聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第13話 ブラックマーケットへ

 

 

 便利屋との戦いが終わった次の日。トラブルのあった次の日くらいはゆっくりしたいものだが、アビドスを取り巻く状況はそうも言ってはいられない。

 

「……お待たせしました。変動金利等を諸々適用し、利息は788万3250円ですね。全て現金でお支払いいただきました、以上となります」

 

 アヤネは早起きして利息分のお金を引き渡していた。チンピラとの抗争の上にこれではやってられないが、しかし学校を守るためには必要なことだから是非もない。

 

「カイザーローンとお取引いただき、毎度ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします」

 

 そして、金を受け取った銀行員は何事もなく帰って行った。まあ、モメれば銀行にもアビドスにも損しかないので変なトラブルを起こさないのは当然ではあるのだが。

 

「「……」」

 

 揃っていたアビドスの面々は厳つい現金輸送車を恨めしい表情で見送る。今月はなんとかなったとは言え、青春を犠牲にしてアビドスを守っている。やりがいはあるとはいえ、感情まで納得できはしない。

 まだ遊びたい盛りの子供だ。しかし、子供だからこそアビドスを諦めきれないというせめぎ合い。

 

「はぁ、今月も何とか乗り切ったねー」

「……完済まであとどれくらい?」

「309年返済なので……今までの分を入れると……」

「言わなくていいわよ、正確な数字で言われるとさらにストレス溜まりそう……どうせ死ぬまで完済できないんだし! 計算してもムダでしょ!」

「……」

 

 一瞬燃えかけたが、冷たい現実が冷や水をぶっかけた。

 

「ところで、カイザーローンはなぜ現金でしか受け付けないのでしょうね? わざわざ現金輸送車まで手配して……」

 

 ノノミは以前から思っていた疑念をぶつけてみる。現金よりもカード、でなくとも振り込みの方が良い。

 いくらアビドスが廃校寸前とはいえ、政治機構を司るのはこちらだ。払った払ってないの水掛け論になったらアビドスの方が有利。連邦生徒会のデータに残る振り込みなら、そんな心配は要らないはずだった。

 

「……」

 

 その横で表情のない瞳で現金輸送車を見る狼耳少女が一人。

 

「シロコ先輩、あの車は襲っちゃダメだよ」

「うん、わかってる」

「計画もしちゃダメ!」

「うん……」

 

 シロコは悲しい目になった。狼耳も叱られた犬のようにペタンと垂れている。

 

「ま、とりあえず先に解決するべきは、目の前の問題の方でしょ。とにかく教室に戻ろうー」

 

 ホシノは背伸びしてシロコの頭をポンポン撫でて慰める。

 

「おっはよー。みんな、どうしたの? 暗い顔しちゃってー」

「あ、ミカさん。今日も来たんですか?」

 

 そして、そこにミカも合流する。ほぼ毎日アビドスに通い詰めている。とはいえ、先生がアビドスと会ってから4日目のことではあるのだが。

 

「ひっどーい。私はお邪魔ものってわけ?」

「あ、い、いえ。そんなことはありません。でも、トリニティの生徒会さんがそんな連日アビドスに来ていいのかなって」

 

「ダイジョブダイジョブ。いいかな、アヤネちゃん。……権力ってのはね、濫用するためにあるんだよ」

「……ミ、ミカさん!?」

「ミカ、あまり危ない真似はやめてね。私のために来てくれるのだろうけど、それでミカにとって悪いことになってしまったら元も子もないんだから」

 

「あはは……先生ならそう言ってくれるよね。でも……先生が居ないとダメなこともあるから……」

「まだ、話してはくれないかい?」

 

 目に暗い影が宿るミカ。隠し事、闇――そういうのはホシノあたりも持っていて、一々聞き出して傷口を抉るような真似は皆しない。

 ただ、先生はそういうものを関係なしに踏み込んでくる。

 

「――ごめんなさい、先生。まだ、その時期じゃないの」

「そう。じゃあ、ミカが話してくれるのを待つことにするよ」

 

 気にしないで、と先生がミカの頭をポンポンと撫でる。

 

「うん。本当に……ごめんなさい。私が……私が、足らないばかりに」

「ミカは頑張ってるよ。私が保証する」

 

 頭を撫でられて真っ赤になるミカ。微笑ましいものを見る目で、アビドスメンバーは教室まで戻った。

 なお、先生の手をミカから引きはがそうとするシロコはホシノが止めていた。

 

 

 

「全員揃ったようなので始めます。まずは、2つの事案についてお話したいと思います。最初に、昨晩の襲撃の件です」

 

 そして、会議を始める。状況を整理するのだ、今はまだ戦うべき敵についてすら分かっていないから。

 

「私たちを襲ったのは『便利屋68』という部活です。ゲヘナでは、かなり危険で素行の悪い生徒たちとして知られています。便利屋とは頼まれたことは何でもこなすサービス業者で……部活のリーダーはアルさん。彼女の下に3人の部員がいて、それぞれ室長、課長、平社員の肩書があるとのことです」

「いやぁー。本格的だねー」

「社長さんだったんですね。すごいです!」

 

「いえ、あくまでも自称なので……それで今はアビドスのどこかのエリアに入り込んでいるようです。今朝も会いましたし……」

「ゲヘナ学園では、起業が許可されているの?」

 

「それはないと思いますが……勝手に起業したのではないでしょうか」

「あら……校則違反ってことですね。悪い子たちには見えませんでしたが……」

 

「いえ、それが今までかなり非行の限りを尽くしたようで、ゲヘナでも問題児扱いされているようです」

 

「――」

 

 アヤネはちらりとミカを見た。とてもつまらなさそうに頬杖をついていた。これはこの話は続けない方が良いな、と思ってホシノの方を見る。

 

「……」

 

 ぶんぶん手を振って”先に進めて”と伝えていた。一つホシノに向かって頷き、息を吸い込んで、話を切り替える。

 

「そんな危険な組織が私たちの学校を狙っているのです! もっと気を引き締めないといけません!」

 

 バンと机を叩いた。

 

「次に来たら、とっ捕まえて取り調べでも何でもしてやるわよ」

「はい、機会があればぜひ……」

 

 気楽に言ってのけるセリカに、ぎらりと目を光らせるアヤネ。私怨丸出しだった。なお、今朝のことをミカに話してけしかけてやろうかと腹黒いことも考えている。……が、この様子を見るとどう爆発するか分からないので保留しておく。

 

「ところでアヤネちゃん、何かあったの? 並々ならぬ恨みを感じるんだけど……」

「……特に何も。いえ、この話は終わりました! 続きまして、セリカちゃんを襲ったヘルメット団の黒幕についてです!」

 

「先日の戦闘で手に入れた戦略兵器の破片を分析した結果……現在は取引されていない型番だということが判明しました」

「もう生産してないってこと? そんなの、どうやって手に入れたのさー」

 

「生産が中止された型番を手に入れる方法は……キヴォトスでは『ブラックマーケット』しかありません」

「ブラックマーケット……とっても危ない場所じゃないですか」

 

 そこは簡単な場所ではない。そこらでチンピラを倒したとて、その程度で自慢できるわけがない危険地帯だ。

 そこらのものかげがイキったチンピラが蔓延る影とすれば、そこは権謀術策と暴力が渦巻く闇。学校が本気を出せば駆逐できるが、それは裏を返せば敵対するためには軍隊が必要という証左でもある。

 

「そうです。あそこでは中退、休学、退学……様々な理由で学校をやめた生徒たちが集団を形成しており、連邦生徒会の許可を得ていない否認可の部活もたくさん活動していると聞きました。そして、ミカさんからも違法武器の出所は大体そこだと情報をもらいました」

 

 ちらりとミカの様子を伺う。便利屋の話をしていたときは酷くつまらなさそうな顔をしていたものだが、なんだか機嫌が直っている。

 

「うんうん、もっと私を頼ってー。と、言いたいところだけど……さすがに私も分かることは少ないんだよねえ。ブラックマーケットとトリニティは表立って関係はないし。調べるにしても、ちょっと理由がないと……先生がやれって言うなら、やるよ?」

「無理しないで。ここに来るだけでも大分苦しいでしょう?」

 

「先生に会いに行くっていうのが苦しいってことはないけど。……まあ、ちょっと大変ではあるけど」

 

 頬を染めるミカ。

 ちなみにアビドスは、”まあ先生に会いに来るためだったらなんでもするよね、ミカさん”と思っていた。聞けることは聞くが、アビドスのために無理してくれとまで言うつもりはないのだ。

 

「まあ、分かることだけで問題ありませんが……。その名前をミカさんから聞いて私も調べてみたのですが、実態が何も掴めてなくて……」

「って言うか、連邦生徒会は何やってんのよ。学校をやめた生徒たちが集まって? 違法武器が出回って? 否認可の部活もあるですって? なんで潰さないのよ、そこ」

 

「ううん……それやって一番困るのはアビドスじゃないかなあ?」

「はあ!? ちょっと、ミカさん。なんで悪者がとっちめられた結果私たちが困ることになるのよ? 話がおかしいんじゃない」

 

 立ち上がりガン、と机を叩く。気の弱い生徒なら悲鳴でも上げそうだが、そこはミカだ。セリカに気圧されることなどなく、マイペースにいつもの気楽な笑みで返す。

 まあまあ、とホシノが取りなす。

 

「うへ~、セリカちゃんは純真だねえ。潰せるのは場所であって、人じゃない。矯正局も無限に犯罪者を閉じ込めておけるわけじゃない。場所が無くなったら……まあ、その脱出先はうちを始めとする自治区が機能してないところだろうね」

「なっ……! それじゃ、対策委員会の力不足が悪いみたいじゃない。……言いたいことは分かったけど」

 

 苦笑するホシノ。セリカは納得できないとばかりにどっかと椅子に座ってそっぽを向く。

 

「まあまあ、セリカちゃん。分かってくれたなら嬉しいよ。うん、ちゃんと考えるようになっちゃってまあ」

「それどういう――

「うん、まあそういうわけで……私の親友の言葉を借りるなら、ブラックマーケットはゴミ捨て場なんだよ。普通の逮捕では対応しきれない不良生徒のたまり場にして、そこに目を付けた企業の実験場」

 

「ええ、企業の介入も確認できています。むしろブラックマーケットを支配するのは生徒よりも企業なのかもしれません。企業が統治を行う、キヴォトスでは異例の土地……」

「ま、自治区が機能してない場所だとままあることだけどね☆ で、アヤネちゃん。肝心の調査結果はどうだったの?」

 

「……調査結果は。……調査結果は、ですね?」

 

 アヤネはつつつ、と目をそらす。

 

「うんうん。せっかく私がブラックマーケットのことを教えてあげたんだから、何か分かったんだよねえ」

 

 ニヤニヤと笑ってアヤネの逸らした目を覗き込む。いじめっ子の顔だ。

 

「調査結果は……何の成果も! 得られませんでした!!」

 

 ぐぬぬ、と歯を剥きだして逆切れした。まあ、これはからかう表情を隠さないミカが悪い。

 

「ま、そりゃ分からないよねえ。あそこはちゃんとした取引をやってるわけでもなし。外から調べるのも、そりゃ限界があるよ」

 

 たはは、からかいすぎたかと頭をかく。

 

「よし、じゃあ決まりだねー。ブラックマーケットに行って調べてみよう。意外な手掛かりがあるかもしれないしね」

 

 ホシノがまとめた。

 

「おおー。それじゃ、犯罪都市へ出発だー」

「ん。……先生、私のことを頼ってくれていい。私が守る」

 

「ちょっと、シロコちゃん! 先生を守るのは私だよ!」

「……ふ」

 

「あ、鼻で笑った! ぐぎぎぎぎぎ……!」

「正妻の余裕」

 

 やっぱりシロコとミカが争っていた。

 

「あはは。あまり慕ってもらえるようなことをした覚えもないのだけどね。……ともかく、アビドス、シャーレ。ブラックマーケットに出動!」

 

 先生が苦笑して、改めて号令をかけた。

 

「「「おお!」」」

 

 みんなで、ブラックマーケットに突入する。

 

 

 





ミカ「さあ、ブラックマーケットに突撃だよ☆ 張り切って行こ―」

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