聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第11話 恩知らずの血戦

 

 そして、ラーメンを食べ終わって解散する。

 

「いやーゴチでした。先生ー」

「ごちそうさまでした」

「うん、お陰様でお腹いっぱい」

「ごちそうさま。いやあ、人のおごりで食べるご飯は格別だねー☆」

 

 先生が女子に囲まれて肩を叩かれたり寄り添われたりしているが、楽しむよりも前に寂しくなった財布を見て顔を青くしている。

 

「早く出てって! 二度とこないで! 仕事の邪魔だから!」

 

 そんな先生の背中を、セリカが後からバシンと叩く。顔を真っ赤にしていた。

 

「また来るねー」

「あ、あはは……セリカちゃん、また明日ね……」

 

 ミカがけたけたと笑いながら言い、アヤネがそんなミカを睨みつけながら小さく手を振る。

 

「ホント嫌い! みんな死んじゃえー!!」

 

 怒鳴るセリカだが。

 

「あはは、元気そうで何よりだー」

 

 ホシノに頭を撫でられてぐぅぅ、と小さくうめいていた。

 

 

 そして、便利屋68ともお別れだ。少しおしゃべりしただけで何か仲良くなってしまった。アビドスとミカに敵だと気付く余地はないが、便利屋社長のアルも全く気付いていない。

 

「それじゃ、気を付けてね!」

「お仕事、上手くいきますように!」

 

「うん、ありがと。機会があったら、またラーメンを食べに来るよ。あなたたちも学校の復興、頑張ってねー! 応援してるからー! がんばれー♡」

 

 アビドスがムツキに手を振り、ムツキも手を振り返す。

 そして、ミカはアルとニヒルな笑みを浮かべて無駄にハードボイルド的な雰囲気を醸し出す。……ムツキが見たら大笑いしそうだが。

 

「運命に抗い、仲間を救う――お互い頑張ろうね」

「……ふふ。ええ、当然よ。どんな困難が待っていようとも、仲間と一緒なら越えられる。どんな敵だって怖くないわ」

 

 がっしりと硬く握手していた。

 

 そして、別れてアビドスに戻る。

 

「……あ、私まで校舎に戻ること無かったかも。みんな、この後どうする? 予定がないなら、私はトリニティに帰ろっかなぁ」

 

 んー、と頬に手をあてて皆を見ると苦笑が返ってくる。まあ、何かしようにも……ということだ。バイトがあるものはそれぞれ準備していたし、シロコ辺りは賞金首のリストを見ていたが……

 

「ま、そうだねー。ミカさんは帰っても良いかもねー。というか、日中にこっちに来ることはないんじゃない? トリニティにはまだ授業があるんでしょー」

「あはは、ホシノちゃん。それは私を甘く見てない? 授業なんて代返してもらえばいいし、そもそもBDで聞かなくても教科書に書いてあるから読んだ方が早いじゃない」

 

「ぴーぴすー」

 

 ホシノは変な口笛を吹いた。

 

「あらあら、ホシノ先輩吹けていませんよ。そういえば成績の方も……」

「うぐぐっ……! セリカちゃんが居ないから分が悪い。……シロコちゃんはおじさんの味方でしょ?」

 

「ん。私はホシノ先輩の味方だけど……暗記は得意。BDで見るより字で見た方が覚えやすいのは同意する」

「ぐぬぬぅ……シロコちゃんまで……優等生の雰囲気を……?」

 

「いや、私は暗記以外だめだし……」

「というか、ホシノ先輩もそこまで頭が悪いわけでは……。シロコちゃんと違って暗記ものが苦手ですよね。苦手というか、ホシノ先輩は別に物覚えが悪いわけではないので勉強すれば……」

 

「はいはーい! この話、ここでおしまい! なんでおじさんが集中砲火うけてるのさー」

 

 あはは、と笑いが起こった。

 

 -ターン-

 

 そして、そこに打ち込まれる一発の銃声。

 

「先生!」

 

 まっさきにミカが先生を押し倒して、自分の身を盾にする。

 

「……敵の姿が見えない。アヤネちゃん!」

「確認しています。……校舎より南15㎞地点付近で大規模な兵力を確認! 方角が違いますね、スナイパーの場所を調べます」

 

 その隙にシロコとアヤネが素早く状況を確認する。

 

「まさか、ヘルメット団が?」

「ち、違います! ヘルメット団ではありません! これは……傭兵です! おそらく日雇いの傭兵!」

「でも、多分一発目の銃弾は違う。傭兵はこんな犠牲になるような真似はしない。このスナイパーは無視できないよ」

 

「へえー、傭兵かあ。結構高いはずだけど。でも、シロコちゃんのスナイパーは別って言うのは当たってるかも。もしかしたら雇い主かもね」

「傭兵を相手にしている間に横から狙われるのは危険。潰さないといけないけど……これは誘ってるようにしか思えない。どう相手する?」

 

 よどみなく戦力分析を行う。ヘルメット団の危機に晒され続けたことでどんな治安の悪い場所よりも経験値を積んだことで得た、傭兵よりも強力なチームの絆だ。

 

「これ以上接近されるのは危険です! 先生、出勤命令を!」

「出勤だー!」

 

 そして、アヤネと先生が号令をかける。すぐに別チームの居所を探る。

 

「傭兵と異なる方角に集団を確認できました! 先ほどの狙撃をしてきたチ-ムです」

「え……あれ……ラーメン屋さんの……?」

 

 見えた顔は見知ったものだった。スナイパーと言えど、挑発のために出てきたから顔を見せなければ始まらない。

 

「ぐ、ぐぐっ……」

 

 なぜか苦しそうな顔をしているアル。とはいえ、そんな事情は知ったことではなく……

 

「誰かと思えばあんたたちだったのね!! ラーメンも無料で特盛にしてあげたのに、この恩知らず!!」

「あははは、その件はありがと。それはそれ、これはこれ。こっちも仕事でさ」

「残念だけど、公私はハッキリ区別しないと。受けた仕事はきっちりこなす」

「……なるほど。その仕事っていうのが、便利屋だったんだ」

「もう! 学生なら、他にもっと健全なアルバイトがあるでしょう? それなのに便利屋だなんて!」

 

「ちょっ、アルバイトじゃないわ! れっきとしたビジネスなの! 肩書だってあるんだから!  私は社長! あっちが室長で、こっちが課長……」

「はあ……社長。ここでそういう風に言っちゃうと、余計薄っぺらさが際立つ……」

「誰の差し金? ……いや、答えるわけないか。力尽くで口を割らせるしか」

 

 アビドスと便利屋で言葉の応酬が始まっている。

 

「ねえ――アルちゃん。それが、アルちゃんの”意志を貫く”ってこと?」

 

 地獄の怨嗟のような声が響いた。アビドスメンバーはビビって前を開ける。

 

「……え? ええと。……そうね。ふふふ、それはもちろん企業秘密よ?」

 

 アルもビビって目を泳がせている。目が座っていてめちゃくちゃ怖い。

 

「アビドスを襲っても何も得るものはない。こんな借金だけの、総生徒数5名のアビドスから奪えるものなんてないものね。校舎を奪うにしても、使い道の一つもない。どこかの誰かさんの狗でもなければ、ね。ねえ、私の言っていること間違っている?」

「え? いやあ……私たちは便利屋68! 金を貰えばなんでもする、法律と規律に縛られないハードボイルドなアウトロー! あなたたちの高校が欲しいって依頼があったのよ。そう、あくまで依頼よ。アウトローは狗じゃないの!」

 

「そう。……それは、きっと大人からの依頼だよね? 企業かな。どこかの生徒会がここに興味を持ってるって話も聞かないもん。大人に言われるがまま、何でもする。……それがあなたのアウトローってことなんだ。そう、あなたはそうなんだ」

「――何を言っているのかしら?」

 

 ぼそぼそと呟くような声。ミカの掴んだSMGからぎりぎりと音が聞こえてくる。

 

「……あなたのくだらない夢を潰してあげる。そんなにゲヘナが嫌なら連邦矯正局へ入れてあげるから……!」

 

 バっと窓を乗り越えて駆け出した。

 

「ミカさん……!?」

「みなさん、落ち着いてください。別の方向から傭兵が突入してきます。こちらの対処も考えないと! ……先生!?」

 

「そうだね。便利屋はミカに任せようか。アビドスメンバーは傭兵を殲滅、すぐにミカの援護に回るよ!」

 

「「「「はい!」」」」

 

 アビドスは迫りくる傭兵団との戦端を開く。

 

 そして、ミカは。

 

「――強い、けど。強さじゃ大人には勝てないのに……」

 

 狙撃銃の一撃が飛んでくる中を、”耐えればいい”の根性論で進んでいく。かわすのではない、防ぐのでもない。ただ……耐えて進む。

 

「なんで当たってるのに走ってるのよ!? 本当に生徒会長!? ヒナとかと同種の人間じゃないのよ、あれは!」

「社長は狙撃に集中して。体力が削れてないわけじゃない。罠に嵌めて、攻撃を続ければいつかは勝てる。さすがに風紀委員長より強いことはないはずだから」

「とはいっても、トリニティの生徒会の中じゃぶっちぎりって話でしょー? 行けるの?」

「それはお前とハルカ次第だ、今のところ作戦は想定内……」

「お、私が仕掛けた爆弾踏むねー」

 

「……ん?」

 

 カチリと音がした。爆発――衝撃と爆炎がまき散らされる。ただのヘルメット団ならばこれで仕留められる。 

 だが、相手は雑魚ではないのだから。

 

「で? この程度で私を止められると思ったの? 私を止めようと思ったら――あと100倍は持ってこないとね☆」

 

 鬼のような攻撃的な笑みを浮かべながら歩を進める。まったくダメージが入っているとは思えない光景だ。

 

「社長、今がチャンス……!」

「――ハルカ、やりなさい!」

 

 カヨコがアルに囁き、アルが叫ぶ。

 

「はい。や、やります……」

 

 ボタンを押した。瞬間。

 

「……ッ! まさか――」

 

 轟音、衝撃。崩れた建物をあっけなく粉砕するほどの爆圧が全てを蹂躙する。

 

「あはははは! どうよ、見なさい! 全ては作戦通り! カヨコの立てた作戦に穴はないわ!」

 

 更地になった場所を指差し、高笑いするアル。あれほどの爆弾、ちょっとやそっとの力自慢ではイチコロ。でなくても、動けなくなるだけのダメージはあるはずだと。

 

「そうだね。……さすがに、ちょっと痛かったかな☆」

 

 埋もれた砂から姿を表したミカ――服は多少擦り切れているとはいえ、眼の光は更に剣呑さを増している。

 その足を進める。爆炎の中を歩いてくる様はまるで地獄の行進だ。

 

「……う、うそっ! 作戦は完璧に決まったはずなのに」

「あは! さっき100倍って私は言ったよねえ。これ、絶対100倍より少ないよねえ!?」

 

 そして駆け出すミカ。もはや万策尽きた、残りの爆薬などあれば使いどころは先の一撃で当然余りはない。カヨコの作戦は間違っていない。

 ただ、全ての火力を用いてもミカを止めることは叶わなかったというだけだ。

 

「――うそ。あれに耐えられるのなんて、それこそヒナくらいのはず。作戦は、完璧に機能したのに……!」

「……」

 

「逃げよう、社長。傭兵もアビドスを押し切れてない、不利に傾けば逃げ出すはず。今は……」

「……」

 

「社長? どうしたの、社長?」

「あははー。カヨコちゃん、アルちゃん白目向いて気絶しちゃってるよー。面白―い」

 

 反応のないアルは白目を剥いて気絶していた。それだけの衝撃だったということだろう。カヨコも気絶して済むのならそうしたい。

 だが、今は気楽に気絶していていいような状況ではない。

 

「面白い事なんてない。このままじゃ聖園ミカに全員ぶちのめされて連邦矯正局送りだよ。『ゲヘナ』に返す、なんてするわけない……!」

 

 焦るカヨコ。白目を向いて気絶したアル。面白がるムツキ。ハルカはおろおろしてるだけで何もできない。

 

「あはっ! どうしたのかな? 攻撃がやんじゃったよ」

 

 そして、ミカが便利屋の隠れていた建物まで到着する。

 

「くっ……! 社長、早く起きて! 階段を上ってくる前に逃げるよ!」

「……」

「ああ、もう……!」

「カヨコちゃん。これは手遅れかなー?」

 

 ガン、と音がする。下の方から、ガンガンという音が連続する。

 

「これ……何の音……?」

 

 それはコンクリを殴り壊す音。ガン、と言う音の後にタッと軽い足音が聞こえる。そう、ミカが建物の外壁を壊して足場を作り、昇っていく音だった。

 

「――まさか!」

 

 ガシャン、とガラスが壊れる音が響いた。何かが便利屋が仮拠点にしていた部屋に入っていた。

 それはもちろん。

 

「……ねえ、どうしたのカヨコちゃん。そんな……魔女でも見たような顔しちゃって」

 

 怪しく微笑むミカ。ただの力技で外壁を上り、窓を殴り壊して入ってきた。

 

「……ッ!」

 

 銃を向けようとして。

 

「――遅い」

 

 その前にミカのSMGが火を噴いた。

 

「かはっ……」

 

 カヨコが沈む。

 

「あはっ。抵抗なしってのも、つまんないよねー」

 

 ムツキが銃を構えようとする。勝てるわけがないのは知っている。とはいえ、降参など性に合わないから。

 

「遊びでやってるの?」

 

 無慈悲に撃たれ、崩れ落ちた。

 

「……ひ」

 

 ハルカは目に一杯の涙を貯めて自分に向けられた銃を見て――

 

〈ミカ、帰っておいで〉

 

 通信機から先生の声が響く。

 実は地雷の存在は知らされていた上で踏んだし、爆弾の方は爆発する前に隠れるように指示があった。食らっても耐えられる自信はあったけど、そこは従っておいた。

 

「でも、先生! この子たちはここで矯正局送りにしないと、いつか酷いことに……!」

〈……ミカ〉

 

「う……先生。分かったよ、先生は生徒の自由を縛ることはしないもんね」

〈うん、分かってくれてうれしいよ。ミカ〉

 

「先生が嬉しいのなら……」

 

 そっと銃を下ろす。

 

「……アルちゃん」

 

「アルちゃん、まだ気絶してるんだ。ねえハルカちゃん、後で伝えておいてね。遊びはもうおしまいにしなさい。そうしないと、いつか本当に大切なものを失うからって」

「――ひ、ぴい!」

 

 当事者のハルカは自分の銃を大切そうに抱きしめながら高速で首を上下させた。

 

「じゃあね、あなたたちは仲間を大事に思ってるんだよね? なら、大切にしないといけないよ」

 

 自嘲するように呟いて、戻っていく。

 

「そういえば、先生。傭兵の方はどうなったの? ま、セリカちゃん抜きでも皆が負けるとは思わないけどさ」

〈定時だからって帰っちゃった。みんな怪我もしてないよ、大丈夫〉

 

「ありゃ、じゃあ被害は私が砂まみれになったことくらいかー。アビドスにシャワーってあったっけ。……先生、覗く?」

〈それはもちろん覗――かないです。絶対に覗かないんでその目はやめてくださいアヤネ様〉

 

 そこまでは拾えないけど、アヤネのため息が聞こえるような気がしてミカは少しだけ笑ってしまった。

 

 





ミカ「ゲヘナは、先生に二度と近づかないでね?」

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