聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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連合軍編5話 戦いの終わり

 

 

 ビナーの口に黒い光が収束する。破滅的な光が指揮所を狙っているのだ。

 ミカも、ヒナも、そして他の誰もが砂嵐に襲われて照準すらままならない。無理に撃っても、ただ逸れていくだけ。

 

「先生! 先生――逃げて!」

 

 その叫びは何ら意味をなさない。

 

 

 その終末の光の前に、指揮所の面々は逃げることもできずに呆然と立ち尽くしている。10数名が情報を収集し、前線に伝えるために走り回っていたそこが静まり返っていた。

 

「――うへ。すごいことになったね、先生。いつものことみたいに思えてきたおじさんも毒されてきたかな」

「はは。私としてはもうちょっと青春的なストーリーの方が好みなんだけど」

 

「……ホシノさん?」

「先生はおじさんが守るよ。そっちの二人は、ツルギさん守れる?」

 

 展開した盾を先生の座る椅子の前に突き刺して、先生を胸の内に抱え込む。視線をやった先でツルギは。

 

「――キヒヒっ!」

 

 にたあ、と凶悪な笑みを浮かべつつナギサとセイアを抱きしめる。

 

「ツルギさん」

「……まあ、頼むよ。逃げる暇はなさそうだ」

 

 衝撃に備えて身を固めた。

 

「で、そっちはどうする? 一人分くらいならまだスペースはあるよ」

「ふざけないでください。私はこれでもゲヘナの風紀委員会、アビドスに守られるなような屈辱を受けられますか」

 

 水を向けられたアコはふんと鼻を鳴らし、ホシノの横に並ぶ。

 

「むしろ、先生を守って差し上げる余裕までありますよ。トリニティの方々はそこで震えていればよいのです」

「……はは。気の強い人だね」

 

「――来るよ」

 

 ホシノが虚空を睨む。

 

「いや、大丈夫さ」

 

 先生がぼそりと呟いた。

 

 

 

「ん、参戦する」

 

 誰も居ないはずの荒野から、一人の少女が疾走する。

 

「そいつとの戦い方は知ってる」

 

 ドローンを足場にしてジャンプ、ビナーの顎に当たる位置をねらい撃つ。その動きがわずかに止まる。

 

「――誰!?」

 

 すさまじい身のこなしでミカの横に着地した。

 

「話は後。一斉射撃を」

「……ッ! 後で聞かせてもらうからね!」

 

 次の瞬間、爆発的な光が生じる。敵の動きをフリーズさせた直後、スタングレネードを投げて敵の位置を示していた。

 

「そこに攻撃しろということね。――イオリ!」

「了解です!」

 

「スクワッド、全火力を集中しろ!」

「「「了解」」」」

 

「私たちも!」

「ん」

 

 その攻撃すべてが突き刺さり、ビナーの顎をカチ上げた。

 

「――!」

 

 その瞬間、スタンから解放され黒い極光が空を焼いた。間に合った。危機を脱して冷や汗をかいている暇などない。

 一瞬だろうと油断すれば待つのは敗北であるのだから。

 

「ナギちゃん、戦車隊を!」

『ええ……なッ!?』

 

 ぶるりと震えたビナーは頭を地面に叩きつける。否――潜航を開始する。

 

『追撃行きます。みなさんはご注意を!』

 

 砂の中に潜り込むビナーに向かって無数の砲火が叩き込まれるが――数発の当たりこそあれど残りは虚しく砂を叩くのみ。

 

「ビナーが逃げた。作戦は――」

 

 ヒナが少しだけ悔しそうに言おうとした言葉を、ナギサの声が遮った。

 

『ビナーの撃退を確認しました! 皆さん、作戦は成功です!』

 

 通信で宣言されたその言葉に、皆が湧いた。それを冷めた目で流し見た乱入者は踵を返して帰ろうとする。

 

「先生に頼まれたから、来た。用事は済んだ」

「ちょっとくらい、つきあってくれたっていいでしょ。ね、シロコちゃん」

 

 悪戯気な笑みを浮かべたミカに呼び止められて、少し違和感を感じて振り向いた。

 

「私には関係ないから。……?」

「やっぱりシロコちゃんなんだ。ええと、校舎に待機してるのとは別のシロコちゃんなんだよね?」

 

「……どうして?」

「どうして分かったのかって? ううん、お友達だから?」

 

「私とあなたは友達じゃない」

「酷いなあ。一緒に遊んだこと忘れちゃった?」

 

「それは向こうのシロコ。こっちの私はあなたと関係を持っていなかった。あなたのことは有名だから知ってるだけ、魔女」

「――ッ!? な……え……ッ?」

 

 ミカにとってその言葉はトラウマだ。むしろその言葉を誰も言わないからこそ――不意打ちで口にされると、うちのめされてしまう。

 

「ごめんなさい。あなたを傷つけるつもりじゃなかった」

「ま……待って。シロコちゃん、あなたは一体……?」

 

 彼女は逃げるように去って行った。

 

「……聖園ミカ、大丈夫か?」

「問題ないよ、サオリちゃん。ナギちゃんがああ言ったってことは戦いは終わり。油断してもいいってこと☆」

 

「お前がそう言うのなら、それでいい。他と合流するまでにはその顔を直しておけ。表情を取り繕うのは得意だろう」

「サオリちゃんはポーカーフェイスだけじゃなくて表情筋を動かす練習をした方が良いと思うよ」

 

「減らず口が叩けるなら十分か」

 

 

 戦車隊や指揮所のメンバーとも合流して、トリニティに用意した一画へ移動する。そこではBBQが用意されていた。

 ナギサが壇上に立つ。

 

「みなさん、お疲れさまでした。慰労会に全員揃って参加いただけたのは期待を遥かに上回る結果です。みごとに人類の敵を撃退したということで、ささやかながら勝利の宴をご用意させていただいております」

 

「あまり長い口上をしても嫌われてしまいますね。では、皆さん。存分に楽しんでください」

 

 言葉を切って壇上から降りて行った。

 

 歓声が上がり、BBQが開始された。各々が好きに肉を焼いて行く。参加者は基本的には正義実現委員会と風紀委員会、そしてティーパーティーに所属するいくらかのメンバーだ。

 ツルギの方はけたたましい笑い声を上げながら焼肉奉行をやっていた。一方でミカは首尾よく紙皿に肉を確保してからヒナの横に行く。

 

「楽しんでる?」

「ええ。皆楽しそうにしてるわ。ありがとう」

 

「ヒナちゃんももらってきたら? 端っこに居るだけじゃつまらないでしょ」

「私が行ったら緊張させてしまうわ」

 

「そんなことはないと思うな。それに、皆と同じものを食べるのも重要だよ」

「重要? それはどうして」

 

「いや、ほら。端っこでむっつりしてると、あいつらいつもフルコースとか食べてるから焼肉なんて口に合わないんだとか――言われちゃうからね」

「そう? でも、そうね。皆が食べているものを、私も食べてみたいわ」

 

 とことこと歩いて、その辺の風紀委員会の子に声をかける。そうすると、紙皿に色々山盛りにしたものをくれた。

 それを持ってミカのところまで戻ってくる。

 

「なんか喜ばれたわ」

「そんなものだよ。BBQなんだから」

 

「BBQだから……ね。んむ。――このお肉、焼きすぎね。それに、ソースが濃すぎて味が分からないわ」

「ふうん。ま、こんなものだよ。BBQだから」

 

「でも、なぜかしら。とてもおいしいわ」

 

 ヒナがふわりと微笑んだ。

 

「皆で食べるって、楽しいから。ほら、気取ってるとあんなことになる」

「あんな……? ナギサさんとセイアさん、どうかしたのかしら」

 

「どっちもこういうの食べ慣れてないからね……」

 

 ナギサは「味が濃すぎて舌が痺れる……」、セイアは「油で胃が……」と椅子の上でくたばっていた。

 

「……あの様子では、ナギサさんに話を聞きに行くのは無理そうね」

「ああ、作戦は失敗したんじゃないかって?」

 

 ミカがさらりと言った。もちろん、この話に聞き耳が立てられていないことは確認済だった。

 ナギサが得意とするスキル系統だが、それくらいならミカにもできる。

 

「分かるの?」

「ナギちゃんの演説を納得行かなそうな表情で聞いてたらね」

 

「今回の目的は撃滅のはずだわ。ビナーは撤退した。……逃がした敵は何をしてくるか分からないわ」

「そうだね。ヒナちゃんの言ってることは正しいよ」

 

「――なら」

「でも、それをあの子達に言える?」

 

「え?」

「がんばってくれたあの子達に、作戦は失敗したなんて言ったらかわいそうだよ。あの子達に落ち度は何もないんだから」

 

「え……と。作戦結果をそんな評価してはいけないでしょう。それは感情論だわ」

「トリニティとゲヘナの連合軍が作戦目標を失敗したら、政治的にもマズイよね?」

 

「だからって」

「だから、成功したと言うんだよ。やっぱりヒナちゃんは議長にはなれないね。現実を弁論で捻じ曲げるのが政治屋だよ。この苦しい世界を、優しい世界に変えるのがお仕事なんだから」

 

「……議長になりたいとは思ってないわ。なれるとも」

「ま、ナギちゃんも分かってる。あれは政治屋の二枚舌じゃんね。戦ってくれた皆宛のリップサービスってやつ。それに、味方に限れば期待通りの動きだった」

 

「そうかもしれないわね」

 

 難しい表情をしていたヒナが表情を緩めた。そこに声をかけられる。

 

「ヒナ委員長、これおいしいですよ!」

「イオリ?」

 

 ヒナがイオリに捕まったので、ミカは他の所へ行く。

 

「……うわあ」

 

 校舎に待機していたアビドス組もせっかくだからと誘われてBBQに来たのだが。わいわいと青春している他と違って、ここだけフードファイターみたいなことになっていた。

 

「はーい。どんどん焼きますからねー」

 

 ノノミが大量の肉を焼いては、すぐに待ち構えていた子達の腹の中に消えていく。その欠食児童の中には先生まで居る。

 

「すみません、ミカさん。せっかくお誘いいただいたのに意地汚くて……」

「あはは。気にしないでよ、アヤネちゃん。お肉はいくらでもあるからね」

 

「アヤネちゃんも来なよー。お肉を腹一杯食べる機会なんて中々ないよー」

「ホシノ先輩は野菜も食べましょうね」

 

「うへ。おじさんは野菜はいいかな……特にピーマンはどうもね」

「うん、私も同意見だね」

 

「先生も好き嫌いしちゃだめですよ」

「「ぬわー!」」

 

 ピーマンを山盛りにされていた。

 

「ん。二人は分かってない」

「って、シロコ先輩!? 私の皿にピーマン移さないでくださいよ!」

 

「これも戦略」

「シロコちゃんもピーマン食べなきゃダメですよ」

 

 怒られていた。

 

「……シロコちゃん」

「シロコちゃんがどうかしました?」

 

「いや、なんでもないよ。まあ、こんなに食べてくれると誘った側は気分がいいね」

「そうですか……?」

 

「あっち見てよ。いや、うち(ティーパーティー)の子だけど。なにあれ? 燃やすだのなんだのと言ってるよ。BBQってものを知らないのかな」

「あはは。お嬢様学校の人って感じがします。きっと、家にはいつもシェフの人が居るんでしょうね」

 

「いや、居ないけど。というか、基本的に寮生だから実家に住んでいる子なんていないし……大抵は学食と寮で済ませるよ? あとはお菓子とか」

「夢を壊さないでくださいよ、ミカさん!」

 

「え、だって私もお嬢様だし……」

「あまり冗談を言ってると私だって怒りますからね!」

 

「冗談……ッ!?」

「まあ、いいです。ミカさんも食べていきますか? ノノミ先輩、お料理上手なんですよ」

 

「うん。じゃあ貰っていこうかな……ノノミちゃん、イイトコちょうだい!」

「あ、ミカさん。分かりました。腕によりをかけて焼いちゃいますよー」

 

 笑い声が絶えないBBQになった。

 

 

 

20万PVの同人誌は誰がいい?

  • ナギサ様
  • セイアちゃん
  • ミカ(二冊目)
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