聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第15話 ブラックマーケット内の抗争

 

 

 アビドス襲撃の黒幕を探るため、違法武器の情報を探りにブラックマーケットに来ていた一行は偶然からヒフミと出会った。

 彼女を人質に身代金を強請ろうとしたチンピラを撃退したのはいいものの、今度は仲間を引き連れてお礼回りにやってきた。

 

「あいつらだ!!」

「よくもやってくれたな! 痛い目に合わせてやるぜ!」

 

 先の遭遇戦と違い、敵の数は見えるだけでも10人以上。しかも、後続が居ることは間違いない。

 ゆえに本格的な戦闘になる。

 不安の顔を隠せないヒフミ。けれど好戦的な笑みを浮かべて銃を構えるアビドスメンバーと、そして不敵に見守る姿勢のミカ。

 

「さあ、みんな――行くよ!」

 

 まずはホシノが飛び出す。アビドスメンバーの絆は固い、連携は流々と一個の生物のように。無謬の連携が、衝突の圧力を増大させる。

 

〈3時方向の敵を撃って〉

「了解!」

 

 そして、後方でミカに守られた先生が指示を出す。

 

「ッぎゃんっ!」

 

 そのチンピラは一撃で沈んだ。油断があればそこから刈り取られる、撃たれる覚悟がなければ人は案外脆いものだ。

 そして、一番前が倒れたことで敵に動揺が走り、ひと時手に持った銃を撃つことを忘れさせる。その一瞬の動揺こそが値千金。

 

「てめ……!」

「くたばれェっ!」

 

 そして、数瞬の後にホシノに銃弾が放たれるが――

 

「ととっ。痛たたっ! セリカちゃん、シロコちゃーん」

 

 撃たれる覚悟さえあれば、一撃で沈みなどしない。更に言えばホシノの役割はタンク、そういう役割なのだからちょっとやそっとで倒せない。

 

「こっちにも敵が居るって忘れるんじゃないわよ!」

「ん。隙だらけ」

 

 そして、二人の銃撃に晒されて一人二人と沈んでいく。一発二発で倒せなくても、何発も打ち込めば倒せるのは互いに同じ。

 それはホシノも同じことだが、ヘイトを稼いだ後はすぐにものかげに隠れている。それで防御しきれるわけではないが、当たる数が減れば十分耐えられる。

 

「ぐぐぐ……! てめえら、やたら硬いチビは無視してあっちの二人を沈めろ!」

「ああ!」

「やってやらあ!」

 

 だが、策と練度の不足は数で補うのがチンピラである。倒れた仲間を踏み越えて、セリカとシロコにしゃにむに撃ちまくる。

 

「おっとと、おじさんを忘れてもらっちゃ困るねー」

 

 横から銃撃が走る。いくら覚悟を決めた気になろうと横から撃てば脆いもの。なにせ、このチンピラに連携などないのだから。

 

「ちぃ……! とにかく、一人でも潰せ!」

 

 だが、それを無視してセリカとシロコを狙うチンピラたち。まだ数の上ではチンピラどもが上なのだ。

 

「そして、増援はまだ居るんだよぉ!」

 

 また、敵の増援が届いた。4人倒せて、増援は10人……敵は合計で16人。これだけの数が居れば、いくら硬かろうと適当に撃ちまくるだけでホシノすらも倒せる。

 ――撃てたなら、の話だが。

 

〈うん、待ってたよ。ノノミ、お願い〉

「はい! 全弾はっしゃー!」

 

 そのタイミングでノノミのミニガンが火を噴いた。火薬の音が連続する。凄まじいまでの撃音と煙、まさに制圧兵器だ。火力が違う。

 

「ぐわあっ!」

「ぎゃああっ!」

 

 吹き飛んでいくチンピラたち。到着のタイミングを狙われた。プロではないのだ、前の方で圧力をかけていたホシノ、セリカ、シロコの三人以外のことは頭から飛んでいる。そして、そこを補うブレインも居ない。

 

「ぐぐぐ……! だが、まだだ!」

 

 だが、立ち上がろうとする。チンピラを張っているだけあって、さすがに根性がある。一斉射では倒し切れなかったのだ。

 

「でも、次がなければ意味がない。終わりだよ」

 

 チンピラは自分に突き付けられた銃口を見る。ノノミの一斉射のタイミングで隠れ、そして終わる瞬間を見切って突進していた。

 

「ま、待て! こうさ――」

「おやすみ」

 

 ホシノは容赦なく意識を刈り取った。

 

「セリカちゃん、シロコちゃん。残りは?」

「ん。始末した」

「こっちにも意識が残ってる奴はいないわ! 縛っておく?」

 

「んー、それは……」

 

 銃撃の音が響く。かなり遠くから撃たれたらしく、有効打ではない。だが。

 

「増援を片づけてからかなー?」

「まったく、数ばかり多くて嫌になるわね!」

「……数、多すぎるかも」

 

 目の前には20人以上が走ってくる光景があった。第3陣のご到着だ。

 

 

 そして、第3陣が来る前の第2陣を壊滅する少し前に。

 

「じゃ、私たちはここで先生を守ろうかな。まあ、指示はくれると思うけどヒフミちゃんは敵が来たら撃っておけば良いから」

 

 ものかげあたりに先生と隠れる。建物の中に避難することはしない、建物ごと攻撃されるのが怖いし身動きも取れなくなる。

 射線が通りにくい場所で警戒しておく方が逆に安全だ。

 

「あの、ミカ様? その……近くないですか? 先生と」

「え? だって、先生は外の人なんだよ。銃弾の一発で致命傷なんだから、ちゃんと守ってあげなきゃ」

 

 ミカがぎゅっと先生に抱きつく。ボディガードというか、むしろ盾代わりのつもりなのかもしれないが。

 

「いやいや、男の人に抱きつくなんてはしたないですよ。あの、あまりに奔放じゃ……それとも、先生とミカ様はそういうご関係で……?」

「違うからね!」

「……うん、違うの……先生は生徒みんなに優しいから……」

 

 その答えを聞いて意気消沈するミカ。うわあ、と見てはいけないものを見てしまった気になるヒフミ。

 

「ええ!? それじゃ……ええと……え!?」

「集中してよ、ヒフミちゃん。今は戦闘中だよ、私たちは万が一にでも先生を失うわけにはいかないの」

 

「あ……はい! 分かりました!」

 

 銃を構え、敵の方を見る。が……

 

「あれ? 先生、なんかしゃべってましたけど……もうチンピラさんは誰一人起き上がってこないですね。みなさん、さすがです!」

「ううん、ヒフミちゃん。まだ来るよ――向こう!」

 

 そして、銃撃が連続する音。第3陣の到着だった。

 

「うええ!? これ、さすがにアビドスさんたちもマズくないでしょうか!」

「うん、こっちがやられるとは思わないけど、こんな風に撃ちながら突撃されたら結構なダメージを貰っちゃう。……ここは、私も前に行こうかな。――先生?」

 

 第3陣、突撃思考は相変わらずだが、こうされると不意を突いての先制ができない。正攻法で、それだけに破りにくい戦法だ。

 

「いや、ここはヒフミにお願いしようかな」

「……はいっ!? 私に――ですか?」

 

「何かないかな? あの子たちの注意をそらせれば、ホシノとノノミが何とかしてくれるから」

「注意を……逸らす。……分かりました!」

 

 たたた、と走っていく。

 

「えっ!? ヒフミちゃん、何しに来たの?」

「増援なら、ミカさんの方が……」

〈みんな、ヒフミが彼女たちの注意を逸らしてくれる。その隙に突撃してくれるかな〉

 

 走ってきたヒフミに驚くが、先生の声を聞いて納得する。

 

「ここで皆さんのお役に立つには、ペロロ様に縋るしかありません。ペロロ様はみんなを助けてくれる……!」

 

 決意を決めた様子のヒフミがバッグを手に取り、チンピラ達に向かい――

 

「なんか怖いこと言ってる!」

「いやあ、信仰の自由ってやつ? おじさんにはちょっと分からないかなー」

 

 野次を無視し、ヒフミは手を組み、祈りを捧げ……

 

「さあ、ペロロ様の――え? あれ? どこぉ?」

 

 バッグを開けて、探り出す。見つからないのか、慌てて中身を適当に投げている。その様子に、アビドスは不安が頭を横切る。

 

「ちょっと、何かやるなら早くしてよ! 敵が来てるってば!」

「ええと……これは……先生?」

 

 そして、やっと見つけ――円盤を投げる。

 

「ペロロ様! お願いします!」

 

 そして転ぶ。勢いあまって、ずざざと音がしそうな転び具合。スカートの中身まで見えそうな――

 

「ミカ、パ……戦闘が見えない!」

「ヒフミちゃん、早く隠して!」

 

「きゃああっ!」

 

 転んだまま、バっとめくれたスカートを押さえた。

 その先では白目をむいて舌を突き出した鳥人形が踊り狂っていた。チンピラ達はいきなり現れたそれに驚いて銃を撃つ。

 

「よし、キモいのが出てそっちを攻撃してるわ! 今のうちにぶっ潰してやる!」

「中々特殊な奇跡の発現具合だねー。あのぬいぐるみ? 映像? が実体化してるよー。ま、気を取られている今が攻撃をしかけるチャンスだねー」

 

 中々に使えるものが出て、逆に驚いた。敵の隙を付けるなら上出来、容赦なく攻撃体勢に入る。

 

「ユニット起動、ターゲット設定完了……!」

 

 シロコが先にドローンで攻撃を仕掛ける。

 

「獲物は譲らないわ、よ!」

「お、シロコちゃんがお先か。負けてられないねー」

 

 ペロロに気を取られ、そちらに攻撃してしまうチンピラ達はアビドスの攻撃に対応できない。

 これでは何人居ようが、人の壁にしかならない。一枚一枚剝がされていく。

 

「くそ! キモ人形にかまうな! あいつらをやれ!」

「おお!」

「相手はたったの3人だ!」

 

 反撃を開始する、がもはや勢いは失った。ここから逆転しようにも……

 

「ち! 痛かったじゃねえか!」

「なんか目が虚ろだし、舌垂らしてるし目を離したら呪われそうなんだけど!」

 

 出現の際の衝撃波を食らったメンバーはまだペロロ人形に向かって攻撃を続けている。目の前のそれに気を取られて、仲間がやられていくのにすら気付いていない。

 

「はん! あんたたちが厄介だったのは、まともな撃ち合いだとこっちにもケガ人が出るからよ! 突撃の勢いを止められたチンピラなんて怖くも何ともないわ!」

「うんうん、後はこうやって消耗を抑えながら一人づつ始末していけばいいだけの話だねー」

 

「くっそ! ただでやられるものか! お前ら、最後に根性見せろ! 行くぞぉ!」

 

 そして、せめて刺し違えようと特攻を選ぶ彼女たちだが。

 

「残念、あなたたちは一人忘れてる。勢いを止められた時点であなたたちは終わり、あとは仕上げのために調整するだけ」

「はい! では、再びのお仕置きの時間ですよー」

 

 突撃した3人の後ろ、4人目のノノミがミニガンを構えていた。先生が、この一撃を通すために計算していた。

 ――反撃の術は、もはやない。ミカのように食らいながら反撃できたならばともかく、倒れても意識を失わずに銃を構えなおそうとする程度なら。

 

「無駄だよ」

 

 先生が先読みして、銃の狙いを定める前に意識を断つ。いとも簡単に、敵の大軍を倒してしまった。

 

「――先生」

 

 ホシノが注意を呼びかける。真っ先に気付いたのが一番前に出ていたホシノだった。

 

〈敵の増援がとうちゃ……え? 後退しています! だけど、このままでは……〉

 

 第4陣、だが状況を見ると踵を返して逃げていった。第3陣が交戦しているところに援軍としてやってきたのだろうが、その第3陣が先に壊滅させられていた。

 だが、チンピラがこのままで引き下がるはずもなく。

 

「仲間を呼ぶつもり? いくらでも相手してあげる」

 

 セリカがパシンと拳を打ち付ける。まだ消耗は少ない。いくらでも来いと好戦的な笑みを浮かべた。

 

「ま、待ってください! それ以上戦っちゃダメです!」

 

 やっと起き上がったヒフミがストップをかける。

 

〈おや、どうしてかな? あの程度はいくら来ても相手にならないけど〉

 

 後方で先生を守っているミカが通信で話に参加する。

 

「ミ、ミカ様……あまり学園外で騒ぎを起こすようなことは……。特に、ブラックマーケットで騒ぎを起こしたら、ここを管理している治安機関に見つかってしまうかもしれません! あうう……そうなったら本当に大ごとです……まずはこの場から離れて……ミカ様だけは見つからないように……」

 

〈ふむ……わかった。ここのことはヒフミちゃんのほうが詳しいだろうから、従おう。そういうことでいいよね、先生?〉

〈うん、ここは引いておこう。この戦いに、あまり意味はないしね〉

 

「ちぇっ、運のいいやつらめ!」

 

 セリカが舌打ちする。

 

「こっちです!」

 

 ヒフミが走って皆を先導する。なお、先生は遅いのでミカが背負った。

 

「ここまで来れば大丈夫でしょう」

 

 適当な広場まで走ってきた。

 

「ねえ、ヒフミちゃんさ。ここを危険な場所だって思ってるんだよね??」

「えっ? と、当然ですよ、ミカ様。連邦生徒会の手が及ばない場所の一つですから。ブラックマーケットだけでも、学園数個分の規模に匹敵しますし、決して無視はできないかと……」

 

 ちらちらとミカの上を見ながらヒフミが答える。ミカはまだ先生を下ろしてなかったから、そのたびに目が合う。

 

「それに様々な『企業』が、この場所で違法な事柄を巡って利権争いをしていると聞きました。それだけじゃありません。ここ専用の金融機関や治安機関があるほどですから……」

 

 メチャクチャ気になるが、アビドスメンバーを見ると特にこれを気にしている様子はない。なぜかシロコはミカに掴みかかって片手で止められていたけど。

 

「銀行や警察があるってこと……!? そ、それってもちろん、認可されていない違法な団体だよね!?」

「え……? あ、はい……そうです」

 

 許せない、みたいに言っているが目の前の異様な光景には何も思っていなさそうなセリカにヒフミは戦慄を覚えた。

 

「スケールが桁違いですね」

「中でも特に治安機関は、とにかく避けるのが一番です……騒ぎを起こしたら、まずは身を潜めるべきです……」

 

 これが普通なのかな? え? 本当に? と頭の中でハテナが舞い踊るが、怖いので言及はできなかった。

 

「ふ~ん。ヒフミちゃん、ここのことに意外と詳しいんだねー」

 

 未だに先生を背負い、シロコを片手で止めている異様な恰好のミカが怪しい笑みを浮かべている。

 

「あうっ! えっ? ええっ! そ、そうですか? 危険な場所なので、事前調査をしっかりしたせいでしょうか……」

 

「よし、決めたー」

 

 そして、ミカとアイコンタクトを交わし、同じように怪しい笑みを浮かべたホシノ。ミカとホシノに見つめられ、戸惑うしかないヒフミ。

 

「……?」

 

「助けてあげたお礼にー」

「私たちの探し物が手に入るまで一緒に行動してもらうねー♪」

 

「え? ええっ? えええっ!?」

 

 助けを求めるように、他のメンバーを見るが。

 

「わあ、いいアイデアですね!」

「ま、気楽に考えてよ。案内をお願いしたいだけだからさ。もちろん、ヒフミさんが良ければ、だけど」

 

 助けは来なかった。

 

「あ、あうう……そうですね。ミカ様を放っておくわけにはいかないですし」

 

 ジト目でミカを見つめる。なお、ミカはその視線の意味を理解していないのでため息を吐く。そして、未だに先生を背に乗せているのは何なのだと。

 

「私なんかでお役に立てるか分かりませんが……アビドスのみなさんにはお世話になりましたし、喜んで引き受けます」

 

 気を取り直すように拳を握り締め、やる気を出す。

 

「うんうん、じゃあこのまま行こっか☆」

「……ミカさんは、いい加減に先生を下ろすべき……!」

「そうだね、そろそろ下ろしてくれると……」

 

「先生がそう言うなら……」

 

 しぶしぶ下ろした。

 

「あの……ヒフミちゃん? ああいうのって、トリニティでは普通だったり?」

 

 セリカが恐る恐る聞いてくる。

 

「いいえ! 違いますからね! ミカ様はトリニティでも奔放な方なんです。普通とは私みたいな平凡な人のことを言うんです……」

「あ……そうなんだ……」

 

 そしてヒフミの聞こえないところでひそひそ話をする。

 

「あの人形を実体化させるって相当よね……?」

「うん、とんでもない偏愛が必要になるはずー。うへ、ヒフミちゃんも普通の良い子に見えたけど『トリニティ』ってことかー」

 

 幸か不幸か、ヒフミには聞こえていなかった。

 

「……? はい、そうなんです」

 

 誤解が生まれた瞬間だった。

 

 





 本当にそうだったらハナコは幸せだったでしょうね。解釈違いに限定グッズ奪い合いとかで赤冬以上に治安が悪化しそうですが。
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