」

 

 

言わずと知れた、椎名と一之瀬だ。彼女たちもまた、修羅場を経験してストッパーが壊れてしまったらしい。そう言えば一之瀬は先日、部屋までオレの学校ジャージを返しに来たな。しきりに恐縮していたが、何があったんだろう?(知らぬが仏)

 

 

「ふたりとも、真っ昼間から寝言をほざくのは止めてね?さあ、綾小路君、私のお弁当を食べて」

 

 

周囲の目などお構い無しに、ぐいぐい迫って来る櫛田桔梗。時折ヒロインの仮面が脱げかけているが、大丈夫なのだろうか?その横では、いつの間にか机をくっ付けてきた椎名と一之瀬が、ハイライトの消えかけた目で微笑んでいる。なぜか嫌な汗が止まらない。あと、ひとつ疑問なんだが、どうして堀北まで机をくっ付けてくるんだ?

 

 

「清隆君さえ宜しければ、毎日お弁当を用意します。他にもお掃除やお洗濯から本の貸し借りまで、どんなことでも頼って下さいね?」

 

 

「なっ?!女子高生が毎日異性の部屋へ?ふ、不潔だわ!」

 

 

「あはは!椎名さん、面白いなぁ・・・あんた、潰すぞ?」ボソッ

 

 

ほんわかとした笑顔で、とんでもないことを口走る椎名。深い意味は無いのだろうが、ひとつだけ彼女自身の趣味と実益を兼ねた項目が混じっていたな。あと、いちいち過剰反応しないでくれ、堀北&櫛田。

 

 

「にゃにゃ?!そ、そう言えば、どうして椎名さんは、その・・・きよ、綾小路君を名前呼びしているのかな?」

 

 

そして、見るからに狼狽えている一之瀬。みんな、どうして椎名の冗談を真に受けているんだ?ユーモアセンスが足りないんじゃないか?(無自覚)

 

 

「どうしてって・・・お友達だから、ですが」

 

 

さも不思議そうに答える椎名。無自覚ほど恐ろしいものはない。(ブーメラン)

 

 

「そ、そっか・・・なら私も名前呼びして良いよね?き、清隆君、何でもするって言ってたし」

 

 

ああ、もちろん良いぞ。『何でもする』からのお約束パターンを回避出来るなら、むしろ大歓迎だ。

 

 

「何でもする・・・?()()()、私たちもお友達だったよね?」

 

 

一方、さらりとオレを名前呼びしながら、満面の笑みで確認してくる櫛田。見える。私にも見えるぞ。この先の展開が。

 

 

「じゃあ、私のことも名前で呼んで貰おうかな♪(呼んで下さい)(呼んでね)(呼びなさい)」

 

 

美少女たちの声が綺麗にハモる。だが、ひとり多いぞ・・・?

 

 

「ナチュラルに割り込まないでくれる?堀北さん」

 

 

「あら、割り込んできたのはあなたの方でしょう?私は自分の席で隣人と会話しているだけよ」

 

 

そう、いまやオレの座席は、美少女4人に半包囲されているのである。圧倒的(末期的)じゃないか、我が軍は。(白目)目の前には、カラフルなお弁当箱が4つ。まさか、いまからこれを完食しろと?ホワイトルームで空腹に耐える訓練は嫌と言うほど受けてきたが、満腹に耐える訓練はしたことがない。あれ?全然ダメだな、あそこのカリキュラム。

 

 

 

 

てか、4つ?

 

 

 

 

「い、一緒に食べる相手すら居ないあなたに、お弁当付きで私の時間を割いてあげるわ。感謝なさい」

 

 

帆波!ひより!桔梗!鈴音!ジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!あれ?今度はふたり多いな・・・

 

 

きっとこんな他愛ない時間も、青春ラブコメの1ページなんだろう。リア充、爆発しろ!(自爆)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこの時、迂闊にもオレは失念していた。この学校の異常性を、そしてこのクラスが不良品の集まりである、という事実を・・・悲しいかな、平穏な青春ラブコメの終わりは、直ぐ目の前まで迫っていたのである。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

翌日。登校すると、一部の男子がタブレット端末を囲んで異様な盛り上がりを見せていた。あまりの騒ぎに、思わず教室に入るのを躊躇ってしまったくらいである。

 

 

「俺は長谷部に賭けるぜっ!」

 

 

「バカ野郎!巨乳と言えば佐倉だろ?」

 

 

「佐倉?誰だそれ」

 

 

「ぎゃははは!知らないのも無理ないか。眼鏡かけた地味系な子だよ。でも胸だけはスゲェぜ?」

 

 

どうやら、話題は今日の水泳授業についてらしい。ここ高度育成高等学校では、入学直後の4月から体育で水泳を履修することになっている。思春期真っ盛りの彼らにとっては、水着姿の女子を間近で見られる水泳授業は一大イベントなのだろう。生憎、オレには理解出来ない感情だが。

 

 

「なんだって?!いったいどこに、そんなおっぱい星人が?!」

 

 

「ぐふふ・・・廊下側のいちばん後ろの席でござるよ。どんなに影が薄くても、拙者の変態レーダーからは逃れられないでござる」

 

 

そのレーダー、ミノフスキー粒子を散布したら無効化出来るのか?て言うか外村、自分で変態って言ってるからには、自覚はあるんだな・・・(びっくり)

 

 

そして、どんどん重くなる教室の空気。降り注ぐ女子の視線が怖い。特に、満面の笑みを浮かべた櫛田桔梗のそれが。ホワイトルームでも感じたことがないほどのプレッシャーだ。あと堀北、そこでこっちを睨むのは筋違いだぞ。

 

 

ここまでくれば、さすがに世間の一般常識に疎いオレでも理解できた。下手に関われば、薔薇色の高校生活が終わる、ということが。だからこそ、なるべく目立たぬよう、そっと席に着こうとしたその時・・・変態どもがこちらを向いた。なぜだ?

 

 

「おい綾小路!お前も賭けるだろ?」

 

 

なん・・・だと?!

 

 

「綾小路殿、一番人気は長谷部波瑠加殿でござる。次点は櫛田桔梗殿、大穴が佐倉愛里殿でござるよ」

 

 

一斉に向けられる、刺すような視線。どうしてこうなる・・・?

 

 

「・・・いや、遠慮しておこう」

 

 

危うく破滅の淵から生還したオレに、いつも通りの毒舌を吐く堀北。

 

 

「意外ね。天然ジゴロのあなたには、むしろぴったりの賭けなのではなくて?」

 

 

最近、堀北のツッコミがちょっとおかしいのだが。ほりちょ。視聴率惨敗かと思いきや、意外と需要はありそうだな。

 

 

「お前はオレを何だと思っているんだ?」

 

 

「むっつりスケベなのでしょう?現に、あんな友達が居るのだし」

 

 

「あいつらは友達なんかじゃない。ただのクラスメートだ」

 

 

取り敢えず、全力で否定しておく。こんなところで巻き添えを食うのは御免だ。

 

 

「なあ春樹、もし俺がこのあと血迷って女子更衣室に飛び込んだら、どうなると思う?」

 

 

間違いなく、退学者第2号になるだろうな。

 

 

なおも顰蹙を買う馬鹿話を続ける3人組。心の中で彼らにツッコミを入れながら、オレはこの数日間の状況を思い返していた・・・

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

驚くべきことに、須藤健の退学はDクラスの面々に大した影響を与えなかった。ほとんどの生徒が、他人事として捉えていたからだ。それどころかむしろ、粗暴な言動が目立っていた彼ならば当然の結果、という空気さえあったのである。

 

 

そして、現状に危機感を抱く者も居らず、生ぬるい環境に緩みきったDクラスの授業態度は、早くも末期的な様相を呈していた。私語、居眠り、スマホいじり、早弁・・・凡そエリート進学校とは思えない、見事なまでの学級崩壊。しかも教師たちは、注意する素振りすら見せなかった。つまるところ、オレたちが泳がされているのは明らかだったのだが、果たして・・・

 

 

「お前だけを逝かせはしないぜ、寛治」

 

 

「拙者もお供するでござる、ぐふふ」

 

 

その後も体育の時間になるまで、変態トリオの馬鹿騒ぎが止むことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

授業の終了を告げるチャイムが鳴る。いよいよ次の時間は、男女合同のプール授業だ。女子からの白い目に見送られ、足早に更衣室へと向かう。何も起こらなければ良いのだが・・・

 

 

 

 

 

しかし、オレの儚い望みはあえなく潰えた。

 

 

 

 

 

手早く着替えを済ませ、屋内プールで待機したものの、体育教師が現れないのだ。一緒に授業を受けるはずの女子たちも、姿を見せたのは堀北だけ。更には、あれだけ騒いでいた変態3人組が見当たらないのも気になる・・・

 

 

それにしても惜しい・・・水着姿の堀北を視界の端に捉えながら思う。すらりとした健康的な体形に、整った顔立ち。長い髪をスイミングキャップで纏めているのも、いつもと違う新鮮な印象を見る者に与えている。

 

 

「あれって、堀北だよな?」

 

 

「ああ、やっぱ可愛くね?」

 

 

「でも、中身がなぁ・・・」

 

 

現に何人かの男子が、ひそひそと言葉を交わしている。確かに、黙っていればクラスカーストのトップも狙えるだろうに・・・残念美人というやつの典型例だな。

 

 

「綾小路君、あなたいま、何かとてつもなく失礼なことを考えていないかしら」

 

 

・・・なんでオレにだけ突っ掛かるんだ?女の勘というものに若干の恐怖を覚えつつ、自然な会話を試みる。

 

 

「何のことやら・・・ところで堀北、他の女子はどうした?」

 

 

内心の動揺を押し隠して尋ねる。まさかとは思うが、彼女以外、全員見学とか・・・

 

 

「さあ、知らないわ。そろそろ来るんじゃないかしら。私は周りと無駄な会話をするような趣味は無いから、先に出てきただけよ」

 

 

あくまでも、自らをぼっちだとは認めないんだな・・・

 

 

「やっぱりあなたいま、とてつもなく失礼なことを考えていない?」

 

 

「・・・何のことだ?」

 

 

「その()()()はなに・・・?」

 

 

嫌な冷や汗をかいていたら、不意に堀北が表情を改めた。まさか、バレたのか?!

 

 

「綾小路君・・・あなた、いままで何か運動をしていた?」

 

 

そのまま急接近し、不審げな瞳を向けてくる。ち、近い・・・

 

 

「いや、ずっと帰宅部だったぞ?」

 

 

微かな甘い香りを感じつつ、思わず仰け反りながら答えるも、彼女は納得しない。て言うか・・・ほぅ、堀北はミント系か。確か一之瀬はシトラス系、椎名は石鹸系、そして櫛田は小悪魔系だったな・・・同級生の女子を匂いで識別できるオレは、やはり最高傑作(ド変態)なのだろうか。あれ?ひとつ関係ないのが混じってたな。まぁ、いいか。

 

 

「見え透いたうそは止めなさい。私は武道を嗜んでいるから、誤魔化されないわよ。あなたの上腕から背筋にかけての鍛え方、普通じゃないわ」

 

 

言いながら、オレの腕や背中をつんつんする堀北。触られた瞬間、全身に妙な快感が走った。なんだ?いまのは・・・てか、同じことをオレが彼女にしたらどうなるんだろう。(ダメ!絶対!)

 

 

「堀北さんの言う通りだ。綾小路君のお尻から太ももにかけての鍛え方、普通じゃないよ・・・」

 

 

言いながら、オレの微妙な部位をつんつんする平田。触られた瞬間、全身に妙な悪寒が走った。なんだ?いまのは・・・てか、同じことをオレが彼に・・・いや、しないな、絶対。

 

 

初めて味わうこの感情に、オレが名前を付けられずにいると・・・突然、遠くで誰かの悲鳴や怒号が響いた。続いて、慌ただしく行き交う警備員や教職員たち。何があった・・・?嫌な予感が頭をよぎる。

 

 

「えっと・・・まさかとは思うけど、あの3人組じゃない・・・よね?」

 

 

「や、やめてくれよ・・・冗談キツいぜ」

 

 

平田の言葉をきっかけにして、皆の間に動揺が走った。

 

 

「さすがにそこまで馬鹿ではないでしょう・・・と言いたいところだけれど、さっきの様子じゃ、やりかねないわね」

 

 

難しい顔で応じる堀北。てか、海パン1枚の男子たちに混じって平然としているのは、さすがだな。(なにが?)

 

 

「う、うそだよね・・・」

 

 

そんな会話に、不安げな瞳を揺らす男の娘・・・じゃなくて沖村。彼の水着姿を直視すると、なぜ罪悪感が湧き上がってくるのだろう。だが問題ない。こんな時は、彼にこう告げればいいのだ。毎朝味噌汁を作ってくれないか、と。ソースはやっぱり比企谷。(誤情報)

 

 

程なくして、若い女性教師がやって来た。なぜかハイレグ水着に上だけパーカーを羽織って胸元を開けた、なんとも珍妙な格好である。捉え方によっては、下半身裸に見えなくもない。そしてその姿を目にしたとたん、数人の男子生徒が即座に前傾姿勢をとった。ん?こんな滑りやすい場所で短距離走か?

 

 

「はーい、みんな注目!私は1年Bクラス担任の、星之宮知恵と言います。今日のプールは、急遽自習となりました!適当に泳いで、チャイムが鳴ったら終わり!あ、でも準備運動はちゃんとやるんだぞ?何かあっても私、泳げないから助けてあげられないよ?」

 

 

あれが星之宮・・・なんともあざとい態度だ。まるで素顔が見えない。彼女と比べたら、何だか茶柱先生が可愛らしく思えてくる。(錯乱)それと、意味ありげにこっちを見ないでほしい。まさかとは思うが、先日の一件を暴露したりはしないだろうな。(恐怖)

 

 

「あと、いま現場検証中だから、更衣室には近付かないでね」

 

 

明るい口調に混じる不穏な単語。堪らず平田が尋ねた。

 

 

「えっと、星之宮先生・・・この状況と山内君たちが居ないことに、何か関係は有るのですか・・・?」

 

 

この流れ、何だか既視感があるぞ。

 

 

「うん・・・実はさっき、何を血迷ったのか、池君と山内君、それに外村君の3人が女子更衣室に飛び込んじゃったの。認めたくはないものだね、若さ故の過ちというものを」

 

 

「「「え?(*゜д゜*)」」」

 

 

マジか・・・うそだろ?

 

 

そして翌日。朝のSHRで池寛治と山内春樹、外村秀雄の退学処分が発表された。理由は改めて言うまでもないだろう。こうして入学式から僅か半月足らずで、早くもDクラスは所属する生徒の1割を失ったのであった。

 

 

やはり圧倒的じゃないか、わが軍(Dクラス)は。(またも白目)




次回最終話:そして始まりの終わり・・・
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