聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第10話 便利屋との邂逅

 

 

 バイトがあると、セリカは一足先に帰ってしまった。そして残りのメンバーは好き勝手に過ごしていた。

 その中で、ノノミの膝の上でお昼寝していたホシノが唐突に言う。

 

「うへ。ねえ、みんなー、お腹空いてない?」

 

 皆して顎を手にして考える。実のところ、お腹はそんなに空いていない。行きたいかと言えば、別にそんなことはないのだが。

 

「うん? 早くない? 夕ご飯の時間はまだだよ」

「いや~。お昼寝してたらお昼ご飯食べ逃してさ。セリカちゃんをからかいがてら、どうかな」

 

 ニヤニヤと笑っている。ミカはキュピーンと悪戯気に口の端を上げた。

 

「お? いいねいいね。そういうことなら私も乗った!」

 

 けらけらと笑う。悪ノリには全力だった。

 

「ねえ、先生。どうにかしてください。先生でしょ」

 

 アヤネがため息を吐きながら、先生の脇腹を突く。からかうために行くなんてセリカちゃんが可哀そうと、先生から諫めてくれることを期待して。

 

「……ふむ。よし、行こう!」

 

 ずっこけた。

 

 

 そして、アビドス近くの飲食店へやってきた一行。ホシノは勝手知ったる我が家のごとく暖簾をくぐる。

 

「いらっしゃいませ! 柴関ラーメンです!」

「うへ~。6人だよ、やっぱここだと思った」

 

「おやおや、セリカちゃん。可愛い格好だねえ」

「ミカさん、ここのラーメンはおいしい」

 

「実は前に先生と一緒に来たから知ってるけど。シロコちゃん、他に言うことないの?」

「……?」

 

 同じくニヤニヤ笑いのミカ。シロコの方はしれっとホシノについて行く。

 

「どうも。その服、似合ってるよ」

 

 先生も苦笑を浮かべながら入っていく。

 

「せっ、先生まで……やっぱストーカー!?」

「うへ、先生は悪くないよー。セリカちゃんのバイト先と言えば、やっぱここしかないじゃん? だから来てみたの」

 

 うへへ、と口元を隠して笑ってるホシノにセリカはぷんすか怒り始めて、すぐに恥ずかしくなって顔を赤らめる。

 

「ホシノ先輩かっ。……うう」

「アビドスの生徒さんか。セリカちゃん、おしゃべりはそれぐらいにして、注文受けてくれな」

 

「あ、うう……はい、大将。それでは、広い席にご案内します……こちらへどうぞ……」

 

 大きなテーブルに通された。

 

「はい、先生はこちらへ! 私の隣、空いてます!」

 

 さっとホシノを奥に押し込んで一人分のスペースを作ったノノミが手招きする。

 

「……ん、私の隣も空いてる」

 

 シロコが逆側に座り澄ました顔をするが、頭上の狼耳はぴこぴこ揺れていた。さあさあ、来て来てと言外に示している。

 

「ほい! 空いてるのは私の隣だね? 先生、どうぞ!」

 

 そしてすかさずミカがシロコを奥に押し込み、手招きした。

 

「ミカさん……力強い……! 抵抗できない……!」

 

 ぎりぎりとシロコが押し出そうとするものの、山のごとく動かないミカ。どれだけ力を込めても、びくともしない。

 

「さ、先生♡」

「ぐ……先生は……私の隣に座るべき……!」

 

 無表情なシロコが顔を真っ赤にして力を込めるが……悲しいかな、ミカの表情は小動きもしていない。

 

「……はぁ。そんなに先生の隣に座りたいなら、間に座ってもらえばいいじゃないですか。ノノミ先輩、失礼しますね」

「はい、どうぞ。アヤネちゃん」

 

 ため息を吐いたアヤネ。シロコとミカは顔を見合わせて。

 

「……ま、仕方ないか」

「ん……妥協する」

 

 そんなこんなで、先生はシロコとミカの間に収まるのだった。そして、セリカが注文を取りにやってくる。

 騒ぎが聞こえていたので、呆れた顔をしている。

 

「って、狭すぎ! シロコ先輩、ミカさん! そんなにくっついてたら先生が窮屈でしょ! もっとこっちに寄って! 私はちゃんと6人テーブル案内にしたのに、何だって一人席に3人無理やり押し込むようなことになってるのよ!?」

「いや、私は平気。ね、先生?」

「ねー?」

 

 シロコとミカが先生に身を寄せている。いかがわしい店にしか見えないその光景にセリカは顔を真っ赤にしていた。

 実情としては女子高生の柔らかさよりも壁に押しつぶされそうな圧迫感を感じていたが、先生はそれでも幸せそうにしている。……顔は青いけど。

 

「も、もういいでしょ! ご注文は!?」

「ご注文はお決まりですか。でしょー? セリカちゃーん、お客様には笑顔で親切に接客しなくちゃねー?」

 

 そして、けらけらと笑うホシノから予測しなかった攻撃が来て、更に顔を真っ赤にする。

 

「あうう……ご、ご注文はお決まりですか……?」

「私はチャーシュー麺をお願いします!」

「私は……どうしようかな。ラーメンなんて食べると太っちゃうー。私もチャーシュー麺で!」

「私は塩」

「えっと……私は味噌で……」

「私はねー、特製味噌ラーメン! 炙りチャーシュートッピングで! 先生も遠慮しないで、ジャンジャン頼んでねー。この店、めちゃくちゃ美味しんだよー! アビドス名物、柴関ラーメン!」

 

「……ところで、みんなお金は大丈夫なの? もしかして、またノノミ先輩におごってもらうつもり?」

「はい、私はそれでも大丈夫ですよ。限度額ってなんですかー?」

「私もカードなら持ってるよー?」

 

「いやいや、ご馳走になるわけにはいかないよー。きっと先生がおごってくれるはず。だよね、先生?」

 

 先生が逃げようとするが、ぎゅっと抱きついてくる二人を振り払う様な気にはなれない。逃げ出せない。

 

「え?初耳だって? あはは、今聞いたからいいでしょ!」

 

 足りるかな、と財布の中身を見る先生。その手からホシノがぱっと取り上げる。見つけたカードを上に掲げて。

 

「うへ~大人のカードがあるじゃん。これは出番だねー! 先生としては、カワイイ生徒たちの空腹を満たしてやれる絶好のチャンスじゃーん?」

 

 ニヤニヤ笑っている。一方で先生は顔が青くなっている。

 

「……先生、大丈夫? あの、これで払って?」

 

 ミカがそっと先生に耳打ちし、1万円を握らせようとするが。

 

「それには及ばないよ、ミカ。生徒に奢ってあげるのは先生の本懐だとも。おいしく食べてくれるなら、先生は満足だよ」

 

 柔和な笑みを浮かべてミカの頭を撫でる。そうするとミカは真っ赤になって何も言えなくなる。

 なお財布を持つ手が震えていたので、恰好は付かなかった。

 

 

 そして、各々が頼んだメニューを食べていると、新しい客が入ってきた。

 

「ここで一番安いメニューって、お、おいくらですか?」

「一番安いのは……570円の柴関ラーメンです! 看板メニューなんで、おいしいですよ!」

 

「あ、ありがとうございます!」

「えへへっ、やっと見つかった、600円以下のメニュー!」

「ふふふ。ほら、何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」

「そ、そうでしたか、さすが社長、何でもご存じですね……」

 

「4名様ですか? お席にご案内しますね」

「んーん、どうせ一杯しか頼まないし大丈夫」

 

「いえいえ、せっかくだからお席にどうぞ」

「おー、親切な店員さんだね! ありがとう、それじゃあお言葉に甘えて。あ、わがままのついでに箸は4膳でよろしく。優しいバイトちゃん」

 

「えっ! まさか、一杯を四人で分け合うつもり?」

「ご、ご、ごめんなさいっ。貧乏ですみません!! お金がなくてすみません!!」

 

「あ、い、いや……! その、別にそう謝らなくても……」

「いいえ! お金がないのは首がないのも同じ! 生きる資格なんてないんです! 虫けらにも劣る存在なのです! 虫けら以下で済みません……!」

「はあ……ちょっと声デカいよ、ハルカ。周りに迷惑……」

「そんな! お金がないのは罪じゃないよ! 胸を張って!」

「ぶっちゃけ、忘れたんでしょ? ねえ、アルちゃん。夕飯代取っておくの、忘れたんでしょ?」

「……ふふふ」

 

 馬鹿をやっている。中心のアルも一目見るだけなら有能な女社長に見えるかもしれないけど、会話を聞けばポンコツなのがすぐに分かる。

 よく見ると首筋に汗をかいているし、唇も少し震えている。ただの強がりなのは明白だった。

 

「待っててください! 店長に相談してきます!」

 

 どう見てもポンコツチームにしか見えず、お金も持っていないと。その苦労を想像して涙ぐんだセリカは、ぐいっと溢れる涙を袖で拭いてさっと店の奥に引っ込んでしまった。

 そして、待つこと5分ばかり。

 

「はい、お待たせいたしました! お熱いのでお気をつけて!」

 

 そして、どんとバカでかいラーメンを持ってきた。こんなもの女の子に持てるか、というレベルだが……まあキヴォトスでは普通だ。

 サイズ感は滅多にお目にかかれないレベルである。キヴォトスの人でも中々食べきれない。

 

「ひぇっ、何これ!? ラーメン、超大盛じゃん!」

「ざっと、10人前はあるね」

「こ、これはオーダーミスなのでは? こんなの食べるお金、ありませんよう……」

 

「いやいや、これで合ってますって。580円の柴関ラーメン並! ですよね、大将?」

「ああ、ちょっと手元が狂って量が増えちまったんだ。気にしないでくれ」

 

 ニヒルに言い放つ店長。犬の顔だが、きらめいて見えた。

 

「大将もああ言ってるんだから、遠慮しないで! それじゃ、ごゆっくりどうぞー!」

 

 それだけ言い残すと、ぶんぶんと手を振って奥に引っ込んだ。

 

「う、うわあ……」

「よくわかんないけど、ラッキー! いっただきまーす!」

「ふふふ、さすがにこれは想定外だったけど、厚意に甘えて、ありがたく頂かないとね」

「食べよっ!」

 

 彼女たちはそれぞれラーメンを口にして。

 

「お、おいしいっ!」

「なかなかイケるじゃん? こんな辺鄙な場所なのに、このクオリティなんて」

「やー。ゲヘナ出てから色々な事があったけど、こんないい場所なんてねー」

 

「あはは。ゲヘナはやっぱり大変だねー。食べるものも食べれない、なんて。本当に……かわいそう」

 

 けらけらと上機嫌に笑うミカが声をかけた。

 

「うぐぐ……これも風紀委員会のせいよ! 風紀委員会さえ居なかったら……!」

 

 アルがぐぐぐ、と悔しそうに顔をゆがめた。

 

「って、あ……! その服、『トリニティ』の……! トリニティが何の用よ」

「うん? 特に用はないんだけどねー。ほら、食べるものも食べれないとか哀れでさ? なんだったら食べ物を恵んであげようかなって。まあ、おかわりは要らないのかな」

 

「……ッ! 要らないわよ、私たちは孤高のアウトロー『便利屋68』! たとえ風紀委員会に故郷を追われようとも、決して生き様は曲げないわ!」

「わあ☆ カッコいいね。間違った教えから逃れ、孤高を貫くアウトロー。あこがれちゃうぅ!」

 

「ふふふ、『トリニティ』にもアウトローの良さを分かってくれる人が居るのね。私の名前は陸八魔アル、あなたの名前を聞かせてくれるかしら?」

「私の名前は聖園ミカって言うの。よろしくね、アルちゃん!」

 

「ええ、よろしく。ミカちゃん!」

「ミカ……ちゃん?」

 

「え? いや、あの……失礼だったかしら……」

「ううん、嬉しいよ。あなたはゲヘナだけど、友達になれるかも。あなたなら、トリニティに来てもやっていけそう」

 

「そう……でも、残念だけど私たちは私たちの生き様を貫くわ。『便利屋68』はどんな圧力にも屈しない。ゲヘナからどんな追撃があろうと、切り抜けてやるわ」

「ひゅー。便利屋68、ヤッバいね。カブキモノだー」

 

 なぜか一瞬で意気投合してしまったミカとアル。なお、他の便利屋68はと言うと。

 

「ねえ、トリニティってヤバくない? なんかアルちゃん、仲良くなってるけど」

「マズいなんてものじゃない。聖園ミカ、偽称でなければ『ティーパーティー』だ」

「トリニティ、それもティーパーティーって……敵ですか!? 爆破しますか?」

「今はやめておいた方がいいんじゃない? アルちゃん嬉しそうに話してるし」

「そもそも、うちがティーパーティーに敵対する状況がまずい。このまま何事もなく終わってくれれば……!」

「え? ダメですか? 敵なのに、爆破しちゃダメですか?」

 

 ほんわかした二人とは別に緊迫の空気が流れていた。

 

「このラーメン、おいしいでしょう?」

「およ、あっちのミカちゃんのお仲間? まあ、ラーメンは最高だね」

 

 その残りのメンバーにアビドスが話しかける。

 

「このラーメンは本当に最高なんです。わざわざ遠くから足を運ぶくらい」

「うんうん、わかるー。このラーメンめっちゃおいしいよね。こんな辺鄙なところにあるのがもったいないくらい」

 

 メインはムツキが相手する。なお、カヨコは胃が痛くてラーメンの味どころでなかったりするのだが。

 

「その制服、ゲヘナ? 遠くから来たんだね」

「ふふーん。かわいいでしょ? 私たちの改造制服! やー、旅先でいろんな人と会うのも人生の醍醐味だねー」

 

 そんなこんなで、仲良く話して別れたのだった。

 

 

 





 ミカはゲヘナを嫌いですが、作者の中のテンプレとしては”差別主義者は手のひらがドリル”です。一言前に差別発言をしても、都合が悪くなれば覚えてなかったり、または君は特別だからなどと言い出す。まあ、自分に都合の良いのは大人の特権かもしれませんが、政治屋の素質でもありますからね。
 根柢の差別感情は変わっていません。ただ、一時アルとそのお仲間を除外対象にカテゴリしただけです。……後に、その判断を後悔することになりますが。

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