聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第12話 トリニティの闇

 

 

 夜、ミカはトリニティに帰る。

 

 記憶が戻る以前からもミカは暗躍を続けていた。もちろん、連日アビドスに行くような表だって行う様なバカな真似はしていなかったけど。

 ――誰にも知られず計画を練り、様々な深謀遠慮を張り巡らしながら表の行事にも手を抜かない。それはずっと続けてきたことだ。

 

 ”表”の中でも顔出しが必要な、場所と時間をとられるようなものは『ホスト』のナギサにお鉢が回ってくることもある。

 実態のところミカは一派閥の長でしかなく、トリニティの顔はナギサだから裏で動く時間的余裕があった。

 暗躍は最近のことではないから、まだ破綻していない。トリニティを1日中留守にするなんてことをしているために、色々ほころびだしてはいるけれど。

 

 ただし表舞台に立つ機会が少ないとはいえ、一種の”偉い人”であるのは事実であり……ゆえに、ただ”偉い”というだけでやっかみを受けるのは間違いない。

 そのことは人類の歴史が証明しているだろう。

 

 それに、最近誰にも知られずの外出も多いとなればもう――そこから導き出される結論が”叩ける”ということでもおかしくない。

 派閥としての立場はともかく、一般人まで行くと……ミカの旗色は悪くなりだしていた。

 

 

 

 次の日の朝、少女たちが登校する風景の中で、こそこそと悪だくみをする少女たちの姿がある。

 

「……ねえ、聞いた? ミカ様のあの噂、広まってるわね」

「よく言うわね、あんたが言い出したことじゃない」

 

 クスクスと、悪意たっぷりに会話をかわす少女たち。政治的には何も力を持たず、ティーパーティーの一員として政治に参加するでもないただの一般トリニティ生だ。

 少し時事に興味があって、落ち目の政党を叩くのが趣味なだけだけの取るに足らない生徒でしかない。だからこそ、面白おかしくゴシップを話せる。……人前で。

 

「そう? でも、連日だって話じゃない。あれとか利いてきてるのかな?」

「不幸の手紙をミカ様の下駄箱に入れるとか? そんなんやってるの、うちらだけじゃないじゃん。いつもたくさん入ってるっしょ」

 

「えー。じゃあ、外出で何かあったのかな? うちらは許可がないとできないのに、ほんとミカ様ってばズルいわよねえ」

「そうそう、ちょっと綺麗な顔してるからってお高く止まっちゃって。毎晩泣いてるってあれ、もしかして大人の男の人に振られたからとか?」

 

「あはは! 振られ女ってこと? いい気味ね! 最高だわ! 相手の人って調べられるかなあ? 噂を流してやろうよ!」

「あは! それいい! きっと、みんな夢中になるわ」

 

 彼女らは権力に唾吐き、そして有名人のゴシップを面白おかしく噂する。

 何の責任もない立場から好き勝手なことだけ言ってればいいというのは気持ちよくて、まさに麻薬のような甘美さだろう。

 

 そう、本当に”何の責任もない”のなら。

 

 当たり前だろう、発言には責任が伴うと言うのは。権力者のそればかり取り上げられるが、何の立場もない一般人でも吐いた言葉には責任が伴うのは当然のことだ。

 否、責任が伴うというのとは違う。そもそも政治家が責任を取ったかと言われれば、歴史を見渡しても実例は少数だろう。責任とは”取らされるもの”、”取り立てられるもの”であるのだ。

 

「水音カゲさん、それと光花サユさんっすね? ナギサ様があなた方をお呼びっす。ついて来ていただけないっすかね」

 

 正義実現委員会が彼女たちを呼び止めた。

 ナギサが彼女たちを使って呼び出しをするのはよくあることだ。そして、トリニティでは彼女のお茶会に参加するというのは一種のステータスである。

 

「ま、まさか……」

「ナギサ様が、私たちに声を……! 夢じゃないわよね?」

 

 きゃらきゃらと喜び合う少女たち。それもそうだろう、それは友達にいくらでも自慢できるほどのステータスなのだ。

 ――本当に、”お茶会”に呼ばれたのであれば、だが。

 

「では、こちらです。付いてきてくださいっす」

 

 正義実現委員会、イチカはくるりと振りむいて彼女たちを案内する。背を向けて見えなくなった顔で、ただ気楽についてくる彼女たちへ嘲笑を浮かべながら。

 

「わあ、本当にナギサ様にお呼ばれしたんだ」

「たくさん頑張ってきたかいがあったね!」

 

 スキップでもしそうな顔でついていく。その呑気な顔は、これからの栄達を疑ってもいなかった。

 

「――」

 

 イチカは無言で先導する。そして、ナギサの待つお茶会の場所までたどりつく。

 

「ナギサ様はここでお待ちっす。武器は私がお預かりするっす」

 

 二人は何も考えずに。

 

「はい。間違っても傷なんて付けないでくださいね」

「どうぞ、大切に持っててくださいね」

 

 お茶会に呼ばれたと勘違いしている二人は傲慢そのものと言った様子で銃を手渡す。まるで今後は自分が正義実現委員会が命令する立場になると言わんばかりだ。

 いかにナギサがトリニティのトップであれど、キヴォトスでは無礼にあたる武器の取り上げまで行ったことに何の疑問も抱かずに。

 

「あはは……はい、確かにお預かりしましたっす」

 

 これは、さすがにイチカの方も苦笑した。

 

「では――どうぞ」

 

 扉を開ける。二人が入る。

 

「お待たせいたしました、ナギサ様。この度はご招待下さり……ッ!」

 

 入った瞬間に息が止まる。確かにそこにナギサは居た。豪奢な椅子に座り、優雅に紅茶を嗜んでいる。

 だが、目の前の壮麗なティーテーブルの上には何も乗っていなかった。彼女らに供されるはずの紅茶も、スイーツも。

 

「ちょ……! 何やってんの、急に立ち止まらないで! ご招待ありがとうございます、ナギサ……様?」

 

 二人目も、入ってくるなり目を剥いた。

 これは――これは、間違っても”お茶会”などではなく。

 

「どうしました、お二方。お席にどうぞっす」

 

 後から入ってきたイチカが即座に扉を閉め鍵をかけた。促され、ロボットのようにぎこちなく席に着く。

 椅子も、見るからにぼろぼろで普段なら座りたくもない有様のそれが用意されている。

 ――ただ、沈黙が場を支配する。

 

「あの……」

 

 耐えきれずに声を挙げた二人組の片方。ナギサが手で声を遮る。優雅に紅茶を一口、口に含んだ。嚥下する。

 

「――さて、お二方をお呼びしたのは他でもありません。実はミカさんに関する不審な噂を聞いてしまいまして。あなた方にも調査に協力していただきたいと思ったのですよ」

 

 そして、ナギサは始めてその冷え切った瞳で彼女たちを見る。

 

「……ひ」

「なん……で」

 

 歓迎されているとは思えない雰囲気。周りを銃を所持した正義実現委員会に囲まれ、その視線は刺々しい。

 ナギサに関しても、常と変わらぬ柔らかな笑みを浮かべているが……しかし忘れてはならない。この何もないテーブルとボロの椅子を用意したのは彼女である。

 

「ああ、申し訳ありません。飲み物がなくては話すのは辛いですよね。気が利かなくて申し訳ありません」

「い、いえ――そのようなことは決して」

「は、はい」

 

 そして、正義実現委員会が彼女たちにカップを用意する。

 そう、水の入った紅茶用のカップを。それは厳かな雰囲気のアンティークだが、それだけに水が入っていると違和感が大きい。

 

「実はですね、ミカさんがよく外出をされているとのことで。元から自由奔放な方ですが、最近は前にも増して……」

 

 ふう、とため息を吐く。対する彼女たちはナギサの一々が気になって、つい口をすべらせる。

 

「はい。よく外出されているのは事実です。今日も、授業にも出ずにどこかへ――」

「そうですか。ミカさんにも困ったものですね。以前にもあったことですが……ですが、最近は……なんだか……知っていることはございませんか?」

 

「え? えっと……最近……ミカ様が夜に泣いているって言う……」

「へえ? どういうことでしょうか? ミカさんが悩んでいるなどと、私も聞いたことはありませんが」

 

「なんでも、男に会いに行っている……とか? 分かりませんが、ミカ様がすすり泣きをしているって――カゲが」

「ちょっと!? 私のせいにしないでよ!」

 

「あなたは、ミカさんが泣いているのを聞いたことがあると?」

「……ええと。……はい、そうです。でも盗聴とかじゃなくて、ただ耳を澄まして――」

 

「そう……ですか」

 

 ナギサがまたため息を吐く。居たたまれなくなったのか、少女は更に先を続ける。

 

「でも……ですが! 私たちは、ナギサ様の味方です!」

「ほう。味方……ですか? あなた方が……」

 

 立ち上がり、熱く語る。言葉を話すごとにナギサの目が釣りあがっていくのに、気付きもせずに。

 

「はい! ミカ様さえ居なくなれば『ホスト』の座は永久にナギサ様のものです! あの女が弱っている今がチャンスなんです!」

「今が……チャンス、ですか……? それはどういった……?」

 

「カゲと一緒に、毎日あの女へ不幸の手紙を入れてやりました! それに色々な噂を流してやりました! あのスカした顔を歪ませてやりましょう! 今しかありません!」

「……ほう」

 

 反応がない、心なしか睨まれている気さえする。

 

「あ……あの……」

「あなたは、どうにも我が『トリニティ』の生徒としては愛が不足しているように感じます」

 

「へ……? あの……あ、愛?」

「不幸の手紙などを送り、他人を呪うことの何が楽しいのでしょうか? 愛を満たすことこそ、至上の喜びであるというのに」

 

 嘆息する。

 

「あの……ナギサ様? 不幸の手紙くらいナギサ様の下駄箱にも入ってましたが……」

「……? どういうことでしょうか。報告は受けていませんが」

 

 イチカが耳打ちする。

 

「いや、ゴミが入ってるけどどうしましょうって聞いた時、ゴミはゴミ箱へって言われたんで。毎朝聞く必要もないっすよね。不幸の手紙くらいで牢送りにしてたら正義実現委員会の牢屋に収まりきらないっす」

「――なるほど。これは、近いうちにでも生徒たちには愛のなんたるかを説く必要がありそうですね。ですが、あなた方は……」

 

 ナギサはじろりと彼女たちを睨みつける。

 

「……ひ。はいっ!」

「は……はい、何でしょうか?」

 

 少女たちは気が気ではない。目の前で最高権力者が青筋を立てているのだ。どうしてこうなった? と自問するが……一体何を間違ったのか。

 記憶をさらって見ても、心当たりが何もない。

 

「あなた方はとても、とても愛が不足しています。愛とは巡り、帰るもの。あなた方のような存在が居ては、愛がゴミ箱に落ちてくだらないものへと変わってしまう」

「うう……」

「ひ……」

 

 言っていることの意味は分からない。というか、聞いている正義実現委員会もナギサが何を言っているかは分からない。

 ただし、平たく言えば彼女たちを牢に繋いでしまえということであり、その意見には同意できる。

 

「皆さん、彼女たちを愛染学習室へ。そこで愛を学んでいただきましょう」

 

 きらーん、と音がしそうなまぶしい笑みを浮かべた。

 

「はい、承知しましたっす。では、お二方……ご案内するっす。あなたたちがこれから過ごしていくことになる教室を」

「……ひっ。私たちを閉じ込めるつもり……?」

「そんな、横暴よ! 私たちを犯罪者みたいに! ティーパーティーの権力の濫用だわ!」

 

「いえいえ、勘違いなさらないでください。私はただ、あなた方にトリニティに相応しい教養と所作を身に着けていただきたいだけですので。大丈夫ですよ、人に与えるだけの愛を学べばすぐにでも出れますから」

「……ま、その愛ってやつは私にも分かんないっすから。普通は一生出れない気がするっすけど……」

 

「……イチカさん?」

「何でもないっす。いやあ、愛は素晴らしいですねー。ほら、二人ともあまりわがまま言わないでほしいっす」

 

「こ――こうなったら!」

「や、やる? やっちゃう?」

 

 二人、手を背後に伸ばして――

 

「二人とも、お探しの品はこれっすか? ご安心ください、愛とやらを学んで教室から出られれば返却されるっす。それまでは正義実現委員会の方で大切に保管させてもらうっす」

 

「さ、最初からそのつもりで! 卑怯者!」

「そうよ! こんな汚い真似をしてるから、ティーパーティーってのは……!」

 

「まあまあ、これ以上は口を開くだけ損っすっよ。ほら、あちらをご覧くださいお客様」

 

「何よ! このティーパーティーの手先め! 正義実現委員会なんて言っても……!」

「ま、待って。銃が……」

 

 一人の少女が指で明後日の方向を指差す。その先では、正義実現委員会が銃を構えていた。暴れるようならいつでも撃てるぞ、と。

 部屋に入る前に武器は取り上げられていた。すでに詰んでいたのだ。

 

 おとなしく正義実現委員会に連れていかれる二人をナギサは見送る。

 

「……それにしても、あなたは何をやっているのですか。ミカさん、自由奔放でいつも楽しそうにしていたあなたが……今はまるで笑顔を貼り付けるように。――あなたは、自分がちゃんと笑えていないことに気付いているのでしょうか?」

 

 





 愛染学習室は適当に作りました。正義実現委員会にも牢屋はありましたが、トリニティの性質上、牢屋がここだけとは思えません。
 そう言う訳で、ナギサの所属する分派が持つ牢屋を適当に名づけたという次第です

 彼女たちの今後ですが、おそらく洗脳されるか、ずっとそこに居るかの二択になるでしょう。厄介者に対するレッテル付け、反政府主義者を拘束しておくためのものですね。たぶんガチの犯罪者は正義実現委員会の方で捕らえておくものだと思います。
 まあ、ティーパーティーの権威が失墜すればシスターフッドあたりが助けてくれるでしょう。ちなみに、名前はAIに作ってもらいました。権天使を元ネタにという呪文でミカが出てきたのは驚きました。さすがに採用する訳がないですが。

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