聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第14話 ヒフミ登場

 

 

 ミカが先頭を切って廃墟にしか見えない土地へと侵入する。そこは自治の及ばないブラックマーケット、キヴォトスの中でも異常な”闇”を体現した場所。

 

「さあ、皆。ブラックマーケットに突入だよ☆」

 

 そして、アビドス一行+ミカ+先生で突入する。電車を乗り継ぎ、更に走って中心街の外れを更に奥へと進めば、廃墟のようなそこがあった。

 まさに明と暗、文明的なビル街の向こう側と、バラック(ボロ小屋)が立ち並ぶブラックマーケットは境界がくっきりと分かれている。だが、そのブラックマーケットにも近代的なビルは複数存在する。サラダボウルのようなごちゃついた街。これが。

 

「ここがブラックマーケット……」

「わあ。すっごい賑わってますね?」

 

 いざ目にしてみると、感嘆するしかない。

 見れば、アビドスよりもよほど発展しているのではなかろうか。まあ死にゆく街と後ろ暗い犯罪街を比べても仕方のないことかもしれないけど。

 

「本当に。小さな市場を想像していたけど、街ひとつぐらいの規模だなんて。連邦生徒会の手が及ばないエリアが、ここまで巨大化してるとは思わなかった」

「うへ~、普段私たちはアビドスにばっかりいるからねー。学区外は結構変な場所が多いんだよ-」

 

 セリカが忌々し気に呟くと、ホシノが思うところがありそうなことを言う。

 

「ホシノ先輩、ここに来たことあるの?」

「いんや~、私も初めてだねー。でも他の学区には、へんちくりんなものがたくさんあるんだってさー。ちょーデカい水族館もあるんだって。アクアリウムっていうの! 今度行ってみたいなー。うへ、魚……お刺身……」

 

 けだるげな顔が嬉しそうにゆるんでくる。魚がよほど好きなのだろうと、まあふわふわで可愛いらしい顔である。

 ブラックマーケットには似合わないけれど。

 

「よくわかんないけど、アクアリウムってそういうのじゃないような……」

「というかホシノちゃん、そういうのとはまた別だよ。そっちはテーマパーク、こっちは犯罪都市。ゴミ箱とおもちゃ箱は、同じ箱でも違うもの」

 

〈そうです、ミカさんの言う通りです。皆さん、油断しないでください。そこは違法な武器や兵器が取引される場所です。何が起こるかわからないですよ〉

「うん、アヤネちゃんの言う通り、気を引き締めて行こう。失うものがないゴミは強いからね。……でも、私はもっと強いから安心してね、先生♡」

 

 言葉とは裏腹に先生に抱きつくミカ。まあ、いざというとき盾代わりになるためという側面は無いことも無いだろうけど。

 単純にそういうチャンスを見逃す彼女ではないということをアビドスは知っている。

 

「うん……でもね、ミカ。動きづらいから抱きつくのはやめてほしいかなって……」

「ん。先生に迷惑かけちゃダメ」

 

 そっと逆サイドの腕を取るシロコである。

 

「ねえ、なんでシロコも腕をロックしにかかるのかな?」

「そうだよ、シロコちゃんはどいて。いざと言うときに両側から引っ張ったら先生が千切れちゃうでしょ」

「ん、その通り。だからミカさんが離すべき」

 

「「んぐぐぐぐ……」」

 

 そして、先生を挟んで睨み合う。

 

「はい、そこまで。いくらブラックマーケットでも銃弾が飛び交ってる訳じゃないみたいだし、そんなボディガードは要らないよ」

「そう、ホシノの言う通り! だから先生は離してほしいなって」

 

「うへ。まあ、先生がどうしてもと言うならおじさんが抱きついて守ってあげるけど」

「いやあ、今は大丈夫かなあ!」

 

 先生は冷や汗を流していた。

 

「ん……ホシノ先輩がそういうなら……」

「むぅ。まあ、ホシノちゃんが言うことも間違いではないかな……」

 

 しぶしぶ先生の腕を開放する二人。

 

「まあ、前途多難だけど――とりあえず、武器を売ってるところを探しに行こうか。あまり情報はないから、泥臭くなるのが面倒だけど、ね」

 

 それぞれ気楽に返事をして、足を進める。とにかく、今日は違法武器について調べに来たのだ。

 アビドスメンバーに更にミカまで加わるとおしゃべりの輪が広がってどうしようもなくなる。女三人寄れば姦しい、というわけでもないだろうけど。

 

 

 そして、ブラックマーケットを端から見ていくわけだけど。

 

「ねー。これ、目的のブツって見つかるぅ? そもそも武器屋も見えないんだけど!」

〈まあまあ、ミカさん。まだ30分しか歩いてませんよ〉

 

 さっそくミカがぶーぶー言い出した。

 

「うへ。30分歩いても外周をちょっと回っただけって、おじさん嫌になっちゃうよ。誰か地図持ってないー?」

「ホシノちゃん、そんなのあったらこんなに苦労してないよ。私も今すっごく欲しくなったけど」

 

「……先生、シャーレの権限でどうにかならない?」

「いやあ、皆には悪いけど流石にどうにもできないかなあ。ブラックマーケットは連邦生徒会の管轄外だし、外側からの権力ではねえ」

 

〈ううん、とりあえずいったん小休止しますか? 何かあったら私が……きゃあっ!?〉

 

 30分歩いたが、特に目ぼしいものもなく。目的のものは見つかるのかと、徒労感を感じてきたころ。

 出し抜けに悲鳴が響いてきた。

 

「銃声だ」

 

 シロコの目が鋭く光る。

 いかにブラックマーケットとはいえ、これまで銃声は聞こえてこなかった。室内や遠くならともかく、はっきりと銃弾の跳ねる音まで聞こえてきたのは侵入以降で初だ。

 

「待て!」

 

 そして、見知らぬ女の怒鳴り声。この調子の声は十中八九チンピラだ。

 

「う、うわああ! まずっ、まずいですー!! つ、ついてこないでくださいー!!」

 

 また響くが、こちらは大人しそうな声。なんというか、安心できそうな人のよさそうな声だ。思わず助けたくなってしまうくらいには。

 

「そうは行くか!」

 

 だが、彼女をチンピラが追いかける。遠目に姿が見えたが、やはりチンピラ。どこにでも湧くようなスケバンだ。

 

「あれ……あの制服は……」

 

 ノノミが逃げる彼女の制服に気付く。それは横に居るミカと同じ制服、つまりトリニティの制服だ。

 

「わわわっ、そこどいてくださいー!!」

 

 そして、必死に逃げる彼女は目の前の障害物に気を払うこともできず人にぶつかってしまう。

 

「い、いたた……ご、ごめんなさい!」

「大丈夫?」

 

 そっとシロコが聞く。回避できないはずもないが、危ないと思って受け止めた。

 

「なわけないか、追われてるみたいだし」

「そ……それが……」

 

「何だおまえらは。どけ! アタシたちはそこのトリニティの生徒に用がある」

「あ、あうう……わ、私の方は特に用はないのですけど……」

 

 そして、追いついてきたチンピラ3人が高圧的に脅しをかける。この銃が見えないのかと、揺らしてガチャリと音を鳴らした。

 

「トリニティの生徒。あなたたち、おじょ……お嬢様学校に何か用があるの?」

 

 一瞬とある人を思い浮かべて口をつぐんだシロコだが、その本人に睨みつけられてそのままセリフを続けた。

 

「そう、そしてキヴォトスで一番金を持ってる学校でもある! だから拉致って身代金をたんまり頂こうってわけさ!」

「拉致って交渉! なかなかの財テクだろう? くくくくっ」

「どうだ、おまえらも興味があるなら計画に乗るか? 身代金の分け前は……ん?」

 

 そして誘いをかけるチンピラども。人数差を考えたのか、それとも単純にノノミの持つバカでかいミニガン(機関銃)に恐れをなしたのか。

 ――とはいえ、最後の三人目は気付いた。

 

「おい、てめ……」

 

 そのミニガンが、躊躇なく自分たちに向けられていると。そして逡巡の時間すらなく、強力な火力が火を噴いた。

 

「悪人は懲らしめないとです!」

「「「うぎゃあっ!」」」

 

 愛銃を持ち上げ、敵を苦も無く殲滅したノノミ。先に声をかけるような慈悲を持ち合わせないのが、まあアビドスらしいと言えばらしいのか。

 

「うん」

 

 この結果は予想済だったのか、シロコは愛銃に手をかけることもなく追われていた彼女を持ち上げて立たせてやる。

 

「あ……えっ? えっ?」

 

 そのまま周りを見渡す彼女。動かなくなったチンピラ三人が目に入る。

 

「あ、ありがとうございました。みなさんがいなかったら、学園に迷惑をかけちゃうところでした……」

 

 深々と頭を下げた。育ちの良い子らしく、礼儀が良い。

 

「それに、こっそり抜け出して来たので、何か問題を起こしたら……あうう……想像しただけでも……」

 

 そして、少し青い顔をする。実際、さっきのは危なかった。こんな場所に来なくても攫われるトリニティ生は居るのだが、彼女たちは正義実現委員会に助け出されてトラウマになった。

 

「というか……あれ? ヒフミちゃん? なんでこんなところに来たの?」

「あ、ミカさん。もしかして知り合……」

 

「ミカ様!?」

 

 ヒフミが目を剥いて叫ぶ。シロコを放って目の前に前までやってくる。

 

「な……なんでこんなところに!? ここはキヴォトスでも屈指の危険地帯、『ブラックマーケット』ですよ! 犯罪が横行するこんな場所に、トリニティ生が足を踏み入れてはいけません!」

「あははー。ま、ちょっと事情が……」

 

 ミカの肩を掴んでがっくんがっくん揺らしながら叫ぶ。

 まあ、普通のトリニティ生だったら絶対にできないことだが……ナギサの偏愛もあり、『ティーパーティー』への距離感はバグっている節もある。

 

「事情なんて関係ありません! ミカ様、もしかして面白そうだからって理由でこんな場所に来ていませんよね!? 何かあったのなら、連邦生徒会に……あの方たちで無理なら正義実現委員会を派遣するべきです!」

「ええと……ね。ヒフミちゃん、一旦胸に手を当ててみて」

 

 そっとヒフミを押し返し、真剣に問いかける。

 

「え? あ……はい」

「それで今、ヒフミちゃんが言ったことを思い返して?」

 

「はい。……間違ったことは言ってないと思いますけど。ナギサ様に知らせれば雷が落ちますよ」

 

 効果がなかったこと、あとナギサに知られた場合を想像してミカはため息を吐く。

 

「うん、ナギちゃんに言うのは勘弁してね。私のこともそうだけど……ヒフミちゃんがこんな場所に来たと知ったら卒倒しちゃうと思うし、ね」

 

 しぃ、と悪戯気に口に指を当てる。

 

「え……えと。ナギサ様に知られるのは……私も……その」

「うん、これは私とヒフミちゃんだけの秘密にしようね。それと、ヒフミちゃんはなんでブラックマーケットに来たのかな? 私は強いけど、ヒフミちゃんは弱いからチンピラがたくさんかかってきたら負けちゃうでしょ? さっきも、たったの3人相手に逃げてたのに」

 

「あ……あはは……それはですね……実は、探し物がありまして」

「探し物。……それって、お金で解決できないもの?」

 

「もう販売されていないので買うこともできないものなのですが、ブラックマーケットではひそかに取引されているらしくて……」

「販売されてない……」

 

 んー、と考えるミカを横目にアビドスメンバーが好き勝手言い出す。

 

「もしかして……戦車?」

「もしくは違法な火器?」

「化学兵器とかですか?」

 

 とんでもない野次を言い出した。ヒフミは違います違いますと首を左右にぶんぶん振る。

 

「えっ!? い、いいえ、違うんです! ……えっとですね、ペロロ様の限定グッズなんです」

「ペロ……え、限定? 何?」

 

 ミカの頭をハテナが占める。ヒフミとは、ナギサの知り合いということで会ったことがあるが友達の友達という関係でしかない。しかも、そういった可愛い系は専門外である。

 

「はい! これです。ペロロ様とアイス屋さんがコラボした、限定のぬいぐるみ!」

 

 そしてヒフミが自満気な表情で、変な鳥のバッグから、小さくて変な鳥のぬいぐるみを取り出した。

 それは手のひらサイズの、口にアイスクリームを突っ込まれたにわとりだった。おぼれて白目を剥いているようにしか見えないそれは、ミカにはお世辞にも可愛いとは思えなかった。

 

「限定生産で100体しか作られていないグッズなんですよ。ね? 可愛いでしょう?」

「……」

 

 そういうもの? とミカは後ろの面々に無言で問いかけるが、帰ってきたのは沈黙だった。とりあえず自分がおかしいわけではないらしいと知って安心する。

 

「わあ。モモフレンズですね! 私も大好きです! ペロロちゃん可愛いですよねえ! 私はミスター・ニコライが好きなんです」

 

 だが、ノノミだけが反応する。

 

「分かります! ニコライさんも哲学的なところがカッコよくて。最近出たニコライさんの本『善悪の彼方』も買いましたよ! それも初版で!」

 

 ノノミと二人でよくわからないことを早口でしゃべりだした。オタクというものは同類が見つかると嬉しいものなのかな、とミカは一歩引いた。

 

「……いやぁー何の話だか、おじさんにはさっぱりだなー」

「ホシノ先輩はこういうファンシー系にはまったく興味ないでしょ」

「ふむ、最近の若いやつにはついていけん」

「歳の差、ほぼないじゃん……」

 

 そして、アビドスメンバーも横目で呆れたように見ながら雑談する。

 

「というわけで、グッズを買いに来たのですが、先ほどの人たちに絡まれて……みなさんがいなかったら今頃どうなっていたことやら。本当にありがとうございました」

 

 ヒフミが話を切り上げて、改めてお礼を言った。

 

「……ところで、ミカ様とアビドスのみなさんは、なぜこちらへ? あの、ミカ様は帰られた方が……」

「あはは。私も同じようなものだよ、探し物があってきたの」

 

「そう。今は生産されていなくて手に入れにくいものなんだけど、ここにあるって話を聞いて」

 

 シロコが口の端に笑みを浮かべながら引き継いだ。

 

「そうなんですか、似たような感じなんですね。ミカ様をどうこうしようとする方々でないらしくて安心しましたが、あの……どうしてミカ様はアビドスと?」

「ふふ……これはやんごとない事情があるんだよ。ヒフミちゃん。そう、これは語るも涙、聞くも涙な――」

 

〈皆さん、大変です! ミカさんの与太話を聞いてる場合ではありません! 四方から武装した人たちが向かってきています!〉

 

「嘘ぉっ!?」

「ミカさんのが与太話なのも、敵も本当! 迎撃準備! いつものフォーメーションで!」

 

 ホシノが前に出た。同時にミカが先生を連れて後ろに下がる。

 もはや慣れたものである。アビドスが縦横無尽に暴れつつ、ミカは先生を守るポジションにつく。先生の指示があるからこそ活きるコンビネーションだ。

 

「あいつらだ!!」

「よくもやってくれたな! 痛い目に合わせてやるぜ!」

 

 そして走ってきた敵が見えてくる。先ほどのような突発戦ではない。敵は数をそろえて、こちらを潰すつもりで来ている。

 先のが喧嘩ならば、これは戦争だ。アビドスでもあった、などとは言ってはいけない。あれはあれで普通に戦争レベルだ。今回も。

 

〈先ほど撃退したチンピラの仲間のようです! 完全に敵対モードです!〉

「ん。望むところ」

「まったく、なんでこんなのばかり絡んでくるんだろうね? 私達、何か悪いことした?」

 

 無表情な顔でやる気満々なシロコと、馬鹿の相手は疲れるよと言わんばかりのミカ。まさに歴戦と言った感じで風格が出ている。

 

「ん。ミカさんは学校をサボってる」

「シロコちゃんだって授業を受けてないくせに!」

 

「……本当に良い点取ってるか、疑問」

「言ったね。後でテストの点を見せてあげる、吠え面かかせてあげるから!」

〈シロコちゃん、ミカさん。敵に集中してください〉

 

 わちゃわちゃとしゃべる彼女たち。だが、そのポジションに乱れはない。連携具合に不足はない、ごちゃごちゃとただ走ってくるチンピラどもとは大違い。

 

〈愚痴は後にして……応戦しましょう、皆さん!〉

 

 そして、戦争が始まる。

 

 

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