聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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サイドストーリーズ:地下の怪談話

 

 

 あいかわらずティーパーティーの三人は辞め時も見失って三人一緒に住んでいた。とはいえ、一つ所に留まるのは保安上の問題があるということで拠点を点々と移しながら暮らしている。

 

「……それで? ええと――なぜ私たちは屋敷の地下に向かっているのでしょうね」

 

 ナギサをはじめ、ミカとセイアが石造りの階段を降りていく音が響く。先頭に居るセイアはミカの持つおぼろげな懐中電灯の光だけを頼りに、楽し気に軽やかな音を立てて下っていく。

 ミカはやれやれと肩をすくめながら、器用にも懐中電灯の光をブレさせずに答える。

 

「あはは、そんなの決まってるじゃない。夏といえば、肝試し……らしいからね」

「その通り、聞けばここは古くからある屋敷だと言うではないか。ならば、何かが隠されていても不思議ではあるまい? なにせ、かの【ユスティナ聖徒会】との所縁すらあるというのだからね……!」

 

 乗り気の二人に、ナギサはため息を吐く。

 

「いえ……正義実現委員会の方が事前調査をしてあるので、ないのですけどね。目ぼしいものなど」

 

「あははっ! まあまあ、こんなのは雰囲気じゃん?」

「それに、屋敷での缶詰と移動ばかりでは飽きるというものだろう。こんな言葉がある、〈息抜きこそが人生だ〉と」

 

 ナギサが瞼をピクリと上げるが、もう一度ため息を吐き出した。

 

「そんなことを誰が……いえ、そんなことをおっしゃるのは先生くらいのものですね」

「うわっ、理解者面してる」

「そうだね。ナギちゃんは先生のことをとても理解していると、暗に言いたいらしい」

 

「ミカちゃん、セイアちゃん……?」

 

「おとと、怒っちゃった。でも、ほら。何か起こってくれれば先生の土産話にもできるよ」

「そうなれば、キャーと叫んで先生の腕にしがみつくこともできるわけだ」

 

「セイアちゃん……!」

 

 カツカツが、ガンガンとなるくらいに足音が荒くなったのを聞いてセイアは両手を上げる。

 

「まあ、怒らないでくれ。私も、肝試しというものをやってみたかったんだ。なにせ以前は、お化けに怯える様子など誰にも見せられたものではなかったからね」

「ははっ、そりゃあんなスカした顔してる奴がお化けを怖がってたらガッカリなんてものじゃないもんね。予言者の肩書が形無しだ」

 

「……それは」

「肩書が、形無し――とは」

「セイアちゃん、そこは反応するところじゃないからね。ギャグを言った訳じゃないんだよ」

 

「コホン。まあ、おあつらえ向きと言えばそうなのでしょう。わざわざ消灯して懐中電灯を持ち出しているのですから……」

 

 ナギサはうろんげに周囲を見回す。豪邸の地下は広く、備え付けの電灯は消されて階段はしんと静まり返っている。

 確かに――出ると言われたら信じてしまいそうな雰囲気はある。清掃の手が入っているのが逆に残念ではあるけども。

 

「その通り、ここって普段使ってない通路だからさ。夜に歩いたら絶対いい雰囲気になるって!」

「無論、ホラー的な意味だがね。階段が終わったとはいえ、まだ足元には気を付けたまえ。私はいいが、君たちは転んでしまったら大変だろう。特にミカちゃんなどは転んだ衝撃で通路を崩して生き埋めになりかねないのだから」

 

 三人は階段を下り、ひんやりとした地下通路に足を踏み入れた。壁は白い石造りで、時折パイプから水滴が落ちて響く。

 

「セイアちゃん? 私ってそんなに石頭だと思われているのかな」

「石頭と言うより、ゴリラかな」

 

「小鳥みたいに握りつぶしてあげよっか? まったく、心とかあれもそれも小さい子は言うことだって小さいね」

「だが、先生は私のように小さい子も範疇のようだぞ?」

 

「……試してみる?」

「プールの時に試したと思うが。まあ自信があるというのなら、私よりも派手な水着でも着てみたまえよ」

 

「――いや、あれは派手と言うより」

 

 言い合いながら通路を歩く二人をよそに、ナギサが何かに気付く。

 

「……あ、あそこ、なにか動きませんでしたか?」

 

 ナギサが小声で言う。

 

「気のせいだって。……たぶん」

 

 ミカは強がるが、耳は明らかにぴくっと動いていた。

 

「ほう、もう動揺したか」

 

 セイアはにやりと笑う。

 

 その時――

 

 ウィィィィィン……! と奥の通路から低いモーター音が響き、赤いセンサー光が三人を照らした。

 

「な、なにあれ……!?」

「自動清掃ロボですね。ですが、今は電源が落とされているはずでは――というか、なぜこんな場所にしまって?」

 

 ミカが慌て、ナギサが目を細める。

 

「でも、あんなのうちで見たことないよ? というか、なんで砲塔ついてるのさ!?」

 

 ミカの声が一段高くなる。

 

「うむ。あれは私の伝手で購入したミレニアムの最新型お掃除ロボット――肝試し機能付きだ」

「ミレニアムの!? というか、肝試し? なんで掃除に肝試しが必要なの? なんで砲塔が必要なの?」

 

「ふむ。確かに同じ疑問を私も抱いた。……ロマン、ということらしいね」

「意味が分かんないんだけど!」

 

「――来ます!」

 

 次の瞬間、ロボが前部から砲塔からロケット弾を撃ち出した。

 

「わっ! あっぶな!」

「この場所で、こんなものを――ッ!」

 

 三人は左右に飛び退く。

 

「いや、これは――」

 

 ロケット弾が爆発、クラスター弾ばりにBB弾を撒き散らしてそれが壁に当たり、カツカツと音を立てる。

 

「子供騙しッ!? いや、地味に痛くない? これ、本当にBB弾なの!」

「痛ッ! 痛タタッ……! ミカちゃんはともかく、私にはキツいですよこれ」

 

 ミカは獰猛に牙を剥き出し、ナギサは下がったところで頭を抱えて防御体勢を取っている。

 セイアはすべてのBB弾をかわしつつ、顎に手を当てて掃除ロボの様子を観察する。

 

「暴徒鎮圧用特殊BB弾、だが完成にはほど遠いようだね」

「冷静に観察してる場合!? これ暴走してるでしょ!」

 

「……ふむ、だが頭の光はオレンジ。そもそもこれに暴徒鎮圧モードは搭載されていないと聞いているし。ああ、そうだった。これは害虫駆除モードだな」

 

 セイアは冷静に腰のハンドガンを抜く。

 

「撃っていいの!? どうせお高いんでしょ、これ!」

 

 ミカが叫ぶ。

 

「無力化するだけだ。弾はゴム弾に切り替え済みだよ」

 

 セイアが前に出て牽制射撃。ロボは素早く後退、そして砲塔が変形していく。巨大に、強大に――

 

「ねえ、あのトンデモ。撃たせちゃいけないって思うのは私だけ?」

「害虫駆除最終兵器……名前はまだないとのことだが」

 

 完成したのはドリル、この狭い通路では逃げ場がない。回転する、不気味な機械音が通路を満たす。肌が泡立つ。

 

「それ、未完成って言わない?」

「それを言うなら世の中に完成などないさ。なべて世は妥協と諦観で成り立っているのだから」

 

「”もうこれでいいや”で完成扱いってコト? もうちょっとちゃんとしてくれないかなあ!」

「ミカちゃん、これはセイアちゃんお得意の論点ずらしですよ。最低でも満たすべき安全基準はあるでしょう」

 

「だが、キヴォトスではどうかな?」

 

 セイアは間髪入れずに言い返す。

 

「ああ、もう。セイアちゃんに口で勝つのはなんと難しい! ミカちゃん、二手に分かれて挟み撃ちにしましょう!」

 

 ナギサがハンドガンを抜いて提案する。

 

「オッケー、私が右!」

 

 ミカはサブマシンガンを構え、上の方を掃射する。さすがに全損させるつもりはない。

 

「――」

 

 ロボットが視覚センサーの目を赤く光らせてミカを見る。加速する。

 

「いいえ、こちらですよ」

 

 ナギサが引き金を引く。銃弾が脚部の装甲に跳ね返される。ロボットが振り向いた。

 

「あはっ。頭だけ引っこ抜いてあげれば止まるかな?」

 

 その隙に、ミカがロボットに飛び掛かる。

 

「待て、ミカ! そのままそいつの動きを止めろ!」

「セイアちゃん?」

 

 疑問符を浮かべるミカだが、そのまま頭を押さえつける。くるんと足を天井に着けて、ぎりぎりと力比べ。ロボットは頭を上げてミカを潰そうとするが、潰せない。

 

「マニュアルは読んでいるとも……!」

 

 ロボットがミカを潰すのに全力を傾けている隙に、セイアはその足元に潜り込む。そして目立たない場所のレバーを開いてコンソールを露出、番号を打ち込んだ。

 

「――停止コード、入力!」

 

 そして、ロボの視覚センサーの赤い光が消え、ドリルもたたまれて元のサイズにまで縮んだ。

 どことなく弛緩した雰囲気が漂った。

 

「あー、もう……地下で銃撃戦とか、肝試しどころじゃないよ。いや、これがミレニアムで言う肝試しなのかな? ね、セイアちゃん」

 

 ミカがからかうようにため息を吐きながら、元凶のセイアに振る。

 

「まあ、スリルは十分だっただろう?」

 

 セイアが口元を吊り上げる。

 

「……次はもう少し平和な遊びがいいですね」

 

 ナギサは苦笑し、三人は薄暗い通路をゆっくり戻り始めた。壁のランプが低く点滅し、どうしようもなく徒労感が襲って来るのだった。

 

 

 

「……ねえ、せっかくだからさ」

 

 ミカがぽつりと口を開く。

 

「言わなくていいですよ、ミカちゃん」

 

 ナギサが眉をひそめる。

 

「肝試しっぽく、怪談のひとつでも話そうかなって」

「ふむ、それは興味深い。ああ、奇遇なことに私もひとつ用意していたのだ」

 

 セイアが涼しい顔で言う。

 

「あの、お二人とも――」

 

 ナギサに構わず、二人は話を続ける。

 

「じゃあ、私からいくよ」

 

 ミカは声を少し落とした。

 

「この屋敷の地下、昔は召使い用の通路がもっと奥まで続いてたんだって。で、その奥にはさ―― ”鍵のかかった扉”があって、そこから夜な夜な『コン、コン』ってノックが聞こえるの」

「……中に、誰かいるとでも?」

 

 ナギサが小声で尋ねる。

 

「開けるとね――中は空っぽ。でも、ドアの向こうの床だけ濡れてるんだって」

 

 ひゅっと冷気が通路を抜け、三人の足元を撫でた。ナギサが眉を顰めながら言う。

 

「それは本当に恐ろしい。アリウスの工作員が使っていた秘密の通路は、その全貌を明らかにできておりませんので」

「我々にとっては現実的な恐怖だね。秘密の脱出路になにか追加工事でもされ、今は密輸に使われている……いやいや、心当たりなどいくらでもあるとも」

 

「……あのさ、私は仕事の話をしたわけじゃないんだけど」

 

 口を尖らせるミカをさらりと無視して、セイアが淡々と続ける。

 

「なら、次は私だ」

 

「さっきのロボの元となった型の初期試作機が、ある日暴走してね。廊下を走り回っては、使用人の後ろから”何か”を吸い込んでいったそうだ。髪の毛とか、埃じゃない……もっと軽い、温かいものを。吸い込まれた人は、性格が変わって二度と戻らなかったそうだよ。――そう、被害を受けた者のヘイローは同じものになったとか」

 

「それは、ヘイローを”喰われた”と?」

「新しいものに代えられたか、それとも奪われた結果同一形状に変化したのか。さて、それは分からんがね」

 

「それって、感情を奪われたとか……?」

 

 ミカの声が少し震える。

 

「さて、何だろうな。とはいえ、情動を失ったわけではないらしい。――とても、”怒りっぽく”なったそうだよ」

 

 セイアは笑わない。

 

「私は噂話などには興味がないのですが……」

 

 とナギサは渋るが、少し考えてから話し始めた。

 

「では、短く。――この地下、時々足音が増えることがあるらしいです」

「増える?」

 

 ミカが聞き返す。

 

「三人で歩いていたはずなのに、四人分。振り返ると、誰もいないのに」

「ふ。みんな上で寝ているのに、四人目など居るはずがない」

 

 コツ、コツ、コツ……コツと足音が一人分、余計に響いた。三人は反射的に振り向く――が、誰もいない。

 

「……増えなかった?」

「え、そんなはずは」

「いや、明らかに四人目が――」

 

 顔色が悪くなったミカが振り向くと、そこに般若が居た。

 

「――ひ!」

「顔色が悪いですね」

 

 その般若はミカの頭をガシリと掴んだ。

 

「あ、では私たちはお先に」

「もう夜だからね。早く寝ないと健康に悪い」

 

 般若は、蒼森ミネだった。マダムとのことが終わった後も引き続きセイアとミカの健康を診てくれている。

 

「ちょ、ま……二人ともズルイ!」

「ミカさん? 顔色が悪いようですが、何か体調に変化でも? 私は言いましたね? 体調が万全に戻ったように思えても、あなたの病気は完治したわけではないと。日々の食事と睡眠が健康に戻る鍵なのです」

 

「いや――これは、頭がみしみし言ってるせいかな☆」

「それはいけません! 病気の可能性があります。……救護ッ!」

 

「ごっふう!」

 

 ミカを背負う際に、腹で肩部を強打された。人魂が口から出かかっているミカを、ミネは暴走特急の勢いで保健室に運んでいく。

 

「「――」」

 

 ナギサとセイアは顔を見合わせて、やれやれと肩をすくめた。

 

 

20万PVの同人誌は誰がいい?

  • ナギサ様
  • セイアちゃん
  • ミカ(二冊目)
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