聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第22話 騒動の終わり

 

 

 便利屋が先生を殺しかけ、それにミカが切れて便利屋のハルカを殺そうとしたところに邪魔が入った。風紀委員会が横入りし、風紀委員会とミカが戦う泥沼の戦いへと落ちて行った。

 風紀委員会は参加したシロコとセリカの存在もあり、追い詰められて虎の子の部隊まで刈りだす有様だ。こうなればもう、どちらかの手が血に染まるまで止まらない。そんな時に。

 

「やめて!」

 

 ノノミに肩を貸してもらった先生が大声を出す。驚いて振り返ってみれば、大声を出して傷に響いたのかしかめ面をしている。

 

「まったく、油断した。”事故”か、情けない限りだ……!」

 

 忌々しげに呟く。こういうのは他人に甘く、自分には厳しいタイプだ。先生も、色々生徒に甘くなることはあれど、ことに自分に関してはこういった失態を許せるタイプではない。

 

「……先生? 生きてる?」

「うん。私は生きてるよ、ミカ」

 

 ミカはぽろぽろと涙を流す。あれで死んでないのは確認した。けれど、あのまま死んでしまうのではないかと言う不安がずっと心に残っていた。

 自分なんかが護衛に居たせいで、先生を不幸に巻き込んでしまったらとずっと心配していた。

 

「良かった。なら――残りはあいつらを潰すだけだね☆」

 

 安心した。だから風紀委員会を潰す。最初から何も変わらない。向こうだって言っていた、敵だから潰すのだ。

 ……ゲヘナだから、それ以外に戦う理由など要らないから。

 

「駄目だよ、ミカ。それ以上戦うことは許さない」

「……ッ! でも、先生に傷を負わせたのもゲヘナで、こいつらもゲヘナで……私の敵で!」

 

「便利屋はもう逃げて行ったみたいだけど?」

「探し出して殺すよ。こいつらの後に……ね」

 

「ミカ! 殺すなんて、冗談でも言ってはいけないよ」

「……でも! でも、こいつらは……先生を……!」

 

 腕を振り回して駄々をこねる。実際のところ、ミカは一杯いっぱいで精神の均衡すら危うい。

 何をやっていいかわからなくて、やらなきゃいけないことがあるはずなのに……先生の隣が心地よくて、護衛と言い訳してそこに居続けた。

 

「いえ……最初から先生を傷つけようなんて気はありませんよ」

 

 疲れた様子のチナツが姿を見せた。

 

「ほら、アコも姿を見せなさい」

「ぐぐ……風紀委員会をここまで追い詰めるとは流石ですね、聖園ミカ。ですが、風紀委員会には奥の手が残っていることをお忘れなく」

 

 通信で映るアコは忌々しそうにしている。問題は倒せるか以前に戦ったことがマズいのだが。とてつもない失態だ……認識することを頭が拒んでいる。

 エデン条約の起案前だったらお手柄かもしれないが、実のところ聖園ミカを捕らえても風紀委員会としては何もうれしくないのだ。

 

「うん、こんばんはチナツ。はじめましてだね、アコ」

 

「――ゲヘナの火宮チナツと天雨アコ……ッ! 映像の方はともかく、よく私の前に姿を表したわね」

「……さすがに隠れたままでは誠意がないでしょう。アコはともかく、私はただゲヘナの平穏を望んでいるだけです」

 

 穏やかに挨拶を交わす先生とは裏腹に、烈火のごとく怒りを叩きつけるミカ。先生に止められてさえいなければ、撃っていた。

 

「……平穏? ゲヘナが? 戦闘、略奪――破壊しかしない、できない角付きの野蛮人どもが? ……笑わせないで」

「いや……まあ、取り締まる側としてその見解にはあまり反論できませんが。しかし、この瓦礫の街並みを生み出したのはあなたでは? そちらの正義実現委員会の委員長も壁を破壊して移動する方ですし。……どちらが野蛮人でしょうね」

 

「ぐっ……! ……でも。あなたたちを消して、全てをなかったことにすれば……!」

「いえ、それはさすがに無理がありますよ。こちらとしても、これ以上の戦闘は勘弁してもらいたいのですがね。便利屋も逃げてしまい、大義名分を用意するのも手間がかかるので……」

 

「ええ! まだ風紀委員会は負けておりません! 愚かにも出しゃばったチナツが倒されたところで、まだ奥の手は残っているのですよ! ――こんな、自治区近くの戦闘で風紀委員会が遅れを取る訳には……!」

「――アコ、やめてくれるかな?」

 

 口出しするアコを先生が黙らせた。先生とチナツは戦いたくないで意見が一致している。アコに至ってはどうにでもなれと言わんばかりに破れかぶれだ。

 

「ふん。『シャーレ』の言うことに従う筋合いなどありません。ここまで被害を出したのです。もはや聖園ミカの首級をもって贖うしか……!」

「あは。今までの戦いで分からなかったかなあ。風紀委員会なんて、空崎ヒナさえ居なければこの程度だよ。私一人でも殲滅できる」

 

「アコ、やめなさい」

「ミカ、少し口を閉じていて」

 

 保護者二人が咎めるが、暴走特急は止まらない。

 

「確かに委員会の最大戦力はヒナ委員長です。ですが、風紀委員会とはそれだけではありません。強力な火器で武装した仲間がまだ残っています! それに聖園ミカ、あれだけ戦い続けたあなたに残弾はそれほど残っていないでしょう?」

「へえ☆ 弾が残っていなければ私を倒せるなんて。すごい勘違いね、頭の中にハッピーセットでも詰まってる?」

 

 ヒートアップは止められない。

 

「ふふふ、準備は万全ですから。今までの戦いで分析は完了しました。弱点は把握済みです。次の攻撃で仕留めてあげます」

「仕留める? 残弾が少ないなんて……そんなの、こうすればいいだけじゃない」

 

 ミカが隣の瓦礫に手を伸ばす。風紀委員会との抗争は近辺を廃墟に帰していた。あろうことか、その瓦礫を持ち上げる。

 それを見た奥の手の部隊の者達は恐れおののく。

 

「嘘でしょ? バカでかい瓦礫を持ち上げるなんて、どんな腕の太さしてるの……?」

「何キロあるんだ? あんなの喰らったらシールドじゃ防ぎきれない……!」

「というか、喰らうことなんて想像もしたくないわよ……!」

 

 明らかに命の危険を感じるレベルだった。たったの三人を相手にいいようにやられて、それでも相手が三人だから補給がない弱点を付けるかと思えばこれだ。

 顔は青くなり、士気も崩壊した。もはや趨勢は決した。……蹂躙劇が始まる。

 

「なっ……! なんて……馬鹿力……!」

「ミカ! だめ! それを下ろしなさい!」

 

「駄目だよ、先生。私は悪い子だもの。先生の言うことなんて――」

 

 ズシン、とミカが一歩を踏み出す。女子高生にあるまじき怪獣のような一歩。瓦礫はそれだけ重く、ゆえに喰らえばただでは済まないと見てわかる。

 そこに、乱入者が来る。

 

「それは洒落にならないわね」

 

 機関銃の一撃が瓦礫を砕いた。バラバラと砕け散った破片が舞う。

 

「ん? 別に壊れたら取り換えるだけだけど……誰かな?」

 

 ぎろりと睨みつけるミカ。乱入者は意に介さず映像に向かって話しかける。

 

「アコ」

「え? ひ、ひ、ヒナ委員長!? い、い、委員長がどうしてこんな時間に……?」

 

 アコはビシリと姿勢を正す。土下座でもしそうな勢いだが、それをやると報告できないので逆にもっと怒られてしまう。

 

「アコ、何をやっているの?」

「わ、私ですか? 私は……そ、その……えっと……風紀委員会のメンバーとパトロールをですね……。そ、それより委員長はどうしてこんな場所に……別の場所に出張中だったのでは?」

 

 しごろもどろ、しかも眼が泳ぎ回っている。まああれだ、叱られるのを回避したくてバカみたいな言い訳をしようと支離滅裂なことを口走っている。

 

「さっき帰ってきた」

「そ、そうでしたか……! その、私、今すぐ迅速に処理しなくてはいけない用事がありまして……よ、用事が終わればまた改めて顔を出すので……なんて……」

 

「迅速な処理……? 何かあるの? 他の学園の自治区で、委員会のメンバーを独断で運用しないといけないことを放って?」

「え? そ、その……それは……」

 

「……アコ。この状況、きちんと説明してもらう」

 

 ヒナは一言で切り捨てる。

 

「え、えっと……委員長、全て説明いたします」

「……いや、もういい。だいたい把握した。察するにゲヘナにとっての不安要素の確認及び排除。そういう政治的な活動の一環ってところね」

 

 シロコとセリカ、次にミカへと目を向ける。ミカに目を向けたまままた口を開く。

 

「でもアコ、私たちは風紀委員会であって、生徒会じゃない。シャーレ、ティーパーティー、それに連邦生徒会長。そういうのは『万魔殿』のタヌキたちにでも任せておけばいい。詳しい話は帰ってから。通信を切って校舎で謹慎していなさい、アコ」

「……はい」

 

 それは多分に政治的な内容を含んだ話だ。普段は政治的な駆け引きをしていなくても、エデン条約を推進しているのは風紀委員会なのだから。

 

「――ごめんなさい」

 

 そしてヒナはミカに向けて頭を下げた。

 

「……な。え? ええ――」

 

 トリガーに指をかけたまま話が終わるのを待っていたミカは虚を突かれて瞠目する。銃が手から滑り落ちるのを、慌ててキャッチした。

 それほどの衝撃だった。まさか、風紀委員会の委員長が頭を下げるなど想像だにしていなかった。

 

「委員長! そいつはトリニティだ! トリニティなんかに頭を下げないでくれ!」

 

 目を覚ましたイオリが叫ぶ。

 

「そうです。頭を下げるのであれば私が! ヒナ委員長が、そんな……トリニティに頭を下げるなんて……!」

 

 アコもあわあわしていた。

 

「どういうこと? ゲヘナが私に頭を下げるなんて信じられない。何か企んでいるんじゃ……」

「いいえ、そんなことはない。それに、私が謝っているのは『ティーパーティー』の聖園ミカにじゃない。『シャーレ』の聖園ミカに謝罪している。……あなたの大事な先生を傷つけてしまったこと、ごめんなさい」

 

「……いや、先生を傷つけたのは便利屋のはずで」

「なんにしてもヒナ委員長が謝ることじゃ……」

 

「許してくれるまで、こうしている」

 

 外野の意見など黙殺して、ヒナは頭を下げ続ける。

 

「ミカ、許してあげることはできないかな? 間違ったことがあっても、謝ってやり直せばいい。一度の間違いで全てが終わりなんて悲しいことを言わないで」

「……先生。でも……! でも、私には……一度間違えば、それで全てが終わって……!」

 

 ノノミに支えられてミカの下まで来た先生はとあるものをミカに渡す。

 

「はい。終わりじゃないよ、過ちは取り返すことができるんだから」

「これ……ナギちゃんから貰った……! 先生、持っていてくれたんだ」

 

 壊れたはずのアクセサリー。でも、割れた二つが揃っているのだから直すことはできる。ミカは銃を手放して、それを大事にハンカチに包む。

 

「……空崎ヒナ。――分かったよ、元々先生を傷つけたのはハルカちゃんだもの。それに、ちゃんと謝罪されて、それでも許さないなんて……性根がゲヘナより腐ってるってことになっちゃうしね」

「ありがとう。私も戦うためにここに来たわけじゃないから……イオリ、チナツ。撤収準備、帰るよ」

 

「えっ!?」

「帰るんですか!?」

 

 驚く二人を無視して進める。

 

「先生、それとアビドス対策委員会。今後、ゲヘナの風紀委員会がここに無断で侵入することはないと約束する。どうか許してほしい」

「うん。帰り道、気を付けてね」

 

「先生も、ちゃんと病院に行ってくださいね」

「あはは。耳が痛い。うん、頭を打ってるかもしれないしね。さすがにこの後で行くよ」

 

「ええ、そうしてちょうだい」

 

 満足げに頷いて、帰る一瞬に声を潜めて内緒話をする。

 

「聖園ミカ、あなたに直接伝えておきたいことがある。これは直接言っておいた方がいいと思って。……カイザーコーポレーションのこと、知ってる?」

「うん。まあ多少は」

 

「そう。……これはまだ万魔殿も、ティーパーティーも知らない情報だけど。あなたには知らせておいた方がいいかもしれない」

「大盤振る舞いだね。ゲヘナらしくないよ」

 

「そうね、そうかもしれない。アビドスの捨てられた砂漠……あそこで、カイザーコーポレーションが何かを企んでるわ」

「アビドスの砂漠で……? 世界征服とか頭の涌いたことを言ってたのは知ってるけど、そこに何かあるの?」

 

「そこまでは知らない。本当なら、シャーレにも教える義理はないのだけど。……一応、ね。そうだ、先生またね。あなたとも一緒に会えると嬉しいわ」

「うん。私、あなたとなら仲良くなれそうだよ。ヒナちゃん。ゲヘナを辞めたくなったらいつでもトリニティにおいで」

 

「ふふ、考えておくわ。……けれど、私には見捨てられない子たちが居るから」

「そっか、残念。でも分かるよ、私にも守らなきゃいけない人が居るから」

 

 とん、と軽く拳を合わせて帰って行ったその瞬間に。

 

「……エデン条約に気を付けて。大切な人を奪われないように」

 

 ミカは、ヒナにだけ聞こえるように呟いた。

 

「さ、先生は早く病院に……先生? どこに行ったの?」

 

 後ろを見ると……先生は消えていた。

 

 

 

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