聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第2話 先生との出会い

 

 

 先生が失踪しているとの報告を受け、ミカはたまらず自ら探しに出た。未来の記憶を知ったはいいが、有効活用なんてできはしない。それどころか感情に振り回されて判断力まで鈍る有様だ。

 そもそも精神的に疲弊して自分から何か行動を起こすような勇気も持てないような様になり果てた。だから、とにかく先生に会いに行くことしか考えられない。

 

「――ミカ様、外出許可証は持ってませんよね? ……それと、送迎は教職員の仕事ではないのですが」

 

 今は車の中だ。誰が誰やら見分けのつかない機械頭のスーツ教員を捕まえて駅に向かわせている。実は電車を使った方が速いかもしれないが、さすがにそれはできない。

 まだ『ティーパーティー』の一員だ。公共の移動手段を使えば襲撃の標的になるし、教員を黙ってタクシーにさせる程度の権力はあるからそちらの方が話が早い。

 なお、教員どもの頭では『ティーパーティー』に電車など使わせてはマズいなどとは分からない。ただ保身で頭が一杯な彼らは、電車が爆破されても「わー、どうしよう」程度しか考えないのだ。

 

「なに? 私のお願いが聞けないの? ふーん。そうなんだ……あなたの名前、覚えておいた方が良い?」

 

 ミカはスマホを高速で操作しながら低い声で脅しをかける。教員は役に立たないが、扱い方なら知っている。

 権威に膝を屈し、上位者に唾を吐く彼らの生態など学習済だ。どうせ、何もできない奴らなのだ。そういうことを念頭に置くなら有効活用できる。

 

「い、いえ」

 

 彼は慌てて前を向いて運転に集中する。まあ、キヴォトスでは銃撃戦が毎日のように起こる。そして、連邦生徒会長が失踪した今やクラクションを鳴らしただけでも銃弾が飛んでくるレベルにまで治安は悪化している。そして、ここは既に治安の良いトリニティ自治区の外だ。

 この車は彼の私物だから、慎重に運転しなければならない。目立てば撃たれる可能性が高いので、できるだけ静かにゆっくり進んでいる。

 

「ねえ、遅くない? いつ着くの?」

「は、はい! 申し訳ありません、スピードを上げます!」

 

 さすがに遅すぎた。夜中とはいえ、これでは日が昇ってしまう。ミカはチラリと外を眺めてスピードを確認するとまたスマホに戻る。

 準備すべきことはいくらでもある。そもそも未来を見たからと言って、今更変えられないこともある。その辺については報告を読んだり指示を飛ばす必要があるのだ。

 

「――ここ、が」

 

 そして、アビドスに着いて愕然としてしまった。車から降り立つと砂の感触がした。駅まで砂に覆われて、まるで廃墟だ。

 

「で、では私はこれで失礼します。明日の授業、遅れないでくださいね……それでは」

 

 教員はミカが降りるのを確認するや否や車を発進させて帰ってしまう。生徒をこんな場所に置いて行ってしまうのに微塵もためらいがなかった。

 

「アビドス……滅びかけた自治区」

 

 だが、ミカには彼のことを気にかける余裕もない。心は、未来を思い出した時から限界だった。これからの未来を知り、先生が居れば何とかなると信じて探したけれど、その先生はアビドスに向かった挙句に失踪していて。

 

「まるでゴーストタウンだね。こんなところに人が住んでいるのかな?」

 

 あたりを見渡しても砂と廃墟しか目に入らない。全てが終わった破滅の未来、それはミカの行く末を暗示しているようで。

 心が暗く重く沈み込む。目から光が消える。

 

「ねえ、先生。先生は――どうして、こんなところに?」

 

 知っている。アビドスの対策委員会に依頼されたからだ。先生は生徒を助けるためなら何でもするから。

 ミカのときも、補習授業部のことをお願いして……そこから助けてもらった。

 そういう人だ。先生は助けを求める生徒を放っておかないから、こんな場所にまで足を運んだ。それを止めることなんて、誰にもできない。

 

「でも、でも……こんなものを……!」

 

 ただ、先生は聖人であっても、奇跡を起こす人じゃない。いくらなんでも、目の前の光景を何とかするのは無理だろう。未来でも、アビドスについての環境改善なんてどうにもなっていなかったはずだ。

 それなら、先に自分を……トリニティを助けてくれても良いだろうと思う。思ってしまう。

 

「先生……! 先生、私のところに来てよ。私、とっても困ってるんだから。校舎がなくなるだけのアビドスなんかとは違って……!」

 

 視界が歪む。涙がこぼれそうになる。あんな最悪の未来を知ってしまって、先生に縋るしかなくて。

 でも、先生はどこにもいない。

 

「先生、どこ? 助けて。私を、助けてよ……」

 

 ふらふらと歩き出す。砂に埋もれた広大な大地。だが、キヴォトスの人間であれば一日で踏破可能だし、キヴォトスの外の人でも二日くらいで死にはしない。……状況にもよるが。

 

「……先生。先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生先生――」

 

 幽鬼のように彷徨いながらアビドス本校の方角に向かいながら彼の姿を探し求める。夜中であろうと星明かりがある。彼を、絶対に見つけなきゃ……と。

 

「居ない……?」

 

 そして夜が明け、日が昇っても……彼の姿はどこにも見えなかった。心は折れていた。セイアとナギサのためにと絞り出した気力すらも底をついて。

 とうとう、その場にへたり込んでしまう。綺麗だった学生服に砂がこびりつく。夜中の探索のせいですでに服はボロボロだった。

 

「どこにも居ないよう。私の……先生(救い)が……ッ!」

 

 ぽろぽろと、涙が溢れてしまう。精神的な面だけでなく体力的にも限界だ。気絶したときに2時間ほど寝ていたとはいえ、そこから徹夜でこの廃墟を探し回り、さらには水分を一滴も口にしていない。

 出発するときに考えつかなくて、そもそも今も精神的に追い詰められて自分が喉が渇いていることすらも自覚していない現状だ。

 気付いていなくても喉も乾いたしお腹も減った。全てが限界だった。もう一歩も前に進めない、そんな行き止まり(デッドエンド)

 

「私が……私が悪いのかなあ? セイアちゃんを襲撃しろって言ったのは私だもん。ホストになろうとナギちゃんの投獄を狙って、それを利用されたのも私だったね。サオリを追って、先生にも迷惑かけて……」

 

 過去と未来の記憶が混線し、地に足がついていない。それだけ彼女が限界なのだという証だった。

 そして、どこからともなく聞こえる「魔女め」という罵声。お前なんか死んでしまえと、ありもしない声が聞こえてくる。

 ……いや、それは未来でミカが聞いた声だった。

 

「やっぱり、私は厄病神なのかなあ? 私なんか、居ない方が良いのかなあ? いっそ、ここで私が死んじゃえば皆幸せになれるかな。黒幕は気がかりだけど、利用された馬鹿な私さえ居なければナギちゃんがどうにかしてくれるかな。先生は、居ないけど」

 

 もうここで死んでしまった方が良いかとミカは涙を落とす。だって、それが一番いいだろう。自分の存在がものごとを悪い方向に転がしていた。

 消えれば、少なくとも悪くなる要因を一つ潰せる。それはとても合理的じゃないかと、皮肉気に微笑んで。

 

「そんなの、嫌だよ。……たすけてよ」

 

 けれど、それは嫌だった。あんなことをしてしまった自分だけど、それでも幸せになりたいのだ。

 セイアちゃんにあんなことをして、ナギちゃんにたくさん迷惑をかけてしまったけど……それでも、三人で笑い合える未来が欲しかった。

 改めて恥知らずと思ってしまうけど、それが本心。

 

 ――けど、もう頑張れない。

 

 だが、そこに足音が響いてきた。些細で雑音に紛れてしまいそうな、けれど優しい音が。

 

「大丈夫?」

 

 懐かしい声が聞こえた。本来であれば未来で知ることになるはずの声。

 だけどそれは、困惑を含んだ、けれど精一杯相手を安心させようとする、先生の――未来でも聞いたことのない声だった。

 

「……え?」

「私が来たからもう大丈夫。安心して」

 

 目の前に立っていたのは、”先生”だった。懐かしく感じるのと同時に安心と他に熱い感情を覚える。

 それは未来の記憶なんかじゃない、”今”の感情。未来の記憶に振り回されてのことではなく、自分の本心。

 

「君のことを助けてあげる、お姫様」

 

 暖かい手に頭を撫でられて――そう、この時ミカは恋に堕ちたのだ。

 

 

 





 未来を知って堕ちるのは電波系だと思ったので、ミカにはナデポされてもらいました。
 昼行燈でお花畑に見せても、実際に頭の中では計算してる為政者だと思います。だから電波系ではない、と。
 これで未来を知ったからでなくて、本当に好きになりました。その好きになった先生が傷ついたら、どんな顔を見せてくれるんでしょうね?


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