聖園ミカの弱くてニューゲーム   作:Red_stone

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第3話 アビドスとの邂逅

 

 

 ミカは夜が明けるまで先生を探し回った。必死に、自分のためだけでなく親友を助けるためだと信じて。……なのに、朝まで探したのに、(救い)はいなかった。

 全ての希望を失って泣いてしまったミカは、そこで先生と出会った。そして、頭を撫でてもらった。

 

「ほら、立って。かわいい服が砂だらけじゃないか」

 

 彼はミカの手を取って立ち上がらせて、パンパンと砂を払う。

 

「……あう。先生、少し恥ずかしいよ」

 

 そんなミカは顔を赤くして身を縮こまらせる。手を握ってしまったし。今は顔が近くて、服に触られている。

 少し恥ずかしいが、それでも抵抗はしない。

 

「ええと、それでどうしたのかな? もしかして、私を探しに来てくれたのかな」

「あ! えと……その……」

 

 衝動的にこんなところまで来てしまっただけで、何も考えてはいなかった。何を相談していいのかすらわからない。

 というか、そもそも未来のことを話していいのかさえ、何も考えていなかった。とにかく探し出さなければ、と。そしていざ先生が目の前に居るこの状況……何をしていいか分からなくなってしまった。

 

「君は『トリニティ』の子だね。お嬢様学校なんだったね。うん、本当にお姫様みたいなかわいい子だ。ほら、落ち着いて話してくれるかな」

「あう……あうあうあう」

 

 目線を合わせて、ゆっくりとしゃべられてしまうと――顔が真っ赤になって今度は別の意味で何も考えられなかった。

 顔が、顔が近い……!

 

「ふふ、君のような子にも知ってもらえていると先生は……嬉し……」

 

 ガクリ、と膝を着いた。

 

「先生!? どうしたの?」

 

 ミカが急いで彼を抱き上げると……ぐぅーと大きくお腹の音が鳴った。

 

「……ごめん。そういえば昨日から何も食べてなくて。アビドスの広さを舐めていたよ……」

 

 安心したような、肩透かしのようなそんな気分になってしまって。ミカのお腹からも腹の虫が鳴った。

 

「あっ……」

 

 お腹を押さえて今度は違う意味で顔を真っ赤にした。何も食べずに夜通し先生を探し回っていたので、当然のことではあるのだが。

 ボーイミーツガールの素敵な一瞬が、ギャグに変わった瞬間だった。

 

「ええと、大丈夫?」

 

 そして、そこに自転車に乗る少女が通りかかった。灰色の狼耳を生やした、銀髪の少女。ミカのお姫様のようなきらびやか美しさと対比した、スポーツマンとしての美しさだ。

 ……もっとも、それはスポーツよりも過激な運動(銀行強盗)のために鍛え上げた肉体美なのだが。

 

「ちょっと待ってね。はい、これ。エナジードリンク」

 

 お腹を鳴らす二人に一本の水筒を差し出す。こうして接する分には、シロコは良い人だった。ただ、嗜好が犯罪寄りなだけで。

 

「ライディング用なんだけど……今はそれぐらいしか持ってなくて。でも、お腹の足しにはなると思う」

「へ? あ、うん……ありがと。先生、飲める?」

 

 ミカは受け取り、先生の口元へ甲斐甲斐しく運ぶ。

 

「あ……それ……」

「あれ? 何かあった?」

 

 間接キスに気付いたシロコがわずかに頬を染めるけど、ミカは気付かない。後で気付いて怖い顔をするのだが。

 

「……ううん、何でもない。……気にしないで」

 

「んぐ……んぐ……ぷはあ。生き返ったよ、ありがとね。ええと、君は?」

「ん? 私は、砂狼シロコ」

 

 無表情で返す彼女は銀髪で狼耳を生やした少女。とても愛らしい外見だが、キヴォトスでは獣耳が生えた生徒は割とよく居る。

 そもそもミカにだって翼が生えている。キヴォトスはそういうものだから、誰も気にしない。

 

「で、君の名前も聞いてもいいかな?」

「あ……はい! 私の名前は聖園ミカだよ☆ よろしくね」

 

 顔を真っ赤にして残った分を飲めば間接キスになるのかと悶々していたミカは名前を聞かれて誤魔化すように慌てて名乗った。ポーズも決めた。

 

「ん。それ、全部飲んじゃっていいよ。見た感じ、男の人は連邦生徒会から来た大人の人みたいだけど……お疲れ様。学校に用があって来たの?」

「ああ、そうなんだよ。いやあ、まいったまいった。お金は持って来たんだけど、使える場所がどこにもないとは思わなかったよ」

 

「ああ、ここは元々そういうところだから。食べ物がある店なんか、とっくに無くなってるよ」

「ははは……うん、そのようだ。しっかり下調べしないとキヴォトスでは遭難するんだね。いやあ、大人になっても学ばなきゃいけないことばかりだなあ」

 

「下調べ……ここの近くにはうちの学校しかないけど……もしかして……『アビドス』に行くの?」

「ははは、ここが『アビドス』だろう? まあ、私は学校に用があって来たんだけれども」

 

「そっか。久しぶりのお客様だ」

 

 シロコはひたすらクールに振舞っている。それでも、アビドスの学校に用があると聞いて感慨深げにしていた。

 

「ああ、私は『シャーレ』から来た先生だ。アビドス対策委員会から支援要請を受けて来たんだよ」

 

 先ほどまでお腹を空かせてミカに抱えられていたとは思えない、さわやかな笑みを浮かべている。

 

(支援要請? 頼りにはならなそうな人……)

 

 シロコは悪人には見えないけど、役に立ちそうもないとそんなことを思った。実際、ヘイローもなく銃の一発で死んでしまう脆弱な身体だ。

 暴力と言う意味では、隣に居る少女の方がよほどと警戒する。

 

「――ふぅん」

 

 そして、警戒している彼女はなぜかあげた水筒を睨みつけていた。顔を赤くしている。あ、口を付けた。

 どことなくコミカルな彼女だが……

 

(けれど、彼女が着ている制服は『トリニティ』のもの。キヴォトスの三大学園の一つ、お嬢様学校がアビドスに何の用があって?)

 

 だが、警戒の目を向けても意に介してもいない。強者なのか、それとも何も考えていないのかとシロコは訝しむ。

 

「ああ、ミカは私に相談があって来てくれたんだ」

 

 先生はあいかわらずふわふわと気の抜けた笑みを浮かべていて、そんな彼を見ているうちにシロコとしても気が抜けてしまう。

 目的が分からない彼女に関しても、まあよいかと。

 

「ただ、ミカの用は後回しにさせてもらっても良いかな? アビドスで話を聞くことになってしまうけど」

「あ……はい」

 

 いきなり顔を真正面で見たミカは何を言っているのかも分からず頷いてしまう。……恋した乙女は弱かった。

 時間ができたとかではなく、間接キスと先生の近い顔で頭がいっぱいなポンコツだった。

 

「さて、できれば……それに乗っけてくれるとありがたいな」

「えっと、これ一人乗りだから……でも、外の人だと学校までは遠いかな……」

 

 決め顔で情けないことを言う先生と、困惑するシロコ。絵面としては女子高生に言い寄る情けない大人だった。

 

「背負ってくれないかな?」

 

 更に情けないことを言うが、先生は更に決め顔を決める。横のミカはときめいてしまった。

 

「まあ、その方がいいか……あ。待って」

 

 そこでシロコの頬にはっきりと朱が差す。

 

「えっと……さっきまでロードバイクに乗ってたから……そこまで汗だくってわけじゃないけど、その……」

 

 しどろもどろ。さすがに華の女子高生、汗の匂いをかがれるのは気恥ずかしいらしい。

 

「普段は学校のシャワー室を使うの。予備の服もそこにあるし……」

 

 そっと横を向く。先生は回り込んで、真正面から顔を見て首を横に振る。とても真剣だ、内容は馬鹿馬鹿しいが。

 

「え? 気にしないでって?」

「ああ。君のように素敵な女性のならば私は大歓迎だよ。素敵な香りに違いないからね」

 

「え、そんな。むしろいい匂いがするって……?」

「当然だとも」

 

 自信満々に頷く先生。詐欺の才能があった。

 

「……うーん。ちょ、ちょっとよくわからないけど……気にならないなら、まあいいか。それじゃしっかり捕まってて」

 

 そして、シロコは先生を背に乗せて自転車を漕ぐ。いや、しばりつけてと言うべきか。何かあったときに落ちると困るから紐で先生の身体を自分にしばりつけた。

 だいぶ特殊なプレイみたいになっているが、当の先生は……ふんふんと鼻息うるさく少女のかぐわしい香りを堪能していた。

 

「ねえ、先生。落ちないように縛り付けておいたけど、大丈夫? 苦しくない? 鼻息が荒いよ」

「いや、大丈夫だよ。これは――そう、ちょっと大きく息を吸いたい気分なんだ」

 

「ん……じゃあ、いい」

 

 疾走するシロコと、横を走るミカ。

 

(お嬢様学校でも、こんなに走れる人が居るんだ。でも、歯ぎしりしてるのは何故? なんか殺気が……)

 

「ねえ、先生。縛られて不快じゃない? 良ければ私がおんぶしてあげるよ☆」

 

 走りながらピコーンと音がしそうなポーズをする。じめっとした視線が頷け頷け頷けと訴えかけていて、先生は少し顔を青くしてしまった。

 

「いや、ちょっと遠慮しておこうかな。先生は弱いから耐えられるか心配なんだ」

 

 キヴォトス人ならではの身体能力で原付並みのスピードで自転車をかっ飛ばすシロコと、走ってそれに追いつくミカ。

 砂の上だから、走っている方は滅茶苦茶にアクロバットな動きをしているのだ。あんなのの背にのせられたらがっくんがっくん首の据わらない赤子のように揺らされてしまう。

 ちなみに、これでもシロコは揺らさないように速度を抑えているのだからまた。

 

「もうすぐ着くよ。私たちのアビドスに」

「うおっ。……むぐっ! がふっ……」

 

 シロコが情感たっぷりに呟く。なお、自転車のジェットコースターは先生の少ないHPを削っていたが。

 そして、そのせいで女子高生の匂いを楽しむよりもパンチドランカーの心配をする羽目になっているのだが。

 

「……ふうん。ここがアビドス本校かあ☆ うん、中も砂だらけだね。掃除してないの?」

 

 ミカの第一声がこれである。

 

「そんな余裕があればね……」

 

 シロコは目を反らした。

 

「ああ、ここに対策委員会の子達が居るんだね」

 

 ちなみに先生は縛り付けたままである。荷物のようにシロコに括りつけられて、ピクリとも動かない。

 当のシロコはどこ吹く風で自転車から降りる。代われ代われとミカから殺気が叩きつけられているが、クールな彼女は表情の一つも動かさない。

 

 そんなこんなで、先生とミカはアビドスに入っていく。

 

 





 ちなみにこの先生はループしていません。その会話を仕込みましたが、ちょっと会話が怪しかったかなと思います。
 まあ原作のセリフを挿入したせいで怪しくなっているところもけっこうありますが。


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